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第39話 お姉さん 5月9日 夕方

 ホテルの入り口を潜ったところでルーナさんはとうとう足が立たなくなって寄りかかってきた。


 引っ張り込んで正解だった。

外でこんなになったらもうどうしようもない。


「ほら部屋取りましたから」


 俺は半ば担ぎ上げるようにしてルーナさんを運び、ベッドに横たえる。


「あーこの部屋見覚えあるー」


「あの彼と来たんですか?」


 俺は冷蔵庫から出した水を飲ませながら聞いてみる。

あまり聞きたくないが。


「んーん。一人で飲んでたらイケメンの子に誘われてさー飲んでたら酔い潰れてー起きたらこの部屋で3人がかりでセックスされてたー。しかも終わったら床に転がされて財布からお金抜かれてたよー」


 もっと聞きたくない胸糞悪い話だった。


「仕事でするのは仕方ないですけど、せめてプライベートでは気をつけないと」


 言いながら俺は上着を脱がせて胸元を開かせる。

別に酔った隙に胸を見ようというのではなく単に楽にしてあげたいだけだ。

だけなのだ。


「アハハーあたしなんてその程度の女だよー」


「そんなことない。セクシーで良い女ですよ」


 既に泥酔状態のルーナさんに言っても無意味だろうが俺自身が同意できないので反論しておく。


「そんなことあるんだよーあたしの人生こんなものー。だまされて、バカやって、メチャクチャになって、軽蔑されて汚がられて……これからもずっと一人だ……」


 今まで能天気だった声が急速に沈んでいく。

酔いが悪い方に回って来たらしい。


 縋りつくように俺に伸ばされた手を取り、導かれるままルーナさんの隣に座る。

大きな胸が押し当てられ、きつめの特徴的な香水が鼻をつく。


 高校生の旺盛な生殖本能が早く交尾しろと騒ぎ立てるも理性で押しとどめる。


 今必要なことはセックスじゃない。


 俺はやや傷んだ金髪を撫で梳きながら「話しますか?」と問い「酔った勢いだから」と返事を受ける。



「あたし中学の時はとても地味で大人しくて……真面目ちゃんなんて呼ばれてたんだ。でも頭は悪くて馬鹿にされてさ。だから高校では目立ってやろうってね。高校デビューってやつかな」


 不運だったのは彼女の通っていた学校が荒れていてたちの悪い生徒も居たことだった。


「入学早々先輩に呼び出されてさ。いきなり告白かーってワクワクしてついて行ったら……体育倉庫でメチャクチャにされちゃった。それでも彼女にしてやるって言われてその気になったの。バカだから」


 そして転がるように落ちていく。

彼女だなんだと言われながら仲間内で貸し出され、あるいは金と引き換えに関係のない生徒の相手もさせられた。


「もう嫌だって言えた時には写真も動画も撮られててどうしようもなかった」


 校内での売春はより金払いの良い校外の大人相手に変わり、高校生の彼女は言われるがままに男と寝続けた。

 

「避妊も適当で最後は妊娠。学校にも家にも全部ばれてどこにも居場所がなくなっちゃった」


 学校は退学、親には殴られてそのまま家出、どうして良いかもわからず途方に暮れているところに声をかけてくれた優しそうなおじさんの家に転がり込んだ。


「今までと同じようなことするだけで生活費どころじゃないお金貰えてさ。味しめて数えきれない人と同じようなことやって、妊娠して産まないを繰り返して、高い物買いまくって……ホストと遊んで」


 この時に出会ったのか今のカス彼らしい。


「3年ぐらい経った頃かな。ふと実家に帰りたくなって……顔を出したんだよね。歓迎されるとは思わなかったけどおかえりぐらい言ってくれるかなって。でも会うなり言われたのは『お前みたいな汚い女はうちの子じゃない』だったんだぁ」


 俺がルーナさんを強めに抱き締めるとそれ以上の力で抱き返してくる。


「それで完全に壊れて、今まで以上にメチャクチャしてお金も無くなってアイツもいなくなってねー。そろそろ死のうかなって時にパパ活友達に誘われてお風呂とビデオ始めたらみんな優しくて……なにその微妙な顔?」


