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8日目.魔王の友人

 楽しい休日はあっという間に終わり、今日からまたハードな一日が始まる。


 考えてみれば、昨日は朝食から始まり街へ出かけて帰宅し、夕食までと、一日中ルーク様と一緒に過ごしていた。

 あんなに長い時間一緒にいたのは初めてだった。

 途中何度もドキドキさせられたけど、私たちは昨日で一気に距離が縮まったように思える。


 ……これは問題だ。


 だって長い時間一緒にいたけど、嫌な気持ちにはまったくならなかったから。それどころか本当に楽しかったし、正直私は、もう少し一緒にいたいと思ってしまった。

 それに、お互いを愛称で呼ぶようにもなったし。

 アリエラ曰く、彼のことをルークと愛称で呼ぶ女性は他にいないらしい。彼女は「ルークアルト様の寵愛を受けているのはフラッフィーナ様だけですよ」と嬉しそうに言っていた。


「はぁー……」


 魔王と結婚する気なんてないはずなのに、このままじゃ不味い気がする……。



 食事のマナーにもだいぶ慣れてきたので昼食が済んでもまだ時間があった私は、図書室へ来た。


 モヤモヤしながらどの本を借りていこうか選んでいると、突然右斜め上から男性の艶のある低い声が降ってきた。


「捗っているか」

「フェリオン様……!」


 全然気配なんてしなかったから、私は大袈裟に驚いて身体を跳ね上げた。


「フラッフィーナ様はルークの妻となるんだ。俺に敬称など不要だ」

「……はぁ、」


 フェリオン・ギリアム。

 魔王ルークアルト様の幼なじみで、側近だ。

 なんでも一番仲がいいのが彼らしく、公的な場でなければタメ口で話すほどの仲らしい。


 ルーク様が一番信頼している相手だ。


「でしたら、貴方も私に敬称など不要ですよ」

「……そうか。ではフラッフィーナ、昨日はどうだった?」

「はい?」


 すぐに受け入れてくれる柔軟の良さに若干驚いたけれど、それよりも聞かれた質問の内容に私は思わず高い声を上げた。


「ルークと出かけて、どうだった?」

「……どうって、楽しかったですけど」


 フェリオンはとても背が高く、クールで知的な雰囲気のある色男だ。

 男性にしては長めの藍色の髪と、深い青の瞳。その目付きにもなんとなく色気がある。


 アリエラの話ではこう見えて意外と手が早いらしい。


「それだけか?」

「……と、言いますと?」


 表情を変えずに聞いてくるから、彼の本意がわからない。

 ルーク様とは全然タイプが違う。まるで月と太陽だ。もちろんルーク様が太陽である。


「ルークは昨夜色々と話していたぞ。だから貴女の話も聞いてやろうと思ってな」


 えっ?


 ルーク様、色々話してたって、何を言ってたんだろう……。

 私のこと……? どんなふうに、友人に話すのだろうか。


 少し気になるけど、そんなことよりこの(ひと)はこんなにクールに見えて、人の恋バナに興味があるのだろうか。ちょっと意外。


「とても親切にしていただきましたよ。エスコートも手馴れているようですし、さすが魔王様ですよね」


 当たり障りのないことを、笑顔を作って言ってみた。


「手馴れている……? まぁ、この国ではある程度身分のある者はそういうことも学んでいるからな。失礼はなかったか?」

「はい。まったく。ルークアルト様は日頃から女性の扱いには慣れていらっしゃるでしょうから、小さな町出身の私なんかに失礼など、あるはずがありません」


 再びにこりと笑顔を作って言う。


 するとフェリオンは少し不思議そうに私を見つめてから口を開いた。


「日頃から慣れているとは、どういうことだ。アイツはああ見えて女の扱いには不慣れなはずなのだが」

「……」


 その言葉を聞いて、笑顔を作ったまま私は固まった。


「まさか、とても慣れていらっしゃいますよね?」

「いいや。だからいつも貴女の前でも顔を赤くしているじゃないか」

「……フェリオンはご存知ないのね」

「俺は常にアイツといるし、大抵のことは聞いている」

「…………」

「ルークが言ったのか?」

「いえ、そういうわけでは……」


 張り付いた笑顔に、汗が流れ落ちる気分だ。


「だったら慣れていると感じるほどにはスムーズにできているのだな。安心した。だがアイツは今までどんな美人を用意されても手を付けなかった堅物だ。そこは誤解しないでやってほしい」

「…………」


 フェリオンは口元に小さく笑みを浮かべて言った。


 ええ? あの魔王様が、堅物?


 初対面だったのに手にキスしてきたのよ。

 簡単に口説き文句を言うし、触れてくるのよ?


 そんな、まさか……。


 アリエラといい、このフェリオンといい、もしかしてルーク様にそう言ってこいと頼まれたのだろうか。


 いや、この男はそういう媚を売るような真似をするタイプには思えない。


 もちろん、本当はルーク様がそんなふうに裏に手を回すような男にも見えないのだけど……。


 でももしそれが本当なら、あの態度が私だけなのだとしたら……。


「……」

「どうした?」

「いえ、私はそろそろ午後のレッスンが始まりますので、失礼します」


 途端に、彼の今までの態度を思い出して顔に熱が集まった。


 本を借りるのすら忘れて、熱を冷ますように私はパタパタと早歩きでその場から離れた。

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