【29】※ rescue team(救助隊)part② ※
……ここ…は…地獄か?……
鋭利な刃で背中から切りつけられ、血を吹き倒れ伏す男性。髪を掴まれ首にナイフを突き立てられ、絶命する女性。
屈強な男達に、次々に殺されていく人々。
床はもう血の海と化し、倒れているいずれの人間にも、もう魂は宿っていない。
あまりの光景に、俺は絶句した。目の前で次々に人が殺された。
隣にいた「アイラ」と呼ばれる女性の魂は震えている。
(((う〜ぬ、我に元の肉体があれば、このようなヤツラなど…!!)))
レオンの視線の先には…不敵に笑い、金品を奪う海賊?のような姿をした男達。……
……バイキング…か?…
……しかし、あれは!!……
オレンジの魂が幾つも見える。
……こいつら全員、色付きなのか!?……
モニターで見たオレンジ色の点は、確かに一つだった。
……なのに何故……。
略奪者達は、一通り金目の物を漁ると、空中で浮遊する事しか出来ない俺達に背を向けて、部屋を後にした。
そして…最後の1人がこちらを振り向き、ニヤリと笑った。
それは戦果に満足した表情なのか、あるいは……俺達を嘲笑う笑いなのか…。
「……1度目はすまなかったな。
研修なのに、完全にイレギュラーだった。
通常は、2回目のような案件の筈だったのだが……。
……アイラ、大丈夫か?」
シンは重々しい口調で言った。
「……はい。」
あの異例の案件の後、すぐに別の任務をクリアして、俺達は再び時空を渡り『救助隊室』の部屋にいる。
2度目の救助活動は、通常通りの流れで、赤色の魂を確保し、既に『浄化室』へと送っている。
……しかし、惹かれる人間へ憑依はしたが『あの時』とは違った。
『あの時』はなんの抵抗感もなく、まるで元から自分の身体であったかのように思えたが、今回は元の魂の抵抗にあった。
なんとか宥め、一時同居をさせてもらい、更に主導権を握ったという感じだ。
浮遊感も、救助隊の時は、上に上がる感じだったが、『あの時』は下に落下する感じだった。……
見張りの役目は
『他の人間に気づかれないか見張り、怪しまれたら、適当な事を言って納得させ、確保業務を邪魔させない』
というものだった。
俺とアイラは、別々の場所に配置される筈だった。
が、彼女は前回任務の恐怖が消えないようで、憑依後、俺にピッタリくっついて離れなかった。
レオン達の確保行動は、一度怪しまれたが
「あの男が突然暴れ、彼女が被害に合いそうになりました。
そこへ偶然、あの方達が通りかかり、助けてくれたのです。」
俺はそう言って乗り切った。
貧弱な俺にくっついて、震えている彼女を見れば、説得力もあっただろう。
「……あの…ごめんなさい……。」
アイラは震える小さな声で、謝ってきたが、
「大丈夫だよ。
むしろ、今の言い訳は使えると思わない?」
俺がそう言うと、彼女は少し安心したように微笑んだ。
「……私は……
チームWIS713209、識別コードR-7290854002。
アイラと言うの。よろしくね。」
「俺は、ユーキ。
チームWIS831322、識別コードO-9793519307。
協力は、今回だけかもしれないけど、その先もお互い頑張ろう。」
一瞬彼女は驚いたような表情を見せたが、ニコリと笑い、先程より、もっとその身体を寄せてきた。
先程の顛末を思い出し、何気なくアイラを見ると、彼女と目が合った。
彼女は嬉しそうに微笑んだ。
……なんだか妙に懐かれたな。……
俺は軽く会釈をして、そんな事を思った。
「リンディスファーン修道院は、俺達が行った時空では、793年から、度々バイキングの襲撃を受けていた。
凄惨な現場だったが、これは覆せない事実だし、俺達が拘る事でもない。
問題なのは、モニターでは、オレンジの点が1つであったのに、実際には襲撃者全員が色付きの魂を持っていた事だ。」
シンは難しい顔をして言った。
「システムの不具合ではないのですか?」
ロビンがそう問うと、シンは即座に答えた。
「俺達が次の現場に行っている間に、探索室のケイに調べて貰ったが、それはないそうだ…。」
「システム開発部に問い合わせた方が良いのでは?」
「それは、ケイが既にやっている。」
ロイドが険しい表情をしながら
「あの場合、例え我々が憑依を終えた後でも、対処は難しかったですね…。」
そう言うと
「…そんな事はないだろう。
我々なら、全てとは言わないが、少なくとも複数の色付きは確保出来た。
レオンと俺なら、やれたと思う。」
ジェイが応じた。
「………否。あの状況では、例えシンが加勢したとしても、我らでは及ばなかったと推測する。」
意外な事に、レオンがそう言った。
……レオンは、冷静な状況判断が出来ている。やはり、脳筋ではないようだ。……
「ロイドとレオンの言う事は正しい。
バイキング1名に対し、修道院にいる一般人が立ち向かっても、存命中に『確保』『吸魂』『分離』を行うのは、難易度が高い。
非常にタイトな現場になっただろう。
バイキングの中に、レオン、ジェイが憑依出来る人間がいれば、少しは難易度も下がっただろうが…。
それどころか、バイキング全員色付きとはな…。」
……『存命中』か……魂の回収の有無に拘らず、あの場にいた一般人は結局死んだという事だ。
俺達の仕事は歴史を変える事ではないから。……
「通常でも、複数の色付き魂を確認した場合、正社員でも要員を増やし、20名程で行う。
場合によっては、特殊部隊も入れて…。」
「……バイキングが立ち去る時、こちらを見て、笑った気がしますが……相手に我々が見えていた、という事は考えられませんか?」
俺が問うと
「そのような事例は報告されていない。
……が、今回は異例案件だ。
検証の余地はある。」
シンはそう答えた後、下を向き、暫く目を瞑って黙っていたが
「いずれにしても、ここでの研修はこれで終了だ。皆、よくやってくれた。
マニュアルは持ち帰って構わない。
あの案件は、上層部へ報告の上、こちらで対処する。
以上、解散。」
そう言って、顔を上げた。
【あとがき雑学】
『タイト』英語:「tight」
語源である英語の意味は、「(主に時間的に)きつい」「窮屈」です。
(タイトスケジュール)
=時間的余裕のないスケジュール
(タイトスカート)
=体のラインにピッタリと密着した形をしたスカート
カタカナとしての「タイト」は、本来の意味より幅広く使われているようです。
また、英語のスラング表現として「いいね」「カッコいい」という意味もあります。
ネット上の「いいね!」は
「That’s tight!」だそうです。




