第8話 修羅場easy 4月14日
4月14日(水)表
「ホマ君起きろー。ホマー。ホマホマー」
体が揺すられる感覚に意識が覚醒していく。
「う……おはよう」
目を覚ますと紬が俺を揺すっている。
「昨日のカツカレー温めたから早くおきてー」
目覚めた途端に胃袋から不快感が伝わってきた。
こっちの体は夕食で受けた甚大なダメージからまだ回復していないのだ。
一方で心の方は早く食えと訴えてくる。
『裏』の方では当分飯が食えないだろうから。
「本当にまずいことになったな」
あのドタバタ3人組と籠城など改めて考えると頭が痛くなる。
昨日はまだ良かった。
三人ともに疲れきっていて早々に眠ってしまったからだ。
経験上揉めだしてくるのは今日からだ。
「もーぼーっとしてないで起きてよー! うーホマ君重い。育ち過ぎぃ」
頭を抱えている俺を、紬はまだ寝ぼけていると勘違いしたのか腕を引っ張って起こす。
俺が育ち過ぎたのではなく、紬が中学生の頃から成長していないだけではなかろうか。
せっかく『表』に居るので思い悩むのは無駄だな。
今日も楽しく生きよう。
「姉さんやめろって。もう起きてるから」
俺が起き上がると姉はにこっと笑う。
「よーしホマ君起きた! 次は新――ん? このタオル何?」
紬が掴んでいるのは俺が昨日使ったままのタオルだった。
慌てて回収しようと布団から飛び出す。
「なんか黄色くてカピカピしてひどい臭い……ホマ君一体何こぼし……ギャー!」
妙に寒いので視線を落とすと下に何も穿いていなかった。
「お姉ちゃんになに見せてんのよー! ホマのバカ! 変態ホマ! ドスケベ!」
紬は俺を罵倒しまくりながら部屋を飛び出す。
俺の処理タオルを握ったままだぞ。
「うぅ朝からなんだよ……姉ちゃんいい加減に――」
「あーもう! こんなの知らない!」
紬は寝ぼけ眼で出てきた新にタオルを投げつけた。
目の覚め切っていない新は避けることもできず、顔面にタオルが命中してしまう。
「わっぷ……ってくせえな。なんだよこれ……」
「ホマ君が汚したタオル!」
新は数秒停止してから声を数倍にして叫ぶ。
「きったねぇー! お前らふざけんなよ!!」
新はタオルを床に叩きつけて悶える。
男同士なら匂いで気付くよな。
紬が気づいていなくて少し安心した。
「三人とも朝からうるさいよ! 近所迷惑だからやめなさい!!」
母親に叱られてしまった。
騒ぐのはやめて朝飯に向かうとしよう。
「ティッシュに出せよ……これ何回分だよ……」
一回分だ。
人より少しだけ量が多いんだよな。
「ふいー」
「ジジイが風呂入ったみたいな声だな」
席に着くなり陽助が寄って来る。
「また朝からドタバタとな。姉さんめ母親に報告するのは反則だろう」
アレの母親ばれとか中高生のトラウマ筆頭だぞ。
新は朝飯までずっと顔洗っていたし少し傷つく。
そして紬が手の臭いを嗅いでいたのは姉弟ながら少しだけ興奮――。
「そんなことはどうでもいい!」
「落ち着け誉、飴ちゃんやるから」
なんだこの『漢飴』って臭そうな飴は。
まあ連日のカツカレーで胃の中が大変なことになってるから貰うけどな。
漢飴の意外な美味さと『厳選男塩』の表記で複雑な気分になっていると肩をポンと叩かれる。
「……や」
晴香が立っていた。
「おう、おはよう」
挨拶すると晴香は視線を逸らし、体を揺らしながらモジモジしている。
きのう、おとといの彼女とえらく雰囲気が違うな。
目は泳いで顔は赤く、何故か目の下にクマを作っている。
「お前ら昨日も一緒に帰ってたけど……まさかシたのか?」
ニヤつきながら陽助が言う。
「まさか知り合って二日目だぞ」
「そ、それはまあ場の流れというか……ちょっとした勢いで」
異なる返事をした俺達は顔を見合わせる。
「おいおい、まだシてないだろ」
「がっつりしたでしょ。言い訳できないぐらい」
