【15】※ Practical training(実技研修)part3 ※
「ユーキもここに来るのは初めてなのか?」
……『も』ということは……
「アンリは初めてなのか?…俺も…以前の記憶がないから、わからないが、おそらくは初めてだという気がする。」
俺はアンリとともに、次の研修先『探索室』に続く通路を歩いていた。
「そうか、そういう気がするなら初めてなのであろう。」
「アンリは、この世界や会社の知識を誰かに教えてもらったか?」
「ああ、ライラックからな。不明な事はマイケルに質問した。」
「ライラック!?…からか?」
アンリはフッと微笑んで言った。
「まぁ、1/10くらいはそうだな。ライラックは、説明が下手というか…的確な表現を使う事が得意ではない。ほぼマイケルだ。」
「…マイケル…」
……アンリが他のチームメンバーからこの世界の知識を得ていたとしたら、トーマの説明の嘘を炙り出せるかもしれないと思ったのだが…まさか(疑惑の)マイケルだったとは……
「私は、人一倍知りたがりなのだろう。
ここに来る前の仕事の影響かも知れんが…。」
「仕事の影響?…」
「!……まぁな……」
アンリは『しまった!』と言いたげな表情を見せたが、すぐにいつもの憂いを帯びた表情に戻り、それ以上何も言わなかった。
程なく『探索室』の入口に着いた。
アンリがドアをノックし、扉を開ける前に中に声をかけた。
「お忙しいところ、恐れ入ります。研修で参りました。
識別番号9793519307、9793519312、以上2名、本日は宜しくお願い申し上げます。」
……さすが、アンリだ。直立不動で、流れるように挨拶を述べている。
貴族の貫禄。
暫くするとドアが開き、眼鏡をかけた細身の若い男性が出てきた。
((魂でも眼鏡をかけるのか…それにジーパン!?))
何気なくそう思った……しまった!叱責される……
以前の苦い思いが頭を過ぎったが、男性は少し驚いた表情を見せ
「…これは少し期待出来るかな…。」
俺を見て、そう呟いた。
「?」
……心の声を悟られない術を身に付けているのに、迂闊だった。…
「新入社員だね。とりあえず中に入って。説明は中でするよ。」
男性に導かれるまま、部屋の中に入ると、果てが見えない広い空間に、無数のディスプレイ、画面の前に座る人々がズラッと並んでいた。
静かに画面を睨んでいる者や、慌ただしく動いている者もいた。
「二人とも、初めてかな?」
「はい、仰るとおりです。」
「うん、ではまず簡単にここでは何をするか、話すね。
それからマニュアルに目を通してもらって…質問はそれから、それでいいかな?」
「はい、宜しくお願い致します。」
返事は全てアンリがしてくれている。
「君もそれでいい?」
急に振られて少し焦った。
「は、はい。よろしくお願いします。」
「じゃ、まずマニュアルを渡すね。ここのマニュアルは全員で共有しているから、記載事項は膨大な量になる。」
全員で共有という事は、マニュアルも重くて分厚い物か…と思ったが、『案内人室』で貰ったマニュアルと厚さも重さも変わらなかった。
((……パソコンのドライブ…共有フォルダのような物か……))
「君、正解!」
眼鏡の男性はそう言うと、微笑んだ。
「えっと、9793519307……呼びにくいな…ユーキくんでいい?それとアンリくん。」
「結構であります。」
「それでいいです。」
「僕の事はケイでいいよ。……まぁ名前呼ぶ機会もないか。
とりあえず、ここでは僕が君達の監督官になる。よろしくね。」
「監督官殿、よろしくお願い致します!」
「よろしくお願いします。」
「アンリくん、堅い堅い。」
監督官であるケイは、そう言いながら笑った。
ケイは俺のいた時空に近い所から来た魂なのだろう。
話し方がかなりフレンドリーだ。
見た目は西洋人、少し雀斑のある白い肌に金髪、ジーパンを着用しているので、そう思った。
……しかし…ジーパン?……
ここにいる人々は、みんなバラバラだが、個性的な服をそれぞれ着用している。
ここには案内人室のように制服のような物はないようだ。……
「ここでは、モニターに映し出される、黄色やオレンジ色や赤色の点を見つけ出す作業をする。そして、紫色…これは絶対に見逃さないでほしい。」
「……???」
「?」
アンリは面食らった表情をしている。俺以上に?マークが多い気がする。
「えっと、アンリくん…モニターってわかるかな?」
「恥ずかしながら、初めて聞く言葉であります。」
「やっぱり、そうか。ユーキくんは詳しいでしょ?」
「詳しいかどうかは怪しいですが、知識としてはあります。」
「だと思ったよ。」
ケイはニッコリ笑いながらそう言った。
「モニター、もしくはディスプレイとも言う装置なんだけど…ここでは探索する作業を行うからモニターと呼んでいる。
まぁ、ご覧の通り皆が見ているあの画面だよ。」
「!!…絵が動いている……?」
「えっと…絵じゃなくて映像。
色々な時空、場所が映し出されているんだ。」
「…映像……?」
「ん〜、光線の屈折や反射によって作られた像……いや、絵が動いているって解釈なら、動画でもいいか……」
ケイは、なんとかアンリにわかるように説明しようと頭を捻っている。
アンリもまだ納得出来ない、というオーラを放っていたが、話が先に進みそうにないので
「後で俺が説明します。」
俺がそう言うと、ケイはホッとしたような表情を浮かべた。
【あとがき雑学】
『ジーパン』(ジーンズ+パンツ)
和製英語なので、海外では通じません。
英語なら「Jeans」(ジーンズ)ですね。
おそらく、ジーパンと聞いて
何の事かわからない人はいないと思いますが、最近では違う呼び方も増えているとか…。
『ジーンズ』、『デニム』『デニムパンツ』『パンツ』等々…
デニムは「生地」の事。
パンツは、アメリカでは「ズボン」の事ですが、イギリスでは「短い下履き=下着」の事です。
最早、本来のジーパンの色、インディゴブルーの面影無し!
しかし、トーマも言っていましたが、言葉なんて時代とともに変わる物。
そのうち『ジーパンって何?』って時代が来るのかもしれませんね。




