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18日目.回復ポーション

 翌日も少し訓練したあと、騎士の治療を行った。


 今日は利き腕を失った者だった。

 剣を握れなければ、もう騎士としてやっていけないのだ。

 彼も絶望の色を顔に宿していたけれど、治療を終えると今までの者と同じように涙を流して喜んでいた。


 私の方も昨日より魔力のコントロールを意識して行うことができ、うまく調整できたと思う。

 イメージトレーニングをしたおかげかもしれない。


「大丈夫か?」

「はい! 今日はだいぶいいです」

「そうか」


 今日も治療の様子を見に来ていたルーク様は、私の返事を聞いて安堵の色を示した。


「ラステリー団長、お願いがあります」

「なんですか」

「私に回復薬を作らせてください」


 回復薬の制作は魔道士団の仕事だ。

 私も以前魔法学のアルフィにお願いして作ってみたことがあるけれど、まったくいいものができなかった。

 だから素人に簡単に作れるものではないということはわかっている。


 だけど、今ならもっと上手に作れるような気がした。


「……よろしいですか? ルークアルト様」

「ああ、フィーナが望むなら。ただし無理はさせるな」

「かしこまりました」

「ありがとうございます!」


 ラステリーはルーク様の許可を得ると私を連れて製作室に向かった。


 回復薬の作り方は以前習ったので覚えている。


 ここでは魔道士団の方たちが日々回復薬を大量に製作している。だから薬草類の調合はまとめて行われているようで、あとは魔力を注いで仕上げるだけになっていた。


 魔力を注ぐ者によって、仕上がる回復薬の階級が分かれるのだ。

 上級回復薬を作れるのはラステリーだけのようだ。



「やり方はわかりますか?」

「ええ、前に教えていただいたことがあるので」


 ラステリーに見守られる中、私は教わった通りに仕上げの作業を行った。


 魔力を集中させて送り込むと、明らかに以前とは違うものを感じた。

 以前はまるで手応えを感じなかったのだが、今回は違う。

 むしろどの程度送ればいいのかわからなくなるほどだ。


「そこまでです、フラッフィーナ様」

「……!」


 ラステリーに手首を掴まれ、ハッとして力を抑える。


「それ以上送り込んでは薬品の方が堪えられなくなります」

「……はい」


 他の魔道士の方たちも作業していた手を止めて私に視線を向けていた。


「それにしても、これは……」


 出来上がったと思われる濃いグリーンのポーション。

 ラステリーはそれを見て息を飲み、そっと手を翳した。


「……やはりこれは私の上級回復薬をはるかに凌いでいますね」

「え?」


 高ぶる感情を押し殺すようにぷるぷると小さく手を震わせると、ラステリーはついに我慢できなくなったかのようにぐっと私の手を握り、興奮気味に言った。


「本当に素晴らしい……!!」


 その勢いにぎょっとする。


「あぁ、聖女の力……貴女が欲しい!!」


 熱くなって顔を寄せ、そんなことを口走るラステリー。


 欲しいって、きっと魔道士団にって意味だと思うけど……。


「お、落ち着いてください」

「……失礼。しかし、本当に素晴らしいですよ、フラッフィーナ様」

「お役に立てたなら、よかったです」

「また作りにきてください。ルークアルト様にも私から報告しておきます」

「はい、よろしくお願いします」

 


 ラステリーのあの興奮の仕方を見るに、思っていたよりも良いものができてしまったようだ。


 でも、これで少しでも騎士や国の方たちを助けることができるなら、良かった。





 *




 それからもう少し回復薬の製作を行って、夕方に部屋へ戻った。


 その後ルーク様との夕食を終えると、少し涼もうか、というお誘いを受けて私たちは庭へ出た。



「ラステリーが珍しく興奮気味に話していたよ。フィーナは凄いな」

「いいえ、私は自分にできることをやっただけです。これも、ルーク様のおかげです」


 ベンチに座り、今日のことをお話しするルーク様にニコリと笑みを向けて言うと、彼は少し照れくさそうに微笑み返してくれた。


 私が聖女の力に目覚めることができたのは、ルーク様のおかげなのだ。


「体の調子はどう?」

「はい、元気です!」

「よかった……」


 何かを言おうとしているルーク様に、「ん?」と顔を向ける。


「君の体調次第とは思っているのだが、正式に婚約を発表するお披露目会まではあと十日ほどになった」


 そうだ……。


 その言葉に、私たちは結婚するのだと急に意識してしまった。

 ドキドキと胸が高鳴る。


「その前に君のご両親に改めて挨拶に伺いたいと思っている」


 そうだ、ルーク様はそう言ってくれていた。


「でも、そのお披露目会に両親も招待してくだされば、わざわざルーク様が行かずとも……」

「いいや、是非こちらから出向いて挨拶させてほしい」

「ルーク様……」


 魔王であるのに、誠実な彼の人柄にはつくづく惚れ惚れする。

 私は本当に幸せ者だ。


「訓練やレッスンもあってで忙しいだろうが、君の予定はこちらで調整させてもらっていいか?」

「はい。よろしくお願いします」

「ありがとう。ではフェリオンやラステリーたちとも相談してみるよ」


 ルーク様はもう一度微笑むと、ふと私の手を握り、真っ直ぐに視線を向けて口を開いた。


「フィーナ、私の求婚に応えてくれてありがとう」

「……」


 とても嬉しそうに言うから、胸が熱くなる。


 ああ……それはこちらのセリフです。


 そう言うように微笑み返すと、そっと唇を重ねられた。

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