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ようこそ、異世界コンツェルンへ♪   作者: 三芳(Miyoshi)
※ レオン ※
33/86

【32】※ Fall dawn(落下)① ※


……しかし、俺のチーム…アンリもレオンも、俺の時空では、歴史に名を残した人物だ。……他にもいるのだろうか?……



「何を考えておる?」



「…いや、な…んで…も………。」



「…!!ユーキっ!!」



『それ』は、また唐突にやって来た。

目の前が暗くなっていく。

レオンの大きな手の温もりを肩に感じたが、それきり、この世界での俺の感覚は全て失われた…



落ちていく……再びあの暗闇に…


漆黒の…闇に……呑まれる…






「…あの時と同じだ……。」



「何が…だ?」



「何が……って?…何だっけ?」



「寝惚けている場合か!?」



「………!!」



そうだった。呆けている場合ではない。

僕の大好きなおじさんが、またお国の為に、戦いに行くんだ!



山間の小さな駅には、村から集まった沢山の人達が、手に日の丸の旗を持ち、僕のおじさんの出発を見守っている。



「少尉殿の、更なる武功を願って!……万歳!!…」



村長の掛け声に呼応して



『『万歳!!万歳!!』』



旗を振る音と共に、その場にいる人々の声がこだまする。僕も精一杯の声を出した。



しかし、ホームに立つ、軍服姿のおじさんは、一礼すると、突然大きな声で言った。



「…東条英機の馬鹿野郎!!この戦争は負けるぞ!!」



途端に周りの空気が変わった。辺りは一瞬で静かになり、そこかしこでボソボソと呟くような声が聞こえた。


「村の英雄が……。」

「何を考えているんだ……。」

「愛国心……。」


僕は、ただ、ただ恐ろしかった。

ここに特高警察や憲兵がいたら……おじさんは連れて行かれる。

僕は周りをキョロキョロと見回した。



「…大丈夫だ。お前が心配するような事はないから。」



お父さんの言葉通り、周りに異変はなく、おじさんは、敬礼をして、汽車に乗り込んだ。



僕は深く息を吐き、汽車の中のおじさんの姿を探した。



窓辺におじさんの上半身が見えた。僕は何故だか、涙が止まらなくなった。



遠目だったが、確かに目が合った。おじさんは僕に微笑んだ。



……遠いから、泣き顔だってわからないよね……



僕がそう思っているうちに、汽車はゆっくりと動き出し、煙だけを残し、走り去った。


そして、それが、僕のおじさんとの最後の記憶になった。





「お前の名前は、俺がつけてやったんだぞ。」



「…うん…知って、る……」



僕は、お土産を口一杯頬張っているので、上手く喋れない。



こんな美味しい物は、初めて食べた。

甘い物なんて、砂糖が手に入らないから、殆ど食べた事がない。

でも、これは、ずっと前に食べたお萩より、もっと美味しい。



凄く甘くて、口の中がねっとりとする。見た目は真っ黒で、焦がした長芋みたいだった。



「皮を剥いてから、お食べ。それは『ばなな』という果物だ。」



戦地から、一時帰国した叔父さんは、大陸の珍しい果実を僕に食べさせてくれた。



「本当なら、皮も黄色いんだけど…。」



「…ふ〜ん…」



おじさんは、お父さんの末の弟で、村の英雄だ。普段は物静かな人で、よく本を読んでいた。

でも、戦争に行って、沢山悪い敵国の兵士をやっつけた。

だから『少尉』になった。

村の英雄、自慢のおじさんだ。



「僕は、もう少し大きくなったら、おじさんみたいに、勇気を奮って、鬼畜米英の悪い奴らを倒して、英雄になるんだ。」



するとおじさんは、とても悲しそうな顔をして言った。



「……そんなつもりで、名を付けた訳ではない。」



「だって、おじさんは…。」



「どんな困難な状況でも、命がけで仲間を窮地から助け出す。

また、自分より強い敵に戦いを挑む。…それが出来たら、英雄だろうが…そんなに人間は強くない。」



……おじさんは、きっと強い。なのに、なんでそんな事を言うのだろう?……



「『恐怖を自分で制御し、行動する意志を己で持つ』そんな人間になってほしいと思って、命名したんだぞ。」



「……せいぎょ?…行動するいし?…。」



「そうだね、難しかったか。

簡単に言えば…『自分の弱さを認められる自分になってほしい』かな?」



「……弱さ?……」



「おじさんには、それが出来なかった…。だから、お前にはそういう人間になってほしい。

頼んだぞ、『勇気』。」



「……うん。……」



……その時の僕には、おじさんの言っている事が、全くわからなかった。





そして、それから半年経った頃、『戦死広報』が家に届いた。

おじさんが戦死したのだ。

村の英雄の戦死……それは、名誉の戦死と讃えられ、村葬が行われた。

しかし、おじさんの遺骨は帰ってはこなかった。

僕の家は、『誉れの家』だと称賛された。



近所の人に言われた。


「おめでとうございます。」


……何がおめでたいのだろう……


父が応えた。


「ありがとうございます。」


……何を感謝するのだろう……



おじさんが死んで、何がめでたい!!なんでお父さんは、それをありがたがるんだ!!



僕は泣きながら、お父さんに訴えた。



「人前では泣いてはいけない。

おじさんの名誉に傷をつける事になるぞ。」



……お父さんの言っている事がわからない……



悲しむことは許されない。

誉れの家らしく、堂々とふるまう事が、村人達の暗黙の了解で、僕の家族には求められていた。



それから、数か月…

僕も『おじさんの名誉』の為に、気丈に振る舞っていた。



「日本は勝ち続けている」…その嘘は、子どもの僕でも見抜ける位、日本の窮状は目に見えるようになっていった。



都会から、着物や高価そうな物を売りに来る人達を見かける。

皆、代金の代わりに食糧を求めて、この農村にやってくるのだ。



「うちも、家族をなんとか養える程度にしかないんだ。」



そう言って、父は物を受け取らず、なけなしのお米や野菜なのに、少し分けてあげていた。





今回の話、情報統制が厳しい、戦時下の日本であった実話を基にしています。

祖母に聞いた話です。

祖母の叔父は、軍隊でそれなりの地位があったようですが、本当に駅で、見送りに来た人々を前に、堂々と体制批判(本文通り)をしたとの事。

その時、特高警察や憲兵の存在を、幼いながらも危惧したそうです。


またバナナの話も、実話です。

今では、当たり前に食卓にある果物ですが、当時はとても珍しい物だったようです。


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