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第58話 高野陽花里を 5月19日

5月19日(水)学校 午前授業中


「……おい。尻モジモジさせんな気持ち悪い」


 後席の陽助に背中をつつかれる。


「仕方ないだろ。姉さんに蹴り回されて痛いんだよ」


 正確には紬の蹴りはまったく効かなかった。

だが余裕をこいて笑っていたところでちっこい足の指先が大変な場所を直撃したのだ。

直撃というか少し中に入った。


『ズボッってなった……』


 そして俺と新はそれぞれ後ろと前を押さえながら登校する羽目になったのだ。



「痔になったのか? クッション貸してやろうか?」


「変な善意はいらん。モゾモゾしながら耐える」


 オタク女子達からの変な視線を浴びながらボソボソ話す俺と陽助は、とうとう教師に見とがめられた。


「そこ授業中に私語しない! 前に出てこの問題をそれぞれ解きなさい!」


 陽助がいらんこと言ったせいで指名されてしまった。

しかも勉強していなかったせいで問題が全然わからないぞ。


 俺は黒板に向かう途中に勉強できそうな奴のノートを盗み見る。

一人をガッツリ見たらバレるので数人から少しずつだ。


 ええとこの方程式がこうなって……重解が……なるほどなんとかなりそうだ。

後は『放課後俺んちでヤろうぜ』か……ふむふむ。


「あん?」


 数学思考にぶち込まれた雑念に驚いて顔をあげると陽花里が机の下で携帯をいじっていた。

俺に見られたと気づいた陽花里はスマホをさっと隠し、覗くなとばかりに睨みつけてくる。


 俺は仕草で謝罪しつつ、咳払いして黒板の前に立つ。


「不正の誉」


 陽助が呟く。

教師に認定されなきゃ不正じゃないんだよ。


「それより先生から俺を隠すように立ってくれ。あとできるだけゆっくり回答してくれ」


「なんでだよ」


 当然の疑問に俺は腕組みして考える振りをしながら答える。


「……たってんだよ」


「なんで数学でたつんだよ。どこに興奮要素見つけちまったんだよ」


 ともかく頼んだぞ。


 股間が目立たない絶妙な角度で立ちながら問題を解く荒行をこなす俺を陽花里がやけに焦った様子で見ている気がした。




 そして昼休み。


「違うからね。アイツが誘って来ただけであたしまだOK出してないし」


 昼休みが終わるなり俺を空き教室に引っ張り込んだ陽花里がきつい調子で言う。


「突然呼び出したかと思ったらそんなことか。別に彼氏とならいいじゃないか、相手が教師とかならいざ知らず。俺は風紀委員でもないし不純異性交遊には寛容な方だぞ。むしろ少しふしだらな方がだな」


「んなこと聞いてない! そもそも黒板書きながらたててるやつにふしだらとか言う資格無いし」


 嘘だろ気付かれてたのか。


「ポップスターみたいな角度で立ってたら嫌でも目がいくっての! あたしの周りの子とか全員気付いてたと思うけど」


「もう恥ずかしくて教室に行けない。早退しようかな」 


 荷物をまとめてくると踵を返すも陽花里に袖を掴まれる。


「話逸らすなって。……誉にはあたしが彼氏にぞっこんだって思われたくないの」


 陽花里が距離を詰めてくる。

少し怖い系の顔が赤らみ、袖を掴んでいた手はずり下がって俺の手を掴む。


 俺の中でもスイッチが入ってしまった。


「彼氏持ちなのに他の男と2人きりでそんなことしたら――」


 俺は陽花里の腰に両手を回し、そのまま大きな尻を乱暴に掴む。

 

「こんなことされるぞ?」


 ここで陽花里が逃げたらそこまでにするつもりだ。

彼氏を呼ばれたら手が勝手にやったと言い訳して適度にボコられれば良いだろう。


 だが陽花里は小さく反応したものの振り払うこともない。


「バーカ。こないだ散々触ってたのにこれぐらいで逃げないっての。お返しに……こうしてやる!」


 陽花里が笑いながら俺の尻をバンと叩く。


「ぬぐぉ!!」


 紬に痛めつけられた出入口への衝撃で呻き声が漏れる。


「おのれよくも……こうだ!」

 

