第74話 愉快な打ち上げそして 5月28日
5月28日(金)『表』
俺達6人は高校生活最初の定期テストを終えて新都のカラオケへ打ち上げに来ていた。
6人とはいつもの俺、陽助、風里、晴香、奈津美、そしてヨシオも来ているからだ。
「まーだ斉藤達にハブられてるのか」
「ズバッと言うなって……仲瀬に嫌そうな顔で『お前もくんの?』みたいなこと言われるし……水谷は何故かぶちぎれてて『お前はくんな!』って怒鳴られるし」
仲瀬の態度は陰湿だが水谷ぐらい嫌いに振り切ると逆に気持ちいな。
というか水谷は女王様気質でネチネチしている方ではないから、ここまで言わせるヨシオにも何か原因ありそうだ。
「お前ら人の歌の最中に悲しい話してんなよ」
歌い終えた陽助が俺にマイクを投げ渡す。
「わざとやってんだよ。良い顔しといて歌も普通に上手いとか腹が立つ奴め。しかも選曲が微妙に古いのばっかりなのはどこに焦点合わせてんだよ」
「歌番組で聞いたことはあるよね」
「あの頃の~ってついてるやつですよね」
晴香と奈津美も首を傾げ気味だ。
「そんなの30~のお姉さまに受ける曲に決まってるだろ」
「即答しやがったな熟女好きめ。下心しか感じない選曲しやがって」
俺はまっとうに同年代も好きなので今流行っているのを歌うとしよう。
テレビで見た女子高生が男に歌って欲しいNo.1の歌を聞くがいい。
「お前も女受けしか考えてねえじゃねえか! というか……那瀬川どう思う?」
陽助が晴香に視線を送る。
「うん……」
熱く歌っている俺を陽助と晴香がどことなく温かい顔で見る。
「意外です……」
奈津美もその目をやめろ。
「誉って歌上手そうな顔してるのになぁ」
人には向き不向きがある。
音楽絵画など芸術分野で、その傾向はより顕著だ。
つまりそれ以上はやめろ言うな。
「俺達ヘタ友じゃん。ウェイ!」
俺は歌を中断して近づいてきたヨシオを突き放す。
「俺はちょっと苦手なだけだ! お前の音程もリズムも外した、でかいだけの雑音と一緒にするな!」
言いながら陽介達の方を見る。
「いやぁ……正直ヨシオとそんなには……」
「でも歌ってる時の誉は格好いいよー」
「です。気にしないで下さいね」
もう心を折られた。
家族でカラオケに行った時も、俺の番になる度に悲しそうな顔をする紬とトイレとかドリンクバーに行きやがる新に気付かないふりをしていたのに。
俺の次に歌い出した晴香は……やはり上手い。
だよな、この見た目でヘタなわけないもんな。
奈津美も綺麗な声で音程を取って歌う。
声が小さいので迫力のある歌は似合わないが普通に上手だ。
「せめて風里はジャイアンであってくれ……」
マイクを渡そうとして停止する。
風里は綺麗な姿勢で座ったままスヤスヤと眠っていたのだ。
「あらら寝ちゃってる。勉強会で苺子が一番疲れちゃったみたいだからなぁ。奈津美は隙あらば居眠りしてたし」
「うぅ……ごめんなさい。」
音楽が止まり、近くで話しても起きる気配がない。
まあ俺とヨシオの大雑音を聞いても起きなかったのだから当たり前か。
俺と晴香は顔を見合わせてニヤリと笑い、風里の両隣に座る。
そして息を合わせて両側から同時に頬をつつく。
「うぅん……晴香やめなさい……ピコピコは……没収よ」
俺と晴香は声を潜めて笑う。
「だ、ダメですよぉ悪戯したらぁ」
困った声を出す奈津美を無視して次は首筋をくすぐる。
「あうぅ……三藤さん……次寝たら……フォークで……ぶっ刺すわよ」
「ぴいっ!」
居眠りしまくる奈津美に内心イラッとしていたらしい。
ここで晴香が冒険に出た。
上着の中に手を入れて脇腹をくすぐったのだ。
「んっ! 双見君やめて……晴香に……見られたら……まずいわ……」
「……」
無言で睨みつけてくる晴香、風里の寝言で俺を責められても困る。
最後に晴香は俺に向けて両手で何かを掴むようなジェスチャーを見せる。
なにを……ああわかった。でもさすがにいいのか?
