第41話 エッチなお姉さん奪取作戦① 5月10日
5月10日(月)『表』朝
登校中の晴香を見つけて軽く背中を叩く。
締まった腹から大きなお尻へのラインが飛びぬけて綺麗なので見間違うことがない。
「おはよう晴香」
「出たな変態!」
明るい挨拶が額への一撃で返される。
視界を塞ぐようにズイとスマホを突きつけられる。
そこには画面一般にとんでもないものが写っていた。
「なんだか見覚えがあるな」
「誉が送った卑猥画像なんだから当然でしょ! びっくりしてジュース吹いちゃったんだから」
自分のトークを確かめる。
なるほど秋那さんに送るつもりが寝ぼけていつものグループトークに送ってしまったらしい。
「寝ぼけてたんだ。ごめんごめん」
謝るも晴香はギャイギャイと騒ぎ続ける。
今のトークの画面じゃなくて端末内のフォルダだったよな。
しかもロックしているマークまで出ていた。
「悪かったって。昼になんか奢るからさ」
「うひゃっ!」
晴香の手を軽く取り、中指に触れると彼女は弾かれたように退散してしまった。
前にもこんなことあったような。
「あのぅ……こんなの突然送られたら困ります……」
後ろから声をかけてきたのは奈津美だ。
グループに送ったってことは彼女にもいったよな。
顔を赤くしてモジモジしているし間違いなさそうだ。
直球で怒ってくる晴香と違って、恥じらいながら困る奈津美の反応を見ると悪いことをしている感じがすごい。この性格のままだと将来セクハラされまくってしまうだろう。
「リビングで声上げてひっくり返っちゃいました……それでお姉ちゃんにも見られて……」
奈津美は確か三人姉妹の末っ子だったか。
「スマホをお姉ちゃんに見られてエッチな画像見てたと思われて……外国のポルノなんて見てないで彼氏作れって。その後メチャクチャからかわれちゃいました」
奈津美は画像の表示された画面に触れるのも恥ずかしいのか小指でちょいちょいと画像を閉じる。
こっちもトーク画面じゃなくてフォルダに入れてロックしてるぞ。
「こ、こんなになっているならそろそろ私も……」
「ああ。そろそろかな」
軽く奈津美の手を取る。
だが手が中指に触れた途端、こっちも弾かれるように――というには随分ともっさりした鈍臭い動きでポテポテと走り去ってしまう。中指に一体何があるんだよ。
「あら変質者」
「ひどい」
振り返ると風里が軽蔑の目で俺を見ている。
俺の方が15cm背が高いのに見下ろされている気がするのは風里の眼力故だろうか。
「このまま警察にでも持っていける動かぬ証拠よ。申し開きはあるかしら」
風里もこっそり保存しているだろうかと期待したが、まさかのA4用紙に印刷したものを渡される。
「こんなもん印刷する方が恥ずかしいだろ」
深夜に風里がコレをプリンターで印刷している姿を想像して笑ってしまう。
「送り間違えただけなんだ。そんな攻撃することないだろ」
だが風里は腕組みしたまま鼻を鳴らす。
「それも問題ね。晴香以外の誰にこんなもの送ろうとしたのかしら。どこで股かけているの?」
「そうじゃなくてちょっとした悪戯だったんだ」
風里はハアと溜息を吐いて俺の胸ポケットにA4用紙をねじ込む。
「悪戯でこんなもの送るのもまた問題よ。こんなおっきな……きゃっ!」
変に気を取られていたせいか風里が躓いてしまう。
「おっと危ない」
俺はとっさに手を出して風里の手を掴む。
滑らかで細い指はささくれ一つ無く綺麗で爪はかなり短く切られている。
「――!?」
途端、風里は俺の手を振り払って距離を取る。
「今のは仕方ないだろ。晴香の許可とか言うようなことじゃない」
「そうじゃないわ。ごめんさいありがとう気にしないで」
風里は早口でまくし立てて去っていく。
彼女が動揺するのは珍しい。良いものを見た。
「しかし、前の二人と違って中指だけじゃなく人差し指と薬指にも反応していたがなんなんだろうな」
首を傾げていると陽助が気まずそうに話しかけてくる。
「お前デカすぎんだろ」
「もう感想は十分きいたからいらねえよ……」
「双見に江崎、おはー!! ところで明日空いてるよな? 新都でルーナちゃんの握手会があってさ。俺一人だとなんだかなーって感じだから一緒にいかねえ? 私服でいかなきゃだけど表向きの握手会以外にも楽しいことがあってさ」
会話に飛び込んで来た元村が一気にまくしたてる。
こっちは返事どころか挨拶すら返してないのに、そういうところだぞ。
「いつでもできるからなぁ」
元村に聞き返され、俺はなんでもないと首を振る。
放課後、俺は元村の誘いを普通に断り、晴香からの誘いを断腸の思いで断って新都に向かう。