 俺は逆切れからの反撃で陽花里の胸を持ち上げるように触った。


「ひゃっ! そこはやばいっての! 変態かよこいつ!」


 陽花里は俺の手を振り払い、俺の太ももをギューとつねる。

殴る蹴ると違ってつねりは非力な女の子にやられても相当に痛い。


「つねるのは反則だろ!」


 反撃に陽花里の太ももをつねってやろうと手を伸ばしたが、よく考えれば女性の綺麗な腿にひどいことはできない。しかし思い切りやられたお返しはしないと気は済まない。


 目標が定まらず迷いながら突き出した俺の手は陽花里のヘソの下に当たった。

そしてそのまま股下まで撫で抜けてしまう。


「あんっ」


 陽花里の鼻から抜けるような小さな声が雰囲気を一変させた。


 俺達は互いに動きを止め、真正面から見つめ合い距離を詰めていく。


「……反撃するから」

「おう」


 陽花里は俺が触れたのと同じ場所に手を伸ばす。

俺も再攻撃のために再度そこに手を伸ばす。


「人こないよね」

「昼休みの間は多分な」


 言い終わるなり俺達は互いを抱き締め合った。


 もう完全にそういう空気だ。

男女がこうなってセックスしない方がおかしい。


 最後の障壁は陽花里が彼氏持ちだと言うことだ。

倫理的な問題は置いておくとしてもバレれば相手の男と間違いなく喧嘩になるし、上手くかわせても絶対的な敵を作ることになる。



 頭の中で天使と悪魔が俺を挟んで言い争いはじめた。


 まず悪魔が言う。


『ヤりてぇなら好きにやっちまえよ! 泣き叫ぶまで犯しまくってやれ! 寝取られ間抜け男の面を想像すりゃもっと気持ち良くならぁ!』


 天使が反論する。


『そんなことをしてはいけません! 恋人のいる女性を寝取るのですから、壊れものを扱うように優しく丁寧に抱かねばなりません!』


 二つの意見の間で揺れる俺の心が叫ぶ。


『なんでもいいから早く挿れたい!』 



 結論は出た。

 

 ポケットからXLを取り出して陽花里の口元に持っていく。

彼女は驚いた顔をした後、俺の望みを汲み取り、ゆっくりと口で包装を噛み切った。


「経験は?」


 後ろを向かせながら聞いてみる。


「それなりに」


 陽花里は大人しく従いながら机に手をつく。


「スカート邪魔なら脱ごうか?」


 なんてことを言うんだ。


「ダメ! 絶対脱ぐなよ!」 

 

「ああ、うん。はい」


 






 昼休み終了まで残り5分の予鈴が鳴る。

次の授業でこの教室が使われる可能性もあるので時間的に限界だ。


 俺は陽花里の肩を揺する。


「ひぃ……ひぃ……やばい……なにこれ……」


「気持ち良かった?」


 俺は机に上半身を突っ伏した陽花里のうなじにキスをしながら言う。


「あぁ……誉様」


 数秒時間が止まり、陽花里は手を振り回しながら振り返る。


「い、今の無し! 誉のが良すぎたせいで様付けしちゃったじゃんか!」


 陽花里は逆切れして俺の襟を掴もうとしたが、足が立たないのかふらつき倒れかけたので慌てて抱き支える。


「……ねえ。タカ君と別れたら誉と付き合えない?」


「本気の喧嘩になるだろ」


 相手が陽花里を悪く扱っているなら返り討ちにしてもいいのだが、話を聞く限り間抜けで腰抜けなだけで悪人ではなさそうだ。彼女を寝取った上に返り討ちなんて罪悪感がすごいし、わざとやられるのは痛いからいやだ。


