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第47話 失った自信 5月12日

5月12日(水)『表』


 硬いフロアタイルの床で眠り、軟らかいベッドの上で目が覚める。


 気持ち良い晴天と快適な気温を感じながらも俺の気は重い。


 俺が脱出のために起こした火事に巻き込まれた奴は他にもいるとわかっている。

それでも仲間や知り合いを無事脱出させるために必要だと割り切った。

思い悩むことなんてなかった。


 ……だが結局、体を重ねてくれた女性を一人切り捨てることになった。


 更に守るべきシズリ達さえも頼りになるとはいえ別の男の手に委ねることになり、引き換えに託された少年は守りきれないかもしれない。


「……俺はダメな奴だ」


 もしやり直せたならば次は犠牲を0にして全員で脱出できるだろう。

しかし逆にそれは俺の計画が穴だらけで失敗ばかりだったということだ。


 腕を軽く握ってみる。

同年代平均か少しばかり上程度の筋肉……この腕は二人を支えきれなかった。


「こっちの腕を見ても仕方ないんだけどな」


 自嘲気味に笑いながら自室を出る。


「あっチャラホマ」


 寝間着の紬がビシッと俺の頭を指差す。

そういえばこっちの作戦の為に茶髪にしていたんだった。

随分前のように感じて忘れていた。


「チャラ……そうだな。俺はチャラいだけのダメな男だ。いっそスキンヘッドにでもしようか」


「ホマ君もしかして傷付いちゃった? ならお姉ちゃんが黒に染め直して……んむっ!」


 とりあえず紬の唇に親愛のキスをしてリビングに向かう。


「ほ、ホマ! やっぱりあんたお姉ちゃんに気があるでしょ! 姉弟なんだから駄目だからね! チャラホマになってもダメだからねー!」


 賑やかだった裏の生活が壊れて、今や廃墟に2人きり、下手をすると一人きりになるかもしれない。

だから表で少し過剰に繋がりを求めてしまう。


 心が憔悴しているせいか騒がしい紬の声さえ心地良く感じ……いや、やっぱりうるさいな。  




「もう日課みたいに朝やかましいよな……」


 普段は一番遅く起きる新が珍しくもう朝食を食べていた。


「委員会……みたいなのがあるんだよ」


 嘘を感じ取り、聞き出そうかとも思ったがダメな俺が聞いたところで事態を悪化させるだけかもしれない。今は覚えておくだけにしておこう。


 そこで新が俺の髪を見たのがわかる。


「昨日の夜にも見たろ。やっぱ変か?」


「……姉ちゃんとのプレイが衝撃的すぎて髪どころじゃなかったよ」


 新はスープのお代わりを取ろうと母親を押し退けるようにキッチンに割り込む。

周りをよく見ていなかったのか、まな板を手でぶつけてしまい、上に置かれていた包丁が落下する。


「「危ない!」」


 母親と俺が同時に叫び、包丁は新の足を掠めて床に落ちた。

掠めた場所からジワリと血が滲む。


「いてーちょっと足切った」

「もうびっくりさせないで! 気をつけなさいよ」


 席に戻る新と、その額を軽く小突く母親。

そこに真っ青になった俺は救急箱をもって飛び込む。


「大丈夫か新!」

「え、兄ちゃ――おわっ!」


 新の足を引っ掴んで傷を確かめる。


 傷は筋肉まで達しておらず太い血管も無事だ。

包丁が切ったのはスープ用の人参とパンだから感染症の恐れは少ない。


「兄ちゃんちょっと! ちょっと切っただけだから!」


 まず大量のアルコールで消毒してから化膿止め軟膏を塗り、ガーゼと包帯で覆えば――。


「兄ちゃん! 大げさだっての!」


 新は俺を振り払い、救急箱から絆創膏を取り出して傷に張る。


「これで十分だって。そんな必死になるような怪我じゃないだろ。兄ちゃんどうしたんだよ」


「そうか……そうだよな」


 冷静に考えれば傷とも言えない傷で手当の必要などない。

最悪、膿でも出てくればそこで医者にかかればいいだけのことだ。


