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第6話 ファーストキス 4月13日午後

学校 食堂


 俺達は二人掛けのテーブルに向かい合って座る。


 両河高校の学食は大きく、まず満席になることはない。

メニューも多彩でコスパの良い定食メニューを中心にカレー、丼もの、麺類から唐揚げやサラダなどの単品まで充実しており弁当の持ち込みもOKだ。


「俺はこの魚料理中心のA定食を食べるんだけど」


 説明口調で言いながら正面に目をやる。


「じゃあ私は肉料理中心のB定食とカツ丼大盛と豚汁を……」


 同じく説明口調で言った晴香ががっくりと肩を落す。

とりあえず「すごい量だな」と突っ込もうとすると、わかっているとばかりに手を突き出してきた。


「やっちゃった……お腹減ってたせいで食べたいだけ頼んでしまった……ぐふ」 

 

 ネオミラノ1万円未遂事件の理由が分かった気がする。


「まあ「私小食なの~」とか嘘付く女子より、堂々とドカ食いする方が見てて気持ちいいよ」


「ドカ食いとか言わないでよぅ……」


 悲しそうな顔をしながらカツ丼を食べ始める晴香。

気になるのは食う量よりも体型だ。

普段からこれだけ食っていたら、たちまち肉だるまになってもおかしくないのに。


「部活もやらないんだったよな」

 

 昨日ファミレスで聞いていたが話のネタにはなるだろう。


「うん。スポーツは好きだけど部活に入っちゃうとそのスポーツしかできなくなっちゃうから。ぬるい感じのところがあれば良かったんだけど、見学した限りどこもがっつりだから半端な気持ちで入ると悪いかなって。他の趣味もやりたいしね、誉は?」


「俺も部活はやめとくかな。スポーツは嫌いでもないんだけど、放課後は自由に動きたいから」


 調達前の下見は絶対に外せないからその度に部活を休むことになる。


「野球とかサッカーはゲームでやるぐらいで満足してるよ」


 そう言った途端、晴香がテーブル半分まで身を乗り出した。


「ゲームやるんだ! どんなの? スポーツ系だけ? ハードはコンシューマだけ?」


 俺は晴香のでかい乳と接触しかけた豚汁を退避させながら答える。

本当は椀より胸の方をもちあげて衝突回避させかったが公衆の面前でやると痴漢になるので自重する。


「結構色々やるぞ。パソコンが古いから最近のは出来ないけど。……すごい食いつきだな」


「ご、ごめん。でも意外だったから」


 どちらかというと晴香がゲームしている方が意外だ。


「……もし良かったら放課後にうちに来ない? 色々ゲーム機あるしパソコンも本気のスペックで出来ないゲームないからさ」


「おう。いいぞ」


 晴香は良かったと笑ってB定食のチキンステーキを一口食べたところで動きを止めて真っ赤になる。

そして真っ赤になった顔のまま俺を見たところで肩が叩かれた。


「よ、双見」


「斉藤か」


 斉藤グループも学食に来たようだ。

後ろにぞろぞろと仲間を引き連れている。


「お、今日のAは鯖の塩焼きか。俺もそれにしようかな……っておいおい双見、定食にカツ丼って食い過ぎだろう。でぶっちまうぞ」


 斉藤は笑いながら俺の肩を叩いてくる。


 まあ普通は俺が頼んだと思うよな。

晴香が赤くなっているからそういうことにしておこう。


 男に体を触られるのは好きではないが、挨拶程度の軽い調子なので不快というほどではない。


 その辺りをちゃんと見極められるのが斉藤とその後ろで露骨に視線を逸らせている仲瀬とのイケメン度の差なのだろう。


「那瀬川さんも……」

 

 笑顔の斉藤が一歩近づいた途端、晴香の椅子がガタリと音を立てた。

晴香が反射的に体を引いたのだ。


「あんまりダラダラしてると六人席なくなるぞ」

 

