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第19話 入院生活に退屈無し 4月24日

4月24日(土) 病院


 俺は病院の窓から外を見て呟く。


「あの桜の花びらが全部落ちたら俺も死ぬのかな?」


「ほぼ葉桜だから三日と持たないだろうなあ」


 アホなことを言って笑う。そして苦しむ。


「肋骨折ってるのにしょうもないことで笑うなよ」

 

 陽助が仕方ないなぁとばかりに水差しのようなものを差し出す。


「尿瓶じゃねえか」


 俺は陽助の手を振り払って仰向けに寝転んだ。



 肋骨の骨折で全治三週間……とは言え上手く調整したので折れたのは一本だけだし、さっきみたいなバカ笑いをしなければ普通に動ける。

しかしボコボコにされた末の転倒ということで他の検査も必要と言われ、週末だけ入院することになったのだ。


「しかしまぁ……わざとなんだろ?」


 陽助が声をひそめて言う。

俺は否定せずに差し入れのコーラを飲んだ。


 奈津美を虐げていた4名のうち、高校生の3人はあれで懲りるだろう。

警察にもこってり絞られるだろうし、家でもボコボコのはずだ。


 だが無職のミツルだけはそうはいかなかった。

逆恨みで奈津美に何をするかわからない恐怖があった。

だからこそすぐに出てこれる万引きの程度の罪ではなく、もっと長く警察に世話してもらう必要があったのだ。


 慣れない法律の本も読み込んでみたが無抵抗の高校生を怪我させて金まで盗ったのだ。

少なくとも俺達が卒業するまでは出てこれない。


 偽装がばれたらこっちもやばいことになるだろうし少々やり過ぎだったかもしれない。


 それでも俺は奈津美を守ると決めた。

なら法律も正義もどうでもいい。

警察も法律もクラスメイトの感情も……全て上手く利用して彼女を助けられればそれで満点なのだ。


「ま、これで良かったんだろ」


 陽助と俺がコーラで乾杯したところに病室のドアがノックされた。


「あ、あの……双見さん……いらっしゃいますか?」


 奈津美の声だ。


 陽助が椅子からひょいと立ち上がる。


「帰るわ。三藤はお前のことかなり気にしてたからフォローしとけよ」


 おうと小さく頷く。


「彼女、もうお前にぞっこん……なんだけどちょっと変なんだよな。色々上手くやれよ」  


 ああと頷く。


「那瀬川にも全部伝えとくから切り抜けろよ」


「最後のはやめろ。……あと今回は好きに使って悪かったな」


 陽助はフッとクールに笑う。


「いいさ。お前だって俺が頼めば同じことをしてくれただろ?」


「前向きに検討はした」


 なんだそりゃと陽助は俺のコーラを振りまくってテーブルに置く。


「あのぉ……双見君いませんかぁ……」


 奈津美が泣きそうな声になってきたのでコントはここまでにしよう。



 陽助が去ると入り代わりに奈津美が病室に入って来る。 


 もう一度外の桜で一芸やっても良かったが奈津美は泣いてしまいそうなので自重しよう。


 奈津美はトテトテとベッドの傍まで走って来る。

やはり小柄なのに胸がすごい。揺れまくってるな。


「私のせいでこんな……ごめ――むぐ」


 謝る唇を摘まむ。


「謝られても嬉しくないな。もっと別の――」


 奈津美はポンと手を叩き、すぐに真っ赤になる。


「ぬ、脱ぎますか? ここでですか?」


「違う! 謝罪よりお礼が聞きたいんだ!」


 本当はトップレスでお礼を言って貰うのが理想だが、色々台無しになりそうなので口には出さない。


 奈津美は安心したように息を吐き、照れたような顔で頭を下げる。


「双見君のおかげで助かりました。ありがとう……ございました!」


「おう」