「新」


 俺は新を抱き締める。

それはもう力いっぱい。

なんならキスもしてしまおうか。


「なっ! やめろっ! 力つえぇ!! 母ちゃん止めてよ!」

「あらあら……うふふ」


 さて安心したところで飯にしよう。


 俺が席につくと新と紬が部屋の隅で抱き合って震えている。


「私達はいつかホマ君に食われる……」

「兄ちゃんにファーストキス奪われるかと思った……」


 バカなこと言ってないで一緒に食おうぜ。





「おはよう誉~って髪染めたの!?」


 登校中に声をかけてくれたのは晴香だ。


「うーん。ちょっとチャラすぎる気がするなぁ」


 元々チンピラっぽく見せる為に染めたのだから仕方ないな。


「ちょっとした手違いでさ。すぐに染め直すよ。」


 挨拶を返しながら彼女の全身を眺める。


 相変わらずのモデル体型、俺の好みに合わせて短くしたスカートから長く伸びる生足が眩しい。

それぞれに美しい目鼻口のパーツが黄金比で配された正真正銘の美女だ。


「どしたの? なんか凹んでる?」


 二重の大きな目がパチパチ動いて長い睫毛が揺れる。

これでノンメイクだ。化粧抜きで勝負したら芸能人でも晴香に勝てる奴なんていないのではと思える。


「こんな美人と並んで歩く資格が俺にあるのかな」


「朝からなに? でもありがとう。嬉しいよ」


 晴香は驚きに目を丸くした後、照れて俺の肩に軽く頭突きしてきた。


 俺は裏と同じように今度は晴香を守り損ねるのではないだろうか。

  


「お、おはようございます誉さん。あっ髪」


 次に声をかけてきたのは奈津美だ。


「恰好いいです……けどちょっとだけ怖いかも……」


 奈津美は怖がりだからな。

髪を染めるとどうしても不良っぽく見えるものだ。


 奈津美は俺に声をかけて後方1mにつける。

隣に来いよと笑ってようやく並んで来る。


 150cm程しかない身長は女子の中でも小柄だ。

なのに胸は制服の上からでもわかる程大きく、体のバランス的には晴香以上の巨乳に見える。

顔がやや幼く可愛らしい系なのもアンバランスで素晴らしい。


 この外見で気が弱く強くモノが言えない流されやすい性格なのだから、まるで悪い男の誘引剤だ。

学校でも誰か頼りになるやつが見ていてやらないとたちまち上級生に食われるだろう。


「もっとしっかりしないとなぁ」


 奈津美の髪を撫でながら、早足でユサユサ揺れる胸を眺めて言う。


「うう……急には無理ですよぉ。困ったことがあったら誉さんに言います」

 

「なんでも困ったら言って来い」と答えながら、俺は案外頼りにならないぞと小声で付け加えた。



「おっとすまん」


 気を散らしてよそ見していたせいで誰かにぶつかってしまう。


「本当にそうね。もっと謝りなさい」


 ぶつかったのは風里だった。 

彼女は俺の髪を見て鼻を鳴らす。


 晴香にも奈津美にも微妙な評価だった髪だ。

いかにも茶髪なんて嫌いそうな風里は直球で罵って来るだろうと覚悟する。


「いいじゃない。前の髪型よりも私は好きよ。とてもいいわ」


 予想に反してやたら評価が高かった。


「髪に比べて服が地味だから明るい色のシャツとシルバーのアクセサリーなんてどうかしら」


 風里の言葉を脳内で組み合わせるとチンピラな俺が出来上がってしまうぞ。


 俺は晴香を呼んで耳元で囁く。


「風里ってヤンキー系好きなのか?」


「とりあえず前に付き合ってた人は、「うわっ!」って感じの人だったかも。苺子は今でもイケメンだったって言うんだけど……私にはただの不良にしか見えなかった」


 前に股がけされて別れたとか言ってたやつだな。

思い描いていた印象と違ってきた。


「他にも二人で買い物中にナンパされることとかあるんだけどね。さわやか系の相手だと食い気味に断るのに見るからにガラ悪い感じの相手だと口説き文句ぐらいは聞いてたり……」


