表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/112

第50話 陽花里再燃 5月14日

5月14日(金)休み時間 教室



「誉、お前の好きな料理ってなんだ?」


「いきなりどうした」


 突然好物の話をし始めた陽助に俺は首を傾げる。


「俺はやっぱ中華かな! 最近激ウマ炒飯作るのに凝っててよー!」


 そこにヨシオが横から入って来る。

違和感のすごかったギラギラの金髪は黒く染め直され、無駄にひっつけていたアクセも全て外されている。無駄に高いテンションとでかい声はそのままだが、心持ちウザさが減っているように思う。


「そっちの方がいいな。後は無駄に叫ばなければうざいと思われることもなくなるぞ」

「今は思ってるのかよ!」 


 そりゃいきなり大音量で話に割り込んで来たら思うだろう。


 ちなみに俺も髪を黒に戻している。

晴香と奈津美は喜んでいたが風里は露骨に不満げだった。


「お前も話を逸らすなって。なにが食べたいか答えろよ」


 陽助がトントンと机を叩く。


「突然言われても困るけど……奢ってくれるならラーメンでも食いたい気分だ」

「なら今日――」


 また割り込もうとしたヨシオを陽助は手で押さえて続ける。


「そういう店に行く系じゃなくてさ。家で料理として食いたい――みたいなのは?」


 質問の意図は良くわからないがイメージは掴めた。

深読みしても仕方ないので直感で思ったことを答えよう。


「サバの味噌煮と山菜のお粥」


 陽助がカクンと崩れる。


「若者とは思えないシブいのが来たなぁ」


「だからこそ家で出ないからさ」


 紬も新もハンバーグとかカレーとか好物だからな。

手間もかかるから自分の分だけ母親に作ってもらうのは申し訳ないし、自分で作るのは面倒くさい。


「レトルトじゃなくて料理として作ったら美味しいだろうなと」


 サバ系の缶詰は『裏』で飽きるほど食っている。

だからこそ缶詰ではなく料理として食べたいと思う。


「なるほどね。まぁ面白そうだな」


 陽助は一つ頷いて話が終わってしまう。


「そこで切るなよ。意味不明過ぎて気になるだろ」


 脇腹をつついてやるが陽助は笑うばかりで答えない。

こうなったら絶対しゃべらないんだよなこいつ。



「なに男同士でじゃれてんのよ」


 声に振り返ると陽花里が少し緊張した顔で席の隣に立っている。


「おー高野さん。なんだか久しぶりな気がするな」  

「クラスメイトなのに久しぶりってなんだし」


 笑って言う陽助に陽花里も苦笑しながら返す。

確かに陽花里がクラスで俺達に近づいてくるのは久しぶりだ。


「彼が他の男と話すだけでうるさくてさー」


 陽花里は少しだけ困ったような目で俺を見る。

笑顔を返すとホッとしたように俺の机に座った。


「おいおい、彼氏がうるさいならこれまずいんじゃないの?」


 陽助が俺の机にデーンと乗る陽花里の大きな尻を――いや陽助は普通に体を指差しているだけだな。

大きな尻に注目しているのは俺だ。


 陽花里はぐっと仰け反り、足をバタつかせて笑う。


「いいのいいの。こないだちょっとあって相当責めたからさー。今のタカ君あたしに文句つけられないし」


 俺もつられて笑ってしまう。

あのヘタレ具合は酷かったからな。

もし俺が彼氏ならしばらくは絶対服従レベルの失態だった。


「誉……お前またやったの?」


 さて話を変えよう。


「陽花里、今日はタイツなんだな」


「太ももに出来物できちゃって隠してんの。タイツあんま穿いたことないから違和感あるわー」


 確かに陽花里は普段短いソックスで思いきり生足を出すスタイルだ。


 俺は視線で了解をとってから黒いタイツに包まれた脚に軽く触れる。


「陽花里ただでさえ足綺麗なのにタイツ履くともっと綺麗に見えるな」


「丁寧に触ってよー。伝線したら高いんだから……ってあんまり上に行くなってのスケベ!」


 陽花里は俺の手を振り払い、更にタイツを履いた足でポコポコ蹴ってくる。

悪くないぞ、これはかなり悪くない。


「これ有名なブランドのやつじゃね? めっちゃ似合ってていいじゃーん! やっぱり俺は60デニールが一番好き――」


 そこにまたもヨシオが横からはいって陽花里の足に触れようとしてしまう。

後ろでは陽助が顔を手で覆っていた。


「マジでやめてくんない?」


 そして本気の拒絶を受けて後ずさる。


「え……いや……触ってもいい流れかと……」


 陽助が首を振りながらヨシオを諭し始める。

 

