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第83話 新の秘密② 5月30日


「は? え? あ……」


 まず突然真剣に聞かれたことへの困惑、次にイジメうんぬんと理解して……思い当たるところがあった。そんな顔だ。


「い、いきなりなんだよ兄ちゃん。そんなイジメなんて大げさなもんじゃねえって」

 

 笑いながら違う違うと手を振る新。

だが反抗盛りの中学3年生が素直に認める訳がないのも想定済みだ。


「誰でもそういうんだって。いいから話せよ母さん達には言わないから」


「いやだから……」


 新の視線が廊下に向いたので追ってみると何故か紬が廊下でひっくり返っていた。


 がに股で仰向け、寝間着用のよれよれスウェットはまくれ上がりヘソ丸見えの酷い格好だ。


 姉に聞かれるのは恰好悪いと思うだろうし紬は部屋に放り込んでおこう。


 スウェットがヨレヨレ過ぎて運んでいるうちに脱げてしまったがもう温かいし風邪ひくこともないか。

ベッドが汚くて乗せる場所がない……仕方ないからうつ伏せにして床のクッションに乗せておこう。


 下着タンクトップはめくれ、色気の無いパンツがずり下がって半ケツ姿で床に突っ伏すのはあんまりな光景だが、今は紬の服を整えるより新のことが優先だ。


「さあ紬は片付けたから話せよ。兄ちゃんがなんとかしてやる」


 俺は尚もモゴつく新の肩を掴んで迫る。

いくら嫌がられても全てを話すまで引くつもりはない。


「マジでイジメとかそんな大げさなもんじゃないからな? 相手の奴がちょっとふざけてるだけだから」


「ああ分かってる。それでいいから」

 

 新は何度もイジメじゃないと強調してようやく話し始める。


「クラスの奴じゃないんだ。テニス部の奴で……まぁ今はほとんど来てないんだけど」


 クラスメイトでなくとも部活が同じとなると逃げ場がないじゃないか。

これは早めに対処しないといけない。


「いっこ下の奴でさ。教室とかには普通に来るんだけど」


「背中もソレも教室でやられたのか?」


 新は驚いたような顔を居た後、俯いて苦笑する。


「……相手が突然切れてベルトで。クラスの奴らの前だったから痛いより恥ずかしくてさ」


 俺は溢れそうになる怒気をかみ殺して新が話しやすい雰囲気を維持する。


 なるほど後輩か。年下にいじめられているのが恥ずかしくて言うのを渋っていたのだろう。

新は体が小さくて大人しい性格だから年下に何かされるのもあり得る話だ。


 相手の方も上級生の教室で新に何かするぐらいだから相当なやつなんだろう。

クラスメイトの前で年下にいじめられるなんて恥ずかしくて、ふざけているだけだと笑うしかなかったのだ。


 可愛い新にこんなひどいことをしてタダで済むと思うなよ。

必要な分に3割増して痛めつけてやる。


「まあ女の子の力だから大したことはないって」


「ん?」


 俺は脳内で組み上げていたモヒカンで舌ピアスの不良後輩イメージを一旦停止させる。


「女の子?」


「うん。女の子」


 俺は掴んでいた新の肩から手を放して考え込む。


「そっか年下の女の子か」

 

 少し……いや結構なイメージのずれがあったようだがまだわからない。

年下女子といってもゴリラの亜種みたいな奴なら十分あり得る。


「部活の連中で撮った写メが……」


 ぶすっとした顔で写っていたのはかなりの小柄――身長160cmの新の肩までしかないとなるとこの子身長140cmあるかないかだぞ。


「このちっこい子に?」


「うん」

  

 まだだ、まだ残っている可能性を考えろ。

そう数だ。こいつ中心に徒党を組んでいじめられている可能性もあるじゃないか。

俺がやられたら最早ご褒美だが、純粋な新にはいじめに違いない。


「相手は何人?」

「この子だけだけど」


 そっかぁ。

こんなちっこい年下の女の子1人にいじめられちゃってるのか。


「金曜日に突然キれて教室で騒いでさ。ベルトでぶたれて顔とか踏まれて……情けなくて悔しくて……」


 このちびっこが仰向けになった自分の上に乗り、顔を踏みながらベルトで叩かれる……ううん。


「心配するな。兄ちゃんがなんとかしてやるから、お前は明日からのテスト勉強集中しとけ」



 俺は新の頭を撫でて部屋を出る。


 そして深く大きなため息をついた。


「どうしよ」


 もし相手が想像通りのモヒカンピアスだったら夜道で後ろから蹴り飛ばし指を全部折ってから、元に戻らない折り方で鼻を曲げてやるつもりだったが、もちろん女の子にそんなことはできない。