 風里はそういう男を一番嫌いそうに見えるのに見かけによらないものだ。

 

「なにをヒソヒソしているのかしら」


 風里に睨まれて俺と晴香は慌てて誤魔化す。

 

 そこに陽助も入って来た。


「なんだよまだ髪戻してないのか。誉の茶髪って雑魚チンピラっぽくて笑えるよなぁ」

「……」


 風里は陽助を睨みつけたまま教室に向かっていく。


 

 

 放課後、俺はまたも一人で新都に居た。


 秋那さんの所ではない。


 次が仕上げとなるが昨日の今日でいきなり実行すると不自然になるので数日空けた方が良い。

秋那さん本人も大酒飲んで二日酔いで動けないらしい。


 俺が見上げたのは昨日俺が逃げ込んだ雑居ビルだ。

入っているのはキャバクラやバーなど大人の店なので制服姿ではまともに中へは入れないが、各階フロアの構造と窓の位置、各場所からの視界などをチェックしておくだけでも違う。


 俺は女性一人守れないダメなやつだ。

だからこれ以上絶対に失う訳にはいかない。


「なにをしてでも」


 下見を終えてビルを出る。


 ショップが並ぶ場所に戻り、ウインドウに顔を移す。


「ガラ悪い顔してるなぁ」


 茶髪のせいじゃない。

思い詰めた表情が何をするかわからない危険人物の顔だ。

 

 こんな顔で家に帰ったら家族を心配させてしまう。

というか俺はこの顔で学校で一日過ごしていたのか、よく怪しまれなかったものだ。



 ふと見知った顔を見かける。


 着崩した制服に短いスカートとミディアムの金髪、高校生ながらアイシャドウと口紅をしっかり。

カバンにじゃらりとストラップをつけ、ギャルっぽい話し方、そして細身の体に大きめのむっちりした尻……。


「陽花里」


 声をかけようとして足を止める。

陽花里の隣に同じようにチャラチャラした金髪の男が居たからだ。


「彼氏か。付き合ってるって言ってたもんな」


 彼氏の顔を凝視するも見覚えはなかった。

まあこれで陽助やヨシオだったりしたら転倒してしまうが。

 

