【24】※ confusion(混濁) ※
身体が熱い……
時折、寒風が顔に当たるが、少しも寒くはない。
俺の周りは人で埋め尽くされている。
……入社式…か?……
いや、違う。
周りの異様な熱気に加え、俺自身の身体も燃えるように熱い。
……なんだろう…身体の底からどす黒い感情が吹き出してくる。
……………………………………………。
………俺は『俺』を忘れた。
「殺せ!殺せ!殺せ!」
不穏なシュプレヒコール…
聞こえてきた声の波に乗り、俺も自然と声を上げた。
「殺せ!殺せ!殺せ!」
『憎い』『嫉ましい』『恨めしい』……次々と湧き上がる負の感情に、俺達の怒りはピークに達した。
誰かが、罪人に石を投げた。すると追随する者が続出し、無数の石礫が空を飛び、罪人や執行人、断頭台に次々にあたり、跳ね返る。
「よさんかっ!!被処刑人への暴行は罪にあたるぞ。
止めねば逮捕する!!」
そんな声が聞こえたが、誰も止める者はいない。
熱にうかされたように、皆、足元の石を拾っては投げ続ける。
俺も止めなかった。
そして…いよいよ執行の時がきた。
柱の間に、目隠しをされた罪人が、うつ伏せに寝かされた。
投石やシュプレヒコールは、ピタリと止み、期待に満ちた静寂が訪れた。
そして……
落下してきた刃が、被処刑人の首を切断した。
瞬間、広場中に歓声が湧き上がった。
冷たい外気の中、人々の熱気で湯気が立ち昇っている。
抱き合って喜んでいる者達もいる。
死刑執行人が、落とされた首から目隠しをとり、無造作に髪を掴んで持ち上げた。大量の血がボタボタと滴っている。
周りの群衆に、見せつけるように首を掲げた。
「わ〜っ!!」
歓声が一段と大きくなった。
俺も声を張り上げていた。
「しかし呆気ないな。あいつは、ギロチンで楽に死なせるより、八つ裂きの刑が相応しかった。」
「国王や、金持ち達は、俺達民衆を虐げてきた。当然の報いだ。
俺達の痛みを知り、苦しみながらジワジワと死ぬべきだったんだ。」
誰かが言った言葉に俺も賛同した。
「その通りだ。あんな圧政を敷いた国王は、八つ裂きの刑が相当だろう。ギロチンでは物足りない。」
そう言って、再び断頭台に視線を向けた俺は、そこに首を掲げる執行人の姿を見た。
彼は職務として、その役割を粛々と進めたが、今は泣きそうな、苦しそうな、切ない表情をして、微動だにしない。
不意に、怒りや憎しみの感情が薄れ、代わりに別の感情が溢れ出てきた。
それは『悲しみ』『虚しさ』『哀れみ』……
俺の瞳から涙が溢れてきた。
「…おい、こいつ泣いてやがる。
俺達に賛同するふりをしていただけか!?
実は、王政擁護派か!?貴様っ!!」
処刑の興奮冷めやらぬ男は、いきなり俺の顔面を殴りつけた。
「やめろよ。揉め事起こすと逮捕されるぞ。そんなヤツ放っておけ。」
広場から離れる、人の群れに押されながらも、俺は流れる涙と鼻血を拭いもせず、その場に佇んでいた。
死刑執行人から目が離せなかった。
彼は、先程迄無造作にぶら下げていた首を、押し頂いた。
そして、用意されていた箱の中に丁寧に、その首を収めた。
痛々しい程、彼の姿は憔悴しているように見えた。
ふと、執行人が、こちらに視線を向けた。
…………!!……アンリ!!!………
……俺は『俺』を思い出した。
……崇拝する国王の首を、自ら落とし、髪を掴み、群衆に見えるようにその首を晒す…その行為に伴う苦痛は如何ほどのものか。……
……アンリ……アンリ、今のお前は、俺には計り知れない程の、哀しみに満ちているのだろう。……
俺はアンリを見つめたまま、声をかける事も出来ず、立ち尽くしていた。
「……何故……」
……?……
「……何故……お前は……」
……何か聞こえる?……
「……何故…ここにいる……」
……誰かの声がする。……
「……何故……何度も苦しめる……」
……アンリの声か?……
『……お前は…何者…なんだ!?…』
目をカッと見開き、唇を動かしている……
はっきりと聞き取れた声は、切断された首から発せられたものだった。
「うわ〜っっ!!」
俺は自分の叫び声で、意識を取り戻した。
「ユーキ、大丈夫か?」
目を開けると間近にアンリの顔があった。
「………大丈夫だ……。」
「急に倒れたので、心配した。だが、すぐに意識を取り戻してくれて良かった。」
「……すぐにか?」
「あぁ、ほんの数分といったところだな。」
周りを見るとサミー以外全員が、俺を見ている。
……今のは、何だったんだろう?……
「…悪い。…報告会中断させちゃったみたいだな。」
「中断という程の間ではない。
それよりユーキ、どうした?大丈夫か?」
マイケルの問いかけに
「…いや、なんか…悪い夢を見たようだ。」
……あれは、夢ではない。……
そう思いながらも、そう答えた。
……あれは、夢なんかじゃない。実際の体験としか思えない。……
「魂が夢なんぞ見るかよ。」
トーマがいつになく、冷たい声色で、ぼそっと言った。
………トーマ……?……
「まぁ、ユーキも大丈夫なようですし、次はバディーの話し合いですね。」
……もうバディーの発表があったのか。……
ハルの言葉に、そう思いながら掲示板を見た。
そこには、既に次のバディー組みと行き先が表示されていた。
【あとがき雑学】
『押し頂く・押し戴く』(おしいただく)
①物を恭しく顔の前面の上方にささげ持つ事。
②その人を敬って組織の長として迎える事。
自分としては
①の意味は知っていました。
「賞状を押し戴く」等…
②の使い方は馴染みがありませんでした。
一つの言い方でも、色々な意味を持つ。やはり日本語は、世界でも理解するのが難しい言語の一つなのでしょう。




