目覚まし時計
「…ピィピィピィ……」
あぁ…なんだ……?スズメでも入ってきたか?
「…ピィビィビィビィ!!!」
「うわぁ!?なんだ!?!?」
羽布団を羽ばたかせて飛び起きてみるが、周りに鳥の気配は無い。3月とはいえ田舎の朝はまだまだ寒い。窓を閉めているのに鳥が室内にいるわけがないのだ。
僕は小さい頃から目覚まし時計を使ったことはない。生まれつき目や耳などの感覚器官が敏感で、強い光や大きな音を怖がっていた。
そんなこともあり、友達の家に泊めてもらった時に目覚まし時計に驚いてベッドから落ち、怪我をさせてしまった程だ。彼はそれがトラウマでもう敷布団で寝られないと言っていた。修学旅行二日目の夜、和風の旅館で眠れない彼に付き添い、夜通しトランプをしたのは修学旅行の唯一の思い出だ。一日目の夜に皆ではしゃいでいたこともあって、二日連続徹夜。三日目の記憶はない。思い出を記憶するには睡眠が必要ということが身に染みて分かったことも思い出か。
つまり、このけたましい音の正体として目覚まし時計の音という選択肢はそもそも無かった。だが意識が覚醒するにつれて、目覚まし時計という選択肢が頭に浮かぶ。だが家族も耳が過敏ということをよく知っていてる。我が家に目覚まし時計を僕の部屋に置くような嫌がらせをする者はいない。いや、一人いたが、つい先日いなくなった。だが事実としてこのけたましい音は現実だ。
だがだがだが…がたがたがたガタガタガタガタ
「ひぃっっ…!!ウワァぁあぁアアアアァ!!!」
それを目にした瞬間、全身の毛が逆立つ。鳥肌の津波がザザッと体を覆う。心臓が呼応し急かされて、冷ややかな血を全身に行き渡らせる。
「・・・ス、スススッ…ハッははぁ〜」
深呼吸することで決壊寸前のダムの水面を落ち着かせる。冷やかな血で満ち、荒れ狂った本能のダムは理性の管制塔によって一定の呼吸、リズムで流量調節をしてゆっくりと血を流し始める。温かな血が全身へとゆっくり行き渡る。
落ち着いたところで僕に何が起きたか説明しよう。
少し長くなるかもしれないが聞いて欲しい。
少し長く説明する前にかなり短く説明すると、おじいちゃんの隠し子が泣いていたのだ。