表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/112

第27話 好みに合わせて 4月27日

4月27日(火)【裏】


「今に見ていろ。俺を相手にしたこと後悔させてやる」


 俺は腕を枕にして仰向けに寝転び不敵に笑う。


「はいお水~。うんうん、吐かずに飲めるようになったね」

 

 シズリに飲まされた水をゆっくりと飲み込む。


「俺が立ち上がった時がお前の最後だ」


 歯を食いしばって三脚への敵意をむき出しにする。


「ソフィアがおかゆ作ってくれたよ。ふーふーしてあげるからゆっくり食べてねー」


 小さな子ども用スプーンで口に入れられた粥を戻しそうになりながらなんとか飲み込む。


「無駄に三本も生やしやがった足を引き千切ってやる」


 虚空に伸ばした手を握り、妄想の三脚を引き千切る。


「あ、おかゆさん食べられたんですね……良かったぁ。じゃあ次はこれを」


 ソフィアが口を切ったペットボトルをもって布団をめくり上げ――。


 さっきから復讐に燃えるムーブしてるのになかなか恰好がつかないな。


「というか尿瓶はさすがに勘弁してくれ。外に転がしといてくれれば何とか自分でするから」


「え、外にですか? でも……」


 ソフィアが困った顔で外を見る。

耳をすませるとドスンドスンと音がした。


「……頼む」

「はーい」


 そこにマンションの見回りを終えたカオリがドアから素早く入って来た。


「あいつめ、ここの周辺に居付いちゃった。ぐるぐるって辺りを移動してる。こっちを見てない隙に見回りしないといけないから大変なんだ」


「このままじゃ調達にも行けないな」


 うん、とカオリは頷いてから絶句する。


「あんたソフィアに何させてるの!」


 そりゃ友達が男のシモの世話させられてたら怒るよな。当然だ。


「そんな汚いの触っちゃダメ! 私がやるから!」


 カオリが尿瓶をとりあげる。


「てか看病はあたしの仕事だから。お子様に危険物は触らせられないって」


 シズリがまたとりあげる。


「大丈夫です。私、細かい作業は得意ですから」


 ソフィアがまた手を伸ばす。


 

 これは俺を取り合うハーレム展開ではないだろうか。

一方で状況は深刻だ。


「うわっ! ちょっと誉君、どさくさに紛れてお尻触ったな!」


 可愛い女の子三人が俺を取り合ってくれている上にシズリの尻まで撫で回しても体が反応しない。


「俺はまだ戦えない。今は休息が必要だ」


 全身の力を抜いて目を閉じる。

ところでそろそろ限界なんだが自分でやるから尿瓶を貸してほしい。

 


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


4月28日(水)『表』

朝 学校


 HRの開始までまだ十分な時間がある。

『裏』の方で一日中食っちゃ寝しているせいか『表』では気分的に早起きしてしまうのだ。


 当然まだ陽助は登校していない。

今日に限っては本の類も忘れてきたので、なにか飲んで時間を潰そうと食堂自販機の前まで来たところで風里と遭遇した。


「よう早いんだな」


「双見君も意外ね。もっとギリギリに来るタイプかと思っていたわ」


 俺は流れるような動きで風里に壁ドンする。


「もし時間があるなら、ちょっと変な話を聞いて貰えないか?」


 風里は陽助よりも頭が良さそうだから対三脚の手掛かりを思いついてくれるかもしれない。


「別にいいけれど、あまりに下らなかったら話の途中でも戻るわよ」


 やられるとダメージでかそうだ。

 

 俺はシャツを第2ボタンまで開きながら、陽助にしたのと同じく三脚をサイに例えた話をしてみる。



「それは完全に一人でやるのが前提なのね?」


 即座に去られて落ち込む準備はできていたのだが、意外にも風里は乗って来た。


「一人、もしくはごく少人数だ。できる限り音も立てないようにしたい」


「なるほど……なら穴を掘るのはダメね」


 風里はズボンからシャツを出してヘソを覗かせる俺を見ながら顎に手を当てて考える。


「高所から重量物の投下はどうかしら?」


 高所から物を投げるのは素手の人間ができる最大威力の攻撃だ。

もちろん俺も考えたのだが……。


「上手くあたるだろうか?」


「難しいわね。投下する高さを下げれば命中は狙えるけれど肝心の威力がなくなって仕留めきれない。いっそ極端に高い場所から複数投げてラッキーヒットを狙う方が良さそうね」