 

 罠に嵌めて退場させるにしても、こんなちびっこい年下女子にそこまではな。


「背中に傷がつくほど叩かれたのは確かだしな。クラスメイトの前で顔を踏まれるってのも屈辱で辛いはずだ」


 新は優しいから女の子にやり返したり抵抗したりできないのだろう。

放置すればこれをきっかけにクラスの笑いものになってしまう可能性がある。

やはり俺がなんとかしてやらないといけない。


 最初に考えていたのとは別の方向で考えて行く必要がありそうだ。


「顔は覚えた。他の情報は……」


 放置していたトークを開く。


『お兄さんどうしましたかー?』


『おーい』


『なにかありました?』


 俺は連続できていたヒナからのトーク画面を開く。


 機嫌を損ねているだろうし会話を切ったタイミングもまずかった。

新の問題から目を逸らせるほどインパクトある言い訳が必要だ。


『突然止まってごめんね 姉からイボ痔が破れて出血したってパニックで電話きてさ 本当にごめん』


 ヒナは紬の存在すら知らないだろうし嘘を吐き捨てても大丈夫だろう。


『マ、マジですか 紬さんですよね? 前に駅で新君と一緒にいるの見かけてお話したことありますけど……ひどい痔持ちだったんですね』


「面識あるじゃねえか」


 今更嘘とも言えないし顔を知っていたことでイボ痔インパクトが増したので良しとしよう。


『それでどんな話だったかな――新が虐められてるだっけ? そう言えば年下の子にじゃれ付かれて困るって言ってたなぁ 背中をベルトで叩かれて痛かったけど気持ち良かったってさ』


『ええー新君Mなんですかー笑』


『そうなんだよ 俺もだから遺伝かな?』


 新はクラスメイトにいじめられていると思われたくないだろうしあえて軽い笑い話にしておこう。

俺が直接解決すればいいだけのことだ。


『でも相手の子根性あるよね 上級生の教室でなんてさ 仲良いのかな?』


『あーそれは……』


 ひっかかったような言い方に俺は緩みかけていた表情を戻す。


『あんま話すことじゃないんですけど どうしようかな』


『えーなになに? 秘密だって言われたら気になるなぁ』


 俺は真面目な顔のまま軽い口調と適当な顔文字を連打する。


『ヒナちゃん教えてよー 絶対秘密にするしテスト終わったら美味しいお店でパフェ奢るからさ』

 

『うーん まあ新君のお兄さんだしいいかな笑』 


「ま、女子中学生に秘密なんて守れるはずない。どんなことでも人に話したい年頃だ」


 ついでにヒナとデートの約束も取り付けたがこれは手段であって目的ではない。ないのだ。


『相手の子【雨野】さんって言うんですけど』


『あー新から名前だけは聞いたことあるなぁ』


 もちろん初耳だが俺も知っていると言っておくことで『秘密』を話すハードルを下げておく。


『テニス部の子で元々新君とは結構仲良かったらしいんですよ でも去年の春あたりから部活も学校もあんまり来なくなったらしくて これは噂なんですけど』


 ここからが本題だ。

同じテニス部でもないヒナが学年も違う女子の詳細を知っているのは妙だ。

つまり雨野は学校中で有名――この場合悪い意味で――ということだ。


『夜中に新都歩いてて補導されたーとか 毎日同じ服着てて家帰ってないーとか もっと悪いのだと中年のおじさんと腕組んで歩いてたーとかも』


『うわーやばいね 学校でも不良みたいな感じ?』


 つるむ仲間がいるのかは改めて確認しておかないといけない。


『うーん不良グループとは関わってないとは聞きますけど……先生達の話を聞いた子が言ってたんですけど家庭環境がやばいぐらい悪いらしくて 服もボロボロで替えてなくて親はアレって噂もあるんですよ それでクラスの子もあんまり関わりたがらなくて』


 なるほど理解できた。

普通に考えれば教室で下級生が暴れたら誰か止めそうなものだと思っていたのだ。

相手はモヒカンピアスの大男でもなくちっこい女の子なのだから。

誰も止めないというのは親関係のことが知れ渡っているのか。


『金曜も新君が話しているところにきて突然キレて……』


『ええー突然!? やばい子だね ちなみにどんな話だったの?」


 まさか新がその子の悪口なんて言うはずがないのに何をキレるのか。


『確かお兄さんと紬さんが毎日しょうもないことで騒いで困る みたいな話だったかなぁ』


 パズルのピースが埋まって来たな。


 俺はヒナとの会話を綺麗に終わらせて今度はキョウコへ電話をかける。


 そこで紬の部屋から母親の怒鳴り声が聞こえて来た。


「紬っあんた今年で二十歳でしょ! なのにただいまも言わない、手も洗わないまま半ケツ出して床で寝るなんていい加減にしなさい!」 


「知らないよぉ! 今日は朝ご飯食べてからずっと寝てたのに! 他にも何か……だ、ダメだ、何か衝撃的なものを見たせいで記憶が……バラの花しか思い出せないぃ! うわー母さんお尻叩かないでー!!」