女の誘いより優先すべきことなどない。
あるとすれば別の女との約束だけだ。
「これハードボイルドでいいな。あとで呟いてみよう」
俺は適当な店の多目的トイレで私服に着替え、制服を入れたカバンをロッカーに入れる。
完璧だ。
これは秘密ミッションだ。
身元を特定されるわけにはいかない。
「いらっしゃいませー! ご指名の子はいらっしゃいますかー!!」
元村並のハイテンションなデカい声。
「ルーナさんを」
できるかぎり印象に残らない仕草と表情で淡々と答える。
俺は秋那さんの職場に来ていたのだった。
「いらっしゃーい」
部屋に入ると秋那さんが三つ指ついて迎えてくれる。
綺麗なドレスの胸元は開いているなんてものじゃなくてもう隠す気がないように見える。
まあ本当に隠す気がないんだろうけど。
「あー冷や汗かいた」
俺はベッドに腰かけ、いつもの癖で周囲を観察する。
ギラギラした豪華な内装、妙に弾力のあるベッド、部屋の中にデンと置かれたシャワーと浴槽、そして何とも言えない匂い……。
落ち着かない俺を見て秋那さんは笑う。
今朝、教えて貰ったトークで早速『秋那さんを手に入れる話がしたいのですが』と送ると職場のお風呂屋さんを指定されたのだ。
もちろん高校生だとばれたら即つまみ出される上に、家に連絡されたら両親に怒られ、紬にボコボコにされるだろう。
「もっと安全な場所は無かったんですか?」
「だって今日は仕事なんだもん。午前3時で良ければどこでもいいけど」
それは無理だ。
学校生活を犠牲にはできないし、そんな時間に外出したらやはり両親に怒られる。
それに……と秋那さんの顔が曇る。
「アイツがまーた金せびりに来てるのよ。仕事終わりの時間になったらどこからか出てくるからさ」
「一度顔見られてるのが痛いな」
最初からこうなるとわかっていたら顔を隠しておくべきだった。
「それは大丈夫かな。あいつ泥酔したら何も覚えてないし」
「そうなんですか」
同意しつつ話半分に聞いておく。
「ま、あいつ一回店の女の子とやらかして店長にボコボコにされてるから、少なくともここに出てくることはないよー」
秋那さんがシャワーをもって怪しい椅子に座るように促す。
俺は勝手に服を脱ぎそうになる体を精神で押さえつけて呻く。
そんな俺を見て秋那さんはケタケタと笑っていた。
「頑張るねぇ」
「これも秋那さんを手に入れるため……」
秋那さんは俺の隣に寝転び、両手で抱えるように頭を抱く。
ドレスの薄い布ごしに軟らかさと体温まで伝わってくる。
「防音あるけど念の為にこうして話そう。何の話だっけ?」
俺はこのまま溺れてしまいたいと告げる本能を押さえつけて言う。
「まず邪魔な男を排除しようと思います」
「直球で来るねぇ。一応彼氏なんだけど」
そうは言いながらも秋那さんは不快感を見せず、楽しそうな表情で話を聞いてくれる。
「アイツの評判についてなんですが」
「カス」
一言で終わった。
「それだけじゃわかんないんでもう少し何かないですか……」
「んー。一応ホストやってたけど、寄生できそうな女探すのが目的で真面目に働いてなかったって。だから店での評判は最悪だったみたいよ」
なるほど、とにかく女に寄生することに命かけてるわけだ。
「一度女に食らいついたらなにをしても離れないんで有名みたいよ。通称『蛭のコウ』だって。店の子もひどい目にあって、あたしが付き合ってるってわかったら総出で心配されたもん」
ますますひどい。
どうしてそんなのとひっついているのか。
「バックにヤバい奴らがいるってことはないみたい。逆にヤバい人の女に粉かけてボコボコにされてたことはあったわ。アハハ」
一方で彼氏とは思えない割り切った態度に少し混乱する。
「ただし本当にしつっこいの。前に一度大喧嘩して捨てようとしたことあったんだけど、引っ越しして携帯変えて店の人にも口止めしたのに一週間後には新居の玄関に居たんだ」
俺は口に指を当てて少し考える。
「引っ越しは近場で荷物の転送もかけましたよね?」
「あ、うん一応。放置すると色々面倒だし」
そこからだな。
「転送される前提で旧住所宛に封筒にGPS発信機かその機能を持ったスマホでも入れて送ったんでしょうね。着時間を秋那さんが働いてる時間にしておけばゆっくりと探す時間も取れます」
「……無駄に頭回るわねあいつ」
こんなのは頭の回るうちに入らないが否定すると秋那さんが馬鹿になるので曖昧にしておこう。
だが俺の表情でわかってしまったのか秋那さんは大きく深いため息をついた。
「あたしバカだからさ……誰にでも良いようにやられちゃうのよ」
秋那さんは立ち上がり、ドレスをばさりと脱ぎ捨てる。