 軽く言ってやる。

食堂が満席になることはないが数の少ない六人席が埋まってしまうことはあり得る。

五人組が四人席になったら弾かれるであろう元村が焦りはじめ、斉藤グループは去っていく。


 概ね確定だな。

俺は晴香に食いかけカツ丼を返しながら頷いた。

……今の間に定食の方がもう無くなってるのはどういうことだ。



「さて。飯も終わったし時間もそろそろだな」


「それじゃあ放課後に、また校門で待ってるから」


 前を行く晴香が伸びをしながら言った途端、開いていた窓から突風が吹き込む。


 両腕を頭の上まであげていたせいで盛大にめくれあがるスカートに素早く対処できない。

結果、約一秒ほどの間太ももから下着までが丸見えになってしまったのだ。


 悲鳴をあげてスカートを押さえる晴香。

顔を真っ赤にしてわかりきったことを聞いてくる。


「……見た?」


「綺麗な足とお尻だな。むっちり大きいのに運動してるからか引き締まってて――ふが」


 思い切り鼻を摘ままれる。


「ずっとそうじゃないかと思ってたけど誉ってかなりのスケベだよね!」


 更にデコピンまでされてから鼻が解放される。


「俺的に下着はもっと派手なのが好――ふご」


 再び鼻が摘ままれる。

さっきより痛い。


「……ちなみに派手なのって赤とか黒とか?」


 鼻が解放される。


「紫とかも好きだな。もしくは白でも透けてたり極端に布地が少なかったりすれば……」


 今までで一番の力で摘ままれる。

鼻血が出ると色々不名誉なことになるのでそこらへんにして欲しい。







――放課後。


「お邪魔します」


「はいどうぞ」


 俺は晴香の部屋に来ていた。


「こりゃすごい」


 思わず感嘆の声が漏れた。


 目の前の棚にゲーム機がずらりと並んでいる。

PM-4からbiii、日本では希少種のMBOXまで完全網羅だ。


「テレビは50インチ、パソコンには見た目にもデカいグラボが刺さってると……やるな」


 ふふんとでっかい胸を反らせてから晴香は早速対戦ゲームを起動した。

 

 俺がどこに座ろうかと悩んでいるとベッドをポンと叩かれる。


 じっくり見ると持ってるソフトがちょっと偏ってないか。

女子の家にずらりとFPSが並んでいるのは結構な違和感だ。


 そしてまあ強い。

強いなんてものじゃない。


「ショットガンを弾見て避けるな。超人かよ」


「銃口の向きと誉の方の画面見て避けてるだけだよ」


 後ろをとって手榴弾を投げたら投げた瞬間に撃ち落とされて爆死したのはイカサマだろう。


 騒がしく喚きながらゲームをしていた俺達だったが、一戦が終わりロード画面となった時、晴香がふと語り始めた。


「父さん全然家に帰ってこないからさ。その分、物は色々と買ってくれるんだ」

 

 俺は始まった次戦をポーズで止め、正面を向いたまま話を聞く。



 晴香は近所と比べても大きめのこの家で父親と二人暮らしだそうだ。

 

 父は大手商社の中でも過酷な部署の管理職、週6~7日出勤して泊まり込みは当たり前、日付が変わる前に帰宅するのはスーパーレアを引き当てるほどの低確率。

 

 埋め合わせなのか小遣いは同級生より多く貰え、欲しい最新家電、家具などはすぐ揃う。


「と、突然こんな話されても困るよね。よし次はパーフェクトで勝利を……」


 晴香が解除したポーズを即座に再開し、コントローラーをベッドに置いた。


 そして肩に手を伸ばして引き寄せると晴香は大人しく俺の肩に軽く頭を乗せてきた。


「先週もね。土曜日は一日休んでくれたけど、日曜日は午後から出勤だったんだ」

 

 酷いとは言わない。

晴香が父親を嫌っていないのは表情で分かるから。


「それじゃあ父親は気付いていないのか?」


「何が?」と晴香が顔をあげる。

本人も気づかれていなかったつもりなんだな。


「男が怖くなったんだろ?」


「え……」

 

 ファミレスでナンパされた時はただ嫌だっただけとも見れるが、駐輪場で見せた陽助への反応と食堂で斉藤への反射的な拒絶を見て確信した。

 