 二人は腕同士が触れるほど近づき、時折声を交わして笑っている。


 メスを奪われたオスとしては当然悔しい。

だが男としてはこれで良かったのかもしれないと思う。


「俺みたいな頼りにならない男が隣に居ても仕方ないさ」


 自嘲して遠巻きに見守ろうとした時、陽花里と彼氏に複数の男子高校生が声をかける。

学校は違うようだが制服の着崩し、アクセじゃらじゃら、金髪茶髪と共通点が多いので校外の友達かと思っていたがどうやら違う。


 男達は二人を囲み、笑いながら陽花里に何事か言っている。

陽花里は嫌そうに顔を背け、彼氏がデカい口をあけて怒鳴っているようだ。


 とりあえずコーラとコーンポタージュを買って成り行きを見守る。


 彼氏と男達はしばらく言い合っていたが、彼氏が男達のリーダーと思わしき男に触れた途端、リーダーは派手に転倒した。


 俺はコーラを飲みながら近づいていく。


 距離を詰めたことで会話も断片的ながら聞き取れるようになってきた。


「うわー倒されたわー。すげえ服汚れたわー」

「マジかーこれもうタダでは済まねえだろー。もうボコだなボコ」


 男達は彼氏の襟首を掴みあげ、後ずさる陽花里の退路を塞いでニヤつく。


「まあわざとじゃねーだろうし? 代わりのシャツ買って来てくれたら許すわー」

「彼氏君ヤンチャで怖そうだしなー。俺達もビビっちゃってるから妥協するしかないよな」


「は? なんで俺が――」


 言い返そうとした彼氏は胸倉掴まれ壁に押し付けられる。


「やっすいシャツでいいからよ。彼氏君買って来てよ。俺達と彼女さんはそこのカラオケで待ってるからさぁ」


 男達がニヤニヤと笑いながら彼氏を囲む。

拳を鳴らし、断れば殴りかかるとアピールしている。


 俺は一定の距離で足を止めて見守る。


「……陽花里に何かしやがったら絶対に許さねえからな!」


 彼氏は服屋に向かって駆けだす。


 男達が笑い、俺も思わず笑いかけた。

根性がないのか脳みそが腐ってんのか。


「んじゃ彼女さんいっこかー」

「カラオケじゃなくてもっといい場所にさ」


 陽花里は間抜けにもダッシュしていく彼氏の背中を睨んだ後、震えながら男達に手を引かれていく。


 男は全部で4人。

ある程度強そうなのが2人、残り2人はにぎやかしのヨシオみたいなもんだな。


 俺はコーラを飲みながら近づき、陽花里の肩を叩く。


「誉!!」


 これからどうなるか察して歯を鳴らしていた陽花里の顔がパッと明るくなる。


 そんな俺の肩をもちろん別の手が叩く。


「お前なんだよ。彼氏君の知り合いかなんか?」

「ならついでに……へへ、そこのコンビニでゴム買って来てくんない? 彼氏君も喜ぶっしょ」


 俺は男達の嘲笑に合わせて困ったように振り返り、リーダー格の男の顔面に口に含んだコーラを噴き掛ける。


「うわっ! いってぇ……目が……クソっ!!」


 気持ちはわかるぞ。

俺も紬が振りまくったコーラが目に入ったことがある。

しばらくあけられないよな。


 更にもう一人の強そうな奴の袖をとって引き寄せる。


「こいついきなり何しやがる! 絶対ボコってや……」


 もう一人は柔道の経験でもあるのか腰を入れて逆に俺の手を取ろうとしてきた。

腕をとっても投げ飛ばすのは不可能だろうが構わない。


 俺はそいつの袖の中に熱々のコーンポタージュを流し込む。


「あっちぃぃぃ!!!」


 男は飛びあがり腕を振り回して悶える。


 だがとろみがある上に内側の生地にしみ込んだ熱さは簡単には振り払えまい。


「まあこんなもんだ。ほらついて来い」

「うん!」


 俺は陽花里の腕をとって逃げる。


「ま、待て――」

「あん?」


 俺が見た目通りのヤンキー的口調で凄むと、ヨシオモドキの2人は驚いたように道をあける。

最初の分析通りこいつらは雑魚だ。


 俺は陽花里の手を引きつつ近場の雑貨屋に飛び込み、店員に文句を言われながら裏の従業員用の出入り口から出て近場のカラオケ屋に入る。


「なんでカラオケ……」


「あいつらが言ってたから無意識に。彼氏もここに来るんだろ」


 俺は素早く受付を済ませ、キャンペーンをしていたカップル限定巨大パフェと共に個室に入る。


 そして席につくなり陽花里の鼻を摘まんだ。


「ふが! はにふるのよぉ!!」

 