数秒見つめ合い、互いのギャップが埋まる。
「ああ、俺はてっきりセ」
「誉はほんとドスケベだ!」
照れて怒って襲いかかってきた晴香の右手を受け止める。
途端に晴香の動きが止まり、首の下から耳まで真っ赤になって硬直した。
「と、ともかく一緒にお昼! 江崎君も!」
それだけいって晴香は走り去っていく。
「なんだあの反応?」
「おっぱいでも掴んだか?」
教室でそんなことする訳がない。
ただ右手……主に中指と人差し指に触れただけだ。
「中指に触れただけで照れるなんてどうしたんだろうな」
「おかしいよな。中指に何があるなんてなにをしたんだろうな。分からないな」
本当にわからない。
昼休みが終わった。
晴香は自分の教室に戻り、俺と陽助も連れ立って教室に帰る。
「お前ら目立ち過ぎだろ」
陽助が咎めるような口調で言う。
「お前まで仲瀬みたいなこというのかよ」
仮にも友達だと思っていたのにショックだと続けると肩を小突かれる。
「因縁つけてるわけじゃねぇよ。本当にめちゃくちゃに目立ってただろうが」
朝の反応が気になり食堂で改めて晴香の中指に触れてみると、やはり晴香は見る見る赤くなった。
中指の見た目に異常はなく、まったくもってわからないので顔を近づけ臭いを嗅いでみると、悲鳴とともに思い切り首を絞められたのだ。
「飯まで奪われてたな」
陽助が笑いながら言う。
「奪うにしても普通おかずをとるよな。米の方を奪われるとか聞いたことないぞ……晴香の胃袋、あれどうなってるんだ?」
「まさかの定食二本立てに誉の米を半分強奪だもんな」
寝過ごして朝食を食べ損ねたらしいが、だからといって昼に二食分食うとは。
俺の方は二食続いた激重カツカレーで胃が悲鳴をあげていたので構わなかったが。
「あれだけ食ってグラビアアイドルみたいなスタイルしてるからなぁ」
昨日の画像を思い出す。
「那瀬川のスタイルは他の女子と一個次元が違うよな。胸とかお尻とか制服が破れないか心配になるほどなのに腹回りだけダブついてるもんな。スカートも一切巻いてないのに足が長すぎて膝上になってる」
陽助の口調にスケベ要素は微塵もなく純粋に褒めているようだ。
更に俺に送ってきた画像、寄せてあげてができないタンクトップであのボリュームとなれば胸のサイズはとんでもないアルファベットになっていそうだ。
「そのボディに女優みたいな顔が乗ってるとか神様がステ振り間違えた疑惑がある」
「ま、そのせいで酷い目にあったろ。誉が助けなきゃ不幸になってたし、美人も楽じゃない」
更に陽助がひょいと寄って来る。
「で、付き合わないのか? 那瀬川もうお前にベタ惚れじゃん」
やっぱりそう見えるか。
己惚れや思い込みでなくて良かった。
「さすが非童貞は積極的だな」
素直に返事をしたくない気分だったので抵抗してみる。
「うるさい偽童貞」
「なんだそりゃ経験なんてないっての」
少なくともこっちの体は童貞だぞ。
「晴香とは趣味も合うし、男友達みたいな感覚にもなりつつあってだな――」
「うそつけ。ドスケベ誉があんな美人相手になにが男友達だ。昨日何したか説明できんのか?」
さすが友人、即気付かれた。
仕方ない。
あまり人に言うことではないがこいつにならいいか。
「あー晴香は実は……」
「隠しているけど男を怖がってるよな。でもお前は平気みたいだし問題ないだろ」
数秒静止する。
こいつが筋金入りの熟女好きでなければ晴香を巡ってライバルになっていたかもしれない。
「もう最後までいっちまえよ。お前が本気で頼んだら那瀬川きっと受けてくれるだろ。あの子なら体格も良いしお前のでもきっと大丈夫だ」
「そりゃあ向こうがOKしてくれるならいつでも歓迎だ」
晴香が誘って乗らない男は陽助のような特殊性癖持ちぐらいだろう。
彼女持ちでも相当数が乗り換えるのではないだろうか。
あと体格で大丈夫とはなんのことだ。
