【26】※ Practical training(実技研修) part5 ※
レオンと俺は次の研修先『救助隊室』へ向かっていた。
「レオンは前回も『救助隊室』だったな?…同じ部署に2回連続というのは、珍しくないのかな?」
((ライラック達も『案内人室』の研修を2度連続でやっていたし…。))
……ただ、ライラックの『案内人室』マニュアルによると、案内する先が『本人の過去』ではなく、『異世界』という点で、異なっていたが。……
「うむ、わからんが、我らの活躍が、認められての事かもしれんな。」
……レオンやニモならば、確かに憑依された魂が宿る身体を、力尽くで取り押さえる事は、容易だったかもしれない。……
そんな事を思い、つい聞いてしまった。
「レオンは…戦士だったのか?」
……しまった!…また話が長くなりそうだ。……
「うむ、そうだな…ラケダイモンの戦士だ。君主でもあった。
だが、侵略者に敗れ、臣民を辛い目に合わせてしまった。
だから、我はここに来た。」
……ラケダイモン…?…
レオンは敗戦し、それをやり直す為にここに来たのか?…
皆、なんらかの目的を持ってここに来た。……俺以外は……。
「お前の国の『せいじか』という者達は、国の危機に臣民を従え、戦う覚悟はあるのか?」
「えっ…いや、恐らくそういう覚悟はないだろう。戦争をしないように外交的努力はするだろうが…。
それに政治家は度々入れ替わる。」
頭の中に与党と野党の論戦…あまり実りの無さそうなやり取りが浮かんできた。
「では誰が、有事に臣民を束ねるのだ?」
「…国の防衛は、金を払って他国に任せ、国民はそれに疑問も抱かない。
他国からの攻撃に迎撃出来る兵器は備えているが、もし本格的な戦いになった時、戦える訓練を受けている者は少ない。
徴兵制も無くなったからな。
国民は皆、永遠の平和を信じて、それぞれ自由に生きている。束ねる者はいないに等しい。」
……自虐だな。……実際、俺もそうだったと思う。
それに、もし今度、世界大戦が起きたら、多分最終的には、核戦争になるだろう。
日本は、抑止力となる核兵器も持たない。……
「皆、それぞれの方向を向き、束ねる者がいないのか。
…それは大変な事であろう。」
「大変?何がだ?」
「自由という事は、それぞれ自分で己の道を切り開かねばなるまい。
強い指導者がいるという事は、ある意味、楽な道ではある。」
「………。」
言っている事はわかるが、素直に肯定はできなかった。
強い1人の指導者≒恐怖政治になりがち…そんなイメージがある。
「ではお前の国では一人一人が君主であるのだな。だが、各々が別の考えを持てば、いざという時、国は乱れる。」
……『船頭多くして船山に上る』そんな諺があった…
いざとなったら?…政府はモメるだろう。総理大臣や防衛大臣は、国民を束ねて国を守れるのだろうか?……
有事ではないから、有事になる事を想像もしていないから…そんな事を考えた事もなかった。…
「レオンはここから解放されたら、どうするのか決めているのか?」
俺はいい加減、自分の国の不甲斐なさ……いや、国や戦の話から解放されたくて、そんな質問をした。
「うむ、我は己の時空に帰り、再び祖国を守る為に戦う。」
彼は迷う事なく、即答した。
『救助隊室』の入口に着いた。
「お忙しいところ、すみません。研修で参りました。識別番号9793519307、9793519314、以上2名、宜しくお願いします。」
俺は扉の向こうに声をかけた。
………………反応がない。
「そのような、か細い声では聞こえん。」
『頼もう!!研修で参った!!扉を開けて貰えぬか!!!』
耳を押さえたくなるような大声で、レオンは言った。
程なく扉が開き、中からレオンにも引けをとらぬ程の、筋肉質の大柄な男が出てきた。
「おぉ、レオン!また来たか!
ニモはどうした?」
「シン、前回は世話になった。
ニモは別の研修先だ。今回は、このユーキが同行しておる。」
すると、黒い服を着た筋肉質の大男…シンは、無言で、俺の頭から足元迄ジロジロと眺めた。
……(デジャブ)……
体格に恵まれた者は皆、こういう反応をするのだろうか?
……はい、はい、貧弱で悪かったよ!……
心の中で悪態をつきながらも、俺は先程と同じ挨拶をした。
「お忙しいところ、すみません。研修で参りました。識別番号9793519307、9793519314、以上2名、宜しくお願いします。」
「あぁ、丁寧な挨拶をありがとう。
俺はシン、ここの監督官だ。よろしくな。」
シンはそう言うと、俺達を室内に招き入れた。
室内は暗い。
そして、多数の人々が動いている気配がする。が、目を凝らしても、個々の姿を確認する事は出来なかった。
案内人室では、白い人々が蠢いていて、生理的嫌悪感を覚えたが、ここは、別の意味で不気味だった。
「ここでの研修は、レオンはもう経験済みだが、今回は少し内容が違う。」
「違う?何がだ?」
レオンは監督官に対してもタメ口だ。
「前回は特殊部隊として、抹殺任務で活躍して貰った。
だが、今回は憑依した魂を引き剥がし、保護する仕事になる。」
「うむ。」
「ユーキは初めてだから、マニュアルが必要だな。」
シンはそう言って、俺にマニュアルと、黒い布を渡してきた。
「……これは、ここでの制服ですか?」
「そうだ。それを着て任務にあたる。」
……着る。……被るんだな。……
「今回の任務は抹殺ではないが、憑依された人間の確保は必要だ。
荒事になる事もあるが、ユーキは大丈夫か?」
……大丈夫も何も、やらなければ研修がクリア出来ない。……
「はい、頑張ります。」
「なぁに、我が付いて行くのだ。心配はいらぬ。」
レオンが力強く言うと、シンは頷いた。
「とりあえず、二人ともマニュアルに目を通してくれ。
救助隊…本来の救助方法の流れを覚えてくれ。
その後で質問を受け付けよう。」
「うむ。」
「はい、よろしくお願いします。」
「では、読み終わったら声をかけてくれ。」
シンはそう言うと、部屋の奥、暗い室内に同化していった。
【あとがき雑学】
『船頭多くして船山に上る』
(せんどうおおくしてふねやまへのぼる)
意味︰
大きな船(和船)に、大勢の船頭(船長)がいると、指図をする人間が多過ぎて、意見が一つに纏まらず、船が山に上ってしまうような訳のわからない事が起きる。
指揮する人間が多いと、物事は統制がとれず、思わぬ結果になってしまう。
英語にも同じような意味を持つ格言があるそうです。
Too many cooks spoil the broth.(コックが多すぎるとスープがうまくできない)




