24日目.真の姿2
その表情にいつもの笑みはない。
一瞬誰かわからないくらい、とても怖い顔をして宙に浮かんでいる。
けれどその佇まいはどこか品があり、美しい。
「フラッフィーナ!! こっちへ来い!」
フェリオンが焦ったように叫ぶと、強く腕を引かれてその胸の中に抱きしめられた。
え!? と混乱する暇もなく、ルーク様から強大な力が放たれ、フェリオンの腕に力がこもった。
「……っ、」
私は彼に守られるような形で抱きしめられていてよく見えなかったけれど、立っているのが辛くなるほどの魔力が辺りを包み込み、猛毒大蜥蜴たちが黒い炎のようなものに飲み込まれていくのが確認できた。
ルーク様……一体なにを……?
数秒後、何事も無かったように辺りからルーク様の魔力が消えていく。
フェリオンの腕からそっと解き放たれ、様子を確認する。
「うそ……」
そこには猛毒大蜥蜴の死骸も、毒水大蛇竜の死骸さえも残っていない。
それどころか、辺り一帯の木々が丸ごと消失してしまっている。
一瞬にして魔物をすべて、灰すら残さずに焼き払ってしまったのだろうか……。
「……ルークアルト様!」
「ルークアルト様……!」
それでも死人は出ていないようだ。起こった事態をすぐに把握できずに呆然としていた騎士たちが、次第にぽつぽつと彼を称える声を上げ始めたのを聞いて、ハッとして彼を見る。
地に降り立つルーク様は、未だ鋭い目付きをしており、その額には角が生えていた。
「……」
いつもの穏やかで優しいルーク様とはまるで別人。
まさに、魔王だ。
その美しくも冷酷な表情に、恐怖とは別の感情でドキドキと胸が鳴った。
「怪我人の治療を急げ」
「ハッ!」
ルーク様が静かに一言そう言うと、動ける者たちはポーションを使って怪我人の治療を始める。
「ルーク、大丈夫か」
「……まだ復活して間もなかったのだろう。完全体ではなかった」
近づき、声をかけるフェリオンの後ろにそっと続く。
あれで完全体ではなかった……?
でも、ルーク様じゃなければ倒せなかったはずだ。それに死者は出ていないのだから、さすが魔王様としか言いようがない。
「……怖い思いをさせたね、フィーナ」
「いいえ……」
フッと力を抜いたように口元に笑みを浮かべると、ルーク様の額から角が消えた。
けれどそれと同時に、彼の体が少しよろめいた。
「ルーク様……!」
「情けないな、君がいると思ったら焦ってしまってね。少々張り切りすぎたようだ」
その体を支えるため寄り添うと、ルーク様は少し辛そうに微笑み、怪我がないか確認するように私の頬に触れた。
無理に笑ってくれているのだとわかる。
「私もまだまだだな」
「ルーク様……」
辛そうだ。私のポーションを飲んだら、楽になるだろうか?
けれど……。
再び辺りの様子を窺うと、重傷者はまだいそうだった。
魔道士団のポーションでは完治していない者が何人もいる。
けれど私のポーションは数が限られているのだ。
誰を優先して飲ませればいいの……?
そもそも、毒にあたった者は自分でポーションを飲み込めずにいるようで、騎士たちが苦戦していた。
ああ、どうしよう。このままじゃいずれ弱って死んでしまう……。
そんなの、ダメ……!!
迷っている場合ではなかった。
「フィーナ!!」
ルーク様が私を制止するように叫んだ。
けれど、ごめんなさい。
覚悟を決めるのと同時に、私は胸の前で手を組み、強く祈った。
今では聖女の力をスムーズに発動させることができるようになっている。
辺りを光が包み込んでいくのを感じた。
全身から力があふれ出る。
ルーク様、騎士のみんな……その方たちを想い、惜しむことなく力を解放した。
「……フィーナ、これは……」
今までとは何か違うものを感じる。
ルーク様も感じたのだろうか。驚きを含んだ声で私を呼んだ。
やがて辺り一帯に光が行き渡ったのを感じ、力を抜く。
目の前でルーク様とフェリオンが目を見開いて私を見ていた。
そして騎士たちから歓声が上がる。
「体が動く……辛くない……!」
「治った、治ってますよ!! それも、全員……!!」
「聖女様の力だ!」
「聖女様! フラッフィーナ様!!」
よかった。みんな、元気になったみたい。
これで、私がここへ来た意味がある。
ラステリーにも、褒めてもらわないと……。
「フィーナ!!」
とても心配したような声で私の名を呼び、倒れる身体を抱きとめてくれたルーク様の温かい腕のぬくもりに安心して、私は目を閉じた。




