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第87話 アラモタワー 5月30日【裏】

5月30日【裏】


「ミドリ……さん? ええと、だな……」


 俺は言い淀みながら混乱する頭をいったん整理する。

『表』ではアヤメを抱き締めて穏やかな気分で眠り、起きるなりの罵倒で混乱してしまった。


 俺が体を起こすと、その下になっていたミドリもゆっくりと体を起こす。

もちろん俺も彼女も昨日寝た時と同じく生まれたままの姿だ。


「嫌だって言ってるのに脅して無理やり……男なんてみんな最低の全員ケダモノなのよ……グスン」


 ミドリは両手で胸を隠して俺を睨みながら言った。


「そのことなんだけどさ。確かにケダモノになってヤっちゃった覚えはあるけど、俺の記憶が正しければ誘ったのそっちからじゃなかったっけ?」


 松野の指示で俺に抱かれに来たミドリに俺はあくまで紳士的に対応した。

しかしミドリの誘惑は止まらず、俺のリミッターは弾け飛び、とうとう怪獣になって致してしまったと、そういう流れだったはずだ。


 ただ疲労が限界に近かったせいで記憶に曖昧な部分もある。

もし本当に無理やりしていたらこれは大変なことだ。

とりあえず、すぐに土下座できる準備だけはしておかないと。


「俺マジで脅して無理やりやったの? アイデンティティーの根幹に関わる部分なんだけど……」


 そんなはずはないのにと首を捻る俺にミドリの指が突き付けられた。

指の形は綺麗なのに爪先がボロボロだな。これは日常的に細工や製作などしている手だ。


「女の子にあんなえげつないの突き付けるのはもう脅迫でしょ」


「なんだよそれ……。今、思い出したけどやっぱりお前の誘惑に俺が乗って普通にキスから始めたはずだ。かなり甘い感じで愛し合ったはずなのに無理やりはひどいだろ」


 これで無理やりだと言われたら男はたまらない。

危うく無実の罪で土下座するところだった。


 だがミドリの糾弾は止まらない。


「最初はそうでも途中から酷かったでしょ! あんなメチャクチャな抱き方されたら合意は無効だ!」


 はてメチャクチャとはなんだっけ?


「サイズがサイズだからゆったりシーソーしてねって言ったのに、突然削岩機持ち出したんじゃない!! しかも私が泣き叫んでるのにプロレス技みたいな体勢になるしー! 頭にバチバチ電気走って死ぬかと思ったっての! 急に止まったと思ったら乗っかったまま寝ちゃってるし!!」


「そうそう途中から覚えてないんだ。やっぱ寝落ちしてたよな」


 ブーストモードになった上に、ここしばらくアオイと同居していて男の色々が解消できていなかった。そこにミドリのような同年代で可愛い女の子からOKサインを出されたら暴走しても仕方ない。


「ほんと最低失望したわ。自分勝手でどうしようもない男よ――誉様は」


「あん?」


 ミドリは顔も見たくないとばかりにフンと鼻を鳴らし、俺の首筋と唇と鎖骨に3つキスを落としてからベッドを降りて水ペットボトルの封を切った。


「エッチはちょっと上手いかもしれないけど、そんなので女の子は……んぐ」


 そして口に含んだ水を口移しで俺に飲ませ、蕩けた目のまま額にもキスをしてくる。


「松野に逆らっても良いことなんてないしこれからも抱かれてあげるけど。あくまで義務で性欲解消してあげるだけの関係だから――」


 続いてミドリは僅かに湿らせたタオルで俺の汗を拭きとりながらキスを繰り返し、最後は胸板に顔を擦りつけてながら湿った熱い息を吐いた。


「台詞と行動が一致してなくて脳みそ混乱するんだが」


 俺がそういうとミドリはドンとベッドを叩く。 


「誉様のが大きすぎるせいで体が勝手に負けちゃったんだから仕方ないでしょ!!」

「そりゃごめん」


 勢いに押されて謝ってしまった。


「しかも見た目もメッチャ好みなの! 世界がこんなになる前にダーリンに合コンで会ってたら普通にアタックしてたっての!」


「呼び方がすごいことになってるのは置いといてありがとう?」


 ミドリは険しい顔で更に迫って来る。

声が入っていなければ糾弾されているように見えるかもしれない。


「特に行為中に耳元で言われた『ミドリは今日から俺の女だ、いいな? 俺の女になると言え!』で頭から足の先まで電流走ったっての! 松野にヤられた体の記憶をご主人様ので塗り替えてよ!」


 これはもう色々と気にしたら負けなんだろうな。


 さて昨日の夕方ここに到着して眠り、今はもう翌日の夕方だ。


 36時間の隔離が明けるのは明日の朝。

ぐっすり寝て疲労も抜け、ミドリのおかげで性欲の暴走も収まった。


 つまり少しばかり暇になってしまったのだ。

とはいえただゴロゴロ過ごすのは有意義ではない。


 俺がベッドに仰向けになって腕を伸ばすとミドリはすぐに頭を乗せてくる。


「もっかい寝るの? 愛しいアナタ」


 呼び方はもう置いておこう。そのうち正気に戻るだろう。


「ここの話を聞かせてくれよ」


 それより少しでも情報を集めておきたかった。


 

 俺とミドリはベッドの上に仰向けになり、互いに触れ合いながら話す。

おっと天井に小型カメラ発見だ。しかもマイク付きとは恐れ入る。

しかし設置場所があそこでは死角が……予想通り向こうにもあったか、2台体制とは贅沢な。

 