 ラッキーヒット狙いか……最初から運を天に任せると大抵碌なことがないんだよな。


 風里は渋い顔になった俺を見ながら一つ頷く。


「急勾配の坂道を利用するのはどうかしら。高所からの投げ落としだと同時に落とせる数に限界があるけれど、坂道から転がすのなら事前に準備しておけば一気に何十個もいけるでしょう? 点ではなく線で狙うから命中率も高くなるわ」


 俺はシャツのボタンを全部あけながらなるほどと脳内でシュミレートしてみる。


 転がる重量物を坂の上に配置……なんとでもなる。

三脚を下に誘導……これもいけるだろう。

そして坂をあがってくる奴を集中攻撃……。


「サイ、倒せるかな?」


「無理そうね」


 風里は首を一つ振った。


「いきなりで情報が足りないわね。もう少し待ってくれるかしら?」


 風里にとってはバカな妄想話のはずなのに真剣に考えてくれて申し訳ないな。

てっきりどこかで下らないと教室に戻ってしまうかと思ったのだが。


「話を聞いてくれたお礼に奢るよ。風里も飲みもの買いに来たんだろ」


「ならブラックコーヒーをお願い。あと……さっきから喧嘩を売っているのかしら?」


 風里は壁ドンしていた俺の手をはたき、腰パンしつつあったズボンを引き上げ、シャツをはだけて丸見えになった乳首を思い切り抓る。


「痛い……オスとして俺が好きとか言ってくれたからもっとオス臭くしようと思って……マジで痛い」


 本気でつねられた乳首とれてないだろうな。


「ただアホ臭かっただけよ。愚かなことはしないでちょうだい」


 俺がコーヒーを渡すと風里は受け取り背を向けた。


「そんなことをしなくても双見君は十分オス臭いから大丈夫よ」


 言い終わる前に俺は後ろから風里に抱きつく。

顎を掴んで振り返らせ、唇を奪おうと顔を近づける。 

 

 そして唇に熱い何かが――この温度は体温どころじゃない。


「熱い……」


 俺は熱々のコーヒー缶から唇を放して悶える。


「晴香に許可を取ってからよ、何度も言っているでしょう? 女の興奮を感じ取ったら即発情……ほとんど野獣ね」


「ぐう……」


 俺はコーヒーを飲みながら歩く風里の後ろを従者のように歩く。


 

 色々しているうちに時間も経っていたようで校内に生徒の姿が増え始めた。


 玄関前を通りかかった時、周囲の生徒達が一斉にざわめき、視線が一点に向けられる。


「あっ誉、おはよー」


 笑顔でこちらに駆け寄って来る晴香を周囲の生徒の視線が追う。


「やっぱりね」

「美人だよなぁ」


 風里と俺が納得していると晴香は首を傾げた後、違和感に気付いたのか搔き分けるように間に割り込む。


「なんで二人が一緒にいるの!? まさか学校でエッチなことしてたの!?」


 晴香が風里を庇うように立つ。


「いいえ、ちょっとした妄想話を聞かされただけよ」  


「あとは乳首を捻られて唇を火傷したぐらいだ」


「妄想……? 乳首……火傷……んんー? どゆこと?」


 状況が思い浮かばずフリーズした晴香を風里がつつきながらこちらを見る。


「それで全校生徒注目の美人を改造した双見君。感想ぐらい言ってあげたら?」


「おう」


 俺も改めて晴香の全身を眺める。


 昨日俺が好みと言った通りに晴香のスカートは二回りほど短くなっていた。

これぐらいはクラスの女子も普通にやっている程度なのだが、何しろ足が長いからミニスカート並だ。

晴香は普段から結構無防備なので座り際とかに注目すれば見れそうだな。

 

 そして短くなったスカートから伸びる生足はくるぶし辺りまでしかないソックスへ続く。

長い長い肌色の長城だ。


「ねえ晴香。本当にこの男でいいの?」

「ふ、普段は素敵なんだけど……今はひどいね……」


 興奮のあまり足に顔を近づけ過ぎたせいで晴香に引かれてしまった。

最後は恰好つけておこう。


「その髪、染め直したんだな」


「う、うん。誉が茶髪好きそうだったから……ちょっと明るすぎかなとも思ったんだけど」


 元々亜麻色にしていた髪が茶色に染め直されている。


「いいな。すごくいい。素敵だ」


 俺は晴香の髪に手を伸ばしながら言う。


 正直前の亜麻色も好きだったので惜しいとも思うのだが、たまらないのは晴香が俺に好かれようと髪の色まで変えてきたことだ。


 傲慢だとわかっていても『この女はもう俺のモノだ』『俺はこの美女を自由にできる』とオスの独占欲が沸き上がる。


「良かったわね晴香、どうやら命中よ」


「昨日美容院に飛び込んだ甲斐があったよ。それとさっきまで何してたか聞かせてね」

  


