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第十五章 秋空の下

今回は仕掛けがいつになく大掛かりです。曲芸団。そんなものはメンバーの誰も、経験したことがありません。

その後、話し合った結果、エキボウは、檻に入れられた曲芸師ならぬ()()()、ということになりました。

「お前さん、空中回転はいいとして、他にも何か特技はないのかな、ワク?」

「特技かい? うーん、空中回転くらいしか…あ。」

「何?」

とアミ。

ワクは小さな声で、

「…め、メチャクチャ踊り。」

「何踊りですって?」

「いや、何でもねえ!」

ワクは、ユキ坊のことを想い出すと同時に、ナズナに初めて逢った時、旅芸人かと尋ねられたことも想い出していました。年月を経て、とうとう本当に旅芸人になったのです。もっとも、即席のにわか芸人ではありますが。

「アーちゃんは、歌と竪琴で出し物が出来るよね。」

「そうね。でも一人だと今ひとつ盛り上がらないでしょうね…ねえ、ワクちゃん、一緒に歌ってみない?」

「俺が? おじさんをからかうんじゃねえよ。」

が、やってみると、意外と悪くありませんでした。アミの特訓は少々きついのですが。

「お腹に力を入れて。お腹の下のほうの膜で息を持ち上げるようにするのよ。ダメ、それじゃ全身に力が入りすぎ。格闘技じゃないんだからね!」

「声は、鼻の奥の方へ。上へ抜けていくようにイメージして! もう! それじゃ、獣の唸り声だわ。」

「――うん、まあまあ。思ったよりはマシになったわ。人は見かけによらないとはよく言ったものね。まあ、音楽家には程遠いけれど、曲芸師としてなら十分でしょう。」

アミのお墨付きが出ました。

曲芸団の設備も作らなくてはなりません。これも、ワクが大活躍です。町中(まちなか)の家具屋で、かなり大きな引き車を購入して改造し、簡易的な舞台を据え付けました。エキボウを閉じ込める、専用の檻もついています。これらはもちろん、へっぴり腰のミイルにも、それからエキボウ本人にも手伝わせました。すべてが木製で、大して高級感はありませんが、大工の真似事の経験者であるワクの手によって、最低限の用をなす代物は出来上がりました。

舞台の飾りつけは、皆でわいわい言いながら行いました。

「こんなの、どうだ?」

「ダメ、ワク! センスがないんだから!」

「なんだと! 仮にも俺は、宿屋を経営した手腕の持ち主だぞ!」

「関係ない! …あら、エキちゃん、あんたいい線行ってるわね。ワク(じい)よりずっとセンスがある。」

エキボウがくすっと笑います。たわいないじゃれ合いを通して、彼も少しずつ心を開いて来ているようでした。

幟は、ミイルが作りました。興行のときに、舞台車の脇に立てます。

設備関係の準備に、たっぷり一週間はかかってしまったため、先を急ぐ必要がありました。日が経てば経つほど、家族が遠くへ行ってしまっている可能性が高くなります。

ワクは、エキボウに空中回転を教え込みました。エキボウはもともと運動神経が良いらしく、ほとんど苦労せずに習得しました。

「こいつ、大したもんだぜ。空中回転のコツを一瞬で飲み込みやがった。」

エキボウは嬉しそうに顔をほころばせました。子供らしい生き生きとした感情が戻ってきているのかもしれません。

エキボウは他にもいろいろと忙しく練習に追われました。歌や芝居――いじめられて泣く真似や、観客の哀れみを誘う悲鳴など…。

オジジは、近くの森からしなやかな枝を何本か切ってきて、鞭を作りました。これで()()()()()エキボウを打つのです――いえ、打つ()()をするのです。枝を削って鞭を作り、そのしなり具合を確認している姿が、やや嬉しそうに見えるのは気のせいでしょうか…。

