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第二十六章 少年たち

「どうもすみませんでした! ほら、お前も。」

ワクは、自らも深々と頭を下げながら、ケイの頭も手で無理やり押し下げます。

ケイは押さえつけられた頭を横へ向け、せめてもの反抗を示します。

「本当に、どんな育て方をしたらこんな子供になるんだか? 今度うちの子に乱暴をしたら、ただじゃすまないわよ!」

横を向けた顔から、鋭い眼でケイが相手を睨んでいるのが分かります。

「おお、こわ! もういいわ。もういいから、二度と来ないでちょうだい! うちの子にも二度とかかわらないで!」

ワクは最後まで平身低頭で、相手の家の玄関先を辞しました。


ケイは、父親のセンタを亡くした後一年間ほどは、悲しみと不安とで情緒不安定気味でした。昼間はそれでも気丈に振舞っていましたが、夜、寝ている時にうなされ、時には泣きながら飛び起きることもありました。そんな時、ワクはむせび泣くケイをしっかりと抱きしめて、再び眠りに落ちるまで見守るのでした。

そうしたワクの愛情のおかげか、親を亡くした悲しみに心を大きく捻じ曲げることもなく、ケイは真っ直ぐに育っています。


そんなケイは、これまで断続的にしか学校に行っていません。読み書きや計算の基礎は、父親のセンタから習っていましたし、センタが亡くなってからはワクがその続きを教えていました。

が、十三歳にもなると、学校で教えることをワクが代わりに教えるのは少々難しくなってきました。

そこで、ある町に一年ほど定住し、その間、学校に通わせることにしました。ケイの夢は、旅の物書きになること。少しでも高い教育を受けさせておくに越したことはありません。

旅の途中で訪れた、大きめの町。街並みの向こうに、山が小さく、しかし立派にそびえているのが一望できます。活気があり、住みやすそうな町でした。

ワクは安い一軒家を借り、その町で、農作業や大工などの仕事をして、一年を過ごすつもりでした。

ところが、定住して学校に通い始め、しばらくすると、ケイの様子がおかしいのです。どうやら、学校でからかわれることが多いようでした。両親がいないこと、血のつながらないおじさんと一緒に旅をしていること、これまでろくに学校へ行っていないこと。ケイは学校から、悔しさに唇を噛みしめながら帰ってくることが多くありました。そして今日は、とうとう、自分をからかう同級生に対して、暴力をふるってしまったのでした。

帰宅したケイは、ワクが帰るまで膝を抱えて部屋の片隅にうずくまっていました。日暮れ時にワクが帰ると、お帰りなさいも言わず、開口一番、

「もう学校へは行かない!」

と言い放ちました。声変わりが始まりかけた、不安定な声で。目に涙を溜めています。普段はワクが帰る前までに夕食の準備をしておくのが日課でしたが、それもしていないようです。

ワクは静かに、ケイと向き合って座り、問いかけました。

「どうしたんだ?」

「…。」

「話してみろよ、俺に。」

「…。」

「ケイ。」

「学校のやつらが、俺をいじめる。」

「そうか。…どんなふうに?」

「親のない子だとか、家もないとか言って。あと…。」

「あと?」

ケイは一瞬躊躇したような様子でしたが、思い切って続けました。

「赤の他人の怪しいおじさんと一緒に旅をしてて、ろくに学校にも通ってない、変なやつだ、って。」

「…なるほどな。」

「殴った。」

「え?」

「殴った!」

「誰を。」

「トモオ。」

「…。」

トモオくんといえば、この町の町長の息子です。そのトモオくんが、ケイが言うようなひどい言葉を投げかけてきたのでしょう。

「ひどいことを言われたんだな?」

「ううん、トモオは何も言わないんだ。俺に向かっては。」

「?」

「あいつは、他のやつらに俺の悪口を言わせるから、自分では直接言ってこないけど、でも、分かってるんだ。全部あいつが言わせているんだ、って。」

「そうか…。」

今日は特に周囲からのからかいがひどく、ケイは辛抱しきれず、その張本人であると分かり切っているトモオに、いきなり拳を食らわせたらしいのです。トモオくんは、頬が腫れ、唇の端が少し切れたそうです。

