【27】※ Practical training(実技研修) part6 ※
……しかし、『救助隊』と聞いた時は、特殊部隊か!と嫌な気分になったが……
俺はマニュアルを読みながら、そう思った。
今回の仕事は、純粋に救助だ。消滅させる=殺すのではない。
まだ侵食が進んでいない、魂を救うのだ。
……『殺す』……あの時、俺は叫んでいた。
「殺せ!」と……
忘れていた訳ではない。敢えて思い出したくはなかった。
熱気に包まれたあの場所では、実際に肉体があったように感じられた。
顔に当った冷たい風、怒りによる身体の火照り、男に殴られた時の痛み…全て、ここに来る以前に持っていたであろう五感が感じた物だ。
あれは夢ではない。
「ユーキ、どうした?呆けているぞ。何かわからぬか?」
「…いや、大丈夫だよ。」
マニュアルには『救助隊はその世界の人間に一時的に憑依する』とある。
実際に憑依したら、あの時の事が少しはわかるかもしれない。
Case【オレンジ、赤】
①救助隊は『探索室』が発見した色付の魂がいるパラレルワールドに渡る。
②その世界の人間に憑依する。(一時的に憑依する人間は、なるべく弊害が出ないように、相性の良い者とする。)
③色付の魂を持つ人間を確保する。
④小型吸魂機で魂を吸う。
⑤小型分離機で魂を分ける。
⑥本来の魂を人間に戻す。
⑦一時的に憑依した人間から離れる。
⑧時空を渡り『救助隊室』へ帰還する。
⑨持ち帰った魂を『浄化室』へ送る。
(※)全て速やかに行う事。確保に手間取る時は、一時撤退し再び②からやり直す事。
Case【黄】
上記と同
但し、③⑤⑥の手順を除く。
マニュアルの説明事項は簡潔だった。
他部署と同様、今迄の事例も膨大な桁数とともに記載があったが、どれも同じような流れで任務は完了していた。
……『吸魂機』……その文字が目に焼き付いた。
……トーマが入社式に『あぁ、吸魂機に吸われたのか…』と言っていたような気がする。
『街をフラフラしている時に、掃除機のような物に吸われた』それが俺に関する記憶の全てだ。
……吸魂機だとしたら、何故、俺は吸われたのだろうか?……
「うむ、途中迄は前回と同じだな。」
「……そうか。……」
「④迄は同じだ。そもそも持っていく機械の種類が違う。」
「……そうか……。」
「前回は、分離機ではなかった。」
「……そうか……。」
「……どうした?やはり、悄然としておるぞ。しっかりせいっ!!」
レオンに背中を叩かれ、ハッとした。
「…すまない。少し考え事をしていた。」
「お前は頭がデカいな。」
「…?…デカい?」
「あぁ、頭ばかり使い、身体を鍛えぬから、頭がデカい。」
……『頭でっかち』という意味か?……
「まぁ、そう言われても仕方がないか……。」
「そうであろう。己の知恵等、底が知れている。
実際に身体を動かし、仲間の助言に耳を傾け、どのように判断すべきか、改めて考える。
己の頭の中だけで、あれこれ考えても埒があかんぞ。」
……レオンは、きっとそうやって国を治めていたのだろう。……
「そうだな。ありがとう、レオン。」
「うむ。」
「そろそろ、いいだろうか?」
暗闇の中から声がした。
ヌッと姿を現したのはシンだった。
「何か、質問があれば、答えよう。」
「②の(一時的に憑依する人間は相性の良い者とする)ですが…。
相性の良し悪しはどのように判断するのですか?」
「判断は特にはしない。
相性の良い人間に、魂は勝手に惹かれる。
だが、ごく稀にだが、近くにそのような人間が全くいない場合もある。
その場合は、魂のまま活動をせねばならない。」
「魂のまま……出来るんですか?」
「……補助的な役割は果たせる。
俺達は、会社を離れると一般の魂と同じように、自己防衛本能が働き、憑依先を求めがちだ。
故に、いなかった場合、惹かれもしない人間に、憑依をしたくなる。
だが、決して憑依してはならない。
一瞬で双方の魂に疲労が溜まる。」
……魂の疲労……『ミイラ取りがミイラになる』になりかねないという事か……
「強靭な精神力が求められる現場である。ユーキも覚悟せよ!」
レオンが、再び俺の背中を叩きながら言った。……気合でも入れてくれているのだろうか?
「そもそも、相性が良くとも、自分の身体でない以上、長居は危険だ。
だから、迅速に事が運ばなかった場合、②からやり直す。」
「わかりました。」
「研修生には、私も同行する。
それほど心配する必要はないぞ。レオンもいるしな。」
「うむ。」
「心強いです。」
レオンと俺は制服に着替えた……というか、黒い布を被った。
『案内人室』の制服とは違い、全身黒だが、顔だけは見える。
『全身タイツ』状のピッタリした素材で、これまた『案内人室』のユッタリした物とは違った。
((ターゲットに忍び寄るには、やはり黒、アクティブな任務だから、動きやすいピッタリした物がいいのか……))
「半分正解だな。
黒の制服は、探索室のモニターに余計な魂が映らない為だ。
ユーキは探索室の研修を終えただろう?」
「そうでした。失念してました。」
「ユーキは素直だな。」
「そうであろう。我も今回バディーを組んで、ユーキの人となりを知った。
鍛え甲斐のある男である。」
「…いや、レオンに鍛えられるのは、ちょっと……。」
「はっ、はっ!確かに…俺でも御免蒙りたい……。」
シンは大声で笑った後、急に表情を引き締めて言った。
「行くぞ!!」