「……まぁこれであたしと誉が付き合ったら那瀬川とあたしの方が殴り合いになるかも」


 一瞬、脳内にローションまみれで掴み合う二人の映像が浮かんで興奮したが、すぐに晴香が陽花里をアッパーで床に沈める冗談にならない映像に変わって首を振る。


「それに今のとこ誰とも付き合う気ないんだよ」

「うーわ。ヤるだけやって付き合う気ないとか来たわ」


 陽花里の視線が痛い。

ここはなんとか誤魔化さないと。


「タカ君ってそんなだめなのか? 割と趣味合いそうだし最後まで許したんだろ?」


「んー。ファッションセンスと顔はあたし好みでいい感じなんだけど……。誰にでも強気に絡んでく割には根性なくて頼りにならないんだよねー」


 陽花里は服を整え、下着を穿きなおしながら答える。

女の子がスカート穿いたまま下着を穿きなおす仕草たまらないよな。


「喧嘩になりかけたら躊躇するって言うか。相手がマジだってわかったらビビるっていうか」


「本当はそっちの方が正しいけどな」


 喧嘩になりかけたらワクワクして相手がマジになったら喜ぶようなのはウォーモンガーだ。


「誉はそうじゃん」

「嘘だろ……」


 脳内に浮かべたウォーモンガーの顔が俺になる。


 いやいや俺は喧嘩とか大嫌いだぞ。

必要がなければ絶対にしないのに必要になる場面が多すぎるだけだ。


「なにより、ここの性能が段違いだし」


 服を整え直した陽花里は俺に抱き付く。


「誉のマジやばいよ。こんなすっげえの初めて見たもん。長さも太さもタカ君の倍はあるし……量とか10倍だし。ほんとどうなってんの」


「大きさはともかく量なんて人と比べたことないからなぁ」


 俺は陽花里の手を優しく掴んで体を離す。

これ以上撫でられるとまた反応してしまいそうだ。


「タカ君だと終わった後はフーンって感じ。誉だとアヒィ!って感じ」


「どんな擬音だよ」


 ケタケタと笑いながら陽花里がスマホを見せてくる。


 表示されていたのはタカ君からのトークだ。


『なあ今日の放課後一発いいだろー。用意してっからウチ来いよ。てかお前どこにいんの? 一緒に飯食おうと思ってたのに』


 陽花里は俺に見せつけるように返信する。


『しつこい! 仕方ないからさせたげるけど、前みたいに体重かけてガツガツやったら途中で帰るから』


 そしてニマッとした顔で笑いかけてくる。


「誉が付き合ってくれないんだったら、あたしもタカ君と続けるから。もちエッチもするし」


「お、おう」


 この胸の奥からこみあげてくる苛立ちと興奮の正体に気付くと変な道に行ってしまいそうなので考えないことにしよう。


「んで、誉ともめっちゃ遊ぶ。これでいいよね」


 陽花里が俺の不意をついてキスをしてきた。

視界の端に彼氏からの性欲丸出しの喜びトークが見える。


「男を弄ぶ浮気女……」


「バッカ! 彼氏持ち寝取ったの誉だろ!」 


 ビシッと太ももに陽花里の突っ込みローキックが炸裂する。


「陽花里みたいなギャル系好きなんだよ」


「あたしはギャルじゃねー」


 今度はふくらはぎに突っ込みが炸裂するも、見るからに喜んでいて蹴りの力は先程の半分もなかった。


「もし彼氏と俺が同時に誘ったらどっちと遊ぶ?」


 調子に乗って意地悪な質問をしてみる。


「おっきい方かなー」


 陽花里はそう言い捨てて教室を出て行った。



「ふぅ」


 俺は教室の鏡を見て不審な点がないかを確認する。

問題無し。


 次いで教室を見回して痕跡が無いか確認する。

床が濡れているのはどうしようもないが、これだけで気付かれることはないだろう。


「あれ? XLどこいった?」


 使用済みのあれが見つかったらさすがにやばいぞ。


 俺は目を閉じて記憶をたどる。


「……陽花里のポケットだ」


 思い当たると同時にチャイムが鳴ってしまった。


 慌てて教室に戻るも、ほぼ同時に教師が入って来てしまい、離れた席にいる陽花里に話かける時間がない。


「誉、昼休みどこに居たんだよー。トークも返さねえしさ」


「それどころじゃない! 危険物を抱えているんだ!」


 俺はスマホを取り出して陽花里にトークを送る。


『お前のポケットに』


 だが焦っていたせいか半端に入力したところで送信してしまった。


「?」


 陽花里は俺のトークを見て首を傾げ、続きを送る前にポケットを探ってしまった。

ドサリと音を立てて落ちるXL。


 陽花里が何か落としたことに気付いた隣の男子が拾おうとして硬直する。

幸いにして気付いたのはそいつだけのようだ。


「……遅かったか」

「なんの話だよ?」


 意味が分からないと困る陽助に構っている余裕はない。


 俺は続きの文を全て消して打ち直す。


『ごめんね♪』


 少し気が緩んでいたようだ。

こんな小さなミスから最悪の結果に繋がることもある。

ここが『表』で本当に良かった。


『怒』『呪』『死』『殺』『愛』『刺』


 俺は陽花里から嵐のように送られてくる不穏なトーク全てに『ごめんね♪』をペーストして返信しつつ微笑む。

 

 こうして俺と陽花里は浮気関係となった。




 その日の夜――。


 明日は奈津美を家に迎える日だ。

姉の予定を盗み見るとやはり飲み会を明日に設定しており、嘘予定の金曜を空けて覗きに来る気満々だ。

 