(ま、大したことじゃない、しょせん子供の喧嘩だが…相手に怪我をさせているから、一応謝りに行こうか。)

ワクはそう判断しました。


町長の家で謝罪し、家に帰ってからも、ケイは不貞腐れたままでした。なぜ自分が謝らされたのか、納得がいっていないようです。

「なあ、ケイ。どんなことがあったにしても、人に怪我をさせたら、まずは謝るものだぞ。すべてはそれからだ。」

「それから、って? あいつだって、俺に怪我をさせたよ。卑怯な手を使いやがって、俺の心に怪我をさせた!」

ワクはその一瞬、不謹慎にも、こいつうまいこといいやがるもんだ、と思いました。やはり文芸の才能があるのでしょうか。

「そうか、心の怪我か。心の方は、体の怪我よりも複雑で難しいな。」

「…。」

「しかも、心の場合は、怪我を負わせた方も、たいがい、すでに心の怪我を持っている。」

「?」

「人をいじめたがるやつというのは、自分自身に何か満たされないものがあるもんだ。それを晴らすために人を傷つけようとするんだ。」

「くそっ!」

「ああ、もちろん許されることじゃない。ただ、その子もきっと何か辛い思いを抱えているんだろうな。それが何かは分からないが。」

「…?」

会話はそこで終わりました。ケイは何やら考え込んでいる様子です。

ワクは本格的な子育てなど経験がありません。昔、コマリと一緒に過ごした日々がありましたが、子育てとまで言えるかどうか――。まして、ケイは、ただでさえ思春期に差し掛かっている不安定な年齢です。ワクには自信など、これっぽっちもありませんでした。ただ、ワクには、ケイに対する信頼はありました。ケイは大きく道を逸れることはないし、子供には少し難しいような人情の機微も、丁寧に話せば理解できるだけの頭脳と優しさを持ち合わせている。そう信じていました。


その翌日、ケイは学校を休みました。ワクは叱りもせず、小言も言いませんでした。

その晩。

ワクは町中の飲み屋に出掛けました。気が向いた日に飲み屋に行けること、それも定住の楽しみのひとつです。この町に住み始めて半年、飲み屋仲間とも呼べる相手が何人もできていました。

「やあ、また来たのかい。」

「おう。お疲れさん。」

「じゃ、乾杯!」

薄暗い明りが灯された空間。酒と料理の匂いに満ちた空気。通奏低音のような低いざわめき。それらに浸って癒されるひと時。飲み屋に来ている間、ケイに淋しい思いをさせているのかも知れませんが、それでも飲み屋通いを止められないワクです。もっとも今日は、飲み屋に顔を出したい理由が他にあったのですが。

「よう、ワク、来てたのかい。」

「ああ、こんばんは。」

声をかけてきたのは、町長です。実はこの町長も、ワクの飲み友達のひとりなのです。ワクより四、五歳年上の彼は、ワクがこの店に通い始めた頃から親しい仲の一人でした。ここへ来れば会えるかもしれない、そして、子供同士の件も話が出来るかもしれないと、今日はそういう期待もあったのでした。奥さんからは、けんもほろろの対応を受けましたが、ご主人はまた違った反応をするかもしれません。まあ、この人の場合は、そもそも昨日の一件を知っているかどうかも怪しいですが。

