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23日目.北の森へ

 トリアルから帰ってきた翌日、いつものようにルーク様と朝食を取っていると部屋の外から慌ただしい声が聞こえてきた。


「ルークアルト様! 急ぎお伝えしたいことが……!!」


 叩くようにドアがノックされ、ルーク様はフォークを置いて険しい表情を作った。


「どうした」


「お食事中失礼します!!」


 騎士団長のジェラルドがそう言いながらドアを開くと、無礼を詫びるように跪き、それでも休む間もなく言葉を続けた。


 既に話を聞いているのか、その後ろからフェリオンやラステリーも入ってきた。


「北の森にて調査中だった副団長から報せが入りました。あの時の魔物はやはり毒水大蛇竜(ヒュドラー)だったようです! それが、また現れたと……!」

「なに?!」

「なんとか凌いだようですが、討伐はできなかったと。怪我をした者もいるらしく、至急援護に向かいたいのですが」

「わかった。すぐに支度をさせろ。私も行く」

「ルークアルト様が!? しかし……!」

「前回の二の舞は御免だ」


 途端に慌ただしくなる室内。

 ルーク様も立ち上がると私を気にかけて申し訳なさそうに言った。


「食事中にすまない。私は少し出掛けるが、待っていてくれ」

「私もご一緒します!」


 けれど、私もナプキンで口を拭うと立ち上がり、力強く言った。


「……しかし、今は大事な時期だ。君はここにいて――」

「大事な時期なのはルーク様も同じです」

「……そうだが、毒水大蛇竜(ヒュドラー)は本当に危険な魔物だ。君に何かあったら……」

「それも同じです。ルーク様に何かあれば私はついていかなかったことを後悔します」


 力強く、真っ直ぐに言った。


「……北の森は広い。かなり体力を消耗するぞ」

「大丈夫です! 私はそんなにやわではありませんよ。それに、お役に立てると思います」


 婚約を発表するお披露目会まであと五日に迫っていた。

 けれど聖女の力が目覚めた今、怪我をした者がいるのならすぐに行って治療をしてあげたい。今では力のコントロールもできるから、そんなに大勢でなければ数人まとめて治療することも可能だ。それに、ポーションもあるし。


「……わかった。同行を許可する。ただし、何があっても無理はしないと約束しろ」

「わかりました」


 力強く目を見て懇願すれば、ルーク様は渋々、という様子で頷いてくれた。


「ルークアルト様、私もご一緒いたします」


 すると、ジェラルドの横から一歩前に出たラステリーがルーク様に向けてそう口を開いた。


「お前も!? いや、今回は私とフェリオンが行くからその必要はないだろう。それに城の留守を頼みたい」


 確かラステリーは滅多に討伐に参加しないと言っていた気がする。


「フラッフィーナ様が日頃の練習の成果を出せるのか、この目で確かめたいのです」

「それも私が見ておくから大丈夫だ」

「しかしこれは私の仕事です」

「……フィーナを守るのが私の仕事だ」


 お互い譲る気がないのか、なんとなくピリッとした空気が流れた。


「……かしこまりました、では今回は留守番しておきましょう。城の周りに結界を張ります。フラッフィーナ様、いつも私が申していることを忘れないように」

「はい……」


 けれど、さすがにラステリーが折れた。

 魔王にそこまで言われては、無理に押し通すことなどできないだろう。


 けれど、ラステリーの私に向けて発せられた言葉に、ルーク様は少し不機嫌そうに眉を寄せていた。




 *




 急ぎ支度を整え、私たちは馬車を走らせた。

 ラステリーにお願いして、私が以前製作したポーションもいくつか持ってきた。


 北の森から一番近くにある町に馬車を停めると、そこから森までは歩きで向かうことになった。


 北の森は整備もできていないので、大勢を乗せた馬車では進めないのだ。


「疲れたら言ってくれ」

「ありがとうございます」


 歩いて進むことにルーク様は心配そうに私に声を掛けてくれた。

 けど、庶民の町娘だった私は足腰には自信がある。

 馬車なんて持っていなかったからね。


 警戒しながら森を奥へと進むけど、毒水大蛇竜(ヒュドラー)が出てくる気配はなかった。


 何度かウルフが襲ってきたけれど、ルーク様の手を煩うことなく騎士たちが倒してくれた。




 その日は結局副団長の一団とも合流もできぬまま、日が暮れてしまった。


 今日はここで野営することになり、テントが張られて食事も用意された。


「フィーナ、疲れていないか?」

「大丈夫です」


 明日も日が昇ったらすぐに出発するので少しでも長く体を休めるため、食事が済んだら見張りの者をおいて皆はテントで休む。


 テントに入ると、ルーク様は改めて私にそう問うてきた。


 疲れはそんなに酷くない。日頃厳しい訓練やレッスンを受けてきて体力がついたのかもしれない。けれど少し寒くて、無意識に両手を合わせた。


「この森は夜になると冷えるからな」

「……ルーク様」


 私の心なんかすぐに読まれて、包み込むように手を握ると、ルーク様はその手を口元に運んだ。


 暖かい息がかかり、ゾクゾクする。


「……フィーナの手、冷たい」

「ルーク様の手は温かいです……」

「ん……、よかった」


 やわらかく微笑まれ、私の体は熱を持つ。


 ……ああ、これはわざとやっていらっしゃるんでしょうか?


 おかげで温かくなってきました……。



「……俺は邪魔か?」

「!!」


 甘い空気が私たちを包んでいると、気まずそうにフェリオンが言った。


「邪魔じゃないです! ごめんなさい!!」


 そうです、今回もテントはこの三人で使います。


「いや、いいがな、どっちでも。なんだったら出ていこうか?」

「いてください……!!」


 立ち上がって出て行こうとするそぶりを見せるフェリオンの服の裾をわしっと掴み、私は顔を熱くさせた。

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