 呼び出し音を聞きながら紬に心の中で謝っておく。 

ヒナにも『お姉さんにお尻お大事にってお伝えください』とか言われたしな。

それも含めてごめん姉さん。


 さて巻き込まれると困るのでそのまま家を出よう。


「双見から電話くれるなんて珍しいじゃん。もしかしてこれから――」


「お前、夜遊びするなら新都のどこに行く? 条件はテスト前日、家には帰りたくなくて友達もいないとする。ついでにヤケクソになってるちっこい中学生ともする」


「別人じゃねーか!」


 いいからさっさと答えろ。

新のテストの為にも今日中にあたりをつけたいんだ。


「……ガチの男漁りと単に時間潰すのどっちよ」


 やっぱこいつ男漁りとかしてたのか。

想像するとワクワクしてきたが今はそれどころではない。




――新都 夕刻


 俺はハンバーガー屋の窓際に座って外を睨む。


 キョウコから聞いた遊びポイントを移動するなら高確率でここを通る。

目当ての顔は確実に覚えているし身長の小ささも目立つから見逃すことはないはずだ。


「とはいえ相手は家に帰ってない可能性もあるからな。日が変わる時間となるとさすがに……」


 愚痴を言った途端、窓の外を小さな影がすっと横切る。


「ビンゴ」


 日曜の夜だけあって人通りはまだマシだがそれでもあの小さな体は見失いやすい。

そう思って走りながら店から飛び出した俺の耳にデカい声が飛び込んでくる。


「えーおっさんうちとヤりたいの? 安くないけどー?」


「ち、違っ! なにを言うんだ君は!!」


 見れば目当ての少女が中年男性と揉めている。


 下手すれば小学生にも見える体格の少女が甲高い声で言うものだから周りの視線が一気に集まる。


「うーわおっさん騒ぐから見られてんじゃん。せっかくうちみたいなちっこい子に悪戯できそうだったのにざんねーん」


「違う! この子がぶつかってきて文句を言ったら――ええいもう帰る、帰るから!!」


 男性は手を振って怒鳴り、地面に落としたカバンも忘れてそのまま走り去っていった。


 少女はケラケラ笑いながらポケットに手を突っ込み、歩き去って行く。


「ふむ」


 目当ての少女で間違いないのだが新に見せてもらった写真とは結構違うな。


 まず写真ではしていなかったピアスが耳に複数ついており、ポニーテールだった髪はボサボサ、一応茶髪に染めているようだが根元の方が黒く戻ったいわゆるプリン髪と言うやつだ。

服装はパーカーとかなり短めのホットパンツ……。


「実に生意気そうなガキだけど、それもまたいい」


 おっとそういう話じゃなかった。


 気になるのはパーカーの汚れだな。

単に何かで汚してしまったとかではなく数日着っぱなしにした汚れに見える。


 靴も……安物の男物スニーカーそしてボロボロだ。


 俺は少女に無関心を装い、かつ目を離さずに後ろをつけていくのだった。


『表』

主人公 双見誉 市立両河高校一年生 尾行モード

人間関係

家族 父母 紬「尻痛」新「弟」

友人 那瀬川 晴香#26「女友達」三藤 奈津美#5「庇護対象」風里 苺子「友人」江崎陽助「友人」高野 陽花里#1「クラスメイト浮」上月 秋那#14「エッチなお姉さん」キョウコ#2 ユウカ#2「クラスメイト」

中立 ヨシオ「暇」ヒナ「約束」

敵対 雨野「メスガキ」

経験値138



次回は更新は明日19時予定になります!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 自分の知らないところで、 イボ痔がバクハツしたと思われてるなんて。 ツラタン( ;∀;) [気になる点] 誤字報告は既にあったので [一言] メスガキが調教されちゃうのか、 そして新の彼…
[気になる点] 拠点の春←去年の春 であってますか [一言] 兄弟揃ってM気質なのか はたまたこの子も事情があるのか 楽しみです
[一言] 前回の感想にはあえて書きませんでしたが、やっぱり女の子でした。 しかもこれは攻略ヒロインですね!(どっちの?)
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