【21】※ unnatural(違和感) ※
「お互い、何も知らぬ事にしよう。」
アンリはそう言った。
「あぁ、サミーには悟られないように、そしてあの雰囲気に決して呑まれないように、気をつけよう。」
何か企んでいるのは事実だ。
また、他にもサミーに傾倒している者がいるかもしれない。
俺とアンリは、嘘を信じた振りをしたまま、反対にサミーの動向を探り、他に洗脳を受けたメンバーがいないか、探す事を約束した。
…だが…マイケルやハルへの疑惑はほぼ解けたが、…トーマについては、俺の中で納得がいかない部分がまだあった。
サミーに唆される前から、違和感を感じていた。
……まぁ、それを餌にまんまとサミーに騙されたんだが……俺はトーマをまだ疑っている……
「早いな!我らが最初の帰還かと思ったのだが……。」
大きな声がして、振り向くとレオンとニモが立っていた。
「帰還って…戦場に行った訳でもないだろうに…。」
「…なんだ?…行ったぞ。あれは血沸き肉踊る、まさに戦場そのものであった。なぁ、ニモ。」
一緒にいるニモは無言だ。
レオンが俺の元に寄ってきた。
「ふ〜む、お前は貧弱だな。まだ兵卒といったところか。」
……兵卒…最弱の兵隊か。……
「そのような身体では、この研修、生き残れんぞ。」
……生き残る?…やはり消滅はあるのか?……
「何も戦場だけが、研修の内容ではない。私は今回ユーキに救われた。
お前では私と同様、『探索室』では点数を取れまい。」
アンリが横から助け船を出してくれたが、レオンはその言葉に反応せず、ターゲットをアンリに変えた。
「お前も貧弱だな。鍛えてやろうか?」
「…遠慮する…。」
アンリはレオンの筋骨隆々といった身体を一瞥して、不快な顔をした。
……『戦という物は人間を人間で無くする』
アンリはおそらく、レオンのようなタイプは好かないのだろう。……
それから暫くして、続々とメンバーが帰ってきた。
フィン、トーマ、マイケル、ハル。
だが、なかなかライラックとサミーのバディーが帰ってこない。
……サミーの奴、今度はライラックに何か吹き込んでいるのか?……
「ユーキ、研修はどうだった?アニキが傍にいなくて寂しかっただろ?」
トーマはいつもの調子で、ニヤけた表情で俺に言った。
……お前への疑念は、まだ晴れていないんだがな……
そう思いながら、俺もいつもの如くトーマに応えた。
「お前の過剰な干渉がなくて、実に身になる研修だった。」
「まっ、ユーキくんたら……やっぱり反抗期ね!…」
「はいはい、お母さんは悲しいんだろ!」
「人のセリフとるなよ〜(泣)…ぷふっ(笑)……ユーキもだいぶ成長したな。」
((どういう意味で、成長したとか思うんだ。泣くか笑うか、どっちかにしろよ…トーマは本当に顔芸得意だよな…。))
「お褒めに預かり、光栄の至り!…まぁ、冗談はともかく、本当の意味で少しは成長したみたいだな。」
トーマは微笑みながら、俺に言った。
……アンリの気持ちがよくわかる。
俺は、このままのトーマが好きなのだ。もし、裏の顔がある事がわかったら、俺は絶望感に襲われるだろう。
だが、まだトーマに対する疑念が払えず、ヤツの嘘を探る事を考えている。それは『そうではない』確証を得る為だが、なんと虚しい事か……
問い質せばいい…いや、直球で聞く事が恐い。……だが疑う事をやめられない。……
《お前…俺はいつもそうだ》
心の中でまた誰かが呟く。
「トーマとユーキは、相変わらず仲が良いな。」
「仲がいい?…やめてくれよ、マイケル。」
「まぁ、マイケルちゃん、わかっているじゃないの。二人は運命の糸で結ばれているの!(笑)」
「………?」
マイケルは、トーマの冗談を真に受け、呆気にとられた顔で、俺とトーマの顔を、交互に見比べている。
首を横にブンブンと振って否定する俺の横で、トーマはニヤついている。
「……戯れ言も大概にした方が、身の為ですよ、トーマ。」
横から、ハルが口を挟んだ。
すると、トーマはハルを睨みつけ、無言でふいっと横を向いた。
トーマの纏う雰囲気が、いつもの『陽』ではなく、『陰』に一瞬で変わったように感じられる。
……ハルの言葉の何が、トーマの逆鱗に触れたのだろう?……
『逆鱗』その言葉が相応しい程、トーマから発せられるオーラは怒りに満ちていた。
……俺の知っているトーマではない……
「いや、参ったよ!やっぱり最後か…遅くなって申し訳ない。」
そう言いながら、ようやくサミーが姿を現した。後ろにはライラックが憮然とした顔で立っていた。
サミーはチラッと俺を見て、片目を瞑った。俺は前と同じように微かに頷いてみせた。
そして、アンリにも同じようにウィンクをするのを、今回は見逃さなかった。
「ライラックが、監督官に食って掛かった。事態の収拾に時間がかかっちゃったんだ。」
サミーは、さも大変だったと言わんばかりに、大袈裟なジェスチャーをした。
「…………。」
ライラックは何も言わない。
……明らかにおかしい…ライラックが反論しないなんて。……
「まぁ、研修は俺がなんとか終わらせてきたから、安心してくれ。多分減点にはならない。」
いつもと違う様子に、全員喋っているサミーではなく、ライラックに視線を向けていた。
「…………。」
無言のライラックは、微かに震えている。それは、苛立ちから来るものなのか、恐怖から来るものなのか…。
「……俺達で最後だよな。じゃ、情報交換を始めようぜ。」
サミーは周囲の視線、ライラックの様子に構わず、そう言った。
【あとがき雑学】
『憮然』(ぶぜん)
本来の意味は
「失望し、どうすることもできない、ぼんやりしている様。
意外なことに驚きあきれている様。」
だそうです。
「憮然とした顔」=「怒っている顔、不機嫌な顔」
そのように、長年認識していましたが、本来の意味とは違っていたようです。
しかし最近では、本来誤りである「不機嫌」「不満」という意味で使う、自分のような人も多くなってきた為、こちらの意味を加えている辞書もあるそうです。
今回のライラックの様子は本来の『失望し、茫然とした』の意味で使っています。




