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第75話 わるいこ2人と 5月28日

 部屋のチャイムを鳴らしつつドアノブを捻ると鍵がかかっていなかった。


「や」

「ういー」


 何故か玄関に立っていたキョウコとユウカ。


 俺は2人が制服から私服に着替えていることにピンときて冷蔵庫を探る。

ほらあった。


 俺は手招きで2人を呼びつけ、その鼻を思い切り摘まんだ。


「酒なんか買ってんじゃねえ! 見つかったら今度こそ退学だろうが!」


「いふぁいいふぁい!」

「ほめんついー!」


 悲鳴をあげる2人の鼻をとどめにギューっと摘まんでから解放して酒を全て没収する。

まあ一本も飲んで無かったところだけは評価しよう。


「ったく。今日ぐらい早く家に帰っとけよ。ただでさえ迷惑かけてるのに親もいい加減切れるだろ」


 俺は道中で買って来た健全な飲み物を投げ渡しながら言う。


「それは試験いけたって電話したからなんとかセーフだし。半分諦められてたみたいだけど」

 

「最近の外泊も『本当に勉強でもしてないとアンタの頭で赤点回避なんて無理よね』ってさ」


「そりゃそうか。あれだけやっても45点しか取れないアホ2人にどれだけ苦労したか」


 皮肉を言いながら2人の頭をポコポコはたく。

こんなに苦労したんだから酒買ってお陀仏とかやめてくれよ。


 そこで会話がピタリと止まった。

2人は似合わない仕草でモジモジとしている。


 仕方ないので俺から切り出す。


「打ち上げするんじゃないのか?」 


「うんまぁ……」

「そうなんだけどね……」


 気まずそうな2人、いや恥ずかしそうなのかな。

いずれにせよこのままでは時間が無駄になる。

ここは単刀直入にいこう。


「俺は打ち上げなんて建前でいやらしいことを期待して来たんだけど……させてくれるか?」


 2人は顔を見合わせて小さく笑う。


「双見さえ良ければ」


「良くないなんて言う男がいるかよ」   

 

 俺はまず近くにいたキョウコに体を寄せていく。


「でもウチらなんて好みじゃないんでしょ?」


 確かにそう言った。

改めて見ても……いや考えないでおこう。


「顔は好みじゃなくても胸と尻はあるしな」

「「こいつ最低だし!!」」


 突き飛ばされて殴られまくる。


 そして殴りまくられながらユウカを捕まえて唇を押し当てる。


 ユウカは俺の腕の中で軽く暴れようとしたが小柄な彼女では俺の力には抗えない。

体をがっちりと抱き締めたまま舌を押し入れ、口内を一周蹂躙してから舌同士を絡めて解放した。


「……キスうっま」


 ユウカが口を拭いながら呟く。

キョウコもいつの間にか俺を叩くのをやめていた。


 室内には発情した男女の匂いが立ち込めている。

もう何も言わなくても俺達の体は勝手にいくところまでいくだろう。

だがその前に言っておくべきことがある。


「学校から直接来たなら制服……あるよな?」


『うわー』みたいな目で見られても気にしない。


「キョウコはスカートだけ、ユウカは逆にスカートだけ無しで……」


「怯まねえで露骨スケベ貫くのはすげえよな」

「こういうところが並の奴と違うのかも」


 2人は呆れながらも俺の命令を受け入れてくれる。


 そして俺はまずキョウコを抱え上げてベッドに向かう。


「ま、頭は絶対勝てねえってわかったけどよ」

「こっちはアタシらも結構なものだし。お手並み拝見って感じ」


 2人は見るからにエロそうだからな。

しかも2対1とくれば今までの経験と秋那さんに教わった色々を駆使しなければ無残に萎びることになるだろう。気合いを入れてかからねばならない。





――しばらく後。


「おーい。まだ寝てるのか? 俺はそろそろ帰るぞ?」


 シャワーを終えた俺は頭を拭きながら、ベッドに突っ伏すキョウコに呼びかける。


 返事はない。


「もういい時間だからお前らも早く帰れよー」


 俺は服を整えながら、ソファに横たわって両手両足を投げ出すユウカにも呼びかける。


「くひぃ」


 こっちは声にこそ反応したが目の焦点があっていない。



「圧勝してしまった」


 俺としてはまだいい汗かいた程度の感覚なんだが。


 正直、やり慣れてそうな2人相手にここまでやれるとは思っていなかった。

秋那さんにもダメだしされていたし、自信なかったんだが。


「お前らこっちも弱いのかよ」


 反発を期待して悪態を吐いてみたが何も返って来なかった。


「今帰るなら駅までぐらい送ってやるぞー」


「「無理ぃ……」」


 なら仕方ない。 


 俺の方も三日も泊まりこんだから家族が心配しているだろう。

というか俺の方が家族に会いたくて仕方ないので深夜までここにいる選択肢はない。

 