「いくらなんでもそれやったら起きるだろ」
「あはは……私も居眠りしてたら良くおねえちゃんにやられちゃいますー」
しかし陽助と奈津美の反応を見るに割と普通のことなのだろうか。
いやいや……でも……。
晴香が早くやれと急かす。
しかたない、ここは男を見せるしかないな。
俺は風里の正面に座り込んで目標に手を伸ばす。
「そうそう苺子の柔らかそうなほっぺをフニーって……は?」
晴香が具体的な場所を口に出した時にはもう遅い。
俺は両手で風里の胸を掴んでいた。
「……おい」
「……いやぁ」
「マジかよ双見……」
陽助と奈津美、ヨシオも硬直している。
そして当然ながら風里の閉じていた目がカッと開く。
「双見君。申し開きはあるかしら?」
「話せばわかる。平和的にいこう」
俺は両手で風里の胸を掴んだまま平和を乞い求める目をしてみる。
「いいえ。戦争よ」
そして腰の入った右ストレートを叩きこまれたのだった。
「~~♪」
寝ていた分を取り戻すように連続で歌う風里。
彼女も見た目通り、静かながら綺麗な歌い方だ。
「失礼しまーす。ポテト大盛、ピザ、パフェ、オムライス、親子丼お持ちしま~うぇっ!?」
注文を持って来てきた店員が珍妙な顔をあげる。
まあ上半身裸の俺が床に四つん這いになっていれば声の一つもあげたくなるよな。
「~~♪」
しかもその上に風里が立って歌っているのだからなおのことだ。
モニター前でこれだから目立つなんてものじゃない。
さっきから部屋の前を通った奴らが例外なく覗いてくるほどだ。
「あの……せめて靴は脱いであげた方が……」
奈津美が遠慮がちに言う。
「寝ている女の子の胸を鷲掴みにするような外道は土足で十分よ。違うかしら?」
「ちょっとしたラッキースケベだったのに」
口答えすると足に捻りを加えられる。
半裸の俺が土足で背中をグリグリされているあんまりな光景を見てさすがに晴香と陽助が止めに入ってくれる。
「苺子さすがにその辺にしとこうよ。さすがに誉も気分悪いだろうし」
「誉はプライド高いってほどじゃないけど卑屈な真似はしない男だ。さすがに四つん這いにして土足ってのはいきすぎだぞ」
説得を受け入れたのか風里は溜息をつき、靴と靴下を脱ぐ。
降りはせずに靴を脱ぐ方向で行くのか。
しかし土足も悪くなかったが生足になると温度と柔らかさを直に感じてかなりいいな。
おっといけない。
心を強く持って流されないようにしないと。
キョウコやユウカにきつめの言動を繰り返したのには理由がある。
適度なSを心掛けないと俺の心と体は隙あらばMになろうとするのだ。
ここは少し毒のある言葉でバランスをとらないといけない。
「素足になると結構においが――」
「ハイヒールを履いて来てもいいかしら」
風里が言いながら何度も素足で俺の頭を踏む。
素足の感触に加えて指が動くこそばゆい感触と頭を踏まれる屈辱が体内を通過する。
ダメだバランスが崩れる。
「……崩れて大変なことになってきた」
「大変なこと?」
首を傾げたままの晴香が俺の足の間を覗き込む。
「変態の誉!!」
そして真っ赤になって飛び乗って来る。
「ぐえっ! お前は風里2人分ぐらいあるんだから飛び乗ったら潰れるだろうが!」
「そんなにあるわけないでしょ! ええと……」
風里と数秒ヒソヒソ話す。
「そう1.5倍ぐらい――ってうそ! 苺子そんなに軽いの!?」
「重量級女マッチョ……」
余計なことを言った奈津美に晴香が襲いかかり、くんずほぐれつしているところに再び店員が料理をもってやってくる。
「ええ……」
呆れた顔も無理はない。
晴香にプロレス技で固められて悶える奈津美、呆れる陽助、押し合い潰れる巨乳を見てキモイ顔になっているヨシオ、そして俺は素足の風里に頭部を踏まれて股間を大変なことにしているのだから。
というかさっきから怒涛の注文してるの絶対晴香だろ。
責任をもって全部食え……ってもう食われてる、すごいな。
その後、数曲を歌ったところで風里がふうと息を吐いた。
