第77話 川遊び① 5月29日
5月29日(土)『表』
「なんだかんだでテスト終わったからこの週末は遊びまくるべきだよな」
『裏』のことであんまりそんな気分じゃなかったが紬に甘えてかなり改善した。
そしてその紬は目の前で新と揉めている。
なんでも先週、新のスポーツバックを無断で借りていったとかで喧嘩しているらしい。
「ちょっと借りただけじゃん。そんなことでいちいち怒んないでよ」
「借りただけなら怒んねえよ! 中にチョコ菓子入れ忘れやがって!」
借りたのが先週で気付いたのが今ならひどいことになってそうだと笑ってしまう。
「テスト中はずっとアホの面倒見てたからな……反動で頭のいい女の子と遊びたい」
反射的に思いついたのは風里だ。
そして反射的な動きのままトークを送ってしまう。
『今日は暑いぐらい気温上がるらしいぞ。テスト後の息抜きも兼ねて川遊びでもいかないか? ミニスカートかショートパンツでさ』
さて目の前では口喧嘩がいよいよ武力闘争に発展し始めた。
新が紬のほっぺを引っ張り、怒った紬が飛びついてプロレス技をかけているのだ。
おっと風里から返事がきた。
『確認するわ。少し待っていなさい』
罵倒されて断られる覚悟もしていたがこれは脈有りだぞ。
それにしても風里のこの命令口調いいよな、心の奥底がゾクゾクする。
「お姉ちゃんの頬っぺた引っ張るような弟にはこうだ! どうだ参ったか!」
「はんっ! チビっこい姉ちゃんの技なんか効かねえよ!」
俺は騒ぎ回る2人を笑顔で見ながら準備を始めておく。
自転車に積める範囲であれとこれと、風里がゆっくり座れるように折り畳みの椅子も要るな。
『確認したわ。行ってあげるから時間と場所を教えなさい』
「よし!」
念の為にXLも持って行こう
屋外だし5つもあれば足りるだろう。
「ちょっと出かけてくる。夕飯前には帰って来るから」
「食らえツムギスペシャル!!」
「いってぇぇぇ!!」
2人とも聞いてねえな。
というかツムギスペシャルって単に両手で太もも抓りあげてるだけじゃねえか。
俺は苦笑しつつ行ってきますと呟き、振り返って家の外観と騒がしい声が聞こえ続けているのを確認してから自転車に乗った。
鼻歌を歌いながら合流場所に到着した俺を待っていたのはラーメン屋ばりに腕組みした風里と晴香だった。
「申し開きはあるかしら?」
「かしら!」
ニコっと笑ってさあ行こうかと先導した俺の襟首が2人に捕まえられる。
確認というのは晴香にだったらしい。
「……私抜きで遊ぼうとしてたの?」
晴香が俺を睨みつける。
「違うって。ただ本能が反射的に風里を――なんだその手?」
風里は俺の言い訳なんて聞きたくないとばかりに手を差し出し、何かを寄越せのジェスチャーをする。
「出しなさい」
「いやいや屋外だぞ。さすがに……ぐぇっ!」
風里に股間を蹴飛ばされて大人しく財布を出す。
カツアゲなんて初めて体験した。
風里は俺の財布から現金を……抜くことはせず、もっとまずいものを引きずり出した。
「見なさい晴香言った通りでしょう? このケダモノ5枚も持って来ていたわ」
「ドスケベ誉ぇ……これは没収!」
俺は雲一つない青い空を見上げつつ、後頭部をつつかれ、尻を蹴られながら山の手の川遊びスポットに向かう。
「3人集まったなら奈津美も呼んでやらないか? 陽助は温泉行くとかいってたからいいけど」
温泉ってチョイスでもう相手の年齢が連想できるんだよな。
「連絡したけれど反応がないわ。テスト疲れで寝ているのじゃないかしら。あれだけ居眠りばかりしていたくせに……」
まだ根に持っているようだ。
ともあれ川遊びだ。
俺達が向かったのは山の手のキャンプ場近くにある小川だった。
名所と言うほど大した場所ではないが、それなりに綺麗でそれなりに水量が多く、それなりに川原も広い。何より住宅街から歩いていける距離にあるので割とポピュラーな遊び場所だ。
今も家族連れから中学生らしきグループ、大学生っぽいカップルが楽しんでいる。
「テスト勉強で籠りっきりだったし外で遊ぶ方がいいと思ってな。特に風里は普段からずっと室内にいるイメージだったからさ」
俺は川原の良い場所に折り畳み椅子を広げて風里を座らせる。
「それで私だけに連絡をくれたのね」
俺はいい笑顔で頷く。
そして晴香に5枚のXLを突き付けられて目を逸らす。
「晴香も今日は思いっきり……ってなんだよそれ」
見れば晴香も自分の自転車から何かをおろしている。