アミは公演のために、新曲を何曲か作りました。そのうちの一つは、異常に悲しげな、エキボウのテーマ曲です。ワクとの二重唱で、涙ながらに歌い上げます。

町中にばらまくチラシは、ミイルが中心になって作りました。そこにもやはり、観衆の同情を買うような、悲しい曲芸児、エキボウの姿が描かれています。

圧巻はカアサだったかもしれません。彼女はあちこちで、噂を撒き散らしました。最近評判の曲芸団がこの町にも来るそうな。可哀想な孤児が、なにやら上手な芸をやるのが人気らしい。そんなことを、初めて会う相手にも上手に吹き込みました。

大方の準備が整い、「とにもかくにも、まずはやってみよう」ということで、ワクたちの泊っている宿から通りを何本か離れた町角を選んで、晴れて「お助け団」一座の興行初日となりました。

ワクは今回も、やっぱりワクワクし通しです。事は深刻なので、浮かれている場合ではないのかもしれませんが、いや、物事は楽しんで行ってこそうまく行くのだ、という信念から、自らのワクワクをあえて抑え込むことはしませんでした。


町角に舞台車を止め、ミイルが幟を立てます。

行き交う人々をしばらく眺めてから、よしっと気合を入れて――アミの竪琴に合わせ、ワクとアミの二重唱が始まりました。


♪ ま~だ見~も知らぬ~父母よ~

お~いらは悲し~き曲芸児~

溢れ~る涙を袖で~拭き~

宙を回る~も鞭が鳴る~

ピシッ(鞭の音)


エキボウのテーマを悲しく、悲しく歌い上げます。鞭の効果音は、やっぱりどこか嬉しそうなオジジ。それは、これでもかというほどに安っぽい、お涙頂戴調の唄でしたが、インパクトは抜群のようでした。

道行く人の七~八割方が、足を止めて注目しました。そのうちの半分以上は、そのまま興行を観続けます。芸術を捨てて開き直ったアミの計算勝ちだったようです。

舞台上の檻の中では、エキボウが泣き真似をして、袖で涙を拭っています。そこへ、鬼のような形相を作ったカアサが、オジジから手渡された鞭をもって登場しました。エキボウを乱暴に檻から引きずり出します。

「こら、お前! さぼっているんじゃないよ! 今日までに空中回転を仕上げろと言っといただろう!」

カアサの鞭でピシピシと打たれ――いえ、打たれた()()をして、エキボウは、鞭のリズムに合わせてぴょんと跳びます。二、三度跳んで、その後からは、続いて空中回転をします。それは見事な空中回転を、何度も繰り返しました。観客から拍手がわきます。

「な、生意気な!」

カアサは、空中回転が仕上がっていることが返って気に入らないというように、いよいよ憎々し気な表情になり、さらに鞭を振り上げます。時々、エキボウは避け切れず、鞭の直撃を受けます。

「痛いっ!」

転びます。そこへまた鞭が…。

「ほら、立つんだよ!」

すべて演技なのですが、だんだん、どこからどこまでが演技なのか分からなくなります。出し物なのか、本当に団の大人たちから忌み嫌われ、いじめられているのか、その境目がだんだんと曖昧になってきます。

「やめろ、この鬼ババア!」

次第に観客から、怒声が飛び始めました。仏のようなカアサに向かって鬼ババアとは驚きですが、実際に鬼に見えるような、カアサの迫真の演技でした。

「うるさいよ! この子は赤ん坊のときに拾って、あたしたちが育てたんだ。金がかかったんだから、その分働かせるのは当たり前じゃないか!」

「しみったれババア、いい加減にしろ!」

また鞭打たれながら、エキボウは空中回転をします。何回かに一回は失敗して、転びます。

「ふん、こんな芸もろくにできない! こんなに苦労して面倒見てやっているのに!」

ひと際大きな鞭の音の後、エキボウはあらん限りの大声で絶叫します。なんだか、あまり感心できるような内容ではありませんが、たしかに人々の嗜虐趣味を――いや失礼、正義感を上手にくすぐる内容ではあったようです。会場は()()()()()()です。

ひとしきり鞭で打たれた後、エキボウは、悲しい唄を唄い始めました。それがまた観衆の心を捉えました。彼が、歌いながら涙をはらはらと流したからです。――それが演技なのかどうかは、ワクにももう分かりませんでした。