 男と話したこともない深窓のお嬢様というならばこの反応も納得だが、晴香は非常に快活で、本来は男にも気さくに声をかけるタイプに見える。

 

 なら原因はどう見てもあの事件しかない。

平気な顔をしてみせているがトラウマ化しかけている。

 

 晴香は反射的に否定しようとするも、俺の目を見て誤魔化せないと分かったのか頷く。


「別に話したりする分には平気だよ? ただあんまり近づかれたり不意に手を伸ばされたりすると……色々思い出しちゃって。お父さん相手でもなっちゃうんだよね」

 

 ただ……と晴香は身を乗り出す。


「君だけは平気、最初のハグで確信した」


 そう言って俺の手を取り、小学生同士のようにブンブン振る。

 

「ふむ……」


 俺は悪いと思いつつ不意に晴香の髪に手を伸ばす。


「やっぱり、平気だね」


 晴香は避ける素振りを見せずに微笑んだ。

そして俺の手を握って遠慮がちに続ける。


「もし迷惑でなければさ。これからもこうして手を握ったり触ったりして貰えないかな? そのうちに慣れて来ると思うから」


「いいよ。いくらでも」


 即答する。悩む要素はどこにもない。

金曜の延長戦みたいなものだし、そもそも女子に触れたり手を握ったりするのはご褒美であって頼まれなくとも是非したいことだ。


「そこから徐々に進展してやがては胸や尻を揉んだり撫でたりの流れに持っていけるかもしれない」

「おい」


 俺は一つ咳払いしてゲームのポーズを切る。


「後半は聞かなかったことにするとして」


「聞き流すにはインパクトが強すぎる……」


 晴香は冗談めかしてコントローラーを再び手に取り『ありがとう』と小さく呟いた。



「……ふむふむ」


 再開したプレイで俺が10連敗を喫した時、晴香が不意に頷く。


「罰ゲームやってみない?」


「俺にどんな辱めを与えるつもりだよ」


 一方的に虐殺している相手に罰ゲームを持ちかけるなんてただの搾取宣言でしかない。


「そうじゃないって! じゃあ罰ゲームは誉が決めていいよ」

「勝った方が負けた方をくすぐることにしよう」


 晴香が言い終わるより俺の口が開く方が早かった。


 俺が勝てば女子に触れてうれしい。

負けても女子に触られて嬉しい。

攻防一体無敵の構えだ。


 晴香はジトーっとした目になる。


「誉さんや。隠し切れない下心が見えてませんかねぇ?」


「男に触れる練習ってことで一つ」


 晴香は呆れながらもコントローラーを握る。


「下心が吹き飛ぶぐらいえげつないくすぐり方してやろっと」


 そして次のゲームが始まる。


 俺は画面を見据えながら大きく深呼吸する。

よし入った。


「あれ?」

 

 晴香から困惑の声が漏れる。

今まで簡単に撃ち殺されていた俺が善戦しているからだ。


「ちょっ! なんで急に!? うそ、強い強い!」


 操作にも慣れてきた。 

やられながら晴香の動き方も観察してきた。

予想外の展開に焦ってミスをする晴香に対して俺は氷のような冷静さで確実に狙いを定める。


「うわ、まずい、ちょっと! ぎゃあ! ま、負けた……」


 がっくりと肩を落とす晴香、俺はにこやかにその肩へ手を乗せる。


「まず脇腹からいく。いいかな?」


 手を回す前に一言聞いておく。

本気で嫌がっているならやっても楽しくないから。


「う、うん。お手柔らかに」


 晴香は上着を脱いでブラウス姿となった。

なんだか興奮するな。


 許可が出たので後ろから手を回して脇腹を撫でる。

騒いでいたせいかブラウス越しでも体温と僅かな湿気が感じられる。


「ふむふむ」


 晴香の脇腹は見た目通りにくびれているが、押してみると結構筋肉がついていそうだ。

なるほど単に痩せているのではなく体が締まってくびれている。

 

 一方でガチガチの筋肉質というわけでもなく、引き締まった体を適度な脂肪が軟らかく覆っているイメージだ。

 

