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XX.魔王の事情8

 北の森からようやく帰ってこれたのは、フィーナとの婚約を発表するお披露目会の二日前だった。


 彼女には大変な思いをさせてしまった。


 それに、これから急ピッチで準備をさせられることだろう。


 それを思うと申し訳ない気持ちになるが、とりあえずお披露目会が終われば少しはゆっくりしてもらえるはずだ。


 その日は夕食だけ共にして、お互いすぐに自室へ戻った。


 俺も城を空けていた間のことや北の森でのこと、それに自分自身のお披露目会の準備に追われるため、時間があまりなかった。


 それでもやはり、少しだけフィーナと話をしたい。そう思い、今夜は徹夜になるのを覚悟して彼女の部屋へ足を進めた。


 だが、その部屋には先客がいた。


 ラステリーだ。


 ラステリーは何かを言いながらフィーナに迫っていた。

 そしてフィーナは、困ったようにラステリーを諭している。


 それを目にした途端、俺は超速で動いて彼女の元へ行き、フィーナの手を握っていたラステリーを引き剥がして彼女を抱きしめた。


 ラステリーは俺を見て正気を取り戻すと、深々と頭を下げて反省の色を示したが、もう彼をフィーナに近づけることのないよう、指導役から外した。


 もう寝ようとしていたらしい、夜着の姿をしたフィーナを見て、この姿を他の男に見せ、触れさせてしまったのかと思うと腹の中からざわざわと黒い感情が沸いてきた。


 だがそれをフィーナに悟られないようなんとか笑顔を浮かべ、彼女をベッドに寝かせて俺は真っ直ぐに部屋を出た。


 こんなことで男が妬くのはみっともない。


 部屋に戻った俺はこの感情をどこにぶつけたらいいかもわからず、仕事に打ち込んだ。




 翌日、フィーナとは極力いつも通りに接した。

 彼女は今日最終調整で忙しい。だから朝食後もゆっくり話すことができず、少し寂しい思いを抱きながら自分も明日の調整や確認を行った。


 そして夕方にはダンスの確認をと、少しだけフィーナと顔を合わせることができた。


 少し疲れていたが、フィーナの可愛い顔を見ると元気が出る。

 それに、いつもよりも髪や肌の艶がいい。


 おそらく侍女たちに色々磨かれたのだろうと予想し、その身体にもっと触れたくなってしまった。


 だが、ダンスのおさらいが終わると俺たちはまた引き離される。


 フィーナがあからさまに悲しそうな顔で俺を見たから、つい可愛くて笑ってしまった。


 それに、今夜は彼女にプレゼントを用意した。


 彼女の両親だ。

 明日はゆっくり話している時間がないだろうから、サプライズで両親を招待しておいたのだ。


 夕食の時間に彼女が来ると、とても嬉しそうにしてくれた。


 その顔を見て、俺も嬉しくなった。


 やはりフィーナは笑っている姿が一番美しい。



 その後両親を見送ったフィーナとソファーに並んで座り、少しだけ二人きりの時間を過ごすことができた。


「いよいよ明日私の婚約者として君を皆に紹介できるのが、とても嬉しい」

「私もです」


 俺の隣で、フィーナは可愛く笑ってくれる。

 ようやく二人きりになれた。なんだかとても久しぶりな気がして、彼女のなめらかな頬に手を伸ばした。


「フィーナ……」

「……」


 我慢できず、そのまま唇を重ねる。

 本当は昨夜から、ずっとこうしたかった。ただあの時は、彼女の部屋で冷静ではなかった俺はそうすればそのままベッドに押し倒してしまっていたかもしれないから、我慢した。


 それでも彼女に触れればまたあの時の感情が思い起こされた。

 俺だけの、フィーナ。

 それを味わうように何度も角度を変えながら、やわらかい唇を啄む。


 吐息を漏らすフィーナに胸の奥がくすぐられ、思わず彼女の身体に触れる。

 撫でるように腰に触れると、フィーナはびくりと小さく震えた。その反応が嬉しくて、もっと触れてみたくなる。


「……ルーク様、どうしたんですか?」

「……なにが?」

「なんか……いつもより」

「君のことが愛おしいから、触れたいんだ。ダメ?」

「……ダメではないですけど……」


 唇が離れた隙に、そう問いかけてくるフィーナ。

 熱く息を吐き、頬を朱に染めて俯く姿がたまらなく可愛い。


 すぐにもう一度その唇を塞ごうかと思ったが、言葉を詰まらせたフィーナに俺も追求した。


「……ダメではないけど、嫌?」

「え?」

「これでは私もラステリーと一緒だね。君が困っているのに、止めることができないなんて」


 そして口をついて出た男の名前。やはり俺は、まだ彼に妬いていたようだ。


 魔王だというのに、情けない。フィーナの前では俺もまだまだ器の小さい、ただの男だ。


「私は、ラステリーのことは何とも思っていません……!」

「……わかってるよ」

「ルーク様……!」


 それは、わかっている。それでもこの気持ちをどこにやればいいのかわからず、彼女に当たるように甘く耳を噛んだ。


「…………男の嫉妬は醜いな」


 しかし身体を硬直させ、緊張の色を見せるフィーナに、俺が彼女を困らせてしまっているのだと自嘲し、「ごめんね」と言って彼女を放す。


 やはり少し疲れているな。

 今日はもう戻ろう。そう言おうと思ったところで、突然フィーナが俺に抱きついてきた。


「フィーナ……」

「私は、ルーク様だけのものです……。ルーク様になら、触れられるのは嫌ではありません……! むしろ、嬉しいです。ただ、少し、恥ずかしいのです……」


 そして、本当に恥ずかしそうに顔を隠しながら放たれたその言葉に、俺の胸はぐっと熱くなった。


「……ありがとう、フィーナ。嬉しいよ、とても」


 優しく頭を撫でると、そっと顔を上げてくれるフィーナ。


「ルーク様」


 その頬を両手で挟み、口づけを送る。そうすればこの感情は止まらなくなり、もっと深く彼女を味わいたいと唇を割り、舌を滑り込ませた。


 ピクリと反応する華奢な身体を抱きしめ、そのやわらかさとぬくもりも堪能する。


 ああ、もう本当に……。このまま押し倒してしまいたい。


「……は、ぁ」

「……早く君の心も身体もすべて、私のものにしてしまいたい」


 そう囁けば、フィーナはビクッと身体を揺らした。

 本気でそう思ったが、明日はお披露目会だ。

 無理をさせてしまうわけにもいかないので、グッと我慢してゆっくりと身体を離した。


「でもそれは、もう少し先だね。結婚式が来年なのは、すごく遠いよ」

「ルーク様……」


 これ以上彼女を困らせるわけにはいかないな。そう思い笑顔を見せ、「戻ろうか」と呟いて彼女の手を取った。

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