【12】※ information exchange(情報交換会)part1 ※
「まずはそれぞれ、マニュアルを交換して、各部屋の状況を確認しよう。」
マイケルの言葉から情報交換会は始まった。
読むといっても魂なので、一目見たらそのページの内容は頭の中に入ってくる。
バディーを組んだ者同士、隣り合わせで10人でグルリと丸くなって座っている。当然、トーマは俺の隣に座っている。
だが、トーマがいつものように話しかけてくる事はなかった。
「一通り目を通したら、お互い質問しあおう。職務内容でも、対処方法でも……バディー相手の事でも…何でもいい…。」
チラッと俺を見た後、トーマが言った。
トーマはいつもより元気がない。…いや、演技しているだけか。俺が気にする事ではない。
……『回し者のくせに!』……
険しい顔をして、顔を上げるとサミーと目があった。サミーは片目を瞑り、少し微笑んだ。
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「アイツは誰に対してもいい顔するだろ。それに相手の懐に入るのも巧い。お前だって、この短期間の内にトーマを信頼していた筈だ。」
((全くその通りだ))
「そうやって相手を信頼させて、最後は落とす。」
「落とす?」
「入社式でお偉いさんが、演説していただろう。此処にあるのは稀有だから光栄に思え!みたいな事。あれは嘘だ。…というか、稀は本当の事だがな…。」
「どういう事だ?」
「人員不足なんだよ、本当のところ…。」
「人手不足…。」
((…どこかで聞いた…あぁ、案内人室の白い女性が言っていた))
「だろ?…一定の基準の点数迄行ったら、退社出来る。只でさえ社員不足なのに、そうホイホイ転移だの転生して社員減ったら…なぁ?」
「………。」
「それにお前だって、無理矢理ここに連れてこられたんだろ?…聞いたぜ、吸魂機に吸われたらしいじゃないか。」
「吸魂機?」
……あぁ、以前にトーマが言っていたな……
「あれは、生死に拘わらず、無差別に魂吸う装置らしいからな。運が悪かったな。」
「……そいつに吸い込まれた魂は皆、記憶を失くすのかな?」
「いや、そんな事は聞いた事もない。そもそも、系統oblivion(忘却)はレアだ。まずお目にかかれない。」
……この言い方…サミーもこの世界に来るのは初めてではないのだろう。……
「…成績の悪いチームは消滅するってきいていたが…人手不足なら…。」
「…そんな事する訳ない。お前にそんな話したのは、危機感を植え付けて、優秀な社員に仕あげる為の嘘だよ。」
「…嘘…。」
「何故、アイツは最初の研修先を易々と勝ち取ったんだろうな?希望するチームは山ほどいたらしいぜ。
何故、アイツとお前の部屋には社員が付かなかった?通常、あり得ないだろう。」
サミーの言っている事は整合性があるように思えた。だが、優秀な社員に仕あげる事と落とす事、相反するような気もしたが…
なんだろう…サミーの声は聞いているだけで、凄く心地よかった。
「トーマは、社員の退社を阻止する為に会社から遣わされた、いわば刺客だよ。」
「刺客…。」
「だいたい、バディー組みの時だって、何故無理やりお前と組んだ?」
((深く考えてもみなかったが、確かに何故だろう?…))
「それはお前が今回のターゲットだからだよ。」
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「……、それでその時、ユーキはどう思ったの?」
名前を呼ばれて、はっと我に返った。
「……ごめん、もう一度言ってくれるかな?」
「……もういいわよ!大事な報告会でボケッとしている人になんか聞いても無駄よね!!」
ライラックは、怒り心頭と言った様子で、乱暴にマニュアルを放り投げた。
「マニュアルを乱暴に扱うな!」
声を上げたのは、マイケルだった。
「自分の研修結果が思わしくなかったからといって、人に当たるものではない!」
「なんであんたに研修結果がわかるのよ!!」
ヒステリックに叫ぶライラックの側で、アンリが「やれやれ」といった感じに肩を竦めている。
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「まぁ、トーマだけじゃないかもしれないが…」
「!?」
「俺は、マイケルとハルは怪しいと思っている。」
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研修結果がわかっている?…ライラックの言葉で、先ほどのサミーとの会話がまた思い出された。
アンリがライラックを宥め、その場はなんとか収まったが、場の空気はかなり悪いように思えた。
……こんな時、いつものトーマなら場を和ませて……
いやいや、何を思っているんだ、俺は…
チラッと横を見たが、トーマは無表情だった。
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「…そうだ、お前に心の声を隠す方法を教えてやるよ。」
「それは…ありがたい。」
「なに、たいした事じゃない。自分でコントロールするんだよ。無意識にポッと思う事は相手に読まれる。だから、意識して考えたり、思ったりすればいいんだ。心のスイッチの切り替えだよ。」
「?」
よくわからなかったが、サミーに言われると、出来る気がした。
「やってみろよ。」
………俺はトーマを信じない……
「完璧じゃないか。」
………何だ?…この感じ、前にもやっている……
「どうした?慣れれば意識しなくても隠せるようになる。反対に、わざと心の声を聞かせる事で、相手を撹乱させる事も出来るようになる。
覚えが早いな。」
何か釈然としない気持ちを抱いたが、サミーに褒められると、そんな気持ちを忘れる程嬉しかった。
「…ありがとう。」
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「あの…悪かった。元はといえば、俺がボケッとしていたのが原因だ。」
静まりかえった空間で突然、口を開いたのは俺だった。
「謝るから、どうかライラックもマイケルも怒りを鎮めてくれ。申し訳なかった。」
「……なんというか、こういう凍り付くような雰囲気、苦手なんだよ。…それに、トーマにも謝らなきゃな。俺が悪かった。ごめん。」
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「おまえは、またトーマと前のように付き合え。」
「出来る自信はない…。」
「出来るさ。そして、トーマの裏をかくんだ。会社に一矢報いてやれ。」
「………。」
……俺に出来るのだろうか?
だが、この会社は確かにろくでもない会社だ。最初からそう思っていた。……
「やれるだけやってみるよ。」
「あぁ、俺がついている。」
そうだ…サミーがそう言ってくれるのだから、出来るに違いない。
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「まぁ…あんたが謝るならいいわ。私も悪かったし。」
「すまない。私も少し言い過ぎた。」
ライラックとマイケルはそう言ってくれたが、トーマは何も言わず下を向いていた。
「…トーマ?」
「………」
「……トーマ……」
「……おまえが……」
「………?」
「俺を『アニキ』と呼ぶなら許す。」
突然顔を上げたトーマはニマッと笑ってそう言った。
【あとがき雑学】
『回し者』(まわしもの)
「敵対する人や組織の内情を探るために、忍び込んだ人間の事」
一言で言えばスパイですね。
本来の意味とは微妙に違うけど、
「企業などが、客になりすまして、消費者に気づかれないように宣伝する人」
ネット等で見かけるステマや俗語のサクラと同じように使える言葉のようです。
(ん〜、今回のユーキのセリフは「回し者のくせに」より「工作員のくせに」の方が正確かも…
と思いつつ、敢えて直してません。)