 可愛い女の子に謝られても心苦しいだけだが、お礼を言われると頑張った甲斐があったと実感できる。

さてこれで全部済んだ。


「これ……」


 奈津美が差し出したのは俺でも名前を聞いたことがある高級菓子店のクッキーだった。


「お見舞いはこういうのだよな。陽助みたいに手がベタベタになる系スナック持ってくるやつがおかしい。いや本当に美味いなこれ」


 奈津美は照れたように微笑み、そのままじっと立っている。


「立ってないで座れよ」


 俺は目の前の椅子を勧めようとしたが、面白いのでベッドの方を叩いてみた。


「はい」


 奈津美は椅子を気にしながらも素直にベッドに座って来た。

なんだが行為前のようでムラムラするな。


「他に何かできることありませんか?」


「じゃあ飲み物を」


 奈津美はぴょんと立ち上がり、病室を見回してコーラを手に取る。

そして盛大に噴射させてへたり込む。


「飲み物なくなっちゃいました……」


 どうしましょうと上目遣いで見てくる奈津美。


「一応購買に自販機があるからお前の分も一緒に買って来いよ」


 奈津美はパアッと明るい顔になりトテトテと駆けていく。

そして三分程して申し訳なさそうな顔で戻って来た。


「……飲み物何にしましょう」

「コーラで頼む」


 奈津美は再び明るい顔になって走っていく。

そしてコーラを二本買って来た。


「奈津美もコーラ好きなのか?」


 ミルクティーとか飲みそうな雰囲気に見えるが。


「え? コーラを買って来いって言われたから」


 最初に指定したベッドの上に腰かけて俺を見てくる奈津美にちょっとした違和感を感じる。


「カーテンを閉めてくれるか?」

「はい!」


 嬉しそうに立ち上がってカーテンを閉め定位置に戻る。


「飲み物くれるか?」

「はい!」


 コーラを紙コップに注いで持って来てくれる。


「クッキーどれがお勧めだ?」

「あ……」


 奈津美の顔が一気に不安げになり、クッキーの上で指がさまよう。


「……購買で好きな飲み物買ってきてくれ」

「あう……好きな……なにがいいのかな……」


 俺が奈津美においでと言うと、ホッとした顔で寄って来た。

そんな彼女の頬を両手で掴む。


「指示待ち性格が悪化してるじゃないか!」

「あうあうー!」


 奈津美は悶えながらも抵抗せずに頬を揉まれ続ける。


「だ、だってぇ双見君が『俺の言うこと全部聞け』って……その通りにしたら何もかも上手くいったし……」


 俺は頭をかいて呻く。


 言ったな。確かに言った。 

だがあれはトラブルが終わるまでのつもりだったんだ。


「これだとすぐまた次の悪いのにひっかかるぞ」


「大丈夫……これからは双見君の言うことだけ聞くから……双見君は絶対酷いことしないもん」


 奈津美は怖々と俺の手を取る。


「双見君に命令されると安心できるの。逆に自分で考えろって言われると……怖くて……だから……」


『なんでも命令して』と熱に浮いたような目で見つめてくる奈津美。


「俺の言うこと……なんでも聞くのか?」

「聞くぅ」


 これはまずい。

何か嫌なことでも言って目を覚まさせないと。


 俺はクッキーを指差す。


「アーンで食べさせてくれ」


「はい。あーん」


 奈津美は抵抗なくクッキーを口に入れてくれる。


「……口同士でどうだ」


「ふぁい」


 唇でクッキーを挟んで口元まで持ってくる。


「口移しで……」

「うぅ……はい」


 奈津美はクッキーを咀嚼してから顔を近づけてきたので寸前で止める。

思った以上の状態だ。

これ以上嫌がる命令となれば……。


「トップレス……」


 思わず未加工の欲望が口から出てしまった。  

 

