第59話 真 三藤奈津美と 5月20日
5月20日(木)放課後 自宅
「お、おじゃましますぅ」
「おう。入ってくれ」
奈津美は消えそうな声で呟き、小さな歩幅で俺を追いかける。
「緊張しなくても誰もいないよ」
父親は出張、母親は学生時代の友人と同窓会、紬は策略通りサークル仲間と飲み会に行っている。
新は毎日部活で遅くなる。
つまり家には俺と奈津美の2人きりだ。
「ここが俺の部屋だ」
「こ、これが誉さんの部屋……」
奈津美は緊張でカチコチになりながら部屋を見回す。
フリフリのレースがかった机にはなんだかよくわからない小物が並び、床に散らばるブラウスやスカート、ピンク基調のベッドにはクマの縫いぐるみが乗っている。
カーテンレールには小学生みたいなサイズのブラがかけっぱなしだ。
「ええっと、随分可愛いお部屋ですね……女物の下着はその……誉さんがつけてるんですか?」
顔を引きつらせながら必死に笑顔を作ろうとする奈津美。
「おっと間違えた。ここ姉ちゃんの部屋だった」
「むー!!」
からかわれたと気づいた奈津美が俺の背中をポコポコ叩く。
少しは緊張もほぐれたかな?
本当の俺の部屋に入った奈津美は再び立ち尽くしてゴクリと唾をのむ。
「そんな興奮するようなもんあるか?」
張ってあるポスターはゲームの特典で貰った普通のやつだし、机に放置されたエロっぽい表紙の本もただのマンガ雑誌だ。
というか新のだ。
リビングにあったから勝手に持って来ちまったな。
「男の子の部屋って初めてなのでそれだけでも新鮮で……それに匂いがすごいです。誉さんの濃い匂い」
奈津美は部屋を見回し、肩を上下させながら床に座ろうとする。
俺はそんな彼女を抱き上げ、ベッドに座らせる。
「こっちに座れよ」
「あ、あぅ! 匂いがすごい……です」
俺を見上げる奈津美の目がとろけていく。
雰囲気は変わらない。
そもそもが最初からドロリと甘い空気のままだ。
それも当然だ。
今日、奈津美は俺に抱かれるために部屋へ来たのだ。
最初からピンク一色の雰囲気になるに決まっている。
「あえて言うなら晴香に見つかりかけた時にスパイ映画みたいな雰囲気になったけど」
俺が笑い、奈津美も思わず笑ってしまう。
晴香は最近買ったゲームにドハマりしており、まったく勉強していないと風里が嘆いている。
さて甘い雰囲気を崩したくはないがガチガチに緊張されるのも困るからもう少し雑談してみよう。
どうせならお互いに楽しみながら気持ち良くなりたいからな。
「その荷物は?」
奈津美は学校のカバンの他にリュックを一つ持って来ていた。
「ええと、今日のことをお姉ちゃん達に知られて、こういうのも持っていけって教えられて……」
「ああ、うん」
流すには重要な情報が紛れていた気がするが今はあえて流そう。
奈津美に秘密を守らせるのは無理なのだ。
「これ、なんですけれど」
奈津美がリュックから取り出したのは……制服?
