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第25話 敗北記念 4月26日【裏】

4月26日(月)【裏】


「全然意識が戻らなくて……あたしもう……だめかと……良かったぁ」


 俺の頭を抱いて泣くシズリや裸のまま胸を撫でおろすスフィア、即座に毛布を引き上げて体を隠すカオリを見ながらボケっと天井を見続ける。


 ほぼ丸一日寝続けていたのだろうか、頭が鈍って思考がまとまらない。

何か考えようとしてもシズリとソフィアの胸と腰ばかりに目が行ってしまう。

これはいつものことか……ちょっと思考力が戻って来た。


「えっと、覚えていますか?」


 ソフィアが枕元まで寄ってきて言う。

彼女の真っ白な腹から腰まで信じられない細さだ。

しかもこれでお尻は結構大きいときているからたまらない。


「思い出してきた……」


 ソフィアの美しい裸体のおかげで思考力が戻ってきた。

徐々にあの後のことを思い出す。


 三脚に吹き飛ばされた俺は昏倒……いやこうして思い出せるのだから僅かに意識はあったのだろう、だが立つことすらできない状態だった。


 俺はカオリに肩を貸され、後ろからソフィアに支えられて逃げた。

やがて起き上がった三脚と戦闘の音に寄って来たゾンビに追われながら。


 追われて逃げるだけなら本来ゾンビも三脚も問題にならない。

ゾンビは人間の早足程度の速度だし三脚は更に遅いからだ。

だが女の子二人が意識の無い男を引きずってとなると話が違う。


 俺に肩を貸しながら、歯を食いしばり足を震わせて運んでくれたカオリの姿をおぼろげに思い出す。

ソフィアも人形のように綺麗な顔を歪ませながら必死に支えてくれていた。


 俺はなんとか腕を動かしてソフィアの手を握った。

それがきっかけになって余計なことも思い出す。


 最初は肩を貸して運ばれていたがいよいよきつくなったのか、二人は俺の両足を掴んで引きずり始めた。そして……。


「ひ、引っ張り過ぎて途中でズボンがパンツごと脱げちゃって……その……大きいんですねっ」


 無理して笑うソフィア。

怪物の攻撃とあまり関係がない尻の痛みは丸出しのまま引きずられて擦れまくったからだ。


「そもそも荷物捨ててればもっと速く動けてた。食べ物捨てるって概念がもう意識になかったから……アハハハ……」


 カオリが気まずそうに言う。

まさしくその通りだろうが結果的に助けられた身で文句は言えない。

ただただ感謝するのみだ。


 そしてなんとかマンションにたどり着き、俺に梯子を登らせようと悪戦苦闘していた時、痛めつけられていた俺の胃が限界を迎えてソフィアに頭から――。


「……平気ですよ。緊急時ですから」


 引きつった顔になるソフィア。

こんな美少女に汚物をぶっかけたとか申し訳なさすぎて死にたくなり、爪の先ほどだけ興奮する。


 そこで俺の意識は完全になくなったようでそれ以上は何も思い出せない。


「なんとか布団に運び込んだんだけど、何度か血を吐いて体温が一気に下がり始めて震え出して……」


 シズリの言う通りだったなら普通に死ぬやつだな。