 そこで再び玄関がざわめく。

晴香が来た時とは少し別の感じだ。


 恥ずかしそうに体を縮こまらせ、時折髪を気にしながら小さな歩幅で歩いてくるのは奈津美だ。


 奈津美は俺の姿を見つけると、両手を広げたままの見るからに足の遅そうなフォームでトテトテ走って来る。


「あうっ!」


 そして案の定スッ転び、予期していた俺が受け止める。


「おはよう奈津美」


「おはようございます……誉さん」


 上目使いでこちらを見る奈津美の髪がなびく。


 今までは綺麗に整えてはいたものの飾り気の無かった黒髪が、ふわふわボブカットに変わっていた。

しかもやや暗めとはいえ色も茶色く染めている。


「あう……髪を染めたの初めてで……うう」


 恥ずかしそうに髪をいじる奈津美。


 こんな内気で大人しい子が俺の好みに合わせ人生で初めて髪を染めてきたのだ。

文字通り『俺の色に染めてやったぜ』感が凄まじい。


「似合ってるよ。可愛くなった」

 

 蒸気をあげそうなほど赤くなる奈津美。


「じゃあ教室に行こうか」


「はい!」


 嬉しそうに後をついてくる奈津美。

150cm程の小さな体には大きすぎる胸がユサユサ揺れる。


 俺と晴香、風里の三人は顔を見合わせて首を傾げた。


 廊下を歩くとユッサユッサ、階段を一歩上がる度にぶるんぶるん……。


 俺達三人は再度顔を見合わせる。


「奈津美……ちょっとその場で跳んでみてくれ」


「ふえ……? え、えいっ!」


 必至のかけ声と釣り合わず、ほんの数センチ跳ぶ奈津美。

胸がバルンと揺れてシャツが変形する。


 晴香が奈津美の肩をがっちりつかむ。


「奈津美まさかブラつけてないの!? ぎゃー! この子ブラウスの下にキャミも着てないよ!?」


 晴香の手が奈津美の胸を揉むと自由自在に形を変える。


「だ、だって誉さんが開放して揺らせって……」


「奈津美ぐらい大きいときついスポブラとかで押さえ込まなきゃ勝手に揺れるんだから! 私もそうだし……ってこの格好で電車乗ったの!?」


 奈津美は恥ずかしそうに胸を隠すが変形してより大変なことになっている。

ふわふわの茶髪を振り乱して恥ずかしがる奈津美は実に可愛らしい。

ブラウスの下は裸と言うのも素晴らしいのだが痴漢にあったり変態扱いされても困る。 


「嬉しいし興奮したけど明日からはちゃんと着てこい。それで、二人だけの時にまた見せてくれ」


 奈津美は俺に抱きついて頷く。

二人きりの時はこの恰好させよう。


「痴漢にも露骨すぎて警戒されたのかもしれないわね。ナンパスポットでも下着姿で練り歩く女に声はかけにくいものよ」


 そうだろうか?

俺なら見かけた瞬間に行けると思って声をかけるが。 

 

「それは双見君が野獣だからよ」


 ひどい言われようだ。


「ともかくこんなんで授業受けたら大変でしょ。前屈みになったらボタン弾けて飛び出るかも」  


 個人的には見てみたいが奈津美が不登校になってしまいそうだから駄目だな。


「とりあえず下に私の体操服を……」


 晴香が自分の服を取り出そうとすると奈津美が小さく首を振る。


「で、できれば誉さんの体操服が……」


 晴香の目がスーっと冷たくなる。

こらこら睨むんじゃない。


「もちろんいいけど昨日体育で使った後、横着して持って帰ってないから汗が……構わない? そうか」


 今日も朝からドタバタだが『裏』では寝てばっかりだからちょうどいい。


 さて最後にもう一つ。


「風里、新しい眼鏡似合ってる。大人っぽくて……セクシーだ」

 

「そう」

 