「ひうっ!?」


 奈津美は首から耳まで真っ赤になりながらも服を捲り上げてブラのホックまで外した。


「おっけーもういい」


 既に手遅れだとわかった。

俺は奈津美の超依存体質を開花させてしまったらしい。


「……まあ卒業までに治せばいいか」


 あのままにしておいた方がまずかったし仕方ない。

俺だけに依存するのなら、俺が悪いことをしなければ問題ないので良しとしよう。


「えとえと……」


 困惑する奈津美をベッドの上の定位置に戻す。

ブラ凄いサイズだな。


「胸のサイズいくつなんだ?」

「き、93です」


 余裕の90台。


「身長は?」

「150cmです」


 それぐらいだよな。


「カップは?」

「H……です」


 グラビアでしか聞いたことのないアルファベットが出てしまった。

『93』『150cm』『H』数字と英字を並べただけでどうして男は興奮できるのか。

悪いことをしない自信がなくなってきた。


「ハグするぞ」


 俺は返事を待たずに奈津美をギュッと抱き締める。

奈津美は電流でも流れたように体を硬直させたが、やがてゆっくりと軟化し、俺の背中に怖々と手を回して来る。


 態度的には受け入れて貰えたのだろうが、奈津美はそもそも抵抗しないので念の為に表情をうかがってみる。


「ふわぁ」


 安心しきった顔でまったく嫌がっていない。

目が合うと照れながらも微笑む。

まったく嫌がっていない。これはいけるぞ。


「キスする。いいな?」


 俺はハグを緩めて奈津美の頬に手を添える。

奈津美は体を硬くしたが、俺の顔が近づいてくると唇が開き、最後に目がそっと閉じられた。


 俺達の唇は静かに重なった。


 奈津美の緊張で荒くなった息を感じながら唇を何度も押しあてる。

その度に漏れる「ふにゅー」と奇怪で可愛らしい声に笑いを堪える。



 1分ほど小鳥がついばむようなキスを繰り返した後、奈津美の両手を俺の肩に誘導し、俺の手は彼女の後頭部と背中に回す。


 俺は奈津美の体をぐっと引き寄せながら、唇を割って舌を口内に進入させた。


「んにゅう!!」


 小柄な奈津美を包み込むように抱き締めて舌を更に深く入れていく。

彼女は反射的に俺の胸板に手を当てたが、俺が肋骨を折っていることを思い出したのか、手を突っ張るのをやめ、さするような動きに変わった。


 キスでも奈津美の受動的な性格は良くわかる。

彼女の舌は口内深く縮こまっているがつついて誘うと逃げずに大人しく絡められるままだ。

上から舐めても下から舐めてもされるがままに受け止め、唾液を流し込んでも全て受け入れる。


 自分からは出て来ずに俺の攻めを受け入れるキス。

必然的に俺の方からより深くより深くと唇を押し付けていくことになり、とうとう奈津美をベッドに押し倒してしまった。


 倒れ込んだ途端、重力に助けられた大量の唾液が奈津美の口内に流れ込んでいく。

奈津美の小さな喉が何度も鳴り、唾液が喉から胃へと流れ落ちていくのがわかる。


 お互いに攻め合う対等なキスではなく一方的に攻める支配的なキスと、それを受け入れ歓迎する奈津美の表情に男が高ぶっていく。


 押し倒されてから虚空を彷徨っていた奈津美の手がふと俺の体の一か所に当たった。


 目を見開く奈津美、俺は苦笑しながらゆっくりと唇を放す。

唾液が口元から喉、胸の上まで垂れてしまう。


「はぁはぁ……あの……それって」


 キスそのものにも興奮したが、なによりブラをつけていないので奈津美の巨乳を直接感じてしまった。

これで準備完了しない奴は男じゃないだろう。


「ええと……」


 奈津美はキョロキョロと目を泳がせた後、ゆっくりと仰向けに倒れる。

目をギュッと閉じて手で顔を覆い、スカートを穿いた足が僅かに開く。


 OKサイン以外の何ものでもない。

男なら行くべきであり行かねばならない。


 だが問題はここが病院で病室だと言うことだ。


「さすがにダメだろ。最中に看護師さんでも入ってきたら大変だ」


 緊張で聞こえていないのか奈津美は同じ姿勢で待機し続けている。


「だが女の子にここまでさせて放置することが許されるのか? 遠慮なく頂いてばれたら俺が悪いのだとするべきじゃないか?」

 