「あんな美人と付き合えれば高校生活バラ色だ」
「……」
俺が沈黙していると陽助は軽く溜息を吐く。
「誉は女の子大好きスケベ心も満載ですぐヤりたがるのに付き合おうとはしないな。付き合うとかの話になるとスッと引いちまう」
俺は答えずに窓の外に視線をやる。
「最初は沢山の女の子と遊びたいだけと思ったけど、そんな辛そうな顔してるなら違うんだろう」
俺のどこか辛そうなんだ。
今も晴香の裸を妄想してニタニタしてる。
「中二の時はそんなことも無かったのに三年の春からか、それで冬休みの前ぐらいに……」
俺は窓の外から陽助に視線を移す。
陽助は黙って首を振った。
ここで止まるからこそ俺と陽助は友人でいられる。
教室に入ると黒板にデカデカ『自習』と書かれていた。
入学早々、教師も勇者だなと思いつつ席に向かう途中、教室の異様な雰囲気に気がつく。
「なんだこの空気?」
「一緒に入ってきた俺に聞くなよ」
教室の中心で二人の女子……確かセカンドグループのリーダー格と二番目が睨みあっていた。
互いに悪口を言い合いながら徐々にエスカレートしている。
陽助が近くの女子に聞いたのだが良く分からない。
マサシがああでミヨコがこうで、と……要はどうでもいい理由から喧嘩になったのか。
確かリーダー格が【高野】だったか。
名前の方は覚えていない。
「あたし言ったよね? 火曜はみんなでモール行こうってさ。なに勝手にカラオケとか行ってるわけ?」
「勝手に決めて「ハイ決定~」で納得できるわけないっしょ? 私が私の友達誘ってカラオケ行っただけであんたに文句言われるとかないんですけど?」
しょうもない修羅場だなぁと笑ってしまう。
モールでもカラオケでも好きなところに好きな奴といけばいい。
ゾンビもいないのに。
「二人共その辺にしとけよ。変な空気になっちゃってるし、もっと穏やかにさ」
クラスリーダーの責務なのか斉藤が割り込むもどっちつかずの曖昧な仲裁なので収まらない。
「マジ空気わりぃな。喧嘩するなら放課後にでもやれよ鬱陶しい」
そこに仲瀬が悪態を吐き、クラスの空気が一層悪くなる。
「教室でガチ喧嘩とか空気読めてないよな。最悪だわ」
「あの子達もっと仲いいとおもってたー。いがーい」
「高野さん案外ガラ悪……あんま話かけない方がいいかもねー」
教室中からヒソヒソと声が聞こえ始め、2人のグループの者達まで距離を取り始める。
お前達のメンバーなのに無情なもんだ。
そんなにクラスで浮くのが怖いのだろうか。
喧嘩中の女子2人は教室中から責めるような言葉と視線を向けられて遂に暴発する。
「あんたが絡んでくるからあたしまで責められてるだろうが!」
「高野がイキってリーダー面するからじゃん! なにからなにまで人のせいにしてんじゃねーよ!」
両者怒鳴りあったかと思うとたちまち掴み合いになった。
金切り声をあげながら髪や制服を引っ張り合う。
さすがに止めた方が良いのだろうが、クラスリーダーたる斉藤が傍にいるのだから任せておこうか。
「お、おいやめろって! お前ら昨日まで仲良かっただろ! 喧嘩なんかするなよ!」
斉藤が懸命に仲裁するのだが既に口で言って収まる段階ではなくなっている。
そもそもこいつらの仲が良かったことなど一度もない。常にどっちかがイライラしてたぞ。
ちなみに仲瀬は自分が煽った癖にいざ火がついたら顔を強張らせて引いてしまっている。
高野が相手の髪を引っ張り、激昂した相手のビンタがもろに入った。
乾いた音が教室中に響き、高野がふらつく。
「――こ、こいつ!!」
「お、おい! 暴力はやめろって!」
斉藤が慌てて間に入る。
しかし本人達を直接押さえようとしないので止まらない。
「……」
斉藤は視線を教室の端に逃げた仲瀬、気付かないふりでスマホをいじっている元村に向け、反応がないとわかると俺達の方を見てきた。助けを求めてるのか?