 風里は小さく呟いて教室に戻っていく。


 ふと準備室から陽花里と男が一緒に出てくるのが見えた。

陽花里は髪を整えながら何やら呟き、男は不服そうな顔をしているようにみえる。


「……!?」


 俺と目があった高野は気まずそうな顔で男を押し退けてトイレに入っていってしまった。


「なんだろうこの気持ちは」


 僅かに胸が痛みモヤモヤする。

だが同時にほんの僅かな興奮も感じる。


「なに言ってんだこの変態」


 陽助の声に振り返ると顔を腫らした奴が立っていた。


「……理由を聞いて欲しいか?」


「放課後古典の先生を口説いた。教師と生徒だと言われたからそれでもいいと迫った。こんな私のどこが良いのと聞かれたから熟れ熟れのところと答えたらビンタされた」


 簡潔で分かりやすい解説ありがとう。


「本気でぶたれたから頬が痛い……だが同時にとても興奮したんだ。それにまだいける気がするんだよ」


 俺はこんな変態とは違う。

陽花里のことはモヤモヤが100%に修正しておこう。





 昼休み。

食堂に集まったのは俺と晴香と奈津美だけだ。

陽助は古典の教師から再度生徒指導を受けている。 


「苺子は調べものがあるんだって」


 晴香はそう言いながら豚の生姜焼き定食を頬張る。

珍しく傍に丼がついていないと思ったら生姜焼き定食が二人分あった。


「……65kg」


「美味しくなくなるからやめて」


 奈津美が呟くと晴香はムッとした顔で米を一掴み奪う

良いのかそれで。


「ちなみに奈津美は体重どれぐらいなんだ?」

「ひぅ」


 俺はカツ丼を食いながら何気なく聞いてみる。


 そういえば俺も少し太って来たかもしれない。

最近、主に晴香が原因で限界突破して食べること多いしな。


「うぅぅ……!」


 逆に『裏』では怪我のせいで食べられずに痩せて来ている。 

表裏で体重を合わせないと体の感覚が狂うからどうしたものか。


「49……いえ50kg……あります。いつもこのラインでダイエットを……」


 泣きそうな顔で言う奈津美。


「最低……」


 そして晴香に睨まれた。

よく考えたら食堂で体重公開させてしまったのか。


「奈津美は誉の言うことなんでも聞いちゃうんだから気をつけてあげないと。本能に任せて裸になれ~とか言ったら大変なことになっちゃうよ」


「さ、さすがにそんな無茶なことはしないです~」


 さてちょっと興味がわいてきた。


 俺は奈津美の肩を掴んで顔を近づける。


「奈津美、全部脱げ。命令だ」


「ひ、ひゃい!?」


 奈津美は顔を真っ赤にして立ち上がり、俺の顔と周囲を二度見比べた後、震えながらスカートに手をかける。


「ストップ冗談だって!」


 まさか本気で脱ごうとするとは。

真っ赤な顔のまま頬を膨らませて抗議の意思を示す奈津美にカツを分けてやる。


「モグモグ……ってひどい! ダイエット中なのにカツ食べちゃいました!」


 ああ、忘れてた。

別に奈津美も太ってるようには見えないけどな。

というかかなりの部分がおっぱいの重さだろ。


「奈津美は少しふにふにしてる方が愛らしいと思うんだけどな」


「うう……ふにふに」


 これもダメなのか。

フォローしてくれと晴香を見るとキラリと目が輝く。  


「どうせだったら今日の放課後、三人でダイエットできるところ行ってみない?」

 

 奈津美がパッと明るい顔になって頷く。


 だが晴香の視線の先はあくまで俺にむいている。

なにか企んでいそうだが、晴香がすることなら別にはめられてもいいか。


 ――などと考えていたことを俺は後悔した。

『表』

主人公 双見誉 市立両河高校一年生

人間関係

家族 父母 紬「姉」新「弟」

友人 那瀬川 晴香#8「策謀」三藤 奈津美「ふにふに」風里 苺子「調査」高野 陽花里「彼氏?」江崎陽助「攻め」


中立 元村ヨシオ「孤独」

敵対 仲瀬ヒロシ「クラスメイト」キョウコ ユウカ「長期停学」

経験値24


【裏】

主人公 双見誉(重傷)生存者

拠点 

要塞化4F建てマンション丸ごと 居住4人 周囲に三脚居付く

人間関係

シズリ「看病担当」#15 カオリ「見回り担当」ソフィア「尿瓶担当」

備蓄

食料23日 水11日 電池バッテリー6週間 ガス2か月分

経験値(1)+X


次回更新は明日18時頃予定です。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