XX.魔王の事情5
回復ポーションを作りたいと言ったフィーナをラステリーに任せ、俺は自分の仕事に戻った。
その後ラステリーから聞いた報告によると、フィーナは期待以上の超級回復薬を作って見せたらしい。
普段は大人しく、他人にあまり興味を示さないラステリーだが、珍しく興奮気味にその様子を俺に語っていた。
「フラッフィーナ様は本当に素晴らしい力をお持ちです! ですがまだまだそのすべてを出し切れていないでしょう。是非これからも私に彼女の指導をお任せください!!」
――などと。
ラステリーはとても優秀な魔道士だ。彼に任せればフィーナはその力を自分のものにすることができるだろう。
「……」
ただ少し、フィーナのことを語るラステリーの瞳の輝きが気になったが……。
それは単なる俺の思い過ごしか。
彼女への独占欲が、ラステリーを男として意識させてしまったのだろう。
こんなことでは王など務まらないなと自嘲し、フィーナとの楽しい夕食へ向かった。
夕食を終えると、少し涼もうか、と言ってフィーナを庭へ誘った。
ベンチに座り、彼女と話をする。
こうして二人きりで過ごす貴重な時間は本当にかけがえのないものだ。
フィーナはいつも俺の心を癒してくれる。
先日はいきなり無理をさせてしまったせいで共に夕食を取れなかったが、聖女の力に目覚めたばかりのフィーナに、魔王である俺の判断で負担をかけ過ぎてしまったことを深く悔やんだ。
焦ってはいけない。
焦る必要など今はないのだ。
穏やかな気持ちでフィーナと会話し、ラステリーが褒めていたことを伝えたが、彼女は照れくさそうに笑ってすぐに謙遜した。
聖女様と称えられ、怪我を治した騎士に跪かれて感謝を述べられても、フィーナは偉そうな態度をひとつも取らない。
もう少し誇らしく思っても良いくらいだとさえ感じる。
だがそこが彼女のいいところなのだ。
そして最後に一言「ルーク様のおかげです」と続いた言葉に、胸が鳴る。
それは文字通り、フィーナが聖女の力に目覚めるきっかけは強い愛だったのだから、俺がその相手であることがとても嬉しく思う。
そしてかねてから考えていた、彼女の両親へ挨拶に伺いたいという旨を伝え、改めてフィーナに向き直り、その手を握りしめる。
「フィーナ、私の求婚に応えてくれてありがとう」
目の前に、フィーナがいる。
初めて本気で惚れた女性がここにいて、俺と人生を共にすると約束してくれたのだ。
どんなことがあっても、必ず幸せにする。
フィーナが選んでくれたこの道は、決して間違っていなかったのだと思ってもらえるよう、俺の持てるすべてをかけて、彼女を幸せにするのだ。
フィーナはにこりと、静かに応えてくれた。
そのまま彼女のピンクベージュの瞳を見つめ、唇を寄せる。
互いの前髪が触れ合い、鼻先がかすり、ゆっくりと瞳を閉じて彼女のそれに唇を重ねた。
三度目のキスは、まだ少し、ぎこちなさの残るものだったかもしれない。
数秒で離れると至近距離でもう一度見つめ合い、彼女の様子を窺う。
綺麗な瞳で俺を見つめるそこは少し潤んでいるようで、俺から理性を奪ってしまう。
だからもう一度唇を重ねて、彼女の身体を引き寄せるため頭に回した手を固定し、小さく啄むようにその唇に何度も口づけを送った。
呼吸のタイミングがわからなくなったのか、少し苦しそうに「ん……、」と可愛く声を漏らすフィーナに、俺の身体は熱く疼きだす。
「……っ、ルークさま……」
……ああ、可愛い。
このまま自分の部屋に連れて帰ってしまいたい。
とろんと蕩けた瞳で俺を見上げてくるその視線と甘い声は、俺を誘っているのかと思ってしまうほど艶があった。
……天然なのだろうか。
だとしたら、決して他の男に見せてはならないなと、改めて自分の中にある独占欲が騒いだ。
ここが外で、良かったかもしれない。
もし二人きりの室内だったならば、このまま押し倒さなかった自信はない。
……フェリオンならばそうするのだろうかと一瞬考えて、この話をすればまた鼻で笑われるのだろうと自嘲した。
「疲れているのに長く引き止めてしまったね」
「……いえ、私もルーク様と一緒にいたかったので」
身体を離してそう言えば、フィーナは頬を赤らめたまま視線を外して呟いた。
……やはりこのまま俺の部屋に連れて帰ったら、明日の朝には彼女に嫌われてしまっているだろうか?
もう一度そんなバカなことを考えて、愛しいフィーナの頭をそっと撫でた。
「……部屋まで送っていくね。きっとアリエラが待っている」
「はい……」
彼女も少し名残惜しそうに微笑んだ気がするのは、俺の勝手な思い込みだ。
そう言い聞かせ、俺たちは手を取り合って城へと戻った。