「グッドエンドなのかバッドエンドなのか判断つきかねる顔です」


 ルーナさんは笑って俺の背中を叩く。

   

「グッドでいいよ。そりゃ自慢できる仕事じゃないけど楽しくやってるしね。唯一困ってるのはアイツかなぁ。私にお金が入ったと知ったらシレっと戻って来て追い出そうとすると騒ぐし、逃げても追いかけてくるし……はぁ、なんとかなんないかな」


 おどけた口調の中に本気の部分を感じ取り、具体的な策を考えてみる。

だが積み上げようとした思考の積み木を唐突に服を脱ぎ始めたルーナさんにひっくり返された。


「こんな酔っ払い介抱して下らない話まで聞いてくれたのはヤりたかったからでしょ? いいよおいで」


 ルーナさんはシーツだけを被って誘うように手招きする。


 俺は服を脱ぎ捨てて高々と跳躍――することなく首を横に振った。


「いや止めときます」


 ルーナさんの顔が引きつる。


「魅力ないから? それともやっぱ汚い?」


「いやメチャクチャエロくてヤりまくりたいですけど。今やったら一回で終わりでしょう?」


 ルーナさんの肉感的な体に欲情しない男なんていない。

本当は今すぐにも飛び掛かって好き放題したい。

プロの技術で可愛がってもらいながら晴香達にはできないとんでもないこともしたい。


 だがやってしまえばそれで終わりだ。

俺はルーナさんにとって「酒の勢いで持ち帰られた男の一人」に過ぎなくなる。

それっきり彼女との関係は閉ざされる。  


「んん?」


 意味がわからないと首を捻るルーナさん。

泥酔者に細かい説明なんてしても無駄だから要約して簡潔に一言で。


「貴女と仲良くしたいってことです」


「仲良く……?」


 俺は裸になったルーナさんに毛布を被せて立ち上がる。


「そろそろ帰ります。連絡先書いておいたんで酔いが醒めても俺に興味があるなら連絡してください」


 我ながらハードボイルド系主人公のように決まった。

ちょっと眉毛でも濃くしてみようか。


 ベッドに背を向けた俺にルーナさんがポソリと呟く。


「あーあ。エッチの気分になってたのになー」

「ぐう」


 思わず小さな声が漏れるが、未練がましく振り返ったら台無しだ。

ここは颯爽と去らなければ。


「生でも良かったのになー」

「ふんむぅ」


 非ハードボイルドな声が出たがともかく去らねば……。


「中も覚悟してたのになー」 

「ぐぉぉぉぉ!」


 未練が質量を伴って後ろ髪を引く。

一回やったら終わりなら先っちょだけなら半分扱いでセーフにならないだろうか。


「双見誉!」


 俺は自分の名前を叫ぶ、そして待つ。


「……上月こうづき秋那あきな


 俺は盛大にガッツポーズしてから部屋を飛び出す。

扉が締まる瞬間まで部屋からは可笑しそうな笑い声が聞こえていた。


 



 家に帰った俺を出迎えたのは玄関に仁王立ちする紬だった。

小さい体を精一杯伸ばし、無い胸をこれでもかと張っている。


「ホマ君遅い! 連絡もつかないし!」


「ごめん姉さん。ちょっと知り合いと会ってさ。荷物はちゃんと無事だから」


 嘘は言っていない。知り合いは知り合いだ。


「荷物よりホマ君を心配した! なんで私より遅くなるの!」


 紬は外出着のままだ。

俺を探しに出ようとしていたのだろう。


 感極まって紬を抱き締める。


「ぎゃあ! 突然なにを……臭っ! ホマ君臭い!! 臭ホマ!」


 極まった感が萎れていく。

臭いってのはキモイよりも効くよな。


「お酒とタバコとキツイ香水の臭いがする! ホマ君どこで何してきたの!?」


 スケベなお姉さんとラブホテルに行って来たとは言えず口ごもってしまう。


 紬は疑いの目になって俺の周りをトテトテ回る。


「……ホマ君首筋にルージュついてる。真っ赤なドギツイやつ」


「げっ」


 ベッドに寝かせた時にやられたのだろうか。

だとすると新都からキスマーク晒して帰って来たことになるぞ。

などと考えながら鏡で首筋を確認するも何もない。


 そして古典的な手に引っかかったことに気付いた。

まさか紬にしてやられるとは……。


「……卑怯だぞ姉さん」


 だが紬は勝ち誇ることもなくワナワナと震えそして――。


「お母さーん!! ホマが悪い女に捕まったーー!!」


 だから母親に言うのはやめろ。



 