「なら先に帰るぞ。まあ深夜になってもゾンビなんて――」


 出ないだろうが新都の夜に女2人、しかもこいつらの遊んでそうな見た目だと安全とも言い切れない。


 俺は財布から全ての札を取り出す――と言っても千円札3枚しかないが。

まあ足りるだろ。


「テーブルに金置いとくからタクシーで帰れよ。お前ら同中なら家も近いだろ」


 そのまま部屋を出ようとしたが、テーブルの上の札と2人を見比べて立ち止まる。


「……」


 札をベッドに散らばらせ、キョウコの顔が写らないように気をつけて一枚。

続いて札を握らせて一枚。

ぐったりしたユウカの汗ばんだ体に乗せてもう一枚。


「映えるなこれ」


 最後に2人の近くに飲み物を置き、ついでに首筋に唇を押し当てる。


「じゃあ月曜学校でな。土日にはっちゃけて余計なことすんなよー」


 俺は颯爽と部屋を出て帰路につくのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

部屋内 わるいこ2人


 男が部屋から出て10分程が経ったところでユウカがボソリと呟く。


「キョウコすっげぇキモイ顔してるよ。舌たらしてよだれ垂れまくりとか絵面ホラーだし」


 対してキョウコも呟き返す。


「うっせ。ユウカこそ全身ビクビクさせてのたくるミミズみたいじゃん」


 互いに悪態をついた後、2人は同時に大きく息を吐く。


「マジすごかった……死ぬかと思った。ウチ途中からあんま記憶ないんだけど」


「アタシもおんなじ……声枯れて体動かないってどんだけよ……」


 2人は震えながら体を起こし、枕元に置かれた飲み物に口をつける。


「前にやったあの先輩とどっちが凄かった? あの人もエッチ鬼強くてウチら潰されたじゃん」


「双見っしょ。テクは先輩かもだけどサイズが違い過ぎ。先輩の時は酒も飲まされてたし――でもなによりさ」


 キョウコの問いにユウカが答えてさらに続ける。


「メチャクチャ激しく抱かれたのに、どこもまったく痛くなくね?」


 キョウコも自分の体を確かめながら頷く。


「うん、爪の痕も痣も一つもねえわ。痛い掴み方も強引な押さえつけもまったくなくて、すごく気をつけてくれたのわかる……逆にウチらの方は掴みまくり痕つけまくりだったかもだけど」


