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ようこそ、異世界コンツェルンへ♪   作者: 三芳(Miyoshi)
※ 異世界ワーキング始動 ※
3/84

【2】※ buddy(バディー) ※


『Customer Satisfaction、

お客様が求める事に柔軟に、そして真摯に対応する事が重要であります。

そして、ホウレンソウ、これは当社の社員であれば、絶対に怠ってはならない事であります。』



あの入社式の再来のようだ…

また頭の中にデカイ声が反響している。

再びあのだだっ広い空間に移動させられ

『社員となる為の心構え』の講義を聞かされている。



((もう少しマイクの音量を落としてもいいのではないか?…マイクじゃない事はわかっているが、そう思いたくもなる。))



(((わかってきたねぇ…ぷふっ)))



((…うるさい…。))



(((毎度、小難しい言葉を使って、ありがたいご高説を垂れて下さる。

俺なんかはもう耳にタコが出来てるので流すが、ド初心者のユーキくんは、拝聴しといた方がいいぞ。)))



((…拝聴するにはお前の雑音が邪魔なんだけどな!))



(((言うねぇ~。)))



それきりトーマは黙った。



雑音があろうがなかろうが、どちらにしても俺は、もうちゃんと聞くつもりはなかった。


講義の冒頭を聞いただけで、トーマではないが、耳にタコが出来る気がした。


…以前にも…どこかで似たような話を聞いていた…?のだろう。多分ここに来る前に……



講義後、トーマはすぐに俺に話しかけてきた。



「なぁ、やたら難しい単語使ってただろ?

Customer Satisfactionやらホウレンソウ…一度聞いただけで、お前わかるか?」



「CS=カスタマーサティスファクションは、顧客満足度。」



「!」



「ホウレンソウは、報告、連絡、相談。」



「………おまえ……凄いなぁ……。」



珍しくトーマは本気で驚いている。



「おそらく…だが、ここに来る前の知識だと思う…。」



「なぁ、ユーキは自分が何者か、記憶がないんだよな、生死もわからない…だが、ここに来る前の知識だけは残っているって事なのか?」



「!?…」



俺は自分に関する記憶だけを失っているのだろうか?何故…



「ユーキ、最初の実技研修は俺とバディー組もうぜ!」



一瞬疑問に沈んだ俺に、トーマが言った。



「バディー?なんだ、それ?」



「研修中、実技研修は2名一組でやるんだよ。2名単位で実際の職場で活動をする。」



「チームでやるんじゃないのか?」



「新入社員10名を一つの現場にいきなり突っ込んだら、大混乱だろうな。俺のような経験者がいてもな…。」



「なら、チームを作る意味がわからない。」



「…チームは評価の対象だ。」



「評価?」



「評価、査定だな…バディーの活動には点数がつく。

それぞれのバディーの獲得点数の合計がチームの点数だ。

要するに点数の高いチームは有利になるって事さ。」



ニモが言っていた『研修中の同士』とはそういう意味だったのか…しかし…



「有利になるって何が?」



「逆に評価が低いチームは、ヤバい。チーム丸ごと……だからな。」



「丸ごと?…なんだよ?」



「まぁ、後で話す。」



トーマはそう言った。



……?……



更に問おうとした俺の言葉を遮るように



「そろそろ行くぞ。」



マイケルから声がかかった。



一通りの座学研修の後、俺達は自分たちの空間に戻った。



((しかし、何故座学研修の度、わざわざあのだだっ広い場所に移動する必要があるんだ?

結局、喋っている奴の姿すら確認出来ないし…チームの部屋にいても頭の中に響くだろうに…))



戻る道すがら、そんな事を考えていた。



「チッチッチッ!ユーキくんは空間効果がわかっていないようだね。

狭い部屋で少人数で聞くより、魂が犇めく広大な場所で聞いた方が、ありがたみが増すのだよ。」



「…そんな効果なんか聞いた事もない。」



「そりゃ、そうだろ。俺が今造った造語だ。(笑)」



「また、出鱈目言いやがって………。」



「そんな、睨むなよ。言葉なんてもんは、変わっていくものさ。

俺のいた時代の言葉が、そのままお前の時代に使われているか?時代とともに新しい言葉や造語が作られ、当たり前に使われるようになる。

顧客満足度なんて言葉は、俺の時代にゃなかったぜ。」



((…確かに…俺のいた時代でも新しい造語は幾つも生まれていた…。))



「だろ?空間効果、これから流行るかもしれないぜ!」



「それは絶対にない!」





トーマが言っていた通り、チーム内でバディー組みが行われた。



2度目以降は上からの指示でバディーが組まれる。

だが、最初は通常、識別コード順に組まれるらしいので、俺のバディーは識別コード9793519308のマイケルになる筈だった。



しかしトーマが俺とでなければ組まない!と頑固に主張した為、少し結果が変わった。



9793519305~9793519314

①フィン、ニモ

②ユーキ、トーマ

③マイケル、ハル

④ライラック、アンリ

⑤サミー、レオン



別に俺のせいではないが、なんとなく悪い気がして、マイケルに話しかけた。



「なんか、申し訳ない。」



「何故、おまえが謝る必要がある。お互い、それぞれ尽力すれば、それで良い。」



「そう言ってもらえるとありがたいよ。」



「おまえは…良い…人間だな…。」



マイケルは整った顔を少し弛めて微笑んだ。



マイケル……初めてその名を聞いた時、姿形だけで、ニモがマイケルだと思っていた。

俺の中で、顔色が浅黒く、歌や踊りが上手いイメージが沸いたからだ。



が、彼は全く違っていた。

背が高く、抜けるような白い肌、端正な顔立ちに涼やかな碧眼、眩しい位に輝く金髪、そして何より、その立ち居振舞いが優雅だった。



俺は何故か深々とお辞儀をして、その場を離れた。



((ハルにも一応挨拶をしておこう…))



「ハル!」



俺が声をかけるとハルは微笑んでこちらを振り返った。



「ユーキ、気にしないでください。

トーマがそう主張するのはわかっていましたから。

あなたにはトーマが必要です。それに……」



((トーマが必要?それに…なんだ?))



「いえ、なんでもありません。トーマがあなたを待っていますよ。お行きなさい。」



ハルは…トーマ流に言うなら、俺と同郷なのだろう、多分。

目は切れ長で、線が細く女性のような華奢な体型だが、纏う雰囲気には凛としたものがある。

物腰は柔らかいし優雅だが、何か芯の強さのようなものも感じる。



((同郷…でも色々なタイプがいるんだよな…))



そんな事を考えながら、歩いていたら、射すように鋭い視線を感じ、思わず足を止めた。



目をあげると、そこにはトーマの姿があった。




【あとがき雑学】


『犇めく』(ひしめく)


この漢字、結構好きです。

牛が3つ、まさにギュウギュウギュウとひしめき合っている。(笑)


由来は、群れている牛が一斉に走り出す様子からきているそうです。

意味は、「大勢の人が隙間なく一か所に集まること」「ぎしぎしと音がすること」の2つ。

現代では前出の「大勢の人が隙間なく一か所に集まること」の意味で使われています。

「ぎしぎしと音がすること」の意味は古語としては使われていたそうですが、現代ではほとんど使われていません。


因みに、常用漢字表に記載されていない漢字なので、公的な書類などに記載する際には平仮名の「ひしめく」を使う方が良いとの事です。

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