下は面積の極端に少ないゴールドのビキニだ。
本当は興奮する場面なのに、悲しげに体を晒す彼女を見てそんな雰囲気にはなれなかった。
「……あたしも本気でアイツを切ろうとしてなかったかも」
「どうして?」
秋那さんは嘲笑うような表情で鏡に映った自分を見ながら続けた。
「あいつは正真正銘のカスだからさ。そんな奴ならあたしを見下せないし軽蔑もできないでしょ。キミみたいな普通の、頑張って生きてる人から見たらあたしは……」
俺は問答無用で抱き締めてベッドに引き倒す。
これ以上は言わせない。
「あと、アイツやたらセックス上手いのよ。あたしも男好きだからベッドで満足させられると『しばらくいっかー』ってなっちゃうのよねー」
「そっちなのかよ」
重い話から唐突に飛ぶのはやめて欲しい。
俺は深呼吸して乱れた雰囲気を整え直す。
そして秋那さんの肩を抱いて正面から見つめる。
「諸々踏まえた上で、アイツを切ります。いいですね?」
秋那さんは鼻頭を掻いて言葉を詰まらせる。
だが一応聞いたものの、俺はもう止まる気はない。
「俺が代わりになります。だからいいですね?」
「キミが付き合ってくれるの?」
俺は秋那さんの口から出た話題を両手で捕まえてベッドの脇に置いておく。
「それはともかく、秋那さんを今よりも幸福にして見せます。それじゃだめですか?」
「ジェスチャー付きで話置いとかれたのはともかく……」
秋那さんが俺の瞳をじっと見る。
幸福にしてみせる覚悟に偽りはないのでふざけずに見返す。
「こんなことしてもあたしに男の嘘を見抜く能力なんてないのよね。高校の時から騙されてばっかり……だからもう一回ぐらいいいよね」
半分期待、半分諦めの目で頷く秋那さんに俺は握手を求めた。
「え? これだけ?」
大人の女性に握手だけは不足だったかとハグする。
ビキニの女性とのハグは裸以上の背徳感がある。
「これで終わり?」
ハグでも駄目かと体を離した途端、唇が合わせられ一気に舌が入って来る。
「ぐむ……」
晴香や奈津美の時は俺からやや強引にいったがこんな気分だったのか。
秋那さんの舌は俺の口内を暴れ回る。
歯の内側を舐め回し、舌を絡め取り、奥深くまで入って来たかと思うと舌の上を擦りながら戻って来る。
最初はなんとか反撃しようと思ったものの、三十秒ほどの交戦で諦めた。
残念ながら戦闘力の違いは明白で勝てる相手じゃない。
「ぷはっ」
キスが終わって舌が抜ける。
秋那さんは笑いながら口元の涎を拭き、俺は荒い息を吐きながらベッドに座り込む。
「残り10分かぁ」
秋那さんは時計を見て言う。
「さすがに無理ですよ。俺、結構長持ちする方ですから」
ビキニ美女の口角が吊り上がる。
しまった、いらんことを言った。
「へえ……あたし相手に10分もつって言うんだ? そっかそっか……その思い上がりに免じて地獄みたいな天国みせてあげる」
――10分後
「また来てくださいねー♪」
にこやかに挨拶する秋那さんに手を振り返すこともできない。
気を抜いたら倒れ込んでしまいそうだ。
「本当に10分でこんな……腰が……」
腰がガクガクでまともに歩けない。
晴香と体力の限界までシたこともあったがその時ともまるで違う。
疲労や痛みじゃない純粋な快楽で腰を抜かれてしまったのだ。
「ルーナちゃん。次そのままいける?」
「無理でーす。顎ガクガクなんで」
「うっそ! あの子学生さんでしょ? さすがルーナちゃんがツバメにするだけあるわぁ」
老人のようにヨタヨタ歩く背中に秋那さんと他の嬢の驚く声が聞こえてきた。
せっかく大人っぽい服で来たのにバレてるじゃねえか。
「だがとんでもない技術だった。絶対手に入れてやる」
決意を新たに店から出る。
「「「「あっ」」」」
出た瞬間に目が合ったのは陽助と晴香と風里に奈津美、俺以外のいつものメンバーだ。
見覚えのある袋はこの先にある大型書店のものだ。
あの店行くのにこの道が一番近道だもんな。
俺は身を翻して逃げようとするが腰が抜けているせいでどうにもならない。
「誉……お前スケベにも程があるぞ」
「私の誘いを断っておいてなんてところに!!」
「連行して厳しく取り調べましょう。死んでしまっても仕方ないぐらいに」
「あわわわわ……」
だが口は割らないぞ。
主人公 双見誉
人間関係
家族 父母 紬「姉」新「弟」
友人 那瀬川 晴香#16「尋問」三藤 奈津美「傍観」風里 苺子「拷問」高野 陽花里「彼氏持ち」江崎陽助「弁護」
中立 元村ヨシオ「ひとり」上月 秋那「ロックオン」
敵対 仲瀬ヒロシ「クラスメイト」キョウコ ユウカ「停学」蛭のコウ「最悪のヒモ」
経験値47