【16】※ Practical training(実技研修) part4 ※
「じゃ、モニターの説明はユーキくんに任せるとして…話を進めていいかな?」
ケイはアンリに視線を向けて言った。
「はい、私の勉強不足、不徳の致すところ…ご迷惑をおかけ致しました!」
相変わらずピンと背筋を伸ばしていたアンリは、頭を下げてそう言った。
「勉強不足…ふふっ、時空が違えば技術も違う。知らない事は恥ではない。
アンリくんはそんなふうに思わなくっていいんだよ。」
「有り難いお言葉、痛み入ります。」
「…アンリくん、堅い堅い。」
ケイはまた笑って言葉を続けた。
「ここは探索室だ。で、何を探索するかといえば…あらゆる時空、世界に存在する普通ではない魂を探す。」
「あらゆる時空、世界でありますか…」
……アンリがそう呟くのもわかる。一体どれだけの数を探索するんだろう……
「とは言っても、そういった魂がいる可能性のある場所は、システムによって検知されるから、丸っと全部という訳ではないけどね。
年代、国、どのパラレルワールドか、迄は特定される。僕達は詳細な場所を探し出すんだよ。
…それでも膨大な数の世界の探索になる。
違法に異世界に渡り、他人に憑依する魂や、自分の身体に戻れなくなり、仕方なく他人に憑依した魂など…本来在るべき場所にない魂を探す。」
……憑依は弊害が出る、とトーマが言っていたな…
「そして、発見したらすぐに『救助隊』に通報する。」
「あの…」
「何かな?」
「憑依してもされても魂が疲弊すると聞きましたが、それを放っておくとどうなるんですか?」
「…鋭い質問だね、ユーキくん。
魂が疲弊すると、その人間は世界に何らかの害をなす。疲弊が進めば進む程、その影響は計り知れない。
以前にたった一人の人間、魂が全世界を滅ぼした例もあるそうだ。」
「…それって、その憑依された人間も死んだという事ですか?」
「多分、そうだね。」
「…その憑依合体した魂はどうなったんですか?」
「世界滅亡とともに消滅した…と言われている。」
「…消滅…。」
「黄色の点は、まだ憑依していない迷子の魂だ。だが、魂は長期間宿る身体を持たないと、自然消滅する。自己防衛本能で憑依先を探している状態だ。
オレンジ色の点は、まだ憑依の侵食が少ない。
赤色は、だいぶ侵食が進んだ魂だ。
発見したら、すぐに救助隊が出動して、迷子の魂は保護し、憑依した魂は、魂の分離をして保護する。
だが…紫色は…救えない。」
「救えない!?」
「もう魂の分離は出来ない状態だからね。消滅させるしか手はない。救助隊は、その名の通り救いもするが…
殺しもする。」
「…魂が消滅すれば、その憑依された人間も死ぬって事ですか?」
「そういう事さ。
だから、僕たちの仕事は地味だけど、重要な仕事なんだよ。
早く、侵食が進まないうちに見つけられれば、助かる命も多くなる。」
「理解致しました!
そのような事情であれば尚更、死力を尽くし職務遂行致します!」
それ迄黙っていたアンリが突然口を開いた。
彼の顔は紅潮していた。
「アンリくん、やる気満々だね。」
ケイは微笑みながら、アンリの肩を叩いた。
「二人とも、期待しているよ。」
それから俺達はマニュアルを読み、探索室の仕事の流れをだいたい覚えた。
モニターで指示された様々な世界の映像を確認し、黄色、オレンジ色や赤色、そして紫色の点を探し出す。通常の魂の色は白で、画面には表示されるが、目立たない。
もし、色付きの魂を発見した場合は、すぐに手元にある黄、オレンジ、赤、紫の該当するボタンを押す。
紫色のボタンが押された場合は、この部屋にある赤色ライトが点滅し、非常事態を探索室全体に知らせる警報が鳴るようだ。
すると、全員が一斉に画面を切り替え、より詳しい場所を早急に特定する為に動く。
そして救助隊特殊部隊の精鋭達が、その場所に渡り、魂を抹殺するのだ。
マニュアルから顔を上げたアンリは、いつも以上に憂いを浮かべた表情をしていた。
「アンリ……大丈夫か?」
「…ユーキは人間の死を目の前で見た事はあるか?」
「…わからないが、多分ないと思う。」
「…そうだったな、ユーキは記憶を無くしていたな…失礼した。」
「いや、大丈夫だよ。」
「………」
またアンリは憂いの表情で、黙って何か考えこんでいるようだ。
……空気が重い……そうだ、アンリにモニターの説明をしなければ……
「アンリ、そういえばモニターの説明をまだしていないな。」
「ユーキ、有り難いが、それはもういい。」
「…もういいのか?…」
「私の知識では理解出来ない物だが、何を為せば良いかはハッキリとわかった。出来れば操作方法だけご教授願いたい。」
「あぁ、わかったよ。」
そうは言ったものの、俺もここでの画面の操作方法についてはまだわかっていない。
PCのキーボードの扱いには慣れている気がするが…
だが、アンリは機械に詳しくないだろう。
ここは俺がしっかり覚えて、アンリに教えなければ…
「マニュアルは読み終わったかな?…ある程度は理解出来た?」
「はい、理解致しました。」
「ある程度出来ました。」
「何か質問はある?…」
「はい、操作方法について知りたいです。」
「…あっ、そうか。それはマニュアルにないもんね。…僕は監督官になるの初めてだから、肝心な事忘れていたよ。」
ケイは『テヘッ』といった軽い感じで自分の頭を叩いた。
「実際に使っているのはこれなんだけど…ユーキくんは見覚えあるんじゃないかな?」
それは、見慣れていたキーボードそのものだった。