 そして触っているのは脇腹なのに気をつけないと手があたってしまいそうになるほど大きな胸……。


「いいなこれ。理想的だ」


「いやくすぐってよ。撫で回して吟味されてると身の危険を感じる……」

 

 晴香はさあ来いとばかりに両手を頭の上にあげる。


「私、結構くすぐり強いからね。ちょっとやそっとじゃ効かない……ひっきゃあ!」

 

 俺はやや強めにひとさし指を脇腹に食い込ませ、そこからあばらを撫でるように上へとあげていく。

次いで親指をグイと立ててから背中方向へ斜め下へとずり下げる。


「ひゃああ! いた……じゃないくすぐったい!」

 

 そして両手で揉み込むようにしながら背中から腹へと戻る。


「ちょ、ちょっと待って! 何そのくすぐり技術! や、やめ……あはははは!」


 晴香は悶えながら床に倒れ込むも、逃がさずに覆いかぶさってくすぐり続ける。


「子どもの頃、姉さんに泣くまでくすぐられまくった末に編み出した復讐の技……弟にやったら泣かせて負の連鎖になった悲しき業の技でもある」


 最初にほんの少しだけ痛くして筋肉に力が入った瞬間にツボをくすぐるのがコツだ。


「何その設定……ひうっ! あは、あははははは!」


 転げまわる晴香を更に追撃すると手足をばたつかせて抵抗する。

もちろん許さず、脇腹から手を伸ばして脇の下まで攻撃範囲を伸ばす。


 不可抗力で胸に手があたってしまったが悶えている晴香は気付いていないのでセーフだ。


「や、やめっ! もうだめだって! ひゃああ!」


 ここらが潮時かなと手を放す。晴香は床にうつ伏せになって息を荒らげ、顔は赤く染まり額には汗が浮かんで髪は乱れていた。


「はぁはぁ……ひぃひぃ……息が……うぅ無茶苦茶にされた。責任とって……」


「ふふふ、良かったぜ。元気な子を産むんだな」


 冗談を冗談で返し、二人揃って笑う。


 

「くすぐられすぎて足が立たないよ、もう」


 床に転がっていた晴香に手を貸して立ち上がらせた時、俺達の視線はかっちり合った。

小学生同士でじゃれ合っていたような無邪気な雰囲気が音を立てて変わっていく。


「あ……」

 

 晴香も雰囲気の変化に当てられたのか俺の手を掴んだまま硬直する。

 

 俺の方も同じく硬直……しているつもりだったのに、腕が勝手に晴香を捕まえていた。


 命の危機で強まった生殖本能が積極性になって再び現れた。

気になる女を、極上の美女を逃がしてなるかと引き寄せる。


 俺達の顔はどんどん近づき、遂に数センチの距離になった。


「いいか?」

 

 囁くように聞く。

いかに本能に支配されてもこれだけは怠ってはならない。


 晴香は5秒程沈黙した後、目を閉じてゆっくりと頷いた。


 俺は整い過ぎている顔に手を添え――頬に軽くキスをする。


「……あ、あはは。そっちかぁ。てっきり口かと思ってびっくり――んむー!」

 

 照れ隠しに笑った唇へ思い切り口を押し当てた。

 

 晴香は一瞬目を見開いて俺を押し退けようと胸板に手をついたが、腕の力は徐々に弱まりやがて大人しく垂れ下がる。


 押し付け合った唇の軟らかさと熱さと早く荒い息を感じる。

抱えた肩が急速に熱を帯びて汗ばんでいくのが分かる。


 晴香は目をきつく閉じて口を突き出し、緊張からか全身をガチガチに硬直させている。

こりゃ間違いなくファーストキスだな。


 俺は軽く笑って安心させるように背中を優しく擦る。

緊張が解けたのか体の硬直が弱まり、目が薄く開いて唇の緊張も解けた。


 ――そこを狙って素早く口内に舌を進入させる。


「ぐむー!」


 再び体が硬直して目が見開かれる。

慌てて逃げようとする腰に手を回し、肩を軽く抱きながら体を密着させた。

俺と晴香の身長はほぼ同じなのでキスの姿勢は非常に安定する。


 舌を奥まで進入させ、縮こまっていた晴香の舌をちょんとつつく。

右に逃げたので追いかけてまたつつく、今度は左に逃げるので先回りしてつっつく。

そして遂に諦めて動きを止めた舌を掴まえ、舌同士をねっとり絡めた。

 

