16日目.力の訓練
昨日、私は聖女の光の発動に成功した。
そしてあの後、とてつもない疲労に襲われて倒れ込んでしまったのだけど、私のやるべきことは決まっている。
重症を負っているのは左脚を失っていた彼だけではない。
つまり、他の者たちの治癒も行わなければならない。
涙を流して喜んでいた彼を思い出し、すぐにでも取り掛かりたいと思った。
「フラッフィーナ様、大丈夫ですか?」
自室のベッドで目を覚ました私の元へ、アリエラが心配そうに歩み寄ってくる。
「ええ、大丈夫よ」
「今日の朝食ですが……」
「いつも通りルーク様といただくわ。お話したいこともあるし」
「わかりました。では、ご準備いたしましょう」
今日は自分の部屋で取りますかと、彼女はきっとそう聞こうとしたんだと思う。
けれど身体はもう大丈夫そうだった。
昨日は夕食も取らなかったし、きっとルーク様は心配してる。
だからいつものように支度をして、私はルーク様との朝食に向かった。
「フィーナ!」
「おはようございます、ルーク様」
私が行くと、ルーク様は立ち上がりこちらへ駆け寄って来てくれた。
「おはよう、身体はもういいのか?」
「はい、ご心配をおかけしました」
「そうか、よかった」
本当に安心したように微笑んでくれるルーク様に、私も微笑み返す。
その後もいつものように食事をしながら、少しお話をした。
昨日の左脚が治った騎士もその後の経過は順調らしい。
むしろ体力が有り余っているように元気なのだとか。
食事が済んだ後、まだ時間があったので二人でソファーに移動し、横並びに座った。
「ルーク様、他の怪我人の治療もすぐに行わせていただけませんか?」
紅茶だけ用意してくれると、アリエラ等女官は部屋の外へと出て行った。
私はそのタイミングで隣に座るルーク様にそのことをお願いする。
「……ありがとう、フィーナ。しかし君はまだその力に目覚めたばかりだ。昨日はいきなり無理をさせてしまったが、まずは力を使いこなす訓練から始めなければならない」
「……」
私を優しく諭すように、ルーク様は言った。
彼が言っていることもわかる。
まずは焦らずに、自分でその力を把握し、使いこなすことが先だ。
けれど……。
「では、より重症な者だけでも先に……」
「……わかった。ジェラルドとも相談してみよう」
焦ってはいけないのはわかってる。だけど、今こうしている間にもこの国を守ってくれている誰かが苦しんでいると思うと、何もしないでいるわけにはいかない。
何もせずにいたら私が聖女であり、この王宮に来た意味がないのだ。
「ありがとう、フィーナ」
にこりと微笑んで、ルーク様は私の髪に触れるように手を伸ばした。
ルーク様は優しい。言葉を選び、私を労ってくれることを忘れない。
上に立つに相応しい方だと思う。
「……早くこうしたかった。さっきは他の者もいたからね」
「ルーク様……」
ぎゅっと私を抱き締めながら、ルーク様は優しく頭を撫でてくれる。
やはり昨日はとても心配かけてしまっていたようだ。
「私は大丈夫ですよ」
その気持ちに応えるように私もルーク様の背中に腕を回し、彼を安心させるように背中を撫でる。
「……フィーナ」
「……ん」
顔だけを少し離して名を呼ぶルーク様を見上げれば、そっと落とされる口づけ。
すごくドキドキするけれど、とても満たされた気持ちになる。
ルーク様のためにも、この国のためにも、私は早く力を安定させなければ。
改めて強くそう思った。
*
その日から早速、聖女の力を安定させるための訓練が始まった。
力を自在に使い、抑えられるようにならなければ昨日のように倒れてしまう。
それではあまり役に立てないし、いちいち心配もかけてしまう。
その訓練に付き合ってくれたのは魔道士団団長のラステリーだった。
ラステリー・ウォード。
王宮一の魔道士で、彼は滅多に戦地には赴かないが、その実力はフェリオンやジェラルドと共に王宮内で二、三を争う実力者らしい。
綺麗な深緑色の髪の毛は少し長めでサラサラとしている。
物静かなイメージがある男だけど、一緒に訓練をしてわかったことがある。
この男は、魔法オタクなのだ。
「聖女様……貴女は本当に素晴らしい」
まずは力を発動してみようということで、聖女の光をまとった私を見て、ラステリーは高揚感のある顔で言った。
ラステリーのこういう顔は今まで見たことがなかったけれど、魔法関係のことになると少し人が変わるようだ。
「素晴らしい力です、フラッフィーナ様!! ですがそれではまた倒れてしまいますよ。もう少し抑えることはできますか?」
「はい……やってみます」
言われて、溢れ出る力を制御してみる。
感覚的なものなのでうまくできるかわからないけど、こういうことは何度もやってみて覚えていくのだ。
「……ふむ、いいですよいいですよ。できています」
「はい」
フッと力を抜くと、私の身体から光が消える。
「今の感覚を忘れないように、最初から調整できるようにしましょう」
「はい」
「身体はお辛くありませんか?」
「発動させるだけなら大丈夫みたいです」
「ではもう一度やってみましょうか」
「はい!」
それから時間が来るまでラステリーと力の調整や発動速度などを何度も試し、その日の訓練を終えた。
夕食はルーク様と一緒に取った。
訓練の後にラステリーと話をしたようで、ルーク様は今日の様子を知っていた。
そして明日から、まずは一日に一人ずつ、より重症な者から治癒していく許可が降りたことを知らされる。
「ただ、無理だけはしないでくれ。重症であっても彼等は命に別状はない。だから、君が負担を抱えすぎないでほしい」
「わかりました」
最後にそう付け足したルーク様に頷いて、私は心の中で静かに気を引き締めたのだった。