「どうだい、景気は?」

「ああ、まあ、ぼちぼちですね。」

「うちの子がなぁ、学校で友達に殴られたらしくてな、こう、口の横のあたりを腫らしているんでやんの。」

「…。」

「まあ、子供の喧嘩だろうが、嫁がぎゃんぎゃんうるさくてな。そういう乱暴な子供は学校から閉め出せ、なんぞと言いおってな。うるさいから、今日は逃げてきた。ひひひ。」

まあ、町長のような地位にあるにしては、軽い感じの人物です。むしろ軽くて近づき易い雰囲気だから良いのかもしれませんが。

「あのなあ、キーさんよ。」

「ん?」

「それ、うちの子なんだよ。」

「え?」

「おたくのトモオくんを殴ったの、うちのケイなんだよ。」

「へえ、そうなのか!」

「すまなかった。奥さんには全然許してもらえる雰囲気じゃなかったよ。」

「そうかい、悪かったな、うちのが。あいつはちょっと極端なところがあるからな。悪い奴じゃないんだぜ。だが、トモオのことになると視野が、こう、きゅーっと狭くなってな。大事な一人息子だもんでな。許してやってくれぃ。」

「いや、殴ったのはこっちだから。」

「どうせトモオが何かしたんだろう、ケイくんに?」

ワクは、あくまでケイから聞いた話だが、と断った上で、トモオの指図でケイが同級生たちにからかわれているらしいことを話しました。

「…そうか。」

「まあ、子供同士のことだし。どっちがどうだか、これだけじゃ分かりゃしないすけどね。」

「いや、心当たりがあるんだ。」

「?」

「恥ずかしい話だが、うちの息子は最近、俺とはほとんど口も利かねえ。何を考えているんだか、っていうところもあって、俺はちゃんと分かっているわけではないんだが…。」

と前置きした上で、

「嫁の締め付けが厳しくて、鬱憤が溜まっているようなところは多分にあるな、と感じているんだ。」

「なるほど。」

「成績についてもうるさいし。自分で言うのもなんだが、俺がこんな、町長なんぞをやっているから余計に、『町長の息子がこんな成績じゃ世間様に恥ずかしい』とかなんとか、そんなことを本人に向かってぬかしやがる。さすがにそん時は、俺も嫁を怒鳴ってやったが…。」

「…。」

「結局そういうのは、劣等感の裏返しなんだよな。息子の成績が満足いくものでないと、自分の劣等感が刺激されるんだ。」

「劣等感…なのかい?」

「そうだ。母親の劣等感が、息子にうつったんだよ。」

「?」

「俺が察するに、息子はお前さんとこの子に、何かしらの劣等感を抱いている。だからちょっかいを出したくなるんだな。」

「何だか妙に冷静な分析だな。他人事みたいに聞こえるよ。」

「まあな、俺のそういうところがまた、嫁の癇に障るんだろうがよ。」

「…。」

ワクは、そんなもんなのかな、と思いました。

「よし。今晩、息子と話してみるよ。悪かったな。しかも、家庭内の恥をさらしちまって。」

ワクには、被害者づらをして「頼んますよ!」などと言う気持ちはありませんでした。むしろ、

「何だか、すんません…。」

よく分かりませんが、詫びの言葉が出ました。

キーさんはその日、珍しく早めに切り上げて、そそくさと家へ帰っていきました。


翌朝。

寝床から遅めに起き出してきて、学校の準備をしているケイを見て、ワクは、おや、と思いました。しばらくは学校へ行かないのだろうと、思っていたのです。

「学校へ行くのか?」

「うん。」

「無理して行かなくてもいいんだぞ。一日や二日や一週間や二週間、行かなくたってなんてことはねえ。」

「ううん、行く。」

「…そうか。分かった。じゃ、弁当作るから、ちょっと待ってろ。」

「いいよ。一日くらい、昼を抜いたって大丈夫だ。」

「いかん。どうせ朝飯を食ってる時間もないって言うんだろ? それで昼まで抜いたら、とてももたねえぞ。子供は飯をしっかり食わなきゃ。」

「…。」

やがて、ワクが昨日の残りを詰めただけの弁当を持たせると、ケイは駆け足で学校へ向かって行きました。

ケイはセンタに似ず、とても生真面目なところがありました。いや、自分に厳しいと言ってもいいでしょうか。真面目なのはとても良いことですが、時に自分を追い込みすぎるきらいのあるケイが、いつかぽっきりと折れる時が来るのではないかと、ワクは心配になるのでした。