 一連の動きで二人からたっぷり溢れた唾液は俺の口内に流れ込み、口の隙間から垂れ、晴香の喉を通り抜けて体内へ落ちていく。


 晴香の舌は吸うと小さくなって震え、下から舐め上げればくすぐったがって逃げ、絡めると怖々ながら応じてくれる。唾液を乗せて送り込むと綺麗な喉がコクリコクリと動く。

舌を絡め合う音に混じって、時折鼻から抜ける声が脳を刺激する。


 粘着質な音と熱い吐息にゲームのBGMが混じり合い非現実的な雰囲気を演出していた。

 


 キスは五分程続いただろうか。

そろそろ終わろうかと晴香を抱き締めていた手を緩める。


 しかし晴香は目を閉じたまま舌を絡め続けて気付かない。

それどころか口が離れると俺の舌を追いかけて逆に舌を突っ込んできた。

 

 体の奥から湧き上がる生殖本能がこのまま最後までいってしまえと訴える。

さりげなく、本当にさりげなく胸部に手を添えてみる。


「ん……ん!? ぷはっ!」


 うっとりした目をしていた晴香が慌てて口を離し、舌が卑猥な音を立てて口内から抜けた。

大量の唾液が橋となって互いの口の間にかかってから床に垂れ落ちる。


「はぁ……はぁ……はぁ」


 キスが終わると晴香は荒い息を整えながら待てとばかりに手を突き出す。


 俺は銃を構えた警官を前にするように両手をあげて無抵抗を示す。


 そして息が整うなり――。


「こらぁ!」

「ぐえっ」


 脇腹を思いきり突かれ、潰れた蛙みたいな声を出してしまう。


「ちゃんとシていいか聞いたのに……」


「甘いファーストキスOK! 舌ねじ込むNG! おっぱいOUT!」


 何故か片言になっての連続突きが脇腹を襲う。

後半はそっちも乗り気だったのに。


 さすがに二発目、三発目は喰らわないぞと体を引いたところで晴香の動きが止まった。

右手で顔を覆いながら左手で俺の股を指差す。


「ソレ……ちょとぉ……もおぉぉ……」

 

 見れば俺の制服ズボンが文字通りテントのように盛り上がっていた。

若さみなぎる男子高校生があれだけキスしたら仕方ないじゃないか。


 とりあえずHな雰囲気は吹き飛んでしまったな。


 俺は深呼吸5回とラジオ体操一周で諸々を静めてから何事も無かったように向き直る。


「さてと、何の話だったっけ?」

「なかったことにするなドスケベ誉!」


 ポコリと頭を叩かれた。


「ちょっと強引だった。嫌だったか?」


 晴香はむくれた顔で答える。


「……嫌じゃなかったけど、びっくりした」

 

 それは良かった。


「男の子怖いって気付いて、高校でファーストキスもできないのかなって落ち込んでたんだけど」


「無事ディープキスができたな!」


 プロレス技をかけるのは止めろ。

というか女子がよくこんな技知ってるな。


 我ながら自己紹介した翌日に舌をねじ込むのは焦り過ぎかとも思うけれど、部屋に招かれて良い雰囲気だったし構わないだろう。

やりたいことはできる時にしておかないと次があるとは限らない。


「ファーストキスがすっごい生々しい感じになっちゃったよもう!」

 

 晴香は照れ臭そうに窓際に立って伸びをする。

 

 その時、俺のスマホが音を立てる。


「電話?」


「んーアラームだ。そろそろ帰らないと」


 晴香の顔がしゅんとなる。


「今日は家族で夕飯を食べるって約束してるんだ。破ると主に姉さんがうるさい」

 