「元村はもっと女の子の顔見ようぜ。ほら高野が俺達を見る顔はあんな感じだろ?」



 俺も機嫌を損ねてしまった陽花里をフォローしておこう。


「俺もタイツって結構好きだな。このスベスベの感触くせになりそうだ」


 言いながらふくらはぎを撫であげる。

厚めのタイツはスベスベでありながら触れているとほんのりと体温が伝わってくる。

これ本当にいいな、新しい扉が開いたかもしれない。

 

「んーなんか変態っぽくないー? 触り方がエロいおっさんみたい」


「まさかエロいおっさんに触らせたことが――!?」


 俺は大げさに引く。


「ねえよ!」


 陽花里は笑って怒りながら俺の頬をタイツ足で蹴って来る。


 俺は蹴られながら隙を見て足を掴まえ、足先にちょんとキスをした。


「なっ!? アンタは本当にもぉぉ……」


 陽花里は照れたように困ったように身をよじる。 



 俺達の横で陽助とヨシオの話は続いていた。

 

「で、誉を見る目はあんな感じ。わかるだろ?」


「え、いやでも高野さんってD組の男と付き合ってるって」


 陽助がヨシオの肩に手を置く。


「誉はとんでもないドスケベだからな。今までは人の彼女を取ったりしなかったけど、今となってはもうわからない」


 お前ら聞こえてるんだよ。

別に脚触って爪先にキスするぐらい浮気にはならないだろうが。

ディープキスをした訳でも……いやそっちも考えようによってはセーフの余地があるはずだ。



「おーい誉ー。今日のお昼ご飯なんだけどさー」


 教室の扉が開いて晴香が入って来る。


 途端、陽花里は机から降りて自分の席に戻っていった。


「……高野さん?」


 晴香は陽花里の席を凝視するが反応はない。

いかにも知りませんよーとばかりに別の友達と話している。


「それじゃあ昼休みはお弁当と学食の混合だから食堂集合ねー」


「晴香は混合ってか両食いだろ」


 うるさいとジェスチャーで怒って晴香が教室を出て行く。


 晴香が教室を出た途端、また陽花里が俺の机に座って足をパタつかせた。




 四時限目の体育の授業。


「あー疲れた」


 俺は汗をぬぐいながら地面に直接腰を下ろす。


「おつかれー」


 ここでまたも陽花里が隣に座って来る。


 両河高校では授業内容によっては男女の体育は合同となる。

今日の1500m走などは正にそれだった。


 俺は疲れた疲れたと言いながら体操服姿の陽花里を観察する。


 陽花里はまず全体的に痩せ型だ。

頻繁にダイエットしているらしいのでまあ当然か。


 そして胸は緩い体操服ごしにもほとんど見えず、はっきり小さいとわかる。

体操服の短パンから見えるスラリとした脚は太ももから急激に太くなり、いきつくお尻はかなり大きい。

太ももからお尻にかけてのラインがとても好きだ。

 

