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(仮)弟子と隠し子と高校生  作者: まつかさ
プロローグ
2/2

押し入れ

今から約1週間前、突然じいちゃんは亡くなった。

僕は小さい頃、ずっとじいちゃんと一緒にいた。両親が共働きだったこと、おばあちゃんは僕より三つしたの妹の世話をしていたこともあり、本当にずっとじいちゃんと一緒にいたんだ。


葬式が終わった後、じいちゃんの部屋や物を整理することになった。春休みだったことやじいちゃんとの思い出を探したいこともあって手伝うことにした。眠れない日が続いていて、頭が回らず、思い出そうとしても思い出せないことがいくつもあって不安だったこともある。そんなわけで、整理を始めた。


僕の家は東に畑、西にじいちゃんの家南北に田んぼ、少し歩けば山の入り口があるような場所に建っている。田舎といえば田舎なのだが、僕が通っていた小学校の校区内にはスーパーマーケットがなく、中田商店というお菓子や日用品、野菜の種など豊富な品を扱う、個人経営コンビニのようなお店が唯一だった。他に店といえば自転車屋とカフェと牧場にある牛乳を販売している窓口のようなところくらいだ。隣町には大きなスーパーマーケットがあるためそこまで生活に不便は感じないが、田舎の中でも偏差値は高めだと思っている。


じいちゃんの家はすぐ隣にあり、小さい頃は両親が仕事に行くと同時に預けられ、夕方までそこで過ごしていた。整理をしていると、駒や将棋、かるたなどおもちゃがたくさん詰まった引き出しが出てきた。毎日それなりに長い時間じいちゃんの家で過ごしたはずなのに、こんな引き出しあったっけ?と思うくらいに遊んでいないのか、僕が忘れていたのか、とにかく記憶になかった。いくつか見覚えがあるものもあるがじいちゃんとの思い出の中にほとんどない。


そして、子供部屋から移動してじいちゃんの部屋に。見慣れた家具の配置。タンスから香る木の匂い。何年経っても懐かしい匂いと聞くとこの匂いを思い出すのだろう。


「兄ちゃん、これ」


先に入っていた妹が一本の棒を差し出す。その棒は青色で、ところどころ塗装が剥げて赤茶色く錆び付いている。棒の片側に膨らんだ部分があり、先端には留め具。


「じいちゃん、ずっと持ってたんだ…」


虫取り網の棒だった。網はもうついていなかった。いつから網が無くなったのか、いつから使わなくなったのか。


寝不足だった頭の中で思い出が息を吹き返したような気がした。様々な景色が頭の中を駆け巡る。肩は左から虫取りかご、右から水筒をかけ、左手には青い虫取り網、右手にはじいちゃんの手。田植え用の足袋を履いた僕とじいちゃんの大きな長靴。この装備をじいちゃんと僕は探検セットと呼んでいた。


いつからだろうか、虫を取りに行かなくなったのは。いつからだろうか、虫を触れなくなったのは。


あぁ、僕は泣いているのか。そうか。もうお尻を叩く人はいないのか。


いつのまにか流れていた涙を袖で拭うと、じいちゃんにお尻を叩かれていたことを思い出す。


「男が泣くんじゃねぇ!ケツ叩くぞ!!」


「痛いよじいちゃん!もう叩いてるじゃん!!」


「ガハハハハ」


こんな会話だったか。山は人が通る道が決まっていてある程度歩きやすいものの、子供だった僕にはとても歩きづらく、よく転んでは泣いて、お尻を叩かれていた。辛い時にさらに発破をかけてくるじいちゃんの硬い手は痛いのにどこか暖かいものだった。物理的に叩かれて赤くなり暖かかった説は否定できないが…。


他にも網を手にした瞬間から色々なものが僕の胸に溢れてくる。妹が持ってきたティッシュで涙と鼻水を拭いながら更に思い出に浸る。


毎朝、じいちゃんの家に連れて行かれると農具が片付けられている納屋に駆け込み、靴と靴下を脱ぎ飛ばし、片栗粉を一掴みして両足に塗りたくり、田植え用の足袋を履く。赤いスコップとバケツを手に畑へ走る。草抜きや水やりを手伝い、畑仕事が終わるとじいちゃんの背中を押しながら納屋に戻り、ばあちゃんが用意してくれている探検セットを装備して探検をする。昼ご飯を食べに一度戻り、食べた後頑張って昼寝をしてまた探検に出る。夕方には家に戻る。


こんな日々を繰り返していた。



気がつくと妹が部屋から居なくなっていた。外から鳥の声がする。片付けするために大きく開けていた窓から春の風が吹き込む。


(…リリ……リリリ…)


ふと、耳を澄ませると鈴のような音が部屋の奥から聞こえる。方角は…押し入れの方か。


久しく出入りしていないため、子供部屋以外の整理はするつもりが無かった。おばあちゃんが片付けしやすいように、できるだけもとの形にしておきたかったがどうしても気になって押し入れを開ける。


「上?いや、奥から?…え?奥?」


方向的に明らかに押し入れの奥なのだ。押し入れは高さ2mくらいでちょうど首ぐらいの位置に棚があり、その上には古い本やファイルなどがぎっしり詰まっている。そしてその棚の下にあるポールに見慣れていないじいちゃんの服が吊るされていた。


いつも農作業しやすいような、汚れがついている服を見ていたからか、見たこともない服ばかりであった。


その奥から音がするので服をかき分け、耳を当ててみる。


(…ビィビィビィビィ)


「うわぁああ!?」


やはりこの奥だ、この奥から音がする…。外から回って何があるのか見てみようか。


そう思って振り返り押し入れから出ようとすると、


「いてっ!」


「ピッ…ガシャ」


「え?」


押し入れの奥が現れた。









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