 パジャマのズボンに手をかけ、いやいやダメだろと戻すを繰り返す。


 そうこうしているうちに廊下からバタバタバタと足音が聞こえて来た。

看護師の怒る声に「ごめんなさい」と続く声には聞き覚えがあり過ぎる。


「奈津美起きろ」


「え? あ、はい」


 拍子抜けしたような表情はチキンと責めているようで興奮……いや落ち込む。


 俺は奈津美をベッドに座らせ、ハンカチで口を拭き、下半身と奈津美のブラを掛布団で隠す。

よし完璧だ。  

 


「誉ーお見舞いきたよー!」


 晴香登場だ。

輝くような美貌に笑みを浮かべ、元気な挨拶と共にベッドまでやってくる。


「はい差し入れ」


「牛丼特盛かよ……すげえ差し入れだな」


 そう言いながらもぶっちゃけとても嬉しい。

何しろ骨折だけで胃腸は健康な高校生に病院食は味気なさすぎた。

半熟卵までついて完璧じゃないか。


「その上で……」


 晴香は荷物を全部置くと真面目な顔になる。


「ちゃんと言ってよ誉、友達でしょう!」


 怒られた。

美人が怒ると迫力あるな。

だがあれが最善だった。


「言うわけないだろ。晴香が怪我したらどうする」


「それでも言って。その上で危ないから来るなって言って。何もわからないままなんて嫌だよ」


 晴香の怒り顔がくにゃっと崩れる。

美人が泣くと今度は罪悪感がすごいんだよなぁ。


「わかったよ」


 次から『適度な危険なら』知らせることにする。


「よし!」


 晴香は頷き、俺の傍に寄って来る。

そしてベッドに腰かけていた奈津美を抱き抱えて椅子に降ろし、その場所に自分が座った。


「あ……あぅ……うぅぅ……」


 俺に言われた場所を奪われてオロオロしてしまう奈津美。

というか小柄な奈津美とはいえ普通に持ち上げて運べるのかよ。


「それじゃあスケベ誉用、差し入れその2」


 晴香の手が俺の頬に伸び、唇が押し当てられる。

自然に舌が入り込み、俺の口内から歯の裏、舌までを這い回る。


 晴香の目が俺ではなく奈津美に向けて薄く開く。

これは差し入れに威嚇も兼ねているようだ。


 奈津美は手をこちらに突き出したまま、情けなさそうな顔で頬を膨らませる。


 そこでふと晴香の動きが止まった。

舌が抜けて唾液が垂れる。

もう少ししたかったのだが。


「すんすん」


 晴香が俺の肩から首筋を嗅ぐ。

更に野生動物のような速度で奈津美に近づき、同じように嗅ぐ。


「ひぅぅ……怖い」


 奈津美は薄く香水つけてたからなぁ。

 

 晴香はベッドに仁王立ちになって俺を指差す。


「無言で指差すのやめてくれ……」


 晴香は仁王立ちのまま腕を組む。


「ヤッたな!」


「ヤってない。キスだけだ」


 奈津美もうんうんと頷く。


「舌は?」

「入れました」


 間髪入れずに奈津美が答える。

今度は晴香の頬が盛大に膨らむ  


「ドスケベ誉め……三藤さん可愛いから絶対狙ってると思ったけど……ええいくすぐってやる!」


「こらやめろ! 笑うと肋骨が痛むっての!」


 足の裏をくすぐってくる晴香、笑いながら悶える俺、慌てまくる奈津美――。

ギャイギャイとそれはもうやかましい。

 