斉藤がこちらを見ている間に事態は進む。
ビンタを食らった高野が涙目になり……机の上にあったボールペンを掴んだのだ。
「お前なんかぁ!!」
ここまでだ。
高野が半泣きでボールペンを振り上げたところで俺は飛び出し、後ろから長めのポニーテールを掴んで引っ張る。
「痛っ!」
体勢を崩したところで間髪いれずにペンを持つ腕を掴み、胸の下に手を回して後ろから抱きしめるように押さえる。
「乱暴にして悪い。でもペンは怪我させるから止めとけ」
高野は相手と俺を罵りながら暴れ、俺は謝りながらひたすら押さえる。
彼女は身長も体格も女子の平均程度なので多少暴れられても問題ない。
すると今度は喧嘩相手の方がもう一発殴ってやろうと手を振り上げたが、こちらは陽助が飛び込んで手を掴み、強めの口調で言い聞かせた。
拘束すること30秒、頭が冷えたのか二人共に力が抜け、高野は半泣きのまま席に突っ伏し、もう片方の女子は顔を真っ赤にして教室から出ていく。
緊張していたクラスの雰囲気が柔らかくなった。
「ナイス双見。江崎もナイスだ」
ふうと息を吐いた斉藤が近寄ってくるので俺は不満げな顔で曖昧に返事する。
『近くに居たならボールペン掴んだ時点でさっさと押さえろよ』
『お前が最初からきつめに言えば殴り合いにはならなかっただろ』
『でもおかげで女子に抱きつけたからありがとう』
などと思ったが斉藤を敵に回しても何の益もないので言わないでおく。
煽るだけ煽って火がついたらビビって引いた仲瀬と下を向いてスマホをいじるふりをしていた元村は論外で文句すら出てこない。
特に仲瀬はそんな根性で昨日はよく俺に絡んで来たな。
もし俺がぶち切れて殴りかかっていたらどうするつもりだったんだ。
俺は机に突っ伏して泣きだした高野の所に向かう。
「ごめん、痛かったよな」
フイと顔が逸らされる。
「女の子が怪我するの見たくなくてさ。怒らないでよ」
高野は赤い目のまま、ほんの少しだけ俺をみてくれる。
「お前の香水良い匂いだよな。髪もすごく綺麗で手もすべすべだ」
見え見えの機嫌とりだが、やらないよりは絶対良い。
「また何かあったら今度は高野の味方するからさ。泣かないでくれよ」
高野がやっと顔をあげてくれる。
もう少しきつめのイメージがあったが、泣き顔のせいか弱々しく見える。
こういう感じも実に良い。
「……なにそれ。わざとらしすぎ、下心出過ぎ」
「高野は可愛いから下心も出るよ」
高野がくすっと笑った。
「双見って教室の端で江崎とつるんでる良くわからない奴ってイメージだったけど……こんなスケベだったんだ。さっきもやたら体ひっつけてきたし」
「頭の中ではもっとクールに止めてたんだけど、体の方があわよくばと調子に乗って……」
高野は笑いだした後、冗談めかして脚を蹴ってきた。
泣き止んだのでよしとしよう。
ちなみに押さえた時の感触では高野は胸こそかなり小さかったが尻は並より大きめだった。
教室でよくダイエットの話をしているだけあって全体は痩せ型、もう少し肉が付いた方が嬉しいかな。
そして放課後……。
「ねえ双見、あんた部活ってやってないんだよね?」
「ああ、入るつもりないな」
放課後、俺の席に何故か高野がやってきた。
昼休みの件でいつものメンバーとは気まずいのだろうか。
「ふーん。塾とかも行かない感じ?」
高野が俺の机に座る。
