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11日目.魔王と野営

 昨夜、ルーク様に王宮預言者であるフレデニス・オラールのことを聞いてみた。


 私を聖女だと預言したその者ならば、その力に目覚める方法もわかるのではないかと聞いてみたのだけれど……。


 残念ながら私が考えることなど他の者が既に考えているようで、すぐに答えが返ってきた。


 フレデニスの預言は意図して降りるわけではないようなのだ。


 いつ、どんな預言がもたらされるのか。それはフレデニス本人にもわからないそうだ。


 それでも降りさえすればフレデニスの預言は今まで外れたことがないらしい。


 ルーク様はそう言うと私と目を合わせて少し照れたように微笑んだ。


 それはつまり、私が聖女であるということもほぼ間違いなく、ルーク様の結婚相手となることを意味するのだから。




 *




 今私にできることはとりあえずやってみよう。


 そう胸に誓い、今日も真剣に勉強やレッスンに取り組んだ。


「フラッフィーナ様」


 その間の休憩時間、アリエラが急いだ様子で私の元へやって来て言った。


「西の森で、装甲蛇虫(アーマーワーム)の目撃情報があったようです」

「え……っ」


 西の森は私の故郷の町、トリアルの近くだ。


「騎士団長ジェラルド様が向かわれるとおっしゃったのですが……」


 ワームは、ドラゴンの下位亜種だ。

 ドラゴンほどの驚異ではないが、アーマーとなるとその皮膚は硬く、毒や火を吐くこともあると、最近図書室の本で読んだばかりだ。


 そんな魔獣が西の森に現れたなんて……。

 トリアルの皆や父や母は大丈夫だろうか。


「ですが、今回はルークアルト様が自ら出向くとおっしゃっているのです」

「え!?」


 言いづらそうに続けられたアリエラの言葉に、私はつい大きな声を出してしまった。


「どうして……」

「先日の北の森での件もあると思うのですが……やはりフラッフィーナ様の故郷が近いですから、被害は出したくないのでしょう」


 魔王様が討伐に向かってくれるのならば、それ以上に安心なことはない。けれど王が城を空け、自らで討伐に行くなんて……もし何かあったら。


 きっと私が心配するほどルーク様は弱くはないのだろう。けれど、それでももし何かあれば……


「私も、行く」

「え……っ、いけません、フラッフィーナ様!」


 確かに、聖女として目覚めてもいない私が行っても無駄かもしれない。

 けど、だけど……このまま大人しくここで待っているなんて、無理。

 それに、もしかしたら聖女として目覚めるきっかけを何か得られるかもしれない。


「アリエラ、ルーク様はいつ出かけるの?」

「……準備が整い次第、すぐにでも、と」

「それじゃあ先生方にはアリエラから伝えておいて! お願い! 帰ってきたらその分レッスン頑張るから!!」

「フラッフィーナ様……!!」


 言いながら既に駆け出していた私は、真っ直ぐにルーク様の元へ向かった。





「ルーク様!」

「フィーナ! どうした?」


 討伐への支度を整えていたルーク様に声をかけると、彼は驚きに目を見開いてすぐに駆け寄ってきてくれた。

 その後ろにはフェリオンもいる。


「聞きました、西の森に装甲蛇虫(アーマーワーム)が出たと」

「そうか……、聞いたか。だが安心しろ、私が行ってすぐに倒してくる」

「私もご一緒させてください!」

「……なんだと、」


 その言葉にルーク様はもう一度驚き、フェリオンと顔を見合わせると、何かを語り合うように視線を合わせ、頷いた。


「よし、いいだろう。フィーナも連れていく。ただし、私から離れることは許さないが、それでいいな?」

「はい」


 熱意を込めて頷けば、その覚悟を悟ってくれたのか、ルーク様とフェリオンも小さく頷いた。


 ルーク様も聖女の目覚めのきっかけが何か掴めるかもしれないと思っているのかもしれない。


「準備が整い次第すぐにでも向かう。フィーナも支度をしておいで」

「わかりました」