夕方、帰宅したワクを出迎えたケイは、夕食の支度をしながら、

「お帰り!」

妙にさっぱりした顔をしていました。

「おう、学校はどうだった?」

「うん、楽しかった!」

「へえ、楽しかったか。そりゃ良かったじゃないか。例の、あの子はどんな様子だった? トモオくんは?」

「うん…。」

「待て、お前、なんだか、体中、泥だらけだぞ。」

「えへへへ!」

ケイは、その日の学校での出来事をワクに話し始めました。


――朝、ケイは学校まで駆け足で、始業時間ぎりぎりに教室に滑り込みました。幸い、先生はまだ来ておらず、教室内はざわついていました。

斜め前方の席から、トモオがちらちらと、こちらの様子を伺っています。その目つきは、いつもと少し違うように見えました。うまく言えませんが、少し怯えているような、それでいて、何かを伝えたがっているような――。

休み時間に、同級生のうちの二人が、ケイに話しかけてきました。

「なあ、ケイ。」

「ん?」

二人は、普段ケイをからかう集団には属していない、どちらかというとケイと仲の良い二人でした。

一人が、声を落として、

「トモオがな…。」

「?」

「何か、お前に話がしたいそうだ。」

「え。」

ケイは思わずトモオの方を見ました。今までこちらを見ていたが慌ててそっぽを向いた、そんな様子に見えました。

「何の話だ?」

「知らねえよ。伝えろと言われたから伝えたけど、気をつけた方がいいぜ。殴られた仕返しをするつもりなんだろう。俺、断ってきてやろうか?」

「…いや、いいよ。俺、あいつと話す。」

「いいのか? 一緒について行ってやろうか?」

「いいよ、俺一人で。」

「分かった。…今日の学校の後、校舎の裏に来いとよ。トモオに返事を伝えておくからな。」

「分かった。」

放課後、学校の小さな校舎の裏にあたる狭い野原に、ケイは出向きました。

(まだ何か意地の悪いことを言ったら、また殴ってやろうか。いや、今日は向こうからいきなり殴りかかってくるかも知れないから、気をつけないとな。負けるもんか。)

トモオは、意外にも一人きりでした。草の上にしゃがみこんで、なんだか元気がない様子です。ケイの姿を認めると、しずしずと立ち上がりました。

「話って何だ?」

「…。」

「え? 聞こえないよ。」

「…かった。」

「?」

「悪かったよ!」

「!」

相手の、予想もしない台詞にケイは言葉が出ません。

「昨日、父ちゃんにめちゃくちゃ叱られた。」

「…。」

「みんなをそそのかして、みんなでお前のことをいじめるように仕向けるなんて、そんな卑怯な真似をするな、と言われた。」

「へー。」

ケイにしてみれば、何とも返事のしようがありません。そもそもなぜ、トモオがそれほど執拗にケイをいじめようとしたのか、その理由も分からないからです。

ケイのそんな気持ちを、表情から読み取ったのか、トモオは言いました。

「羨ましかったんだよ。」

「へ? 何が?」

「お、お前のことが!」

「えええ? なんで?」

「だって、自由に旅なんかしてて、うるせえ母ちゃんもいなくて、家もなくて貧乏で可哀そうな奴かと思ったら、いつでも楽しそうで。」

「…。」

「伯父さんは、あの旅人、オオモリワクで。」

「伯父さんっていうか、赤の他人だけど。」

「…ああ、まあな。でも、本当の伯父さんみたいなもんじゃないか。俺、少しは話を聞いて知ってたよ。お前の伯父さんと俺んちの父ちゃんは、飲み友達で、しょっちゅう一緒に飲んでるじゃないか。」

「そうだな。俺だって、お前んちのことはある程度聞いてる。…でも、何が羨ましいんだよ。家もないし、両親二人とも死んじまったし。学校もろくに行ってない。それこそ、お前たちが言う通りだ。ちくしょう!」