少しガラが悪くも見えるが、俺はそんな感じの女の子も好きなのだ。
「行くつもりないなぁ」
『裏』で勉強しているせいか成績は悪くない。
「服とかは興味あんの?」
足をバタバタさせながら聞いてくる。
隣の席の女子が少し嫌がっているので足先を軽く押さえて止める。
「そりゃあるさ。特に今流行ってる透けスカートとかいいよな。中にズボン穿いてるってわかってても脚の形が透けて見えると――」
「誉……多分お前がエロスを感じる服のことじゃねえと思うぞ」
陽助に突っ込まれて、俺は大きく伸びをする。
この間で今の10秒ぐらいは無かったことになるだろう。
「母親の買ってくる服は卒業したぐらいかな。服屋のマネキンを真似してる程度だ」
「……あんたが筋金入りのエロだってことはわかったわ。ふーん、そっかそっか」
高野はひょいと俺の机から降りる。
そして彼女は気まずそうにしている自分のグループに戻っていった。
「あーあ」
高野が離れた途端、陽助がジト目で俺を見る。
「なんだよその目は」
「あれは近いうちにくるだろうなってことだ」
陽助は言いながら机の上に飴を二つ置いた。
漢飴と普通の果物飴、俺は遠慮なくどっちも貰うことにする。
「誉ー江崎君ー。帰りにクレープ食べに行かない? 美味しいお店があるってクラスの子がね――」
教室に入ってきた晴香が高野とすれ違う。
「……声でかいし」
「あっごめんね」
ボソリと高野が何か呟き、晴香が軽く謝った。
深刻な感じでもないので軽く体でも当たったのだろう。
「ほら、早速きたじゃねえか」
陽助が俺を膝でつつく。
なんだそりゃ。
あとあいつの燃費どうなってるんだ。
「カツカレーのダメージも癒えたし甘い物もいいかもな」
俺は晴香と並んで歩き出す。
到着したのは小さな商店街のクレープ屋だ。
俺は甘さを食いだめしておこうとイチゴとモモのいかにもなクレープに生クリームを増量、そして晴香は……ハムクレープとツナクレープの二本立てかよ。
「別にいいでしょ。女子高生はスイーツ大好きなの、甘い物は別腹だから!」
「スイーツ……? 甘いもの……?」
晴香のはもう飯でしかない。
炭水化物とタンパク質が支配している。
「ええい、ならそっちを寄越せー!」
晴香が俺のクレープに食らいつく。
「お返しにこっちのも」
差し出される飯クレープ。
「間接キスに照れる展開とかは?」
「……昨日がっつり舌まで入れた口が何を言うか」
それもそうかとかぶりつくと、唇が少しだけ指にあたってしまった。
「――――!!!」
晴香の顔が一瞬で真っ赤になり、声にならない声をあげている。
間接キスは気にしないのに指に唇が触れただけでこの反応はなんだろう。
そういえばまた中指だ、何があるんだ中指に。
そう言えば陽助を忘れていた。
見ようによってはイチャつきまくっていたようにも見えただろうし、呆れているかなと振り返る。
「お子さんは僕と同じぐらいなんですか。羨ましいな、こんな美人なお母さんと一緒に過ごせるなんて。反抗期? はは、そんな時期もありますよね。僕も昔は……ところでお店が終わるのは何時ぐらい……」
陽助は隣の総菜屋のおばちゃんを口説いていた。
「「ええ……」」
俺と晴香の声が揃う。
「あ、二人とも。俺クレープ食い終わったらそこの喫茶店で時間潰すから、ここで解散にしようか」
「「ええ……」」
俺と晴香の声が二度揃った。
成功したのかよ。