21日目.ドキドキのお泊まり会
今日は私の故郷であるトリアルの町に挨拶に行く。
それも、ルーク様と二人きりで。
フェリオンやアリエラも同行するのかと思っていたけれど、ルーク様は二人で行くことを望んだ。
お披露目会も近いので、彼等にはその準備などの仕事もあり、色々と忙しいのだ。
けれど私はルーク様と二人きりの小さな旅は少し嬉しかったりする。
でも結婚の挨拶に行くのよね。
うちの両親はこの結婚をすごく喜んでいたから安心なんだけど、それでもドキドキしてしまうのは仕方ない。
順調に道を進み、予定通りの時刻に町に着いた。
「お待ちしておりました、ルークアルト様! 本日はわざわざお越しいただきありがとうございます!」
両親はルーク様の訪問を目一杯歓迎してくれた。
貴族でもなんでもない、小さな町の庶民の家に魔王様が出向くなんて……、少し申し訳ない気持ちになるけれど、彼はそういうことを気にする男ではない。
両親に歓迎されてとても嬉しそうにしてれた。
庶民食ながら精一杯のご馳走を作ってくれた母と、町で一番高いお酒を用意した父。
「これはフィーナが昔から大好物でして」
「うん、とても美味しいです! 私はフィーナと食の好みが合うようだ」
「そんな、魔王様と食の好みが合うだなんて……!」
ルーク様はどれも美味しそうに食べてくれている。それを見て母も嬉しそうに笑った。
魔王だからというだけではなく、両親は心から彼のことを好きになってくれたようだ。
それは私もとても嬉しい。
王宮でいつもあんなにいい暮らしをしているのに、この方はこんな小さな町の庶民の家で本当に楽しそうに笑ってくれているのだ。
「狭いところですが、どうぞ泊まっていってくださいね」
母はルーク様に「汚くてすみませんね」と言ってお風呂を勧め、この家では見たことがない高級素材の布でできた寝間着を貸し、私の部屋に彼を案内した。
「え……、ちょっと待って、さすがにこれは失礼よ!」
私の部屋にはベッドが一つしかない。それは昔も今も変わらない。
まさか、同じベッドで寝ろと言うのだろうか……?
「あら、そうかしら? でも他にベッドはないしねぇ。二人とも細いんだから大丈夫でしょう。もう結婚するんだし」
「でも、まだ結婚してないんだよ……!?」
初夜だって迎えていないのに、この親は……!!
にこにこと、まるで当然のように言っているこの両親は、未だに一緒に寝ているのだ。
だから夫婦になる者が一緒に寝るのは当たり前だと思っているのかもしれない。
そんな私と母のやり取りを見ていたルーク様は、クスッと小さく笑った。
「ありがとうございます、お母様のご厚意お受けします」
「ほら、ルークアルト様はこれで良いみたいよ。それでは、おやすみなさいませ」
ルーク様の承諾に、母はにこやかに頭を下げて部屋を出て行った。
「……」
うそ、ルーク様は私と同じベッドでいいの……?
フェリオンと三人でテントで寝たときとは違うと思うんだけど……。
そう思って俯き黙っていたら、ルーク様が私の心情を読み取ったように口を開いた。
「大丈夫だよ、私は外で適当に過ごすから」
ルーク様は私を安心させるように優しく頭を撫でてそう言った。
けれど、その台詞に「はいそうでうすか」と納得できるわけがない。
「そういうわけにはいきません! 私が起きていますので、ルーク様がベッドをお使いください! 王宮のものに比べたら、寝心地はよくないですが……」
「……前にもあったね、こんなやり取り」
テントで寝た、あの時と状況が似ていて可笑しかったのか、ルーク様はフッと小さく笑った。あの時とはなんだか立場が逆な気がするけれど。
「じゃあ、一緒に寝ようか?」
「えっ? ……よろしいのですか?」
「私は大歓迎だが?」
落ち着いた口調でそう言ってくれたルーク様に、どこか男らしさを感じた。
前は三人でテントで寝るのも躊躇っていたのに……。どうしてこんなに落ち着いているのだろうか。
……私と想いが通じたから?
「おいで?」
先にベッドに入ると、いつものように手を差し出してくれる。
そんなルーク様の姿を改めて見つめ、ドキッと鼓動が高鳴った。
寝間着姿の、こんな無防備な格好をしたルーク様は、初めて見た。
「はい……」
緊張しながらも、その手を拒むことなんて私にはできなくて、そっと応える。
誘導されるように横になると、彼はそのまま私のことをホールドするように抱きしめた。
胸の中に優しく抱きしめられ、ルーク様と自分家の香りが混ざり合う空気にクラクラして、どうかなってしまいそう。
私の心臓はもの凄い速さで脈を刻んでいるけれど、それはルーク様も同じだったから、少し安心した。
「……」
そのまま何も言わないルーク様をそっと見上げれば、額にだけちゅっと軽く口づけを落とされる。
顔が熱を持つのを感じるけれど、本当は唇にしてほしいなんて、はしたないことを考えてしまった。私は少し贅沢になってしまっているのかもしれない。
ジッとルーク様を見上げていた私の視線に気がつくと、彼は困ったように微笑んだ。
「……フィーナ、そんな顔で見つめないでくれ」
「えっ、すみません」
どんな顔をしてしまったのだろう……。
不細工だったのだろうかと慌てると、ルーク様は頭の上で静かに囁いた。
「そんなに可愛い顔で強請られては、私も我慢ができなくなってしまうよ」
「…………」
それは、キスをすればもっと求めてしまう、ということだろうか。
「お、おやすみなさい……」
「……うん、おやすみ」
真っ赤になった顔を見られないように俯いて私はそう言ったけど、ルーク様から返ってきた声が少し残念そうに聞こえたのは、気のせいだと思うことにする。