「学校もろくに行ってねえくせに、成績はいいもんな。」

「…。」

「俺なんか、町長の息子だぞ。当然、お勉強も良く出来るだろう、性格もしっかりしているだろう、なんて思われて。実際には大して成績も良くなくて、しょっちゅう母ちゃんに叱られて。」

トモオがそんなことを感じていたなんて。

その時。

「やい、お前たち!」

周囲を十人ほどに囲まれました。いずれも同級生たちです。

「なんだよそれ! 急に仲良くしやがって。おかしいだろ!」

「…。」

「トモオ、お前、今までさんざん俺たちに、ケイのことをからかわせやがったくせに、裏切ったな!」

「いや、あの…。」

「俺たちだって好きでやってたんじゃねえ。お前がやれというから、お前の言うことだから聞いてやってたんじゃねえか。それを何だよ、自分だけ良い子ぶりやがって!」

周囲から、なにやら石つぶてのようなものが一斉に飛んできました。泥団子でした。

ケイとトモオはしばらく、飛んでくる泥を避けていました。

と、校舎の影から、ケイと仲の良い二人組が現れて、周囲の同級生たちに向かって泥で応戦し始めました。どうやら、心配でこっそりと見に来ていたようです。

泥でも、勢いよくぶつけられると結構痛いものです。ケイとトモオは、飛んでくる泥をよけながら、自分たちも泥を拾って固め、周囲の同級生たちに投げつけ始めました。

校舎の中、廊下を通りかかった先生が、しばらく足を止め、窓からこの光景を眺めていましたが、やがて小さく微笑むと、立ち去って行きました。

ケイたちは、敵味方がだんだん入り乱れて、終いには、誰が誰に向けて投げているのかも、よく分からなくなってきました。お互いに散々泥をぶつけ合ったあと、疲れてきて、一人、また一人と、はあはあいいながらしゃがみ込み始めました。やがて、ケイとトモオを含む最後の数人がしゃがみ込むと、しばらくは、荒い息の音だけがその場を満たしました。

「仕方がねえ。まあ、許してやるよ。なあ、みんな!」

その場の一人が言いました。

「おお!」

「いいぜ。」

「しっかたねえな!」

皆は口々に言いました。

それで、この騒ぎは片が付きました。

いえ。

「待ってくれよ。俺はまだ、ケイに許してもらってない。」

トモオが言います。

「おい、ケイ、俺を許せ。俺が悪かった。」

ケイは無言でうなずきました。あれだけいじめられてきたのに、この瞬間、トモオのことがとてもいい奴に思えてきたのですから、不思議なものです。

「あ、俺も、殴って悪かったな。」

「じゃあ、握手をしろよ。」

誰かが言いました。

ケイとトモオは、全身、照れくささにまみれながらも、しっかりと握手をしました――。


ケイから事の顛末を聞きながら、ワクは色んな思いが湧き上がってきて、思わず涙をこぼしました。

「おじちゃん、なんで泣いてんの?」

「あ? あれ、なんでかな? お前のことがあまりにも情けねえからかな?」

言いながらワクは、ケイの身体を抱き寄せ、思い切り抱き締めました。

センタ、キミちゃん、お前たちの息子は、立派な良い少年に育っているよ。良かったな――。

「あ、泥だらけだった。」


それから、ケイとトモオは、一転して大の仲良しになりました。その一年弱後に、再び旅に出るためにケイが学校を去るときには、トモオは半泣きでケイを見送ってくれました。

ワクにとっても、一年間楽しませてもらった、居心地の良い町でした。町長をはじめ、飲み仲間たちともお別れだと思うと、ワクは切ない思いを禁じえませんでした。年齢のせいか、切なさや悲しみの感情を、以前より強く感じるようになったような気がしています。

が、センタとの約束です。あくまでも目的地は山の向こうの楽園。ケイを無事に楽園に連れていくのが、ワクの使命です。


ワクとケイは旅立ちました。

その頃までは、ケイは素直ないい子で、ワクの自慢の種だったのです。

ですが――、そんなケイにも、反抗期というものが訪れ、ワクも()()()()()ヤキモキさせられることになるのでした。


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