【34】※ Drop dawn(落下)① ※
……今の体験は……?
まるで俺の鮮明な記憶、体験。
いや、俺の時空では、戦争など100年も昔の事だ。
あの子に憑依していたのか?……違う。魂の抵抗に合わなかった。
そう考えている間にも、俺は暗い空間をグングン落ちて行く。
どれ位落ちているのか……それは永遠とも、一瞬とも判断が出来ない……
いや、落ちているのか、上がっているのか、それすらもわからなくなってきた……
突然、浮遊感がなくなった。
しかし、相変わらず、周りは暗闇だ。
「……此処はいったい……。」
呟く俺の目に、眩しい光が射し、視界が奪われた。眩しい。
……何も見えない……
「………何を考えているんだ!?」
「………。」
「………は、俺達だけの秘密だった筈だろう!?」
……誰かの怒りに満ちた声が聞こえる。……
ズキンと胸が痛んだ。……
「何故何も言わない!?…弁解の1つも出来ないのか!?」
「……お前が……。」
「俺が、なんだと言うんだ!?」
「お前が、裏で色々画策していた事を聞いた……。
信じていたのに……。最初に裏切ったのは、お前の方だろ!?」
「……誰がそんな事を言ったんだ!?」
「………だ。」
「っ!」
「その反応……やっぱりな……お前こそ、いったい何を考えているんだ!?」
「俺は、何もやっていない。」
「何もか……。だが、匂わせるような事は言ったんだろう?
……そうでなければ、アイツが俺に思わせぶりな話をする訳がない!!」
「……お前は…俺を信じられないのか?」
「……あぁ、もう……少しも信じられない……。」
「……わかった……。」
ダァーンッと何かがぶつかる音がした。
「……何を!……俺を殺す腹積もりでもあるのか!?」
「…決裂だ!!
このプロジェクトも、お前との仲も、何もかも終わりだ!!」
「………。」
「だが、禁忌だ。絶対に他に漏らすな!
それだけは約束しろ!」
「…わかっている……。」
何故だろう……このやり取りは、妙に俺の心を搔き乱す……
胸が圧迫されるように痛い。
……何かが乖離した。
2人の男の会話は途切れた。辺りは闇と静寂に包まれた。
波立った俺の心も、静かに闇に同化していった。……
……………………………………………………。
……どうして此処にいるのだろう?……
そうだ、崖から落ちた……いや、もっと高い所から、突き落とされた気がする。
……俺は…誰なんだ?……これから何処へ行けばいい?……
「……お前はユーキだ。」
……そうだ、俺はユーキだった。……
「帰ればいい。あの場所へ。」
「あの場所?」
……あぁ、そうだった。異世界コンツェルンへ帰ればいいんだ。……
「お前が、やれ。」
「やる?」
……何を?……
「俺はもう、動けない…。頼む……。」
闇の中に、会話相手を探したが、誰の存在も確認出来なかった。
「…頼む、…終わらせて…やってくれ…」
闇から漏れ出る、微かに聞こえる哀願するような声……
突然、背中に衝撃が走った。
「!!?」
誰かが、俺の背中を叩いている。
「ユーキ!ユーキ!」
俺の目に、眩しい光が射し、一瞬、視界が奪われた。眩しい。
……何も見えない……
「ようやく、目覚めたか!?」
「…?……此処はいったい……。」
「何を寝惚けておる。」
薄く開いた瞼の隙間から、体格の良い男の姿が見えた。
「……レオン?……」
「そうだ。お前はまた、倒れたのだぞ。大丈夫か?」
「あぁ、すまない。世話をかけたみたいだな。」
「?……ユーキ…か?……何か少し違和感がある。」
「違和感……。」
「……いや、我の思い違いか……。」
「俺はどれ位、寝ていたんだろうか?」
「……僅かの間だが……。」
「そうか……。本当にすまなかった。」
「うむ。ともかく、無事で安心したぞ。」
「……ありがとう。」
……違和感……レオンに言われる迄もなく、俺も感じている。
先程迄の俺とは、何かが違う。自分でも何なのかはわからないが。……
意識がハッキリするにつれ、今迄の記憶が戻ってきた。
たが、相変わらずここに来る前の記憶は戻らない。
意味もなく、指を曲げ伸ばししながら、自分の手の平を眺めた。
「どうした?身体に不具合が残っておるのか?」
「……いや……大丈夫だ。……なぁ、レオン……。」
「なんだ?」
「レオンは戦で人を殺す時、何を思っていた?」
「……そうだな。何も思ってはおらなかった。
殺すのは人だ。おそらくは、守るべき者や、ソイツなりの矜持、人生があったのであろう。
だが、戦の場には、そのような思いを持ち込むものではない。
相対する、ただの敵だ。獣を倒すのと変わりはない。
喰うか喰われるか、ただ、それだけの事だ。」
「殺される恐怖はなかったのか?」
「恐怖か。なかったとは言えまい。
だが、己の力量を知っておったからな。然程の恐怖を覚えた事はない。」
「そうか……。」
「……どうした?目覚めた途端、戦の話など……お前らしくもない。」
「いや…ただ俺がもし、戦いの場面に身を置いたとしたら、どうなるのかな…と思った。」
「そうだな……ユーキは恐らく、己が殺される恐怖から、相手を殺す。
それは、抗いがたい本能の為せる事であろう。
だが、恐怖心だけで動けば、先が知れている。いずれ殺される。」
「……やはり、そうか。」
「更に言えば、お前は、喰い合いの最中に、相手を人間として認識し、殺す手が鈍る。
結果、殺される。
お前は『他人』の事を考え過ぎる……まぁ優しいと言えばそうなのだが、戦いの場には邪魔な感情だ。」
「結局俺は死ぬか……。」
「いや、そうとも言えまい。
頭を使え。己の弱点を知れば、自然、戦い方も見えてくるものよ。」
……己の弱点を知る……
自分の弱さを認め、恐怖を自分で制御し、行動する意志を己で持つ……
「……即ち…勇気だな。」
俺が呟くと、レオンは一瞬驚いた顔をしたが、
「あぁ、そうだ。お前の名と同じだ。」
そう言って、破顔した。
【あとがき雑学】
Drop = 落ちる
Fall = 落ちる
どちらも同じ意味の英語です。
しかし、落ち方のイメージに違いがあるようです。
《drop》
急にストンと落ちる、直線的に落ちる、落ちる位置(落ちた地点)
《fall 》
ある程度の時間をかけて落ちる、曲線的に落ちる、落ちる過程(落ちてから到達する地点迄の道程)
そして、英語の《drop》には「落ちる」以外に「落とす」という意味もあります。
「何かが勝手に落ちる」以外に「誰かが何かを落とす」と言う時にも使われるそうです。
《fall》にはそのような意味はありません。