「バーベキューセット持って来たのかよ」
「下味つけたお肉もあるよ」
晴香はポンとクーラーボックスを叩く。
いかにも重そうだなおい、何キロ入っているんだろう。
風里は本を取り出す。
ここまできて読書かとも思うが、陽の下風の吹き抜ける中で本を読むのは部屋での勉強とは大違いか。
「ま、それもありだよな。何をしないといけないでもない。ゆったり楽しくやろうぜ」
俺も自転車からもう一つの荷物を降ろす。
「あら双見君、釣りするのね」
「いいや初めて。父さんの竿を借りて来ただけだよ。川と言えば釣りだと思って……エサエサと」
餌を取り出して顔をあげると、今まですぐ傍にいたはずの風里が10mも離れていた。
「……あっと手が滑った」
ミミズを放り投げる真似をすると風里が石を握って振りかぶる。
拳大のはマジで死ぬからやめてくれ。
「まさか誉またスケベなことしたの!?」
そこに晴香が飛び込んでくる。
「ええ変態プレイを強要されそうになったわ。川に沈めてやって」
言い訳する間もなく俺は晴香に川へ引っ張り込まれる。
「待て靴ぐらい脱がせろって! ぐえっ!?」
靴のまま川に入った俺はコケで足を滑らせて全身びしょ濡れになる。
「あ、あちゃー。ごめん誉、スマホとか大丈……」
そしてやりすぎたかと心配そうに近寄ってきた晴香に濡れたまま抱きつく。
「こうなったら道連れだ! そら透けろーー!」
「ぎゃー! って残念。最初から川入るってわかってたから下に水着を着てきたもんねー」
俺はフフンと余裕そうに笑う晴香と目を合わせる。
「透けろぉ――!!」
「迫力2倍になった!? 水着着てるのになんでー!」
「騒がしいわねえ」
俺達は釣り、水遊び、読書と思い思いに遊ぶ。
別々のことをしていても絶え間なく話し続けて笑い合い、唐突にじゃれ合う。
なんの意味も目的もない遊びだが、心身の疲れが取れていくのがわかる。
なにより2人ともショートパンツなのがいいよな。
「水辺を選んで正解だった。山だとこうはいかない」
「スケベが顔と口に出てるわよ」
風里に素足で弾いた水をかけられる。
仕方ないので足の甲にキス……も芸がないのでペロリと舐めてみる。
そこを近くの家族連れに目撃され、両親が子どもを俺達から遠ざけた。
「風里せめて水かけてくれ。直接蹴りにくるのはダメだろ」
バカなことを言い合っていると晴香がこちらに向けて手を振っていた。
「お肉焼けたよー!」
俺と風里の腹が同時に鳴る。
バーベキューの準備が整ったようだ。
「晴香は本当にすごいな……いやはやすごい。凄すぎる」
晴香の持って来た肉は下準備されている上に焼き加減も絶妙で下手な焼き肉屋よりずっと上手かった。
しかも俺がやると言っていた火起こしまで簡単にこなしてしまう。
「ありがと! どんどん食べてねーお肉はいくらでもあるから」
「本当にいくらでもあるわね……何キロあるのかしらこれ。あとスケベ男のすごいには貴女の透けた胸元も含まれているわよ」
どこまでも楽しく美味しい川遊び、そこにふと水を差す出来事が起きる。
「ウェーーイ!! ダイブいきまーーーーす!!」
デカい声と共に派手な水音、そしてそれを煽り立てる奇声と周囲の小さな悲鳴が入り混じる。
中学生のグループらしき1人が周りに人がいるにも関わらず高所から飛び込んだのだ。
「対岸まで届かせたらジュース奢りなー! オラッ!」
水切りするつもりなのか投げた石が水面を跳ね、対岸でバーベキューをしていた家族連れの近くを通過する。
母親が慌てて子どもを引き寄せるが中学生達は気付かず、奇声とも歓声ともつかない声を出して盛り上がる。
「もっと派手に行こうぜ! イエーー!」
別の男が同じグループの女の子3人へ豪快に水をかけた。
女の子達は明るい悲鳴をあげながら喜んでいたが、周囲の関係ない人にかかるのもお構いなしだ。
構成は男女3名ずつ。
本人達は実に楽しそうだが周囲は迷惑そうに距離を取っている。
しかも走り回って場所を変えながらやっているので質が悪い。
「うーん。あれはちょっとひどいなぁ」
晴香も肉を食いながら眉を顰める。
もちろん肉を焼く手とそれを口に運ぶ手は止まらないが。
「見ているだけで不愉快ね。注意してくるわ」
読書をやめて立ち上がろうとする風里を止める。
「いや俺が行くよ。風里がいっても止まらんだろありゃ」