このあたりが潮時とばかりに、オジジが舞台上に現れ、カアサをなだめ、もう今日の興行は終わりだと宣言しました。カアサは、まだろくに芸をしていないのに、と不満そうです。エキボウは――絶望の中に一筋の光をやっと見出したような、絶妙な表情をしていました。

大歓声、いや、大罵声の中、興行の初日は終わりを迎えました。少しずつ散ってゆく客同士の会話が、漏れ聞こえてきます。

「馬鹿だなぁ、あれは出し物だぜ。実際にいじめられているわけじゃねえよ。」

「いや、あれはさすがに演技じゃないだろう。可哀そうに。あの子、保護してもらえるように、町長さんに相談しようか…。」

「本当に可愛い、いじらしい子だものね。あんないい子はそうそういないよ。あたしはもう、悲しいやら悔しいやら、やりきれないよ。」

ワクとアミ、ミイルは、舞台車の前に立って、地面に帽子を置き、

「さて、お代はこちらへ! このかわいそうなエキボウを救うために、愛の支援を!」

盛り上がったわりには、金を入れる人は少なかったのですが、それでも、初日から金を入れてくれる人がいただけでも良い方です。それにそもそも、金を儲けることが目的ではありませんし。


観客がほぼいなくなると、「お助け団」一同は無言でそそくさと片付けをして、さっとその町角から去りました。会話は一切せず、やや離れた空き地まで移動します。ワクは黙々と歩きながら、興奮に血が沸き立ち、笑いがこみ上げ来るのをこらえるのに必死でした。

空き地で、皆、一息つきます。エキボウはやや疲れたような、上気した顔をしています。

「なんだかすごかったわね。芸術の()()()もないような内容だったけれど、ウケるだけはとってもウケたものね。」

とアミ。

「そうね。楽しかったわ。」

と、仏に戻ったカアサ。

「カアサはいつも通りすごかったけど、エキボウも大したもんだな。」

とワク。

「エキボウ、大丈夫かな。」

とミイル。

「そうじゃな。どうじゃった、坊主?」

とオジジ。

「結構楽しかった!」

と、頬を紅潮させたエキボウ。


それから一行は、町から村へ、村から町へと移動しながら、各町村で興行をし続けました。

出し物の内容は、少しずつ充実してゆき、ちょっとした寸劇も出し物に加えられました。エキボウをはじめとする出演者の演技力、歌唱力も、少しずつ向上してゆきました。もっとも、カアサだけは最初から完成の域でしたが。

可哀そうな境遇、という点が受けたのか、町村によって多少の違いはあるものの、おおむねどこでも好評でした。感情移入し過ぎたお客から、石つぶてが飛んできたこともあります。お金も予想外の額が入りました。

集落から集落への移動中は、音楽を奏でながら練り歩きました。近所の子供たちや、ときには大人までが一緒について来て、大人数の御一行になりました。初秋の心地よい風の中、大勢の仲間との一大イベント。ワクは生きている楽しみをしみじみ感じていました。


が、それとは別に、一行の不安は少しずつ大きくなっていました。

エキボウの両親が、なかなか現れないからです。

二週間が過ぎても、両親は姿を見せません。まだこの近辺にいるなら、いや、まだ生きていて、かつエキボウのことを気にかけているなら、とっくに現れていてもいい頃です。

エキボウは変わらず楽しそうに舞台をこなしていましたが、ワクは、彼が泣き声や悲鳴を上げる時、それが本当の心からの叫びのように感じられることがあり、落ち着きませんでした。ミイルはそれをもっと強く感じているようで、ここのところ毎晩、エキボウの横に寄り添って、

「大丈夫かい? 楽しいかい?」

と気遣っています。

当のエキボウは意外と気にせず、楽しんでいる様子でした。皆にすっかりなついた彼は、野宿の日などは、はしゃいで、皆の間を駆け回り、鞭でふざけて皆を叩いて回ったりしました。ワクのことはオジちゃんと呼び、オジジとカアサはおじいちゃん、おばあちゃん、ミイルとアミはお兄ちゃん、お姉ちゃんと呼びました。お父さんとお母さんはそこにはいませんでしたが。

