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15日目.聖女の光

 昨日、私はルーク様に想いを告げた。


 そのままキスをして、ルーク様の胸の中に抱き締められた私の心は今までにないくらい満たされて、熱くなった。


 するとその思いが溢れ出たかのように光の玉となって現れた。


 それが聖女の光だったのかはわからないけれど、その可能性は大いにあると思う。


 けれど、なぜあのタイミングだったのだろうか。

 私はあの時何かを祈ったわけではなかったし、聖女の光を使おうと思ったわけでもない。


 一人で考えても仕方ないので、翌日の魔法学で、アルフィ先生に相談してみることにした。



「ふむ。ではもう一度同じ状況を作ってみてはいかがかな」

「同じ状況ですか……?」


 アルフィ先生は私が聖女の光のようなものを発動したと聞き、一瞬驚きに瞳を見開いてから口髭を撫でた。


「どうしたのですか?」

「いえ……、ちょっと簡単に再現できる状況じゃなくて」

「そうですか。それは困りましたね」


 もちろん発動した時の状況は言っていない。

 ルーク様とキスをしたら、なんて言えるはずがない。


「しかしそれが本当に聖女の光なのだとしたら、発動条件は必ずはっきりさせる必要がありますよ」

「……そうですよね」


 わかってる。わかっているわよ。


 でももしその条件がルーク様とキスすることだったら……。


 ああ……。そんなの耐えられない。


 顔に熱を持たせながら、お昼に図書室へ行ってもう一度聖女について書かれた本を読み返してみることにした。





「聞いたぞ」

「ひゃ……っ!!」


 あの時の状況を思い返しながら真剣に本を読んでいたら、右斜め上から低い声が降ってきた。

 私の身体は大袈裟に跳ね上がる。


「フェリオン……!」


 この男は……!! いつも突然、やめてほしい!!


「聞いたって、何をですか……?」

「聖女の光を発動させたらしいな」


 ああ、そのことか。よかった。

 キスしたのがバレたのかと思った……。


「定かではないんですけどね」

「もう一度試してみる必要があるだろう」

「やっぱりそうですよね。でもどうやって出したのか自分でもよくわからなくて」

「だったら同じことをまた行ってみればいい」


 フェリオンもアルフィと同じことを言った。

 やっぱりそうしてみるしかないのかな。でも……


「それが、そんなに簡単に再現できることではなくて……」

「……キスするだけだろう? ルークと」

「え……っ!!?」


 なんで知って……!!


 フェリオンはなんでもないことのようにサラッとそれを口にしてしまう。


「何をそんなに動揺している。お前たち、二週間後には正式に婚約を発表するんだろう」

「……そ、そうですけど……」

「ルークが嬉々として話していたぞ。貴女が結婚を承諾してくれたと」

「……はぁ、」


 そうなんだけど、でも改めて言われると恥ずかしい……。


「してみればいい」

「え?」

「だから口づけを。もう一度行なえ」

「ええっ?」

「聖女の光が発動されるかもしれないとなると、これは重要案件だ。午後のレッスンは休みにしてもらおう」

「え、ちょ、ちょっと……!」

「ルークも呼んでくるから、貴女も魔道室で待っていろ」


 え、え~!!?


 私の返事も聞かずに、フェリオンは一人で頷くと図書室を出て行ってしまった。





 仕方ないので、とりあえず言われたとおり魔道室へ来た私。


 その部屋に集まったのはルーク様とフェリオン、アルフィ、騎士団長のジェラルドに、魔道士団長のラステリーまでいた。


「さぁ、では早速始めよう」


 皆既に事情は知っているようだ。


 フェリオンはいつも通りのクールな表情で静かに告げると、私とルーク様を見た。


 は……? え、皆の前でキスしろって言うの!?


「ちょ、ちょっと待ってください……!」

「そうだぞ、フェリオン! さすがにこの場で再現するのは彼女にも失礼だ」


 そうよ、皆の前でルーク様とキスとか……恥ずかしくて死ぬ!