 言葉通り本当にうるさい。

誇張抜きでものすごくうるさい。


 それ抜きでも俺自身にとって家族との食事は大切な時間だしな。


「家族の約束は大事だもんね。うんポイント高いよ」

 

 晴香が俺の背中を撫でる。


 なんだか唇だけ奪って去る悪い男になった気がする。


「一緒に来るか? カツカレーだからボリュームもある。ドカ食いしても多分平気だぞ」


「さ、さすがにそこまで勇者にはなれないって!」


 晴香は俺の制服をハンガーから外して肩にかけてくれる。


「別に今日が最後って訳じゃないよね。また来てよ」

 

 俺は半秒ほど停止してから返事する。


「おう。また濃厚ベロチューしに来るよ」

「ゲームしにこい!」


 今日が最後にならないと言い切れないのがつらいところだ。




自宅 夕食後


 夕食と食後の団欒を終え、俺は自室のベッドに仰向けになる。


「姉さんやり過ぎだろ」


 紬が冷蔵庫にあった肉を全部揚げたせいでカツカレーが大変なことになってしまった。

 

いい歳の父と小食の母は油が回って即ダウン、食べ盛りの俺と新も限界まで食わされて苦しみ、平気なのはプリン食べながらテレビを見ている紬だけだ。


「本当に晴香に来て貰った方が……おっと」


 その晴香からトークが来ている。今度は見逃さなかった。


『雰囲気でしちゃったね』


 どう返信しようか少し考える。

『次は最後までヤりたいぜ』――ダメに決まってるだろ。

どうにも今日は性欲に脳を支配されている。


『10連戦もするなんて中学以来だ とてもおもしろかったなぁ』


 わざとらしく返すとほんの10秒で返信がきた。


『楽しかったけど そっちじゃない!』


『軟らかくて温かかったよ 舌もぷるぷるでかわいかった』


 5分ほど沈黙した後に突然料理の画像が連投され始め、露骨な照れ隠しに笑ってしまう。


「しかし餃子、春巻、レバニラにチャーハン、麻婆豆腐……全部自作かこれ、すごいな」


 どこまで良い女を貫くのか。


『すごく美味そうだ ただ中華三昧の隣に親子丼があるのが気になる』


『誉が暴走したせいで親子丼分お腹が空いたの! そっちはカツカレーだっけ?』


 さすがに写真はとってない。

あのカツまみれカレーの見た目はグロ画像に近い。

 

 ふと下らないことを思いついた。


『今日のおかず』


 少し待って既読が付いた瞬間に今日保存した頬を膨らませる晴香自身の画像を添付する。

送った瞬間冷静になったがもう遅い。


「セクハラじゃねえか!」

 

 それも本気で気持ち悪い系のやつだ。

男にトラウマ抱えた女子高生にこれはアウトではなかろうか。


「まあ送ってしまったものは仕方ない。明日なんとか機嫌を取ろう」


 そこでスマホが震える。


『ドスケベ』の一言と画像が一枚だ。

開いてみるとベッドの上で晴香がポーズを取っている写真だ。

おかずの流れで自分から写真を送って来るとは思わなかった。


 これは向こうも俺と同じく送った瞬間に後悔しているかもしれない。

などと思っているうちに画像が消える。やっぱり勢いでやっちまった系か。


『保存しました ありがとう』


 悶えているであろう晴香を想像して笑いながら保存した画像を眺める。

服を着たままポーズを取っているだけでまったく健全な写真だ。

 

 入浴後なのだろうタンクトップに短パンという室内着でベッドの上にペタンと座り、両手は足の間に置いてやや前屈み、濡れたセミロングの髪はラフに広がり、服の中の重量物に押されて布が大きく前に膨らんでがっつりと谷間が……。


「…………」


 一日が終わる。

次回更新は11日 17時予定となります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 新作もまっちょに美人巨乳に最高です。 ストーリーもこの先楽しみです 王国へ みたいにエロシーンがないのが残念 いっそ18禁で、、、
[良い点] スケベ心全開で最高 [一言] 面白いです。
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