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24日目.真の姿

 翌日、少しペースを速めてもっと森の奥深くまで進んだ。


 やはりウルフやベアー系の魔獣には遭遇したけれど、問題の毒水大蛇竜(ヒュドラー)は現れない。


 この森は広いと聞いていたけれど、かなりのものなのかもしれない。

 こうなれば、長丁場を覚悟しなければならないのだろうか。

 その場合、お披露目会はおそらく延期される。

 当の本人たちがいないのだから当然だ。


 けれど今はそれよりも毒水大蛇竜(ヒュドラー)の討伐が優先だろう。

 もし放っておいて、近隣の町に被害が出たら大変なのだから。




 *




 そして日が沈んできてしまったため、これ以上進むことを諦めて今夜も野営を組むことになった。



「すまないな、もし明日も現れなかったら、フィーナはフェリオンと城に戻れ」

「え?」


 寝る前の食事を済ませて早々にテントへ入ると、身体を横にする前にルーク様が真剣な声色で言った。


「これ以上君をここに居させることはできない」

「……でも、ルーク様たちは」


 隣にいるフェリオンも黙って頷いている。

 昼間に二人で決めたことなのだろう。


「私たちは大丈夫だ。王宮騎士団は皆魔獣討伐には慣れている。それに、こう見えて私もそれなりには強いのだぞ?」


 少し怖いくらい真剣な表情だったから、私はそれに歯向かう言葉を述べることが出来なかった。

 けれど最後にはいつものように笑ってくれたので、私も小さく笑みを返して俯くように頷いた。



 ルーク様はいつも私のわがままを聞いてくれている。

 怪我人の治療をしたいと言ったときも、回復薬を作りたいと言ったときも、西の森への討伐について行きたいと言ったときも、今回もだ――。


 魔王である彼がいる以上、全権はルーク様にある。


 いつも甘やかしてくれるから勘違いしそうになっていたけれど、魔王である彼の言葉は絶対なのだ。


 それはたとえ魔王の婚約者であっても、聖女であっても、本来歯向かうことは許されない。





 ――テント内は既に静かだった。


 二人がもう寝てしまったのかは分からないけれど、私はそっと瞳を開けてルーク様の方へ寝返りを打った。


 魔王級の力を持つともされている毒水大蛇竜(ヒュドラー)を前にするのは正直怖い。


 けれどそれ以上に彼を置いて帰って、もしも何かあったらと思うと……そっちの方が怖い。


 ルーク様は強い。だから私なんかが心配しなくても大丈夫。


 そうは思うけれど、それでも心配なのだ。もし怪我をされたなら、すぐに治してあげられるよう近くにいたい。


 それを想像するだけで、じわりと涙が浮かんでしまう。


 それくらい、私はルーク様のことを好きになってしまっている。


「……」


 同じようにこちらを向いて眠っているルーク様の手に、自分のをそっと伸ばした。


「……!」


 起きていたんですね……。


 軽くだけ指先が触れると、彼はそっとまぶたを持ち上げてにこりと微笑んでくれた。


 途端、ドキリと胸が跳ねる。


「……、」


 無言のまま身体を寄せてきたルーク様は、毛布の上から私を抱きしめ、優しく頭を撫でてくれる。


「…………」


 ドキドキドキドキと、鼓動の音だけが耳につく。


 ルーク様は何も言わないけれど、「大丈夫」そう言ってくれている気がした。


 彼のぬくもりに包まれて安心した私は、そのまま静かに眠りに落ちていった。




 *




 けれど、まだ日が昇らないうちに、私は目を覚ました。


 外が騒がしかったからだ。

 何事かあったのかと、体を起こし様子を窺おうとすると、フェリオンが力強い声で「ここにいろ」と言って私の腕を掴んだ。


「フェリオン……ルーク様は?」

「……」


 ルーク様がいない。

 質問に答えないフェリオンに嫌な予感がして、私は彼の手を振りほどいて勢いよく外へ出た。


「あれは……!」


 私の目に映ったのは、このテントから少し離れた場所にいる、大きな竜の姿をした魔物。


 その皮膚は青黒く、短い四足の生えた蛇か蜥蜴のような体に、首がいくつもある。


 毒水大蛇竜ヒュドラーだ。


 騎士たちが声を上げながらその魔物と戦っている。


 騎士に向かってきた一つの首を、ジェラルド団長が斬り落とした。

 けれど斬られたところからまたすぐに新たな首が生えてしまう。再生能力が異常に早い。


「逃げろ! 毒が来るぞ!!」


 真ん中の首が一瞬反り返ったような勢いをつけると、ジェラルド団長の叫びの直後に黒紫色の液体が放たれた。


 騎士たちは即座に距離を取り直撃は間逃れたが、近くにいた者がその瘴気を浴びただけで苦しそうに膝をついてしまった。


 その隙を逃さず、すぐに太く頑丈そうな尻尾で叩き飛ばされる騎士たち。

 更にはうねうねとバラバラに動く首に噛みつかれ、腕を持っていかれた者もいた。


「……っ!!」


 正直、見ているのが辛くなってしまうほど、恐ろしい光景だった。

 一歩でも近づくのが怖い……。

 だけど、今動かなければついてきた意味がない!


「フラッフィーナ!!」

「怪我人を助けに行きます!!」


 持ってきていた自作のポーションを抱え込み、フェリオンの静止を無視して走る。


 そこで周りを見ると、魔物は毒水大蛇竜(ヒュドラー)だけではなかった。


 大きなトカゲのモンスター、猛毒大蜥蜴(ベノムリザード)がパッと見ただけで十体以上もいるのだ。他の騎士たちが相手をしている。

 そしてその中に、ルーク様を見つけた。


「フィーナ……! っ、私はあちらを相手する!! 少しの間耐えてくれ!」


 ルーク様は私と目を合わせると騎士たちにそう声をかけ、空を駆けるように毒水大蛇竜(ヒュドラー)の方へ飛んだ。


 そして私や怪我を負って倒れている騎士たちから毒水大蛇竜(ヒュドラー)の注意を逸らしてくれた。



 その間に急いで重症を負った怪我人に駆け寄り、ポーション飲ませる。


「大丈夫ですか!? これを飲んで!!」


 腕を喰われた者は素直にポーションを喉へ流すと、なくなっていた腕が元に戻った。よかった……。


「……フラッフィーナ様……これは!」


 毒水大蛇竜(ヒュドラー)が離れている隙に、他の者も魔道士団の回復薬で傷を癒しているけれど、完全ではない。


 特に、毒にあてられた者たちは自分では動けなくなってしまっている。


 ……どうしよう。ここで力を使うには怪我人が多すぎる。もしかしたらまた倒れてしまうかもしれない。


「フラッフィーナ!」

「っ!」


 考えている間に、猛毒大蜥蜴(ベノムリザード)が一体私に襲いかかってきた。


 それをフェリオンが魔力弾を放って倒す。


「大丈夫か!?」

「ありがとう……、でもこの数の多さじゃ……」


 一体をやっつけても、また次が襲ってくる。

 騎士たちも動けない仲間をその剣でなんとか守っているが、次第に傷を負う者が増えていく。


 このままじゃ、負ける……!


 命をかけた戦場を目の当たりにして震えてしまう身体をなんとか踏ん張り、ルーク様の方へ顔を向けた。


「……え、」


 そこには、魔族特有の黒い角を額の左右から生やし、恐ろしいほどに強大なオーラをまとったルーク様がいた。

終わりませんでした。24日目、続きます!

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