【36】※ information exchange (情報交換会) part4 ※
サミーやトーマの顰め面を無視し、マイケルは言葉を続けた。
「バディー毎に、今回の研修内容の簡単な説明を頼む。」
マイケルは、アンリに視線を投げかけた。
「私達は、各部署の悩み相談を引き受ける『コンサルファーム』なる部署に行った。
それで、初めて理解したのだが、異世界コンツェルンにおける部署とは……。」
「理解?…今更だろうが。」
サミーが、アンリの説明中、話の腰を折った。
アンリは怒りの形相でサミーを睨みつけた。
「貴様は、黙っていろ!」
「チッ!」
「……『部署』とは、それぞれ別の会社だそうだ。」
……部署がそれぞれ別の会社?……確かに、コンツェルンは、複合企業体を意味する言葉だったが……
「…それが、どうした?」
トーマがアンリに言った。
「どう、と言われても……ただ、私のような初めての者にとっては、知らない事であったから…。」
「会社の形態がどのような物であっても、俺らのやる事は変わらんだろうが。」
「……いや、そうなんだが……。」
「…アンリは、仕えるべき『王様』が多数いる事に戸惑ったんだろうよ。
コイツは、律儀な馬鹿だからな。」
サミーがアンリをフォローした?……のか?……
「ならば、『異世界コンツェルン』とは、様々な国を束ねる同盟の盟主、我のような存在なのだな。」
「………。」
アンリは、レオンに露骨に不快といった顔を向けた。
「すまない。この世界の経験者である我々には、それは了解済みの事であった。
それほどアンリにとって、重要な事だとは思わなかったので、特段、言う必要のない事だと勝手に判断していた。」
マイケルはアンリに頭を下げた。
「……いや、私が勝手に動揺しただけだ。
確かにトーマの言う通り、研修生である我々のやる事に変わりはないな…。」
「魂の消滅。それは本当にあるのか?」
突然、ニモが口を開いた。
「……それは、我々にもわからない。
何度かここに来たが、幸いその憂き目にはあっていないからな…。」
「……他にも、お前達経験者は、何か隠しているのではないか?」
「隠す?…そんなつもりはない。」
「まぁ、いい。」
ニモは不機嫌そうに、そう言うと黙った。
……この異世界コンツェルンでは、社是、社訓、その他諸々、本来開示すべき事柄が、社員に全く告げられない。
『習うより慣れろ』を地で行く会社群なのだ。
こんな杜撰な管理体制だが、社員も研修生も、必死で働く。
目の前に『転生、転移』という美味しい人参をぶら下げられて、走る馬のように。
『消滅』という虎に喰われないように。…
改めて沸々と怒りが湧き上る。
……『お前が、やれ』……
……『終わらせて…やってくれ…』……
暗闇の中で聞いたあの言葉が、頭の中に甦った。
すると、不思議な事に、怒りの炎は鎮火した。
「今、行っている研修部署が、それぞれ違う会社だという事はわかった。
無事研修をクリアして、社員になる際、配属部署が違えば、それぞれ違う会社の社員になる、そういう事だな。」
「…それで間違いない。」
「だが、同じコンツェルンにある会社である以上、相互に協力し合う、そういう事だろう。」
……『探索室』と『救助隊室』は少なくとも協力していたようだし……
「その通りだ。」
「ならば、確かに今迄と何も変わりはないと思うよ、アンリ。」
……だが、本当にそうなのか?……
おれはアンリにそう言いながらも、少しの疑問を抱いた。
「そうだな。ありがとう、ユーキ。」
「……あの……すみません……。」
部屋の入口付近で、微かな声が聞こえた。
皆が振り返った先にいたのは、アイラだった。
「誰だ?」
「他のチームの者か?」
「敵状視察……という感じでもないわね。」
「おぉ、アイラではないか!」
レオンが大声で言うと、アイラは少しホッとした表情で言った。
「すみません…。お邪魔してしまって……。」
「……レオン、知り合いなのか?」
マイケルが聞くと、レオンは答えた。
「うむ。前回の救助隊で、同じ任務を遂行した者だ。」
……しかし、何故このチームの部屋に来たんだ?……
「……その……監督官のシンさんから言われまして……お二人を呼びに来たんです。」
「シンからか!?」
「……はい……。」
……シンが、俺達を呼び出す……
それは、あのオレンジ色の件に違いない。
何かわかったのだろうか?
……だが……
「皆、すまぬ。
おそらくは例の件であろう。
我とユーキは、一度退席させてもらおう。」
レオンはそう宣言すると、俺の肩を叩いた。
「行くぞ、ユーキ。」
「……う、うん。」
(((……行ったらダメ………。)))
フィンの小さな声を聞いたように思うが……
チーム全員の視線に見送られ、俺とレオンは、部屋を出た。
「シンが、我らを呼ぶという事は、何かわかったのであろうな?」
「……はい。……多分そうだと思います……。」
俺達は『救助隊室』へ向かって歩いている。
……アイラは、決して強気な女性ではなかったと思う。
だが、こんなにもオドオドしていただろうか?……
「……アイラ、何か変なんだけど……。」
「!?……な、何が…ですか?」
「……君のその態度、何をそんなに怯えているんだ?」
「…何を言い出すのだ、ユーキ。」
「……な、何も怯えてなんか、いません。」
「それに、シンが俺達を呼び出すのなら、おそらく、掲示板に指令が来るだろう。
何故、わざわざ君が訪ねて来たのか……。」
「………。」
彼女はあの時のように、小刻みに震えている。
「……まさか!アイラ、我らを謀ったのか!?」
「……す、すみません!」
アイラがそう言った途端、俺は何者かに頭を殴られ、床に倒れこんだ。
「貴様ら!!どういうつもりだ!!」
レオンの大きな声が聞こえる。
程なく俺は意識を失った。