ヤンキーといった感じではなく単に調子に乗っているだけの中学生に見えるが、揉めることがないとも限らない。特に男女混合だと男の方は強く出がちだからな。
俺はモソモソと歩きながら騒ぐ6人に向けて声をかける。
「おーいお前ら。騒ぐのもいいけど周りに迷惑かかってるからもう少し人のいないところで――わっぷ」
呼びかけた瞬間、男の1人が巻き上げた水が顔にかかった。
「ちょっとー知らない人にかかっちゃったじゃん」
「ウェーイ。すまんすー」
俺は濡れた顔を服で拭き、改めて呼びかける。
「周りに水かかってるから大人しく遊ぶか、人の居ない場所でやろうぜ――ぶへ」
別の男が目の前で川に突っ込み、今度は頭からバケツでかけられたほどの水を被る。
「頭から飛び込むとかウケるー!」
「まーたあの人にかかったしー」
「再度すまんす」
後ろに「笑」が見える言い方に少しイラッとしたが我慢する。
「小さい子もいる場所からあんまり騒いだら危ないだろ……っていねえし」
中学生共は別の場所に走り去ってしまっていた。
しかも俺の方を指差して笑ってやがる。
「……」
おいかけて川に沈めてやりたいが我慢だ。
俺は息を一つ吐き、首を振って気を静めてから晴香達の所に戻った。
「負けた」
「情けない」
俺が戻ると早速風里が毒を吐く。
「やっぱり私達も行った方が良かったかな。でも誉があんな子達に押されるなんて珍しいね。私の時の……とかでも平気な顔してたのに」
晴香がどこか心配そうに肉を盛ってくれる。
「こういう日もあるんだよ」
もちろんあんな中学生集団相手にビビって物が言えない訳はない。
ただ今日は怒りたくなかった。
どこまでも優しく良い人間でありたかった。
そのためなら水をかけられるぐらいなんでもない。
そう思っていたのだが……。
「あれさっきの人じゃね? BBQマジうまそうっすねー」
「ひとつ貰っちゃったりできますかー?」
「マジ図々しい! やめなってアハハハハ!」
さっきの中学生共が俺達の方にまでやってきてゲラゲラ笑いながらちょっかいを出して来ようとする。
風里が露骨に嫌そうな顔になり、晴香の眉が八の字になった。
「うーむ……どうしたものか」
今日はあくまで優しく良い人で居たい。
だから俺は水ぐらいぶっかけられても我慢するが、せっかくきてもらった晴香と風里の楽しい時間を邪魔するならニコニコしてはいられない。
「お姉さんお隣失礼しまーす」
強引に晴香の隣に座ろうとした男を見て優しいのもここまでだなと立ち上がったのだが、男の様子がおかしい。
「え、えとごめんなさい。ちょっと俺その……」
男が立ち上がり、前屈みの変な姿勢のまま川の中に入っていく。
「あん?」
俺は男を掴みあげようとした体勢のまま停止する。
「だ、だいちゃん1人で何してんだよー。俺も行くぜー」
「バカやってるなよー。アハハハ……」
他の男2人も同じように変な姿勢のまま川に入っていった。
「???」
「どうしたのかしら」
晴香と風里も顔を見合わせて首を傾げる。
「……なるほど」
俺だけが合点がいった
晴香は水遊びで濡れている。
それを想定してTシャツの下に水着を着ている。
つまり濡れ透けたシャツの下から水着が浮き上がっていたのだ。
晴香は顔面女優、スタイルはグラドルの怪物だ。
特にバストサイズはHという通常使わないアルファベットが割り当てられているほどだ。
そんな美女が濡れて透けたらどうなるか、中学生男子など一溜まりもなくエベレストだ。
そして奴らは男3人女3人で遊んでいるのだから女の子にチョモランマを見られる訳にはいかない。
「「「うぇい……うぇい」」」
「なにあれ?」
「さあ?」
「アホっぽくね?」
腰まで水に浸かりながら突然静かになった男子に女子達が怪訝な目を向ける。
様子のおかしい男子が気になったのか女子の1人が水に入ろうとした時だった。
「きゃっ」
デザイン重視で滑り止めもないビーチサンダルが苔で盛大に滑った。
女子は体勢を立て直す暇もなくクルリと回転し、後頭部から川原の石へと――。
主人公 双見誉 市立両河高校一年生
人間関係
家族 父母 紬「ツムギスペシャル」新「泣」
友人 那瀬川 晴香#21「女友達」三藤 奈津美#5「熟睡」風里 苺子「友人」江崎陽助「友人」高野 陽花里#1「ムラムラ」上月 秋那#14「エッチなお姉さん」キョウコ#2 ユウカ#2「アホ」
中立 ヨシオ「暇」
経験値131
半端かもしれませんが更新します。
次回は鬱展開……にはなりません!