「お尻見てんのバレバレだし。タイツと体操服大好きって誉ってほんとおっさんの生まれ変わりじゃない?」


「おっさんの生まれ変わりってなんだよ……」


 人は皆おっさんになるというのに。


 バカな話をしている俺達の前を陽助と斉藤が並んで走り抜けていく。

クラス中が盛り上がっているところを見ると拮抗したままラストスパートに入ったらしい。


 両者は一歩も譲らずそのまま同着でゴールした。

現役の運動部員である斉藤と中学以来部活をやっていない陽助が同じなのだから基礎の身体能力は陽助の方が上なんだろうな。部活でもやればいいのに。


「うわーマジでやってる。あたしにはとても無理だわ」


 陽花里は汗かきたくないので走る気まったくありません系女子だ。


 ちなみに俺は一応真面目にやったが中の上程度だった。


「これじゃあダメだよなぁ」


「普通に平均より上だし良いじゃん。部活で大会目指すとかじゃなきゃ足速くても意味ないでしょ」


 意味なくも無いんだよなぁ。



「誉は球技とか技術要る競技になると一気に強くなるぞー」


 そこに陽助が戻って来た。


 同着の斉藤が肩を息をしているのにこいつは涼しい顔だ。

やっぱり部活やった方がいいだろ。


「へえ。誉はスポーツ得意なんだ」


 陽花里が食いつき、陽助に続きを促す。


「こいつ体力測定はどれも普通で運動音痴じゃないって程度なんだけど、体の使い方が上手いって言うのかな。走る速度は普通でもドリブルさせると速い。遠投の距離は普通でも最高距離のまま狙った場所に投げてくる……みたいな感じだな」


「ふぅん……ふぅん」


 陽助に褒められると妙な気分になる。


「あとは度胸も半端ないから格闘技とか絶対強いぞ」


「それわかるわ。見てるだけでわかる」


 毎日殺し合いしているんだから度胸なんて嫌でもつく。

褒められても複雑な気分だけど、陽花里のとろけた視線は嬉しいのでもっと見てくれ。


「空手部募集してたぞ」


「嫌だよ。なんで必要もないのに痛い思いしないといけないんだ」


 あと音量を下げろ。

クラスの部活組がこっち見てるだろ。

2人揃って引き込まれるぞ。


「スポーツと言えばさ」


 陽花里が俺に向き直る。


「新都に色々スポーツできる店できたじゃん。明日土曜だし一緒に行かない?」


「ん? いいけどこの三人でか?」


 だが陽花里は陽助の方を見て言う。


「ごめん江崎。2人でいきたいの」

「だよなぁ。でもいいのか?」


 俺も陽助に同意する。


「結構気にする彼氏なんだろ? 2人きりで行ったなんて伝わったらなぁ」

  

「ただのスポーツ施設だって。タカ君もそこまで心狭くは……いや狭いかも。まあそっちも那瀬川いるじゃん。お互い様ってことでさ」


 陽花里はシーと唇の前に指を立てる。


「俺は那瀬川と付き合ってる訳じゃないからな。もちろん好きだしそういう関係でもあるけど」

「は?」


 陽花里が陽助を見ると陽助は肩を竦めながら頷く。


「はぁぁぁぁぁ!!」


 突然デカい声を出すから測定中のヨシオがビビって転んだじゃないか。


「いやいや! あたし誉が本命だったのに那瀬川に盗られたからタカ君の告白受けたのに!!」


「そう言われてもなぁ。あとこの会話こそ彼氏に伝わったらまずくないか?」 


 だが陽花里は俺の呟きなど耳に入らないかのように頭を押さえて天を仰ぐ。


「うまくいかねー!」


 そのあんまりな様子に俺と陽助は笑ってしまう。


「絶対に修羅場一直線だと予言しとくわ」

「要らんこと言うなよ。言霊ってのがあるんだぞ」


 小突き合う俺と陽助のところに膝を擦り剝いて半泣きになったヨシオが戻って来る。


「ともかく明日新都のスポーツ施設、わかった?」


 

 陽花里はもう完全に俺の方に来ている。

修羅場は困るが逃すこともできない。 


 そして陽花里の太ももにあったのはキスマークだった。

『表』

主人公 双見誉 市立両河高校一年生

人間関係

家族 父母 紬「姉」新「弟」

友人 那瀬川 晴香#16「女友達」三藤 奈津美「庇護対象」風里 苺子「友人」江崎陽助「修羅場確信」高野 陽花里「再燃」

中立 元村ヨシオ「怪我」上月 秋那「不明」

敵対 仲瀬ヒロシ「クラスメイト」キョウコ ユウカ「復帰間近」

経験値51

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] エロい陽花里さん大好き(=´∀`)人(´∀`=)
[良い点] 裏と比べたら実に平和ですな・・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