【19】※ conversation with~(会話) アンリ② ※
チームの部屋に帰ると、まだ誰も帰っていなかった。
……最速でクリア、そう言われた。
まだ当分、どのバディーも帰ってこないかもしれないな。……
「…私は生前、かつて愛した女性の命を奪った…」
唐突に言われた言葉に俺は固まった。
「……!?……」
……アンリのどこか憂いのある表情はそういう過去に起因するものなのか…?……
「彼女だけではない…実に多くの命を奪った。」
……戦争に行ったのか?でも愛した女性って、もしかして敵国の……だからあの時空を超えた男に感動していたのか?……
「…戦争に出たのか?…」
「いや、違う。」
少しドラマティックに考えた過ぎたか…。
アンリもあまり口数の多い方ではない。それに俺も…
特に話題が話題なだけに、俺はそれ以上話しかける事が出来ないでいた。
「反面、多くの命も救ってきた。」
「?」
アンリは何を思って、俺にそんな話をするのだろう?
頭の中には疑問符だけが浮かんだ。
「お前の国では、国王が国民の手で裁かれる事など、絶対にない…と私は言ったな。」
「…あぁ、そう言っていたな。」
「私の国には国王がいた。
私は、お前の国の国民のように、国王を崇拝していた。
だが、私がまだ生きているうちに王制は終焉を迎え、国王は断罪された。」
「……そうなのか……。」
「お前の時代には、死刑という罰はあるか?」
「…世界中では減ってきていたが、俺の国にはまだ…あった。」
「それをどう思う?」
「人によっては人道的に無くすべきだ、という人もいる。」
「お前はどう思うのだ?」
……死刑の是非について真剣に考えた事など、多分なかった…
「…俺は…命をもって償わなければならない罪もある…とは思う。」
そうは言ったものの…迷う。
「…そうか…。」
「…アンリは…死刑には反対なのか?…」
「あぁ、反対だ。人の死には尊厳が必要だと思う。」
「尊厳?」
「お前の国での死刑はどうやって行われる?」
……死刑の方法…何故こんな話になったんだ?……
「…絞首刑だったと思う。首にロープをかけられ、決められた場所に立つ。執行は、床が落ちて首が締められ…そして死ぬ。」
「…そうか。床は誰が落とすのだ?この世界のように『しすてむ』とかか?」
「……いや、人間だよ。確か、複数の人間が同時にボタンを押すらしい。」
「何故複数なのだ?」
「…それは…誰しも自分がやった事で、人が死んだとは思いたくないだろう。
どのボタンがそこに繋がっているかは、それこそシステムで、誰にもわからないらしい。」
「……そうか、羨ましい事だ。」
……羨ましい?…
……アンリ…
……フランス…
……西暦1793年…
……俺は頭の中で一つの仮説を立てた……
「なぁ、アンリ…。」
「なんだ?」
「間違っていたら、ごめんな。」
「?」
「シャルル=アンリ・サンソン…
それがお前の生前の名前なんじゃないか?」
「!?」
アンリは絶句し、怒りを感じさせる鋭い目で俺を見ている。
……当たり、なんだな……
「…お、お前は…一体…何者なんだ!?」
震える声でアンリは言った。
「……俺にもわからないよ。……」
「やっぱり、お前は…この会社の人間なんだな!?
我々のチーム全員を消滅させようとしているんだろ!!」
「!?…いったい何を言っているんだ?」
「私の事を何故、東洋人のお前が知っている!」
「…それは…多分、世界史で…」
「誤魔化すな!…
私に休暇を与え、チームの減点を狙っていただろう!
記憶を失ったと言いながら、何故知識だけは残っているんだ!!」
「ふざけるな!!…
お前の体調を気遣ってやっただけだろ!!
記憶の事は何故なのか、俺が教えてほしい位なんだぞ!!」
俺たちはひとしきり激しい言い合いをし、そして黙りこんだ。
……何故アンリが俺を会社の人間だと思っているんだ?……
……まさか……
「…なぁ、アンリ、何故俺を会社の人間だと思った?」
「お前の問いに答える義理はない!!」
「…サミー…。」
「!?」
俺に探るような眼差しを向けると、アンリは言った。
「…何故、その名前が出る。…」
「俺は、ハルとマイケル、そしてトーマが怪しいと言われたんだよ。」
アンリは唖然とした顔で俺を見た。
「……お前とトーマは怪しいと言われた。
魂なのに『oblivion』は理解が出来ない、今迄に会った事もないとサミーは言った。
記憶がない筈なのに、何故知識があるのか、とも…。」
「そうか…。」
「トーマについては最初の研修先を容易く手に入れてきた事や、お前とトーマには監督官がつかなかった事を指摘していた。
そして…社員が多すぎるから、このチーム全員を消滅させる為に、会社の人間が潜り込んでいると言った。」
「俺は反対に人手不足だから、退職させない為に…と言われたぞ。真逆だな…。」
……アンリが嘘を言っているとは思えない。
サミーが嘘を言っているのは、ほぼ確実だろう…だが、その嘘には一貫性がない。
他のメンバーにも何か吹き込んでいるのだろうか……
「…サミーは一体何を考えているんだろうな?…」
「…わからんが、冷静になってみると、サミーの話には不自然な所も多々あった。
だが、サミーとの会話は、とても心地よく、その場では妙に納得出来るものだった。」
「……確かに。……俺もそうだった。」
俺達は、お互いの顔を見つめ合って、黙した。