「だから裸になって温めてたんだよ。三人ともすぐにやってくれて」


 ソフィアが少し照れ、カオリは真っ赤になってそっぽを向いてしまう。


 総合すると――だ。


「ありがとう。捨てないで連れ帰ってくれて」


 俺は精一杯体を起こして掠れた声で言う。


「良く知らない男に裸を晒してまで看病してくれて」


 カオリとソフィアは笑って「ハイ」と受けてくれた。

シズリは何も言わず再び俺の隣に戻って裸体を押し付ける。



「ただ一つ……気になることがある」


 俺はそう言うと、三人は引きつった顔で「だよね」と呟く。


「外からゴトゴト音がするんだが」


 カオリの頬を汗が伝う。


「完全に振り切ったと思ったのに……」


 ソフィアが裸体のまま隣に潜り込んでくる。

体は暑さからではない汗でびっしょりと濡れていた。


「ついて……来ちゃいました」


 シズリが濡れたタオルで痣だらけになった俺の体を拭きながら言う。


「昨日からずっとマンションの周りをうろうろしてるの。私達を探しているんでしょうね」


「なるほど……なるほど……」


 俺は僅かに震えるシズリとソフィアを包み込むように抱えて言う。


「大丈夫だ。三脚にここは襲えない」


 このマンションの防御はバリケードではない。


 そもそもの構造からして一階部分は駐車場と管理人室だけで、住居のある上階との接続は非常階段、外階段、エレベーターの三つだ。


 エレベーターは動かず、非常階段は外して倒した、そして外階段は塞ぐのではなく破壊してただの大きな段差にしている。

奴がいかなる怪力でも打ち破るべき壁やバリケードすらないのだ。


 中に入るには俺達のように梯子を使ったり飛ぶなり跳ねるなりして二階部分以上に入るしかない。 

ゾンビが大量に集まって折り重なると危ないが、垂直の動きができない三脚に侵入の手はない。


「な、なら大丈夫なんですね」


 ソフィアが顔をあげる、俺は安心させるように頷く。


「石とか投げられたら?」


 俺はカオリに向けてグッと指を立ててから、頭の位置を低くするようにジェスチャーする。


「……」


 下着姿のカオリが冷や汗かきながら布団に潜り込んで来た。


「まったくあいつのせいで散々だ。絶対ぶっ倒してやる」


 可愛い女の子の前で酷い醜態を晒してしまった。

このままではスケベな関係を狙うどころか、見限って出て行かれてもおかしくない。

必ず三脚を叩き潰して名誉を挽回しなければいけない。


「怪我が治ってからね」


 シズリが水を飲ませてくれるが一口飲んだ瞬間、枕もとの洗面器に向けて吐き戻す。

血は……注意しないと見えないぐらい、内臓が破れていることはないだろう、そのはず、そう思いたい。

無理すればそろそろ起き上がれるだろうか。


「だめですって」

 

 ソフィアが腹に力を入れようとした俺の肩を押して布団に留める。


「……そうみたいだ」


 非力なソフィアに押し負けたことよりも、彼女が産まれたままの姿で触れてくれたのに股間が全く反応しないことに打ちのめされる。そんな状態の男が無理をしても成し遂げられることはなにもない。


