【31】※ conversation with~(会話) レオン③ ※
レオンがサミーに聞いたという話は、俺がトーマに聞いた話と全く一緒だった。
トーマとサミーが、示し合わせでもしない限り、それが本当の情報であると思えた。
……トーマへの疑いは間違いだったのか?…いや、何かがまだ引っ掛かる。……
「そういえば、お前はサミーに喧嘩を売っておったな。」
「喧嘩?…あぁ、あれか。」
「記憶がないのは、知っておるが……本当にお前には、望む行き先がないのか?」
「……今はな。
だが、この会社に入ったという事は、何かしらの望みがあったのかもしれない。
だが、今はどうでもいい。」
「そのように言うでない。
記憶さえ戻れば、思い出すのであろう?
ならば、来るべき日に備え、今、力を尽くす……それこそが、必要な事であろう。」
「……一応、俺なりに力を尽くしているつもりだが……。」
「そうだな。それは認めよう。
だが、今のお前は『他人の為に』だ。
『己の為に』は考えてはおらん。」
「……?……」
「己が好きでない人間は、どこか危うい。自分を好ましく思わぬ者は脆い。
ユーキからは、己を尊重する気配が全く伝わって来ぬ。
少しは自分に自信を持て。」
……と言われても、自分の事が何1つわかっていない俺に、どう自信を持てと…?……
「レオンは、自分に自信があるんだな。
最初は申し訳ないが、戦好きの脳筋だと思っていたが、今は見直している。」
「『のうきん』とはなんだ?」
「う〜ん、『脳まで筋肉』の略?……肉体派で、思考が単純という意味かな…。
とにかく、失礼した。謝る。」
「そのような事を気にする我ではない。謝罪も要らぬ。
他人にどう思われようと、確固たる己を持てば、自ずと人は集まる。
己の力量を知れば、恐怖心など吹き飛ぶわ。
君主たる者、臣民の手本とならねばならぬ。」
……他人にどう思われようと……
《お前『俺』は、気になって仕方あるまい……》
心の隅で誰かがまた囁く。
「……レオンは王様だったんだよな。」
「確かに。我は君主であった。そして戦士でもあった。」
「君主と戦士、どちらの自分にも誇りがあったんだな。」
「その通りだ。…だが、我には心残りがある。故に、ここに来たのであろう。」
「心残り?」
「うむ。我は戦場で果てた。
しかし、『神託』でそうなる事は、わかっておった。
君主が死すか、国が滅びるか…どちらかであれば、当然我は死を選ぶ。」
……レオンとの会話は、やはり戦の話題に戻るな。……
「レオンの国はどこの国と戦っていたんだ?」
漂う雰囲気から、レオンは、相当古い時代から来たようにも思えた。
俺が知らない国かもしれないが、なんとなく聞いてみた。
「ペルシアだ。」
……ペルシア?……今のイランか……
「我らはラケダイモンだ。
ギリシア世界で最強の重装歩兵軍、陣形ファランクスは無敵だった。
ペルシア戦争では、ペロポネソス同盟の盟主となり、テルモピュライで、我がスパルタ兵の重装歩兵300名を含む、ギリシア連合軍7000名程を率いて戦った。
200万程のペルシア軍にも引けは取らなかったわ。
だが、我はその戦の最中、戦死した。」
「スパルタ……都市国家か。……」
「知っておるのか?」
「…あぁ、俺の国に『スパルタ教育』って言葉がある。
厳しい教育を指す言葉だ。」
「それは光栄だ。
我が国では、女子供であっても、兵士として戦える為の厳しい教育を施していた。」
……ペルシア戦争……確か、紀元前の出来事ではなかったか?……
…だとしたら、レオンは……
「しかし…引けを取らなかったのに、何故レオンは死んだんだ?」
「裏切り者、内通者がいたのだ。」
レオンは渋い表情で言った。
((……裏切り者……内通者……))
………………。
「テルモピュライには崖に囲まれた隘路がある。敵の大群をその狭い道で迎え討った。
だが、内通者は裏の抜け道をペルシア軍に教え、我々は挟み撃ちにあった。
我はその戦いの中、命を落とした。
我が軍は『君主』という旗印を無くし、おそらく敗退した…のであろう。」
レオンは苦しげに、表情を曇らせた。
……しかし…確か歴史では、ペルシアは、スパルタを手中に出来なかった筈……
「だが、同盟軍は撤退しただろうが、我が軍はスパルタの掟『決して撤退せぬ』を遵守し、最後迄戦った筈だ。」
……レオン、いや、『レオニダス』は国を統治し、強い自国に誇りを持っていたんだ……だから、俺の国の在り方に、色々言いたい事があったのだろう。……
「……『神託』が正しいとすれば……だが、レオンが死ななければ、国は滅んだんだろう?…
それでもレオンはその時空に戻るのか?」
レオンは一瞬息を呑んだ。
「うむ……。」
……しまった!余計な事を言ったかもしれない……
「……我は……ラケダイモンの誇りを捨てた内通者が許せない。
時空を超えて、再びあの場に立っても、我はまた死ぬのだろう。
だが、その前に内通者を我が手で成敗したい。
さすれば、我が臣民の犠牲が減る。」
……その為だけに?
ここでの仕事をやり遂げ、転移転生するのは多分容易な事ではない。
その目的の為だけに、時空を渡るなんて。……
「許せない気持ちはよくわかるよ。
だが、俺の時空の歴史では……レオンの死後も、レオンの国スパルタは、ペルシアの侵攻を悉く排した。
『我らの英雄レオニダスの仇を討て!』を合言葉にして…。
『神託』は当たっていたのかもしれないな。」
「それは本当か!?」
「あぁ、俺の知識が正しければ、間違いない。」
……紀元前の話だ。どこ迄本当かはわからないが、ヘロドトスが書き残している史料があったと記憶している。……
「……そうか、それならば良い。
我は転移、あるいは転生先を変える事にする。」
「当てはあるのか?」
「お前のいた時空のスパルタだ。」
「…スパルタはもうないよ。都市国家は、もうどこにもない。
俺のいた時空では……そうだな、ギリシャ共和国という大きな国になっている。」
「国王はいるのか?」
「国王はいない。多分俺の国と同じような体制だな…大統領はいたと思う。」
「『だいとうりょー』とはなんだ?」
「政治家のトップ、国を率いる人だよ。」
「お前の国と同じ……では、やはり他国に依存しておるのか?」
……依存?あぁ、軍備の事か……
「いや、確か徴兵制があるから、ちゃんと自国で国を守っている筈だ。」
「そうか!!」
レオン…いや、レオニダス1世はとても嬉しそうだ。
彼が転生したら、大統領になれるかもしれないな…そんな事を思った。