 ふとスマホが震えて奈津美だろうかと手に取る。


『死ね アホ誉』


 表示されたのは陽花里だった。

昼に続いて大層お怒りのようだ。


『突然どうした? XLのことは謝ったじゃないか』


 次のデートは全て俺の奢り+陽花里の言いなり、で手打ちになったはず。


『首筋とうなじにキスマークつけただろ! タカ君とした時にばれかけた!』      


 それは悪いことをした。


『友達とふざけてやったって誤魔化したけど少し疑ってそう やたら激しかった』


『悪かった お詫び上乗せするから ちなみに俺より良かった?』


 考えているのか陽花里の返信が数分止まる。


『次するときバレるとか目立つとかガン無視で腕とか首筋噛みまくるから 誉の5分の1ぐらい良かった』


『勘弁してくれ』


 噛まれるの結構トラウマなんだ。


『勘弁しない』


 交渉は受け付けてくれないようだ。


『じゃあ次はそんな余裕もないぐらいしてやる』


『やれるものなら』


 最後の返事に画像がついてくる。

下着姿の陽花里が挑発的に指を立てもう片方の手で目を隠している画像だ。

タカ君がつけたと思われるキスマークが腹から胸までつきまくっている。


 俺は軽く笑ってから『素敵だ』と返信してベッドに入った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


同日『裏』


 一仕事終えた俺は拠点に戻る。


「おかえりおにいちゃん! 良いもの見つかった?」


「ああ」


 収穫物を並べる。


 予想外の物を拾うことができたが主目的は達成できなかった。

物資と違って狙ってどうなるものでもないので積極的に外出するしかないか。


 アオイは俺が持ち帰ったものを確かめる。


「あっ椅子だ! ありがとう!」


 ここはバーなので椅子がどれもアオイには高くて座りにくそうだったのだ。

ちょうど良い高さの椅子を探していたのだが、大抵の椅子は重くて持ち帰るのに難があり諦めていた。

プラスチックで出来たこの椅子は最適ではあるのだが……。


「なんだか変な形の椅子だね? それからこれは?」


「空気で膨らませるビニールマット」


 バーの硬い床はいくら布切れを敷いても寝るのに適さない。

敷き布団が欲しいところだが、椅子と同じでやはり重くてかさばるのでなかなか持ち運べない。 

膨らませるビニールマットは持ち運びがしやすいし、硬い床よりはずっと寝心地が良い。


「すごいやおにいちゃん! 今日からこのマットの上で寝られるね」


「あぁ」


 アオイの眩しい笑みが痛い。

そんな無邪気な目で見られると罪悪感が沸いてしまう。


 ピンク一色だった『表』の流れを引きずったつもりはないのに、今日は飛び込んだ店が片っ端からこんな感じだったのだ。


「じゃあ早速この椅子使おうよ。おにいちゃん背中流してあげる! 洗い終わったらひっついてマットの上で寝ようね」


「さすがに『裏』でもこれはアウトだよなぁ」


 俺はタイゾウに知られた時に言い訳を考えながらアオイに手を引かれていった。



『表』

主人公 双見誉 市立両河高校一年生 尻損傷

人間関係

家族 父母 紬「破壊神」新「股間損傷」

友人 那瀬川 晴香#21「ゲーム中」三藤 奈津美「ギンギン」風里 苺子「友人」江崎陽助「友人」高野 陽花里#1「寝取られ」

中立 元村ヨシオ「クラスメイト」上月 秋那「不明」

敵対 キョウコ ユウカ「復帰間近」タカ君「疑念」

経験値72


【裏】

主人公 双見誉 放浪者サバイバー

拠点 新都雑居ビル8F 2人 

環境 

人間関係

同居

アオイ「マット」

中立

風里2尉「捜索」

備蓄

食料28日 水5日 電池バッテリー0日分 燃料6日分

経験値95+X

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 捜索。 誉をなのか。あるいは身内か。 [一言] 天使やない!ただの紳士や!
[良い点] 正式な浮気関係ってのも変な話ですがうまくやってるようでよかった 寝取られに目指そうで目覚めない系譜を感じます [一言] あんまり前作を引き合いに出すのは良くないかもしれませんが 主人公比較…
[一言] ペットボトルの高さ(長さ)は350mlで15cm、500mlで20.5cmだそうです。 誉の半分しかないタカ君は強く生きろ。
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