 約束を取り付けると私は再び急いで自室へ向かった。


「フラッフィーナ様」

「アリエラ!」


 そこには既に講師たちに話をつけてきてくれたアリエラがいて、急ぎ私の準備を手伝ってくれた。

 その顔にはもう覚悟が決まっている、という思いが現れていた。


 戦闘服はさすがになかったようだけど、動きやすいようにと着ていたドレスを脱ぎ、アリエラが借りてきてくれた魔道士団の制服を着て、ローブを羽織った。


 アリエラは荷物を用意してくれており、それを持って共に外へ出れば、ちょうどルーク様とフェリオンが出てきたところだった。


「ルークアルト様、フェリオン様。フラッフィーナ様をよろしくお願いいたします!」


 アリエラがまるで私の姉のように頭を下げてそう言った。


「ああ、任せてくれ。君たちも、私の留守を頼むよ。何かあればジェラルド団長を頼れ。ジェラルド、頼んだぞ」

「ハッ!」


 ルーク様は険しい表情でそう言うと、私を馬車へと誘導した。

 同じ馬車にはルーク様とフェリオンが乗った。




 *




 出発したのが夕方になってしまったため、夜道を進むのを断念した私たちは野営を組むことになった。


 本当は一刻でも早く町に向かいたい。


 けれど、夜は魔獣が活発になる。ここで怪我人を出すわけにはいかない。


 それでもだいぶ町に近づいているはずだから、日が昇ったらまたすぐに出発しようと、ルーク様は言ってくれた。


 食事を終えると、騎士たちが組んでくれたテントで寝るように言われた。

 騎士たちは馬車の中で座りながら寝ていたり、何人も同じテントで寝ているのに、女性は私だけだからこの広いテントを一人で使うように言われてしまった。


「ごめんね、少し寝心地が悪いかもしれないが」

「いいえ、私は全然大丈夫です! それより、皆さんがあんなに狭いところで寝ているのに、私一人でテントを使うことなんてできません!」


 申し訳なさそうな顔をするルーク様に強気で言うと、彼は少し考えたあと、困ったように口を開いた。


「その気持ちはありがたいが、どこを使おうが君は一人で寝ることになる。だから気にしないでくれ」


 女性は私一人だから……。確かに、馬車を使おうにも同じことだ。


「それなら、私は眠りませんのでどうぞ皆さんでお使いください」

「そんなわけにはいかない」

「ですが、戦ってくださるのは騎士の皆さんです。だったら皆さんにゆっくり体を休めてほしいのです。私は一日くらい寝なくても平気です」


 前世でも、徹夜やオールをしたことは何度かあった。


「私がついてきてしまったせいで皆さんの負担になるのは嫌なのです」

「……フィーナ」


 もう既にルーク様を困らせているから、十分負担になっているかもしれない。

 申し訳なく思いつつも、気持ちを曲げる気はないのだと伝えれば、ルーク様の隣でフェリオンが言った。


「貴女の気持ちはよくわかった。では俺たちのテントを共に使おう」

「な……っ、フェリオン!?」


 その言葉にルーク様は動揺を見せたけど、私はその提案に頷いた。


 元々ルーク様とフェリオンが同じテントを使う予定だったところへ、私も混ぜてもらう。そうすれば私のテントが丸々一つ空く。


 詰めれば四人の大人の男性が足を伸ばして寝られるくらいは広いから、これで少しは騎士たちの疲れが取れるだろう。


「ならば自分が寝ないと言えば、フラッフィーナが胸を痛めるぞ。こんな状況なんだ、慌てる必要はない」

「しかし……っ」


 ルーク様は頬を染めてフェリオンを呼びつけると何やら耳打ちした。

 フェリオンは変わらず冷静な態度でルーク様を説き伏せている様子。


 うーん、この反応を見る限り、やっぱりルーク様が女性に慣れていなくて、フェリオンが慣れていそう。


 私だってルーク様と同じテントは緊張するけれど、今はそういう場合ではない。

 それに二人きりというわけでもないし、気にしないのが一番だと、自分に言い聞かせた。

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