XX.魔王の事情7
魔族の真の姿を現せば、本来の力を発揮することができる。
万が一にもフィーナに怪我をさせるわけにはいかず、俺は力を解放した。
ただ、森も一緒に焼き払ってしまったが。
その後、毒にやられた者たちを全員まとめて治してしまったフィーナは力を使いすぎて倒れた。
テントに寝かせて、彼女が目を覚ますまで俺は眠らずに傍にいた。朝になり目を覚ましたフィーナに声をかけたが、彼女は思いのほか元気そうでとても安心した。
倒れたのは自分だというのに、フィーナは俺のことを心配してみせたのだから。
本当に、フィーナはどうしようもなく愛おしい。
だからこそ、無理はしてほしくない。フィーナに何かあれば俺は耐えられない。切にそれを願うと、フィーナは申し訳なさそうに謝った。
「フィーナ、君は昨夜いつもより強大な力を解放したんだ」
「はい……自覚はあります」
「……君は聖女として、どんどん目覚めていくね」
「はい……」
その愛しい存在を確認するように自分の胸に抱きしめて、唇を重ねた。フィーナは素直に受け入れてくれ、俺の背中にそっと腕を回した。
「……このまま目を覚まさなかったらどうしようかと思った……」
目の前で静かに囁いて、額や瞼や頬にも口づけていく。本当に愛しく、大切な存在であるのだと伝わるように。
「んっ、ルーク様」
「とても心配したんだよ?」
「はい……、ごめんなさい」
「まだ許してあげない……」
「ん……」
そうしていればくすぐったさそうに高い声を漏らしたフィーナが可愛すぎて、もう一度唇を重ねると彼女の顎を引いてペロリと舌を滑り込ませた。
「……、っ!」
声にならない吐息を漏らすフィーナに、調子に乗って彼女を味わう。
湿った音がテント内に響いた。
「……」
「……は……ぁ」
解放してあげると、フィーナは息を整えながら俺の胸の中で可愛く睨み上げてくる。
「……ルーク様」
「ごめん、やりすぎた」
こんなところで、少し調子に乗ってやりすぎてしまったなと思い「ごめんごめん」と彼女の頭を撫でたが、フィーナは顔を真っ赤にしたまま視線を落として俯いた。
本当に可愛い女性だ。
もっと色々してみたくなるが、それはまた今度だな。
「フェリオンも心配していた。今朝食を食べていると思うが、君も食べられそうか?」
「……はい、いただきます」
もう何もする気はないということを伝えるように身体を解放して微笑み、俺たちは朝食を食べるため外へ出た。
*
その後、副団長たちの一団とも合流し、怪我をしている者をポーションとフィーナの力で治療した。
無理はするなと強く釘を打ったから、彼女はうまく力を調整し、倒れてしまうようなことはなかった。
すぐに王都へ向けて進んだが、奥へ来すぎてしまったため、今日も森を抜ける前に日が暮れてきてしまった。
フィーナが夕食の支度を手伝いに行っている隙に、フェリオンが俺に話しかけてきた。
そういえば、今日はいつにも増して口数が少なかったな。と思いながら、どうしたのかとフェリオンに向き合う。
「今夜はフラッフィーナと二人でテントを使うといい」
「……なぜだ?」
「お前もそろそろ限界だろう。こう何日も好きな女と一緒に寝て何もできないのは」
何を言い出したかと思えば……。
確かにフィーナが隣に寝ているのに何もできないのは辛いが、俺はそこまで理性のない男ではない。
「こんなところで何かするつもりはないぞ?」
「フッ……だが今朝は、随分お盛んだったではないか」
「なっ……! お前見ていたのか!?」
「飯を食い終わってフラッフィーナの様子を見に行ったらな。お前、楽しそうだったぞ」
「あれは……、」
確かに、あれは少しやりすぎてしまったが、まさかフェリオンが見ていたとは……。
やはりもう少し場所を弁えねばなるまいな。
そう思い、フェリオンの申し出は断ることにした。
「余計な気遣いは無用だ。心配されずとも、俺たちはもうすぐ正式に婚約するんだしな」
「……ほう」
何か言いたげに俺を見てくるフェリオンに、これ以上余計なことを突っ込まれないよう、逃げるようにフィーナの様子を見に行った。
そしてその夜、本当に俺たちのテントに来ないフェリオンに頭を抱えつつフィーナに説明すると、彼女は顔を真っ赤にして彼を呼びに行った。
少し……本当に少しだけ残念な気もしたが、焦る必要はないのだ。
心の声が漏れた俺に「何か言いました?」と言いたげな顔で振り返るフィーナに「なんでもないよ」と笑顔を作り、お披露目会までのあと数日をとても長く感じながら指折り数えることにした。