「中学の時の制服と指定の水着……あとは今使ってる体操服と」
「なんてこった」
俺はあまりのことに体を震わせる。
「ま、間違っていたでしょうか!? 確かに中学の時のはもう小さくて入るかどうか……」
「ぬぉぉ」
天を仰いで絶句する。
「お姉ちゃんのばかぁ……」
更にXLの箱までドサドサ出てきた。
ネギを山ほど背負ってやってきた奈津美鴨、美味しく頂かないと申し訳ない。
俺はがばっと音が出るほどの勢いで奈津美を抱き締める。
「ふぇっ!? も、もしかして正解でした?」
「大正解だよ。もうたまらなくて獣になりそう」
言いながら奈津美をベッドに押し倒し、覆いかぶさって唇を奪う。
「そ、それも少し困り……んむっ!」
強引だったが部屋に入った時点で奈津美も覚悟していたのだろう、慌てることなく受け止め、俺の背中に両手を巻きつける。
舌同士が濃厚に絡まり、口内から溢れた唾液が何度もベッドに垂れ落ちていく。
可能な限り優しく丁寧に舌を絡めているのに、奈津美の小さい舌を俺の舌が絡めとる様は口内を凌辱しているように思えてしまう。
「あうっ! ぐむっ!」
唇をこれでもかと押し付け、両手の指をがっちり絡めながら全身で押し込むようにして更に深くまで舌をねじり込む。
奈津美の目がとろけるを通り越して発情したメスそのものになってきた。
俺の方はもっとひどいだろうが。
俺は奈津美から一旦体を離す。
「経験は?」
「ないです……知ってるくせにぃ」
もちろん知っている。
ただ言わせたかっただけだ。
「もらうぞ」
「は、はい! 差し上げます……」
俺は最後の理性を動員して優しいキスをしながら抱き締める。
「あ、優し……ってひゃああぁぁぁ!!」
俺は理性全てを使い果たし、野獣に変身して襲い掛かった。
――後。
「ひっく……ぐすぐす……ふぇ」
事が終わった後、奈津美は俺の隣で泣き続けている。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃないです……誉様が優しくなかったです……」
呼び方を間違えたことに気付いた奈津美が慌てて起き上がり、股間を押さえて蹲る。
「ひぐ……ご主人様……痛かったです」
「呼び方がまだ違うぞ」
俺は笑いながら奈津美を抱き寄せて体の上に乗せる。
制服で遊ぶのも良いけど、やっぱり裸でひっつくのは最高だ。
「……気絶しそうな程痛くて苦しくて、誉さんもちょっと怖くて……なのに気持ち良くて……もうグチャグチャで良くわからなくなっちゃって……えっととりあえず……」
奈津美がちょんと俺の唇にキスをする。
「大好きです誉さん。ありがとうございました」
「こちらこそ最高に美味しかった。ありがとう」
2人揃って礼を言ってから、なんだこりゃと笑い合う。
「それにしても奈津美の胸、本当に大きいよな。どれぐらいあるんだ?」
俺は初体験の衝撃に震える体を落ち着かせるように撫でながら聞いてみた。
「えっと93のHです。どんどん大きくなっちゃって」
「すっごいな」
普段なら恥ずかしがって俯いてしまうか、拗ねてしまうところなのだが、最後まで致した直後だからかすんなりと答えてくれた。
「身長はどれぐらいだっけ」
「ちょうど150cmしかないんです。こっちは胸と違ってもう止まっちゃってます」
150cmで93なんて口に出すだけで年齢制限がつくんじゃないか。
「体重は?」
「今はなんとか49・5です。気を抜くとすぐに50台になっちゃ……ふえぇぇ!」
余韻の中でも体重はダメだったようだ。
奈津美は俺に乗っかり、頬っぺたを引っ張り胸板を叩く。
そして最後に首筋にキスをしてきた。
俺達が暴れたせいで端に置いていた制服が床に落ちる。
本来はバサリと音がするはずなのに粘着質な重い音がするのは色々な液体を吸ってしまったからだ。