「治りながらあいつのぶっ飛ばし方を考えるよ。悪いけどそれまで情けない俺の面倒を見て欲しい」


 3人はクスリと笑い、シズリは俺の顔を拭き、ソフィアが肌を寄せて温めてくれる。


「そしてカオリは恥ずかしげな顔で俺の股に――」


「顔を寄せ――ないわよ!」


 すね毛を引き抜かれて悶える俺を皆が笑う。


 ふとソフィアがスマートフォンを取り出した。

『表』の必須機器も電波が消えた『裏』では無用の長物、誰かが持っているのを見るのは何か月ぶりか。


「みんなで写真撮りませんか? やられちゃった記念ってことで」


「なにそれ縁起でもない」


 シズリが渋い顔をするが俺は笑う。


「やられた記念、面白いじゃないか」


 誰も欠けなかったからこそ撮れる写真だ。


 ソフィアは自撮り方式で構える。


「じゃあいきますねー。はいチーズっ」


 シャッター音が鳴る直前、ソフィアとシズリが自分の顔に手を添える。


「はい撮れましたー」


 画面を確認すると二人は特に美人に写っている。

逆に何もしなかった俺とカオリは角度と影の問題か、のっぺりと写っている。


「あっこら元アイドル! 自分だけ写り良くしたな! ってシズリさんも!?」


「女子大学生なんて自撮りするために生きてるの。ブランクあっても自然に体が動くって」


 外では相変わらずゴトゴト聞こえるが笑えているから大丈夫そうだ。


 俺は横になって目を閉じる。

とにかく長く寝て早く回復しないといけない。

そして寝ながら三脚への勝ち筋を見つけないといけない。


 落とし穴、ガスボンベ、ガソリン、高所からの突き落とし……いずれも上手くいくビジョンが見えない。


 まあ俺には2倍の時間がある。

必ず考え付いてやるさ。


「今気付いたんだけどこの写真……」

「う、うん。だよね。雑誌の裏とかについてる……」

「あれよりひどいでしょ。あたしとソフィア普通におっぱい見えてるし」


 だよな。

俺もそうなると思ったんだがハーレムっぽいのが嬉しくて黙ってたんだ。

さて寝たふりをしよう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 目が覚めて混乱する。

天井、壁紙から家具の配置、そして匂いまで全てがいつもと違ったからだ。


 まさか『裏』から戻り損ねた?

いやそれはそれで見覚えがあるから違うとわかる。


「むにゅ」


 不意に隣から頭を掴まれて引き寄せられた。 


 視界いっぱいに映る幼い顔は紬――思い出した。

昨夜はこれで最後かもしれないからと甘えて一緒に寝たのだった。


 結果は要らない心配だったけど嬉しかったな。


「おはよう姉さん。もう朝だよ」


 精一杯の優しい声で言うと紬の目がうっすら開く。


「ホマ君だ……」


 そのまま顔が近づいてきて鼻にキスをされた。


「ホマ君……可愛いホマ……ホマママー」


 続いて頬と額に、そこからはもう顔中だ。


「寝ぼけてんな……」   


 いつもなら鼻を摘まむか額にデコピンして一発で起こすのだが、昨夜の優しさを思い出すと手荒いことはしたくない。


「ホマ君とちゅっちゅー。もっとちゅー」


 俺がどうしたものか迷っているうちに寝ぼけた紬はとうとう俺の唇にキスをしてしまった。

紬とはいえ女の子と唇が重なると俺は反射的に舌を入れてしまう。


「んむぅ」


 紬の目に光が戻り始めた時ドアが開く。

 

「姉ちゃんもう8時だぞ! ったく早く起きて騒いだり起きて来なかったり……」


 新は電気のスイッチを探しているようだ。


「兄ちゃんも部屋にいなかったし。まったく朝からどこに……っと」


 スイッチが入れられ45WのLED電灯が紬の部屋を明るく照らす。

この明るさを見ると『表』なのだと安心するな。


「……」


 さて新の目には何が見えているだろう。


 まずベッドの上でヘソを覗かせている紬……これはいい。


 次に紬の隣に寝ている俺……これはよくない。


 重なりあった唇と、そこから伸びて絡み合う舌……これはかなりよくない。


「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


 俺達を指差して叫ぶ新。


「んむぅぅぅぅ!!!」


 その声で完全に覚醒し、舌を絡めたまま叫ぶ紬。

ついでに強烈なビンタまで食らってしまう。


 そして階下から聞こえる母親の怒鳴り声。


「今日もメチャクチャだ」


「メチャクチャなのはホマだぁ! 可愛いこと言うから一緒に寝てあげたのに! お姉ちゃんのファーストキスーーー!!」


 俺はちょっと舌を入れただけでキス自体は紬からなのに。 

それに兄妹のキスはノーカンだから大丈夫だ。


「兄ちゃんと姉ちゃんが!! ムギねえとホマ兄がぁ!! うわぁぁぁぁぁ!!」


「新もうっさい!! ホマも微笑ましい顔で見てるんじゃないー!」


 やっぱり『表』はいいものだ。 

主人公 双見誉(重傷)生存者

拠点 

要塞化4F建てマンション丸ごと 居住4人 外部を三脚徘徊

人間関係

シズリ「元女子大生」#15 カオリ「のっぺり」ソフィア「元アイドル」

備蓄

食料24日 水12日 電池バッテリー6週間 ガス2か月分

経験値(0)+X 減退



次回更新は明日18時頃予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 裏発生近辺の過去話はやらないです? [一言] 大きな逸物と吊り橋効果のコンボがスゴい(違
[気になる点] 経験値って減るんですか? 謎のパラメーターですね。
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