 大騒ぎした紬をなんとか凌ぎ、俺はようやくベッドに入る。

そして目を閉じて裏の世界に……。


「眠れない」


 眠気はあるのにムラムラして眠れない。


 そりゃそうだ。

あんなセクシーな女性がOKしてくれていたのに手を出さなかったのだから欲求不満になるに決まっている。


「これは先行投資だぞ。上手くいけばこれから何百回でもスケベなことを……」


 自分に言い聞かせるも妄想してしまって逆効果、余計に興奮してしまった。


「……するか」


 俺が専用のタオルを取り出したところでスマホが震えた。


 SNSアプリから突然の承認申請。

覚えのあるその名前を俺は即座に承認してから二度三度とガッツポーズする。


『承認早っ!?』


『ずっと待ってましたから。酔いは醒めましたか?』


 流れ的に秋那さんの画像を使うことになっていただろうし、待っていたと言っても良いだろう。


『頭が痛くて気持ち悪い。しかもムラムラして寝れないよー』


『同じくです』


 打ってから自分で笑い、向こうも笑っているだろうと想像する。


『私のビデオでお抜きなさい』


『お勧めはなんですか?』


 何だこの会話。


『――かな。男優さんがガチで上手くて感じてるの演技じゃないんだよね。ちなみにこの撮影の後、二ヵ月ぐらいプライベートでも肉体関係もってました。それはもう毎回ヒィヒィと』


『変な性癖つきそうな裏話やめてください』


 下品で酷いながらも楽しくトークを続けていると、いつの間にか欲情が静まり瞼が落ちてくる。

秋那さんも同じなのか返信速度が落ちてきていた。


『もう限界だー。そろそろ寝るね』


『俺もです。お休みなさい秋那さん』


 最後に名前を呼んでみる。


『ぐえー。やっぱり名前教えたの夢じゃなかったかー』


 俺は少し考え、最後の一文を送信して会話を切る。


『秋那さんを手に入れて見せます』


 枕元に置いたスマホの画面に一瞬返信が表示されたが、向こうから削除されたのかすぐに消えた。


『待ってる』


 代わりに何故か秋那さんの裸体画像が送られてきた。

欲求不満の高校生にこんなスケベ画像を送って来るとはひどい女性だ。


 お返しに俺もスケベな場所の画像を送ってやろう。

何故か見覚えのあるアイコンが並んでいた気がするが寝ぼけていて良くわからない……俺の意識はそのまま裏へ……。


主人公 双見誉 市立両河高校一年生

人間関係

家族 父母 紬「姉」新「弟」

友人 那瀬川 晴香#16「絶句」三藤 奈津美「困惑」風里 苺子「最低」高野 陽花里「彼氏持ち」江崎陽助「最悪」

中立 元村ヨシオ「AV」上月 秋那「ターゲット」

敵対 仲瀬ヒロシ「クラスメイト」キョウコ ユウカ「停学」ダメ男「ヒモ」

経験値39



次回更新は明日19時頃予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 紬おねーたんだ!やっぱり可愛い!100点! [気になる点] なぜ使用後に洗濯が必要なタオルを…?
[良い点] あははは やっぱり最後の現況欄は良いですなぁ 救いは父母姉弟のステータスが「絶句」とかじゃ無かったことですね(笑) 次も期待してます。
[良い点] あははは やっぱり最後の現況欄は良いですなぁ 救いは父母姉弟のステータスが「絶句」とかじゃ無かったことですね(笑) 次も期待してます。
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