「服、かなり汚しちゃったな」
「その為に持って来たんですから大丈夫ですよ」
軽く片付けておこうかと手を伸ばしたところで水着がまだ未使用だったことに気付いた。
中学の頃の水着は育った奈津美の体にはきつくて、着たまま仲良しすることができなかったからだ。
「着ましょうか?」
「頼む」
俺がベッドのふちに腰かけ、水着を着た奈津美が足元に座った時、唐突にドアが開いた。
「兄ちゃん俺のマンガ勝手に持ってっただろー。まだ全部読んでないからー」
俺と新そして奈津美の視線ががっちり合った。
時計は既に20時を回っている。
いくら部活といってもさすがにこの時間になれば中学生は帰って来るよな。うん。
「――――!!?」
新は殺人現場でも見たように後ずさりして尻餅をつく。
「みぎゃぁぁ!!」
奈津美は普段の鈍重さからは考えられない速度で俺に抱きつく。
「あっはっは」
俺はもうどうしようもないのでとりあえず笑うのだった。
「今日はありがとな。最後にちょっとハプニングがあったけど」
俺は駅まで奈津美を送って別れの挨拶をする。
見られた瞬間は湯気があがるのかと思うほど赤くなっていた奈津美だが、割と早めに落ち着いた。
まあ俺は全裸だったが奈津美は水着姿だったしな。
「服はともかくしてることは恥ずかしかったです! でも誉さんの弟さんならまぁ……他人に見られてたら1週間は寝込みました」
ちなみに新は自室に閉じこもってしまい、声をかけても反応しなくなってしまった。
後でフォローしないといけないだろう。
「これで私も晴香さんと並びました。明日自慢しようかな」
「俺の飯が全部なくなりそうだ」
秘密にしろと言うのも間違っているので覚悟は決めておこう。
「最後に……ここにお願いします。」
奈津美が髪をたくし上げ、首筋を晒す。
「これで言い逃れ不可能だ……」
「そのためにですー」
俺は白い綺麗な首筋に唇を押し付けて奈津美が痛みを感じるほど強く吸う。
これでくっきりキスマークの出来上がりだ。
奈津美は俺のつけたキスマークを撫でながら電車に乗って帰っていった。
あの小さな体と大きな胸の全てを手に入れた。
奈津美を俺の女にしたのだ。
「たまらない」
オスとしての達成感が沸き上がる。
今なら何でも出来そう……ってまた調子に乗りかけてしまった。
「気をつけないとな」
自分の頭をガツンと叩く。
俺は調子に乗れるほど強くないのだから。
「最後の1枚ですー。本日発売のDVD完売となります。ファンの皆さんありがとうござました!」
遠くから綺麗な、そして聞き覚えのある声がして振り返る。
駅前の電器店からだろうか。
だがちょうどスクランブル交差点の信号が青になり雑踏に紛れて見えなくなってしまう。
信号が再び赤になるまで待ってみたが、店員が机や椅子を片付けているのが見えるだけだった。
「……帰るか」
家に着くと紬が帰宅していた。
脱ぎ散らかした靴と服ですぐわかるな。
いつもなら何か食べているか騒いでいるかのはずなのに声が聞こえない。
不思議に思って二階に上がると紬は新の部屋の前でしゃがみ込んでドアに耳を押し付けている。
「……なにしてんだ」
「シー。新の様子が変なの」
ああそれは……と説明する前に紬は続ける。
「さっきから一人でブツブツ言いながら何かこすってるの」
「はぁ?」
さすがに意味が分からないので俺もドアに耳を押し当てる。
『高校生なのに! 年上なのに! あんなちっちゃくて! なのに胸だけ大きくて! ピチピチの水着なんて着て! 兄ちゃんのを! うううっ!』
「ね? 一人でブツブツ言ってるでしょ? しかもさっきよりこする音が激しくなってる」
「よし。下で飯食おうぜ」
俺は新のためにも紬をドアから引き離そうとする。
やはり中学生には刺激が強すぎたようだ。
「えー。2人で飛び込んでなにしてるか確かめようよ」
