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ようこそ、異世界コンツェルンへ♪   作者: 三芳(Miyoshi)
※ トーマ ※
10/86

【9】※ guide(案内人)part② ※


「…凄いな!トーマ!」



俺は思わず声をかけた。



トーマはこちらを振り返り、唇に一本指を当てた。



(((声をあげるなよ!またすぐ客が来るぞ!…マニュアルを見てみろ。)))



トーマに言われた通り、マニュアルを再び開くと…



『case.8067513957…』

膨大な桁数のNo.の後に、トーマとあの男の今のやり取りと、その時の状況が記載されていた。



((これは…))



(((自動的に記載されるんだよ。何か失敗をやらかしたら、その事もな。)))



((……あぁ…そうだな、俺が声を上げた事もしっかり記載されてる…))



どういった仕組みなのかはわからないが、瞬時に記録が残る。



((俺の知らない技術か…トーマに言われたな…システム管理の仕事もあると言っていたが、俺に出来るのだろうか?…))



(((次、やってみるか?…説明に窮する事があれば、心の中で俺に問いかけろ。すぐ応えてやるから)))



((…そうだな、見ているだけでは前に進めない…))



俺は頷き、トーマのいる部屋の中央へ向かった。



(((大丈夫、お前なら出来るぜ!)))



トーマは俺とすれ違い様、肩をポンッと叩いた。



俺が部屋の中央に着くや否や、空間が歪み出した。



((来た!))



現れた人間、それは先ほどと同じ若い男だった。



「お待ちしておりました。」



俺は心の動悸を悟られないように、落ち着いた声をかけた。



(昨夜と同じ夢だ)



……昨夜?ついさっき来ただろ?…そうだ、ここは時空を超えた空間だった……



男は、周囲を見回している。



……あぁ、彼女を探しているのか……



「あの方はまだ来訪されておりません。」



「そうですか…」



ガッカリしたように言う彼に俺は言った。



「パラレルワールド及び転移について何かご質問はございますか?」



……まずは場を持たせなければ……



(やり直しの可能性やミキの姿で浮かれていて、昨夜は何も考えていなかった…)



……そりゃ、そうだよな……



「皆様そうでございますよ。」



(また心を読んだ?考えている事が読めるのか?)



………俺だって最初はビックリしたもんな……



「魂ですので貴方様にもそうしようと思えば、可能です。」



……だが、来訪者には社員の心は読めない、とマニュアルにはあった……



「では…俺が転移したら、今の世界の俺の存在はなくなるのですか?」

(存在自体なくなるなら、母さんの悩みの種も消える…)



……俺も同じような疑問を持ったっけ…しかし、母さんの悩みの種?……



「いいえ、存在は残ります。正式転移を選ばれた場合、貴方様の魂は分裂し、一つは転移先へ、もう一方の魂は残ります。」



……言ってても本当にそうなのか、俺も自信はないが…マニュアル通りなら、そうなのだろう……



(いずれにせよ、残る俺の魂は現実を生きていかなければならないのか…)



…………だよな………



彼の心の声に、何故か俺も切ない思いを抱いた。



「人生とは自分で選択し、進んでいく道でございますから。」



……俺がそんな事、偉そうに言っていいのか?……



「では、何故パラレルワールド転移という事が行われているのですか?」



「世界の可能性を拡げる為、でございます。」



(可能性を拡げる?)



……マニュアル通りに……



「転移した世界では、その世界の人間に分かれた魂が入り融合する。

そして不確定要素を取り込んだ魂は、あるべき道ではなく、違う選択肢を選ぶ場合もある。

何気ない言葉や行動で選択肢は広がる場合もあるのでございます。」



(更に道の分岐が細分化されるという事か)



「左様でございます。」



「何故そんなに世界を拡げる必要があるのです?」



……ここからはトーマの言った事の受け売りだな……



「世界が滅びない為…でしょうか…」



(滅びる?)



「選択肢を間違え、滅ぶ世界もある。しかし、同じ分岐路を持つ別の世界はそのま存続して行く。

全て滅びる事を回避するには、パラレルワールドは多い方が良い。…そう認識して頂ければよろしいかと。」



「………?」



……疑問符、そりゃそうだな。俺だってよくわかっていない、でも……



「実際、貴方様の世界でも、失われた古代文明等の伝承はございますでしょう。

しかし、別のパラレルワールドではその文明がまだ存在している…そういう事でございます。」



(何気なくきいたが…壮大な話になってしまった…)



……本当に壮大な話なんだよ……



「極端な例え話になりますが…

貴方様がどなたかとご結婚され、お子さまが産まれる。そのお子さまが成長され、強力な兵器を作り出し、世界を滅ぼす。」



(物騒な話だ…)



「しかし、貴方様が別の方とご結婚されれば、その兵器を作ったお子さまは世界に存在しない…よって世界は滅びない。

そういう事でございます。」



……これは俺の作った例え話だ。だが、あながち間違ってはいない筈だ……



(別の誰かと結婚…)



「では、同じ世界でも結婚する相手が変わる事もあるんですね?」



……意外な所に食いついてきたな……



「勿論でございます。」



(壮大な話から、いきなり小さい話に変えてしまった…)



……いいんだよ、それが普通の反応だと思う。……

俺は久しぶりに触れる俺と同じ感性に少しホッとした。



「世界がどうなる等考えて転移される方はいらっしゃいません。

皆様今の自分の悩みを解消したいが為に、ここに来訪されるのですから。」



空間が歪み出した。

これはおそらく…先ほどの彼女だろう。

気配を感じて彼に告げた。



「お待ちの方が見えたようでございます。」



彼が振り返った先には、先ほどよりはっきりした姿の女性がいた。



「ミキ、ミキ」



彼は彼女の名前を呼んだが程なくして、またその姿は幻のように消えてしまった。

俺は焦った。



((!!…何故消えたんだ!?トーマ!))



俺はすかさずトーマに助言を求めた。



(((さっき俺が言った事聞いてなかったのか?ここに来る目的がまだよくわかっていない魂は、実体化しにくいし、すぐ消えるんだよ)))



…色々考えていて聞き逃していたようだ…迂闊だった…



「彼女の思いは、まだ淡く儚いもののようですね。」



「淡く儚い?」



「貴方様のように『人生をやり直したい』と、はっきり目的を持って来訪される方の魂は実体化しやすいのですが…

まだ何故この場所に来たのかご自分でもわからない方の魂は薄いのです。」



ガックリと肩を落とした彼の姿は…俺の心をざわつかせた。



「彼女と一緒に、パラレルワールドへのお試しをご希望でしょうか?」



……『お客様の望みは可能な範囲で実現するよう努力する』それに基づいての質問なのだが……



「出来るのであれば是非」



……やめておけばいいのに……そう思う……



「……彼女を伴っての転移お試しは、貴方様のご希望に沿うものにはならないかもしれませんが…」



……魂には、ここに来る前の時空の自我があるらしい。お試し期間中はその自我を保ったままだ。

彼とはもう関係のない世界から来た彼女の魂であれば…彼の望む結果になるとは思えない……



(…?…)



彼は何故?といった顔で俺を見ているが…彼の足元が薄くなり始めている。そろそろタイムリミットか……俺は別れの挨拶をした。



「それでは、またのご来訪、心よりお待ちしております。」



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