22日目.二年越しの想い
夜が明けて目を覚ますと、隣にはとても綺麗な寝顔のルーク様が目に映った。
私たちは昨夜同じベッドで夜を明かした。
ルーク様は私が寝付くまで優しく抱きしめて頭を撫でてくれていたのを覚えてる。
それは本当に、愛しいものに触れるように。とても大切にされているのだと伝わった。
ただそれ以上のことはなく、やはり彼は簡単に女性に手を出したりする男ではないのだと改めて実感した。
「……」
けど、ルーク様はどうしていつも私にこんなに優しくしてくれるのだろうか。
それは出会った頃からだった。
私はルーク様と数日共にしてそのお人柄に惚れたけど、ルーク様はいつ私のことを好きになってくれたのだろう。
だって、初対面で手にキスされたのよ?
今思えば、あれには少し違和感がある。
いくら婚約者として連れて来られた相手だったからと、ルーク様は好いてもいない女性にいきなりあんなことをするような人だろうか。
あの時はチャラいのね、と思っていたけれど、そうではないと今ならはっきりわかる。
私だけをこんなに大切にしてくれるのは、私が聖女だから……?
幸せすぎて不安になるなんて、なんと贅沢な悩みだと思いつつモヤモヤしていると、パチリとまぶたを持ち上げて、ルーク様の綺麗な瞳が晒された。
「おはよう、フィーナ」
「……おはようございます、ルーク様」
言うと、ルーク様は私の額にちゅっと口づけた。
寝顔を観察していたの、バレちゃったかな……?
「寝起きに君の顔が見られるなんて、今日はいい一日になりそうだ」
「もう、ルーク様ったら……」
私も、朝からこんなに爽やかな笑顔を見られて最高です。
起きて各々準備を済ませ、両親と朝食を食べて昼前には町を出るため馬車に乗り込んだ。
「ルークアルト様、この度は本当にありがとうございました」
「こちらこそ、とても楽しい時間でした」
「……どうぞ、娘をよろしくお願いいたします」
父は少し言いにくそうにしながらも、最後にそう言って深々と頭を下げた。
「お二人が大切に育ててくれたフィーナは、私が必ず幸せにします。どうかご安心ください」
頭を上げさせると、ルーク様はとても綺麗な目で真っ直ぐにそう言ってくれた。
惚れ惚れするセリフだった。
その言葉に父と母はうるりと涙を瞳に溜めて、たまらずルーク様の手を握って礼を述べていた。
「ルーク様、ありがとうございました」
「ん?」
帰りの馬車の中で、隣に座っているルーク様にそっと声をかける。
「父も母も本当に嬉しそうでした」
「私もとても嬉しかったよ。素敵なご両親に育てられたから、今のフィーナがあるんだね」
ルーク様……。
本当に、出会ってまだひと月も経っていないのが信じられない。
ここまで私を想ってくれるのはどうしてだろうと、再び疑問が浮かぶ。
「……ルーク様は、どうして私にそんなにお優しいのですか?」
「ん?」
「その……私のどこが、よいのかと……」
自分で聞いておいて、顔が熱くなった。
つい聞いてしまったけれど、魔王様相手に失礼だっただろうか。
どこでも良いではないか。愛されていると感じているのだから、それ以上は望まずとも幸せなのに。
「そうか、君には話していなかったね」
「……?」
けれどルーク様は困った様子は見せずに話してくれた。
「あれはもう二年も前になるが……私は以前、この町にお忍びで視察に来たことがあってね」
「お忍びで視察……ですか?」
「ああ。たまに行くんだ。王都以外の町の者たちの暮らしをこの目で確認しに」
そうだったんだ。だから以前街でデートした時も屋台での買い物に慣れていたのね。それに、うちのような庶民の暮らしにも嫌な顔一つされなかった。
「その時、君を見つけたんだ」
「え?」
「君はとても美しく、優しかった」
二年も前に、ルーク様は私を知っていた……?
「君に声をかけようかと思ったが、私はいずれ預言者が告げる聖女と結婚することが決まっていた。そうなったとき、君を傷付けるのが怖くて、声をかけられなかったんだ」
……そうだったんだ。
ルーク様は、本当に真面目な方なのだと感じた。
「けれど君のことが忘れられなくてね。本当に困ったよ。そして二年が経ち、預言者フレデニスが聖女は君だと預言した。その時の感情は一生忘れないだろう。どんなに嬉しかったことか……」
そう言って、ルーク様は熱い視線を私に向けた。
その表情を見れば、どんなに嬉しかったのか、想像することは容易かった。
「……ルーク様」
真っ直ぐな彼の瞳には私しか映っていない。
……どうしよう。
彼のことを知れば知るほど、どんどん好きになる。
「フィーナ、私の前に現れてくれてありがとう」
そう呟くと、私の返事も待たずにルーク様から口づけが落とされた。
甘くて、甘すぎて、私は溶けてしまうのではないかと思った。