「しかしこれは聖女の目覚めに関わるとこです。照れている場合ではない」

「しかし……!」

「そうですよ、無理です! 無理! 絶対に嫌です!!」

「……」


 私があまりに強く、はっきり言いすぎたからか、ルーク様は少しだけ悲しそうに眉を下げた。


 あ~、違うんです、ルーク様とキスするのが嫌なわけじゃなくて~!


 でもそれを口にするのもこの場では躊躇われる。

 一体どうすればいいんだ……。

 そう思って困っていると、ラステリーが口を開いた。


「まぁお待ちください。もし聖女の光の発動のきっかけがお二人の口づけだったとして、それはつまり、相手を強く想う〝愛〟だったのではないでしょうか」

「ふむ……なるほど。それは一理ありますね」


 それにアルフィが頷く。


「フラッフィーナ様、その時の感情を覚えていらっしゃいますか?」

「え、ええ」

「ルークアルト様を強く想っておられたのでは?」

「はい……」


 ラステリーの言葉に頷き、ルーク様にチラリと目をやると、彼は気恥しそうに、けれど嬉しそうにはにかんだ。


 うう……恥ずかしい……。


「過去の聖女様にも強い怒りが発動のきっかけになった方がおられました。意図せず感情の高まりがきっかけとなるのは大いに考えられます。フラッフィーナ様の場合は、強い愛なのではないですか?」

「それは有り得ますね」


 ふむ、と納得を見せる面々。

 よかった。なんとか皆の前でキスはしなくて済みそう。


「ではフラッフィーナ様、その時の感情を思い出して祈ってみてください」

「はい……」


 ラステリーに言われ、ルーク様を見つめる。


 いつもの優しい顔で微笑んでくれている。

 その表情にほわんと胸が温かくなり、あの時の感覚を思い出そうと目を閉じて胸の前で手を組んだ。


 そして強く、ルーク様を想う。

 優しい笑顔、強く気高い佇まい、民を思いやる心。

 私は、ルーク様のことを愛している……。


「…………」

「……おお、」


 強い力が胸の奥から混み上がってくるのを感じる。

 目を閉じているけれど、皆が声を上げているのを聞いて、更に強く想った。


「これは……!」

「間違いありませんね……」

「聖女、様……」


 あたたかく、強い力が安定したのを感じ、そっとまぶたを持ち上げる。


 最初に瞳に映ったルーク様が驚きに目を開いて私を見ていて、私の体が光に包まれているのを知った。


「これが……」


 聖女の光――。


 内側から力があふれていく。


「……ルークアルト様、」

「ああ、前へ」


 ジェラルドがルーク様に声をかけると、後ろに控えていた騎士の一人が一歩前に出た。


 その者は以前北の森で左脚を失っていた男だった。


 杖をつきながら、ゆっくり前に出てくる。


「フィーナ、」


 ルーク様が私に声をかける。

 その声は心配の色を含んでいたけれど、すべてを言われなくてもわかってる。

 聖女の光はあらゆる怪我を治癒する――。

 今の私なら、できる気がした。

 そっとかがみ、彼の脚に手を翳し、強く祈った。

 魔力を流すイメージと共に。


「なんと……!」


 すると、彼の失われた左脚が私と同じような光に包まれ、脚の形を作った。

 そしてその光が消えると、そこには元通りと思われる綺麗な脚が生えていた。


 よかった、成功した。


「……聖女様、」


 歓喜に湧く中、左脚を取り戻した男がそこに膝をついた。


「大丈夫ですか? 痛みますか?」

「いえ、いえ、違います……」


 涙を流す男に、その様子を窺うように見つめた。


「ありがとう、ありがとうございます……っ、ありがとう……っ」


 嗚咽を堪えながら涙ながらに何度も礼を言われて、私の胸は再び温かさを増した。

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