世界は黄金に満ちている
「よし、死のう」
丁度列車が通るタイミングで、唐突にその考えが頭に浮かぶ
僕は光に向かって走り出したーーーーはずだった
だが、気がつけば僕は座っている、辺りを見回すと、そこは映画館のような場所だった。上映されているのはある男の人生、苛立たしい事に、観ていてたまらなく不快になるような
こんな物見たくはなかった
なんだってこんなのを今更見せられなければいけないのか!? 僕は苛立ちと恐怖のままに逃げ出そうとした、だが手錠と足枷がそれを許さない
体は、いつの間にか拘束されていた。
ーーいつの間に……?
まるで白昼夢だ。そう呆気に取られる暇もなく、僕はスクリーンに移された映画を見せられる。
動揺した。
だって、見覚えを……いや、確信してしまったから。しかし、そんな僕を気にも止めず、失敗作の映画は容赦無く流れ続ける。
見れば見るほどそいつは愚かで、頭が悪く、無力だった
映画の主役は有り得ないほど順調に失敗と無力感を積み重ねる
僕は拘束を外そうと必死にもがく
主役は大切なものを失う
僕は死に物狂いでもがき苦しむ
主役は自暴自棄になり意味もない行動を繰り返す
僕は現状を脱するのを諦め動くのをやめた
主役は自分の能力のなさを悟り何もしなくなった
主役は他人の不幸を見て笑っていた
僕はそいつの不幸を笑えなかった
ずっと画面に映っていたそいつが駅のホームに立ち、その映画は終わった
僕はその日、休日出勤する労働者の顔を見て楽しむために都会の駅に来ていた
あわよくば他人が自殺するを見れれば良いと思っていた
自殺したのは他ならぬ僕だった
何故この選択をもっと早くしなかったんだろう……?
分からない、分からない分からない
いや、答えはもうとっくに出ていた、やってみればこんなにも簡単な事なのに……
僕は死んだ
だからこの後悔もこれで終わりーーーー
ーーおい、早くしろ
誰かの声が聞こえる
「おい… どうせもう起きてんだろ?」
落ち着いた、どこか恐怖を感じさせる声。
早くしろと、謎の声は再び呼びかける。
いや、僕は死んだんだ、だから意識があるのはおかしい
「目を開けろ」
その瞬間、僕はある発想に至る。
僕は死んだ、だが意識があるつまりここはあの世で、これから違う存在として第二の生を受ける事ができる……あるいは、別の世界に蘇る事ができるんじゃないか?
別の可能性も考える事ができる。だが、これまでの地獄からは解放され、新しい環境が待っている可能性が高い! ……そう、思いたかった
目を開ければ何かが確実にそこにあるのだと。きっと素晴らしい何かが。
光が、希望がそこにある。
目を、開ける覚悟が決まっーー
ギ……ギィィィィィィ……
黒板を爪で引っ掻いたような、頭に不快に響く音。
思わず、」反射的に目を開けた。
そこは……さっきの劇場だ。だが、だが……!スクリーンの前には見たこともない怪物が立っている。
黄金で作られた巨体……だが、最も驚異的なのは大きく歪で恐ろしい両腕だろう、そいつはどういう訳か大量の宝石類で全身を飾りつけており…真紅の目が怪しく光を放っている。
思わず目を逸らし、気付く。黄金の怪物の後ろにはーーどこから持ってきたのかーー引っ掻かれた跡のついた黒板があった。
「残念だったなぁ…お前が期待してた異世界じゃなくてさぁ」
「…………誰だよ、お前は」
「難しい質問だな。例えば、だ。もしお前が俺みたいな姿をしていたら……どう答える?」
それはどういう意味だ?そう問う事ははばかられた。怪物が露骨に嫌そうな顔をしていたからだ。
それは気のせいなんかではなかったんだろう。怪物はまぁいいだろうと話題を逸らしにかかる。そんな事よりも
「スクリーンを見てみろ」
僕は言われた通りにスクリーンに目をやる、映画が終わったはずの……いや、映画は続いていた。正確には続きの一枚が映し出された
高速で走ってきた列車と青年の……いや、自分の体が衝突し、衝撃で体が破壊されかけている……次のコンマ一秒後にはみンチ肉が出来上がるだろうギリギリの所で映像は停止している。間違いなく次の瞬間には死ぬだろう。そう確信できた
「あれが、今のお前だ」
そんな事は見ればわかる ……何なんだコイツは。こんなところに連れてきて、こんなものを見せてこの怪物は一体どういうつもりだろうか?
コイツ頭がおかしいんじゃないか?そう思い始めたとき、怪物は再度口を開く。淡々と。
「お望み通り本題に入るとしよう……この世界にあの世はない。この世界では死んだら全部終わり、完全に「無」だ。知ってたか?」
「……だから? 僕にどうしろと?」
「これからお前には生き返ってもらう……もう一度、あの世界にだ。……そう言ったらどうする?」
「嫌だ、断る。もういいだろ? もう僕を死なせてくれ」
「そうか、断る…………そうだな、なら、お前が欲しいものはなんだ?」
「だから、死なせてくれと」
「例えば、『力』だ、力はいいぞ!これがあるだけで見える世界が変わる、力がなかった結果が今のお前だろう?なら「違う」何が違う?なぜちがう? 力ってのは腕力だけを指す言葉じゃあないんだぜ?」
「……? 何が言いたい」
「力とは、何かをなすために必要なモノだ」
ニィ、と怪物が笑うと同時、僕は光に包まれーーーー瞬間、横からやってきた凄まじい衝撃にが身体を揺らす。
気がつくとそこに劇場はなく、怪物はどこかに消えていた。そして――――思わず、驚愕から目を見開く。右腕が、僕の右腕が黄金に変色し、歪に変形して――さっきまで見ていたモノそっくりになっていた――片手だけで列車を止めていた。列車、僕が。……いや、改めて見てみればその右腕だけではない、体の至る所が歪に姿を変え、怪しい輝きを放っていた。
――間違いない、これはアイツの…………
これが「力」前の自分では遠く及ばないモノにすら、一方的に勝ってしまう。人を超越した……チカラ。
あぁ、これなら生きていける。前と違う生き方ができる! 僕はそう確信した。……無邪気にも。
初めて書きました