「このドスケベ男をもう少し躾けてやりたいところだけれど、今日はさすがに疲れているみたい。少し早いけれど失礼させてもらおうかしら」
風里は俺の背中から降り、さりげなく俺の股間を覗き込んでから淡々とした口調で言う。
そもそも風里が人前で無防備に寝るなんてよっぽど疲れていたのだろうしな。
「そうだね。私も実はちょっと眠かったりするし」
「私も眠――はう」
晴香に同意した奈津美を風里が鋭い目で睨む。
あれだけ居眠りしたくせにまだ眠いのかと言いたけだ。
「それじゃあ少し早いが今日の打ち上げはこれで解散にしようか。赤点になりそうなやつもいないようだし、とりあえずハッピーエンドってことで――」
締めの言葉を一旦止めてヨシオを見る。
「いいよな?」
「多分」
ヒソヒソと自己採点の結果を聞いてみる。
「……数学と物理はその点だと五分五分だな」
「……マジかよ」
まあ終わったことに対策なんてないからハッピーエンドで良しとしよう。
「ではお疲れ。帰り道も気をつけて、解散!」
俺の音頭で全員が別れの挨拶をして帰っていく。
「あの」
その中で奈津美がちょいと俺の袖を掴んだ。
不安そうに揺れている目を見て俺は全てを察する。
「あの2人もこのまま終わりじゃかわいそうだから助けてやったけど」
そっと奈津美の髪を撫でる。
「奈津美の方が大切だ。何かあったらお前の方に行くから心配するな」
不安そうだった奈津美の顔がふにゃりと溶ける。
「安心……しました」
背伸びする奈津美の腰を抱えて軽くキスをする。
「あっ誉また!!」
そこに飛び込んできた晴香が割り込み、勢いそのままにキスをする。
「ううー」
奈津美は悔しそうに晴香を引っ張るが、力とウエイトが違うのでビクともしない。
「……えい」
「ふぎゃっ!? 脇腹つねるのは反則でしょ! 遠慮がちに、ちょこっと摘ままれると余計痛いんだから!」
こうして俺達は解散、俺だけが店員から舌打ちを受けながら帰路についた。
……つもりだったのだが。
ポコンとスマホが音を立てる。
『アホマへ 早く帰ってきなさい! でないとパイルドライバーだよ!』
これは紬から2時間前にきたやつだから違うな。
猫が謝っている画像を貼ってなんとか……間違えて陽助がケツで割り箸折ってる画像送っちまった。
まあいいか。
さて今きたのは……キョウコ達からか。
『あの部屋で2人で打ち上げ中!【遊ぶ友達いねえから!】そっちの打ち上げが早めに終わったら来てくれると嬉しい!!』
俺は小さく溜息をつく。
試験を凌いだ今、もうキョウコ達に発破をかける必要はなくなった。
2人に構い過ぎて奈津美を不安にさせていたこともあるし、勘違いさせないためにもここははっきりと伝えるべきだ。
俺は心を鬼にして文字を打ち込んでいく。
そして送信――。
『性の予感がする』
「また間違えた!」
心を鬼ではなく獣にして送ってしまった。
数分で返信が返って来る。
文字は無く画像だけ。
キョウコとユウカがそれぞれミニスカートとショートパンツ上はタンクトップという薄着姿でベッドの上に座っている。そして2人ともOKのジェスチャーをしていた。
「どうしようもない奴らだ」
俺はスマホをしまって歩きはじめる。
「本当にダメだ。まったくけしからん」
ここを右に曲がるんだったな。
「なにを考えているんだ。こんなだから問題を起こすんだ」
さて着いた。
「ここの三階だったな。まったくしょうがない奴らだ」
俺はブツブツと呟きながら部屋のチャイムを押すのだった。
主人公 双見誉 市立両河高校一年生 隙あらばM
人間関係
家族 父母 紬「パイルドライバー練習」新「練習台」
友人 那瀬川 晴香#21「お疲れ」三藤 奈津美#5「おねむ」風里 苺子「疲弊」江崎陽助「友人」高野 陽花里#1「ボチボチ」上月 秋那#14「酒」
中立 キョウコ ユウカ「発情待機」ヨシオ「クラスメイト」
敵対 タカ君「ラブ激ハッスル」
経験値107