「じゃあ階の割り振りから説明するね。アラモタワーは25階建てなんだけど10階から下は全部放棄エリアね。エレベーターは止まらないし物資も人もいないエリアだから、万が一群れて積み上がったゾンビが窓から入って来ても実害がないようになってる。非常階段入口も溶接しちゃってるから他の階にもいけない」


 これができるのが高層ビルの利点だ。

通常の民家やアパートだと、どこかの部屋にゾンビが侵入したらお終いだが、高層ビルは各階がほとんど独立しているので最悪の場合でも階段やエレベーターなど階層移動手段さえ厳重に管理出来れば拠点の安全は保たれる。あとは危機が過ぎた後に討伐隊でも組んでゆっくり掃討していけばいい。


「11階はここで隔離エリア、1つ上が懲罰エリアだね」


 懲罰エリアとは実質監獄か。

全滅してもダメージの低い隔離エリアと牢獄を居住区の防波堤にしているのだろう。


 俺はミドリの話を聞きつつ頭の中で整理していく。


 13階と14階は新参者に与えられた区域で15階はクリニックとジム、食堂兼集会場のみ。

16階~22階が古参の『正式な住人』が住む場所、23階は物資倉庫、24階と25階は重要な役職者用の部屋か。


「見えてきたな」

「なにが?」


 ここのリーダーの本当の性格――過度に慎重なのは誰でもわかるだろうがもう一つ見えて来た。

まあマイクの前で口に出すのは良くない。


「ミドリの綺麗な胸かな」


 俺は誤魔化して笑う。


「いきなりスケベかよ! ……形綺麗でしょ自信あるんだ」


 俺はミドリとイチャつきながら続きを促す。


「水は循環型の浄化装置があるからそれほど不足しないかな。飲むとちょっと臭いからみんなペットボトルのを飲みたがるけどね。役職者と松野なんて毎日シャワーも浴びてる……アイツに抱かれた後に私も浴びれるのが唯一の救いだった」 

 

 言いながら体を擦りつけてくるミドリを撫でる。


 水を心配しなくて良いのはかなり大きい。

やはり調達で一番厄介なのは重たい水だからな。


「電気はソーラーパネルと風車に蓄電池の複合システムが機能してて普通に使えるよ。と言っても新参に許されてるのは基本照明ぐらいだけど。古参の居住者は交代で炊飯器とかレンジとか使ったりできるみたい。役職者は普通に冷蔵庫とか空調までつけてるってさ。ただ無風で曇ってるなんて時には照明消えたりもするよ」


「そりゃすごい」


 素直かつ大げさに驚いたのはカメラを意識してのことだが本音でもある。

ミドリの口調には不平等への不満が感じられたが、この世界で電気を使える環境がどれほど恵まれているか。


 俺が住んでいたマンションも生存者サバイバーの拠点としてはかなり良い条件だったと思うが、やはり居住者タワーズとは比べられるものではない。まして煤けたクラブ跡など話にもならない。


 不快な奴の部下になり、嫌な記憶しかない居住者タワーズの一員となってでもアオイに与えるべき環境だ。


「ただ唯一心配なのはこれだよな」


 俺は入口に差し入れられていた食事をベッドの上に並べた。

乾パンにツナ缶、個包装された種類バラバラの煎餅とコンソメスープの素……。


「いかにも絞り出したって感じだ」


 俺は煎餅を小さく齧って舌にのせる。

かなり痛んできているが、まだギリギリ大丈夫かな。


「このところ調達が上手くいかなくて食料の在庫が底をつきかけてるみたい。配給もかなり減ってみんな痩せて来てるんだ。今回の調達も大失敗だったし慣れた人もほとんどいなくなっちゃったから……いよいよヤバいかも」 


「そうか」


 俺は松野に気に入られている。

だがそれだけでは俺の――正確にはアオイの立場は保証できない。


「大きな成果が必要だな」


 俺とアオイを捨てることなどできないとここの連中に思い知らせる必要がある。

そうすればタイゾウ達の捜索に融通を利かせることもできるだろう。

 

「目が覚めてからが大変だ。色々頑張らないと」

 

「うん。明日隔離が解けたらみんなと顔合わせになるね。多分古参の人は良い顔しないと思うけど松野のお気に入りなら何も言って来れないかもね。リーダーは温厚な人だから大丈夫かも」


 そうではないのだが説明できないので何も言わずに虚空を見上げる。


 その後も俺は一人虚空を見上げながら思考を続け、ふと意識を戻すと眼前のミドリが感情のまったくこもらない無表情で俺を覗き込んでいることに気付いた。


「ん?」


 俺が怪訝な顔をした瞬間、ミドリに表情が戻る。


「ふふ、なんでもなーい」


 そのままミドリは俺に抱きついてじゃれる。


 クスクスと笑いながらベッドの上を転がって遊び、ふと動きを止めた瞬間にお互いの体からオスとメスの匂いが立ち込めているのに気づく。


「「……」」


 俺達はしばし見つめ合ってから、もう一度互いの体を繋げていくのだった。



主人公 双見誉 

拠点 両河ニューアラモレジデンス『アラモタワー』 隔離室

環境 食料不足 

人間関係

仲間

アオイ「隔離中」タイコ「隔離中」ミドリ#8「イチャラブ」

中立

松野「お楽しみ」ヒデキ?「隔離中」


備蓄

食料?日 水365日以上 電池バッテリー∞ 麻酔注射器三回分

経験値 132+X



今回はアラモタワーの説明回になってしまいましたね。

次回は再び表に戻って話が進みます。

更新は明日19時頃予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 考え込んでるのを別の女のこと考えてるとか勘繰っちゃったかな
[一言] なんだか怖いですねこの娘 肚にどんな闇を抱えてるんだか
[一言] ミドリは信用出来ないなー(>人<;)
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