「あの腰抜けはなんなんだよ。もっと頼りになる男を選べっての」


 たまたま俺が見つけていなければどうなっていたことか。


「アイツがチキンなのは知ってたし! だから告白受けたんだし!」


 それがなんでだと頬を撫で回す。


「だって頼りになる男彼氏にしたらもう誉はこっち見てくれないじゃん」


「うん?」


 よく意味がわからない。


 首を傾げながら陽花里を良く観察する。


 少し屈めばパンツが見えそうなぐらい短くしたスカートと大きく開いた胸元、いかにも遊んでます風のメイクと髪型……。


「こりゃ狙われる。彼氏の趣味か?」


「タカ君ギャルっぽい感じで露出多いのが好きだからさ……誉はこういうの嫌い?」

「大好きだけど……」


 俺は少し考える。

彼氏の間抜けをフォローしたのだから少しぐらい良いだろう。


「スカートはもう少しだけ長くしてその分際どい下着を履いてくれると俺なら嬉しい。出来れば赤」


 さっきから普通に下着が見えているが、陽花里もそれを想定して最初から見せられるパンツを履いているので俺の中では少し違うのだ。


「なにそれ! 結局エロじゃん!!」


 俺と陽花里は特大のパフェを食べながらワイワイと騒ぐ。

それにしても彼氏遅いな。


「少し歌おっか」


 最初対面に座っていた陽花里はすぐに隣に来る。

そこから一人分あいていた隙間も徐々に詰まり、最後は肩同士が当たる距離になった。


「ねえ誉、上に乗っていい?」

「上?」


 返事する間もなく陽花里が俺の膝に乗って来る。 

それもこちら向きで。


「付き合ってる人はいるけどさ。これからもこうして遊ぼうよ」

「浮気になるぞ」


 陽花里は俺の肩に手を乗せる。

目が完全にその気になっていた。


「浮気いや?」

「俺はいいけど……ぐむ」


 OKの部分を聞き取った途端、陽花里が唇を押し付けてきた。

同時に舌も口内に入ってくる。


 陽花里の両手が俺の首筋に周り、体全体が密着する。


 俺は陽花里を支えるように背中に手を回したが、不満げな声に押されて徐々に下げ、まるで尻を抱えこむような体勢となった。


 もう誤解なんてものじゃないが、まあ陽花里が良いならいいか。

彼氏には情けない姿を晒したペナルティーみたいなものだと諦めて貰おう。

 




 しばらく濃厚なキスが続き、陽花里がとうとう服の裾に手をかけた時、外から彼女を呼ぶ声が聞こえて来た。


「陽花里ー! おい陽花里―!」 


 俺達は顔を見合わせ、陽花里は拗ねたように声のする方を睨む。   


「ほら行ってこい。まずぶん殴ってやれ」


「モチだし」


 クスクス笑ってから陽花里は俺の膝から立ち上がり、個室を出て行く。


「陽花里心配――痛ってえ!!」

「この腰抜け! なに言いなりに服買いにいってんのよ! もう少しで連れてかれるところだったでしょうが!」

   

 いいことをした後は気持ちがいい。


「こんな程度で済むならなんとでもなるんだけどな」


 コーラを噴いてポタージュかけただけで解決なんて参考にもならない。

『裏』では街ごと焼いてもダメだったのに。


「……帰るか」


 落ち込むのは良いが止まる訳にはいかない。

こっちでも秋那さんの件を完遂しないといけないのだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

5月12日(水)【裏】


 呻き声で目が覚める。


『裏』の呻き声は環境音みたいなものだが、俺は即座に跳ね起きる。


「うぅぅ……うぅぅ……」


 怪物共の低い呻きではなく小さく高い、アオイの声だったからだ。


「熱い……寒い……苦しいよぉ」


 アオイは全身にびっしょりと汗をかき、全力疾走でもしているような荒い息を吐く。


 俺は脱いだ自分の服をアオイにかけてやり、口にペットボトルから水を流し込んだ。


「僕……死んじゃうの……? 化け物になっちゃうの?」


「大丈夫、俺がついているから」


 俺はすがるように伸ばされた手を優しく掴み、汗で額に張り付いた髪を避けてやる。


 やはりこうなった。

わかりきっていたことだった。


 これに比べたら『表』の不良高校生なんて取れにくい耳垢ぐらいの些細な問題に過ぎない。


主人公 双見誉 市立両河高校一年生「自信喪失」

人間関係

家族 父母 紬「食われる姉」新「食われる弟」

友人 那瀬川 晴香#16「第一回」三藤 奈津美「誉が」風里 苺子「おかしい」江崎陽助「会議」高野 陽花里「再燃」

中立 元村ヨシオ「牛丼」上月 秋那「二日酔い」

敵対 仲瀬ヒロシ「クラスメイト」キョウコ ユウカ「復帰間近」蛭のコウ「観察」

経験値51


次回は表の作戦再開です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 誰かがヤバい場面に居合わせる星の巡りは持ってるから、あとは出来る事やるだけだもんね。 裏は生きるのに必死で鍛える余裕ないから順当な結末になるよね。
[一言] 紬お姉ちゃん居なかったら、"心"が"壊れてた"かもしんネーナ!?
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