「しかも体重かけないように抱いてくれたから苦しくも無かったよね。すっごいバカにしてくるけど……すげえ優しいわあいつ」


 2人は顔を見合わせ、再びベッドに倒れ込む。


「口悪いけど優しくて頼りになってアッチも激強って主人公かよ! あーー双見の女になりてぇ」


「でも双見は奈津美が本命っしょ? あの子顔いいし何より胸が反則だしなぁ」


 叫ぶキョウコに対してユウカは溜息混じりに言う。


「どうにかして奈津美を――」


「馬鹿キョウコ。それやったら終わりだよ。絶対に双見ブチ切れて敵認定される」


 2人分の溜息が響く。


「だよなぁ。ここで双見に切られたらもう耐えられないわ」


 キョウコも分かってはいたのか話を変える。


「まあ双見ってドスケベで性欲メチャクチャ強いしさ。ウチらがOKサイン出してればまた抱きに来るはず」


 ニヤリとキョウコが笑いユウカも頷く。


「だね。双見も性欲に支配された男子高校生……回数重ねてるうちにワンチャンあるかも」


 2人は全裸のままフフフフと不気味な笑いを浮かべる。


「ところでキョウコさ。最後の首筋キス……キュンってこなかった?」


「キュンどころじゃないし。子宮に落雷したわ。ユウカもその顔だと似たようなもんでしょ」


 2人は部屋を見回してからペットボトルを拾い上げた。


 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

――その頃 誉 自宅


「ただいま」


 玄関を開けてすぐに地を這うような怒声が近づいてくる。


「ホーーマーーー!! ホマーーーーー!!」


 さして広くもない廊下を全力ダッシュしてきた影は恐らく自分で脱ぎ散らかしたであろう上着に足を取られ、自分が放置したであろうカバンにつまずいて飛んでくる。


「ギャアアア!!」

「廊下ダッシュが悪いのか脱ぎ散らかしたのが悪いのか……」


 回避は容易だがそんなことをしたら紬がドアに突っ込むことになるので受け止める。

こんなことになるんじゃないかと身構えていたので慌てることもない。


「ただいま姉さん」

「ホマ君お帰り」


 抱きしめた紬に挨拶して床に降ろす。


 そのままおててを繋いでリビングに行こうとしたところで紬に振り払われてしまう。


「なんて許さないよホマ! よくも……よくも……お姉ちゃんの眉毛を……それっきり三日も家に帰ってこないし!」


 それは勉強をだな……。


「あの日たまたま午前講義に知り合いいなくて指摘されたの夕方だったんだよ! しかも昼にお洒落なカフェで一人ランチしてたのに!」


「ぶふっ」


 思わず笑ってしまった俺の脛を紬のローキックが襲う。


「わ、笑ったなぁ! もう許さない! もうホマ君とは口きいてあげないから」 


 プイと紬はそっぽを向いてしまう。


「帰りにプリン買って来たんだけど」


 紬は少し止まったが振り返らなかった。


「まあ悪いのは俺だしな。なんとか機嫌を取ろう」



 だが紬の決意は案外に硬かった。


「姉さん一緒に映画見ようよ」

「……」


 映画の誘いは無視され。


「一緒に風呂入ろうぜ。背中流すからさ」

「……」


 風呂に誘っても無視して先に入ってしまう。


「夜食のカップ麺、母さんには内緒で一緒に食べないか?」

「……」 


 夜食の誘いもカップ麺だけを奪って行ってしまう。


「お菓子を……」

「……ぐ。……ぬ。…………」


 お菓子をちらつかせても5秒ほど硬直したが、やはり無視されてしまった。



 仕方なく俺は部屋に戻って寝支度をする。


 そして皆が寝込んだ午前2時。


「……寂しい」


 ついに俺は限界を迎えた。

3日も会えなかった紬に無視されて心に大ダメージを受けたのだ。


 勉強会だと家を空け、おまけに今日も性の臭いにつられて遅くなった。

まったく自業自得だとわかってはいるが、それでも寂しいものはどうしようもない。


「もう限界だ。姉ちゃんのベッドに忍び込もう」


 俺は枕をもって紬の部屋に行き、頭からベッドに潜り込む。


「んんん……狭い……」


 さすがに目を覚ました紬と目があう。


「ダメだよ私達は姉弟……どうしてもって言うなら一夜の夢……」


「ごめん姉さん。眉毛のことも外泊したことも……全部俺が悪かった。いくらでも謝るし、ぶん殴ったっていいから無視しないでくれ!」


 言いながら紬を抱き締める。

紬はなにやら変なことを口走っていたが今はそれどころではない。


 ワタワタしていた紬の動きが止まり、小さく笑った。


「もうお姉ちゃんに無視されたのがそんなに寂しかったの? 仕方ないなぁ」


 紬が俺の頭を撫でる。

耐えきれない寂しさがスッと消えていく。


「無視してごめんねホマ君。でもそれはそれとして眉毛の仇は討つからね」


「おう。こい!」


 紬は布団を床に落とし、俺はベッドの上で逆立ちする。

独力で紬が俺に技をかけるのは不可能だからな。


「行くよホマ君! 眉毛の恨み、パイルドライバー!!」


 ドシンと落ちて家が揺れる。


「まだまだキレが甘いぞ姉さん!」


「分かってる! これが本当のパイルだぁ!」


 もう一度の落下、形にはなっているがまだどこか違う。


「次こそ――」

「おうともホマ君。これこそ真の――」


 三度目の投げを放とうとした時、ドアが吹き飛ぶように開いた。

立っていたのは鬼の形相をした母さんだ。


「午前2時過ぎにパイルドライバーの練習なんてしてたら当然だよな。うん」


 俺達は揃って頭に拳骨をもらい、そのまま2人揃って布団に倒れ込む。


「ホマ君のせいだ……」

「さすがにこの責任ははんぶんこだろ……」


 俺は笑いながら紬を抱き締める。

いや抱き締めてもらう。


 こちらにはまだ紬がいる。

そしていつでも会える。

これ以上の幸せがあるだろうか。


 俺は寝息を立てるふりをしながら眠らず、紬の体温と匂いを感じ続けた。

 


 しかしもう5月も終わりだけあって同じ布団に2人で入ると暑いな。

上だけでも脱ごう。


「うーん……暑い……うーん」


 紬も寝苦しいのか呻きはじめた。

こんな感じに目を覚ましてもかわいそうだし脱がせておいてやろう。



主人公 双見誉 市立両河高校一年生  

人間関係

家族 父母 紬「半裸寝」新「睡眠不足」

友人 那瀬川 晴香#21「女友達」三藤 奈津美#5「庇護」風里 苺子「友人」江崎陽助「友人」高野 陽花里#1「半端」上月 秋那#14「酒」キョウコ#2 ユウカ#2「疲労困憊」

中立 ヨシオ「クラスメイト」

敵対 タカ君「満足」

経験値131

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― 新着の感想 ―
[一言] >「ダメだよ私達は姉弟……どうしてもって言うなら一夜の夢……」 誉さえその気ならこの夜に一線超えてましたね。 華麗にスルー、というか気づきもしませんでしたが。
[気になる点] やっぱり悲しいことが裏であったんかなぁ…
[一言] もう翌朝のことまで読んだような気さえするんですけどw
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