が、オジジは、そろそろ決断の時が近づいていると考えているようでした。


二週間と少しが過ぎた、ある秋晴れの日。ある小さな村。

その日、公演の最中から、観客の中に、異様に鋭い目つきで舞台を食い入るように見つめている男女がいることに、ワクは気づいていました。公演が終わった後、観客が散り散りに去る中、その二人はいつまでも去らずに残っていました。女性の方は、赤ん坊を抱いており、夫婦だと思われます。見るからに貧しい身なりでした。

他の観客が皆いなくなると、夫のほうが、オジジたちの方へ、険しい顔で歩み寄って来ました。

「あの、すみません。」

「何ですかの?」

とオジジ。

ワクはすでに、この夫婦がエキボウの両親ではないかと思っていました。エキボウの方を見ると、舞台の上に突っ立ったまま、男性を凝視しています。その顔に、悲しいような嬉しいような、何とも言えない表情を浮かべています。ワクだけではありません。「お助け団」のメンバー全員が、緊張し、固唾をのんで成り行きを見守りました。

「あの子は…。」

舞台の上のエキボウを指さし、

「あの子は、私たちの息子です。」

「はぁ?」

とぼけるオジジ。

「私は、あの子の父親です。」

「ほう。何を言い出すかと思ったら。」

鋭くオジジを睨みつける男性。喧嘩してでも息子を救い出す、という覚悟が感じられました。

「これはわしらが拾った坊主だ。お前さんには関係ない。」

「でも、それは俺の息子だ!」

「お前さんの息子なら、どうして町の宿屋に一人でいたのだろうなぁ?」

「そ、それは…。」

言葉に詰まった父親の目に、キラリと光るものがありました。

「せ、生活が苦しくて、とても食わせて行けないと思った。俺たちは――俺と嫁と、生まれてくる赤ん坊は、もう仕方がないと思った。でも、この子だけは、誰かいい人にもらわれて、幸せになって欲しいと思った。」

「ほう、それで息子が生き延びて、立派に金を稼ぐようになったら、その時に名乗り出ようと、か。」

「違う!」

父親は、心外だと言わんばかりの表情をしましたが、苦しそうに黙しました。それから小さな声で、ポツリと言いました。

「…し、死ぬつもりだったんだ。」

ワクは、ハッとしました。自分たちはこの世から去っても、息子だけは生き延びて幸せになってほしい。これも愛情の表れなのだろうか。

オジジは怯みません。

「ふん、こいつはとっても金になるのでな。そう簡単に渡せるもんじゃない。ましてや、死ぬつもりだったやつになんぞな。」

父親の顔は怒りと失望に赤黒くなりました。

オジジはしばらく、黙って父親の顔を見つめました。

「しかも、じゃ。世間ではわしらがこいつをいじめているように言われておるが、それは嘘だ。たいそう可愛がっておる。」

父親は、意外だといわんばかりに、きょとんとしています。

「だからわしらも、こいつがいなくなると淋しいのでな。嘘だと思ったら、本人に聞いてみなさい。」

舞台の上のエキボウは、当惑した顔をしました。オジジと父親の顔を交互に見比べています。

ミイルが舞台に上がり、エキボウの肩を抱きながら、優しく尋ねました。

「エキボウ、お前、ここのみんなにいじめられているんかい? それとも可愛がられているんかい?」

「おいらは…みんなのこと、とっても好きだよ。」

父親の目がきらりと光りました。

「みんな、親切にしてくれるよ。芸も教えてくれたし、ごはんも作ってくれる。一緒に遊んでくれる。いたずらをすると叱られるけど。みんなといると楽しいよ。なんか、家族みたいだ。」