「悪魔みたいなことすんなよ……」
中学生男子にとって姉に現場を見られるとか大惨事だぞ。
下で適度に物音を立ててやれば自重するだろ。
だが紬をドアから引き離そうとする俺の手が滑り、鼻を強めに撫でてしまった。
「ふわ」
紬がくしゃみの体勢にはいる。
「おい!」
慌てて押さえようとするも手遅れだ。
「べっちくしょん!!」
隣家にまで聞こえそうなドデカイくしゃみが家中に響く。
「「……」」
俺達は顔を見合わせて『シー』とジェスチャーする。
セーフだろうか。
「セーフなわけないだろ……」
ゆっくりと新の部屋のドアが開く。
部屋の前で絡み合って倒れている俺達を不自然にズボンをあげた新が無表情で見下ろしている。
「わっなんか部屋臭いね。新なにしてたの?」
「こら姉さんはもう黙ってろ! えー新……いっぱい出たか?」
「おっけー死ぬわ」
窓に飛びつく新を紬と二人がかりでなんとか押さえ込む。
そして大暴れしているところに母が帰宅、3人揃って大目玉を食らうのだった。
――深夜
押し入れから出て来なくなった新のために毛布を差し入れ、俺も寝る準備に入る。
コンビニで買って来た『チビ巨乳スクール水着で濃厚〇〇〇』なるエロ雑誌を挟み込んでみたが反応はなかった。
「心配だ」
『こんばんわ。まだ起きていますか?』
奈津美からのトークだ。
俺は少し考えてから返す。
『奈津美のことを考えて一人でシてたよ』
『亜タや』
意味不明な返事に真っ赤になっている奈津美が想像できて笑ってしまう。
爆笑のスタンプを送ると向こうからも怒りスタンプが帰って来た。
『ううーさっきまでお姉ちゃん達にもからかわれてたのに誉さんまで!』
そういえば奈津美に色々持たせたのは姉だった。
思惑通り汚して持って帰ったんだからそりゃもう盛大にからかわれるよな。
『ただお姉ちゃん達の様子がちょっと変だったんです』
『はて?』
変と言われると気になるぞ。
『最初は服のこととかヘコヘコ歩きとか散々からかわれてたのですけど リュックに入ってたアレ実はお姉ちゃん達の悪戯だったそうなんです でも変じゃなかったですよね?」
XLのことか。
『特に変じゃなかったと思うぞ ちょっときつかったけど』
メーカーによって微妙に違うんだよな。
『それをそのまま伝えたらお姉ちゃん達の目の色が突然変わって 何度も大きさとか確認してきて』
どう反応されたのか気になる。
『私なりに長さと大きさを伝えたら 一度会わせろ とか 電話番号教えろ とかしつこくて今まで逃げ回っていたんです』
『はは、光栄だ』
奈津美の姉と言うからにはきっとムチムチでボインボインだろうなぁ。
「ホマ君ーお腹減ったよー。お菓子かなにかない? 台所で調達すると母さん怒るから」
ノックも無しに扉が開き、ツルツルでストンストンの紬が入って来た。
「チョコバーあるけど寝る前に歯磨けよ」
「うーい」
紬は与えたチョコバーを齧りながら出て行く。
せめて自分の部屋戻ってから食えよ……うわっ入口に粉こぼしたな!
『騒いでいる時にお父さんも帰って来て 次はうちに連れてきなさいって言ってました』
『ははは、光栄だ』
返信してからもう一度読み直す。
「ふむ」
大きく呼吸してからもう一度読み直す。
ふむ。
「マジかよ奈津美……もう寝よう」
今日はほんの少しだけ『裏』に行くのが苦痛ではなくなりそうだ。
主人公 双見誉 市立両河高校一年生
人間関係
家族 父母 紬「虫歯」新「押し入れ」
友人 那瀬川 晴香#21「ドハマり」三藤 奈津美#5「全バレ」風里 苺子「友人」江崎陽助「友人」高野 陽花里#1「浮気相手」
中立 元村ヨシオ「クラスメイト」上月 秋那「不明」
敵対 キョウコ ユウカ「復帰間近」タカ君「疑念」
経験値82
今回はほぼ全編シモネタですね。