家族――。

今まで黙っていた、赤ん坊を抱いた母親が、泣き出しました。それを父親が優しく抱き締めます。

しばらくそのまま宙を見つめていた父親が、口を開きます。

「エキボウはこの人たちに愛されているんだ。なにより、生活に困っていない。幸せになったんだ。それこそ、俺たちが望んだことだったじゃないか。諦めよう。俺たちが今引き取っても、また貧しい辛い思いをさせるだけだ。ここにいる方がよい暮らしができるんだ。もう一度一緒に暮らそうなんていうのは、俺たちのわがままなんだ。」

母親はより激しく泣き出しました。エキボウも泣きべそをかいています。

その光景に、オジジは何かを確信したようでした。

オジジは言いました。

「よし、分かった。エキボウ本人に決めさせようじゃないか。エキボウ、ちょっと降りてきなさい。」

降りてきたエキボウに、

「お前さんはどっちがいいのだ? わしらと一緒にいるか。お父ちゃん、お母ちゃんのところへ帰るか。」

子供なりに気を遣って、返事に困っている顔のエキボウの口元に、オジジは耳を近づけました。

「何? そうかそうか。それじゃあ仕方がないな。」

父親、母親に方に向き直って、

「こいつは父ちゃん、母ちゃんのところに帰りたいそうだ。」

そのときの、両親の表情といったら! 狐につままれたような、それでいて喜びにとろけてしまいそうな。

オジジはそれを見て、さらに確信を深めました。

「よいよい、エキボウ、お前さんはお父ちゃん、お母ちゃんのところへ帰りなさい。わしらには気を遣わんでよい。ただしじゃ! 条件がある。」

その言葉に、父親がまた警戒の表情を浮かべます。

「お前さんの稼いだ金がたんまりあるからな。それは持って行ってもらわんと困るぞ。そんなものをわしらのところへ残しておかれても邪魔だからな。」


それから、その村の片隅の小さな料理屋で、お別れの宴会が行われました。オジジ、カアサ、ワク、ミイル、アミ、エキボウ、その父ちゃん、母ちゃんと、赤ん坊の妹の総勢九名。それは賑やかな宴会でした。

赤ん坊は、エキボウと離れている間に、母親がとうとう産気づいて生まれた、とのこと。お産があったため、曲芸児エキボウの噂は耳に入っていたけれど、しばらくの間動けなかった。それで、両親が公演を観に来るまで少し日にちがあったのでした。

エキボウの父親は、父親といっても、ワクより少し年上なだけだったこともあり、ワクと話が合いました。エキボウを置き去りにするまでのいきさつをかいつまんで話しながら、父親は男泣きに泣きました。どれだけつらかったことか…。事情は違っても、愛する家族を置き去りにする辛さは、ワクも身をもって知っています。でももう離れて暮らす必要はないのです。いえ、離れて暮らすべきではないのです。

その夜は皆同じ宿に泊まり、翌朝、エキボウ一家と「お助け団」のお別れの時が来ました。

「元気でね、エキちゃん。」

「お父さんお母さんと、赤ちゃんと幸せにね。」

「うん。」

「それにしても、惜しいな、こいつ、やたら芸事がうまいからな。お前、大きくなったら本当に旅芸人になったらどうだ?」

「えへへへ。」

エキボウはおもむろに、宙返りをして見せました。みんなの顔がほころびます。そんな中、一人泣きそうな顔をしている者がいます。ミイルです。

ミイルはたまらず、エキボウをぎゅっと抱き締めました。

「よかったなあ、よかったなあ!」

「お兄ちゃん…うぇーん!。」

エキボウも泣き出しました。

去っていく家族の背中には、大きく「幸せ」と書いてあるようでした。愛する人と離れずにいること、他に何もなくても、それだけで人は幸せになれる、いや、それだけが唯一幸せになれる方法なのだろうか、とワクは考えさせられました。すると、自分が選択した道は、どうなのだろう…。山に着くという目的など捨てて、カイジを追い返してでも、コハルやコマリと暮らすことを選ぶべきだったのか…。今のワクには、考えても分からないことでした。

街道沿いの木々の葉は赤や黄色に染まっています。秋はたけなわでした。


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