「あのーちょっとうるさいんですけど」


 文句を言われて三人で振り返ると向かいのカーテンが開き、二十代半ばぐらいの男性がやや苛立った顔でこちらを見ていた。


 そういえばここは二人部屋だったな。


 ちなみに男性は飲酒運転の車にひき逃げされて両脚骨折だそうな。


 無理な姿勢から振り返った晴香がバランスを崩したので左腕で抱きとめ、突然怒られて怖がった奈津美を右腕で抱きとめる。


「ごめんなさい。つい騒いでしまって」


 まず俺が謝り、両腕に抱えた二人も続く。


「「ごめんなさーい」」


 男性の顔から怒りが消え、なんとも複雑な顔をした後、肩を落として、もういいですとカーテンを閉めた。両足骨折でナーバスになっているのかな。



「それじゃあ私達はそろそろ帰ろっか」


 晴香は俺の食べた牛丼の容器を回収しながら言う。

ガサツに見えて気が利くんだよな。


 一方の奈津美は晴香が立ち上がって空いたベッドの上に再び腰かけて動かない。

こっちはちゃんと俺が指示しないと動けない。


「奈津美もそろそろ家に帰りな。遅くなると良くないから」


 送ってもやれないしな。


 俺が言うと奈津美は「はい」と素直に立ち上がる。


 晴香は複雑そうな顔をするもふと思いついたように奈津美に話しかける。


「三藤さん――じゃちょっと他人行儀だよね」


 どうしていいかわからず俺の方に退避しようとした奈津美だが晴香に肩を掴まれる。


「ドスケベ誉の毒牙にかかりつつある仲間だし。ナツミ……でいいよね?」


 奈津美が俺を見る。

俺が小さく頷くと奈津美は晴香に向けてコクリと頷く。

これぐらいの判断は自分でできるようにしないとなぁ。


「じゃあ帰ります。誉……さん」


 おっと奈津美が名前呼びをしてくれた。

晴香の誉連呼に嫉妬してくれたのだろうか。


「呼び捨てでも君付けでもいいんだぞ?」


「よ、呼び捨てなんてダメですよ。それに『君』だと服従感が足りなくて……」

 

 晴香が凄い目でこっちを見てくるが強いた訳じゃないぞ。

まあささやかな自己判断ってことで良しとしよう。

 


 そして二人が去って静寂が訪れる。


 家族は朝一番に来てくれたし、もうすることも無いので早いが寝てしまおうか。

『今日』は食料と水に加えて雑品の調達にも行かないと……。


 そう考えながら目を閉じようとした時、病室のドアがノックされる。


「双見君。いるかしら」


 この声は風里かざりか。

 

 カーテンの向こうからまたかよとばかりに咳払いが聞こえる。

いい加減迷惑だろうし聞かれたくない話もあるから外に出よう。


「あら双見君、普通に立てたのね。……というかこの部屋、牛丼のにおい凄いわよ」


 ともあれ屋上にいこう。




「あのスマホはSIMの挿入口を半開きにしたまま海へ投げ込んだわ。最後に電源を切ってバッテリーを抜いたのは新都の繁華街真ん中よ」


「ありがとう。助かったよ」


 これでスマホは仮に拾いあげられてもデータ共々再生不能、最後に電源を切った場所を逆探知しても繁華街では誰か特定できない。


「風里は頭が良くて助かる」


「そうね入学試験ではトップ合格だったらしいわ。中間テストでも多分1番をとるわね」


 堂々と言い放つ辺りがクールで格好いい女感がすごい。 


「でも貴方ほどじゃないわ。今回のことを私がやっていたら、きっとどこかでヘマをしたと思う」


 そんなことも無いと思うが。


「あれだけのことをしながら貴方は全く緊張していなかったわ。ヘラヘラと笑いながらお気楽に、それでいて一つの抜けもなく完璧にこなした。どうしてそんなことができるの?」


「さあなぁ」


 裏でやばい場面に慣れ過ぎてあの程度は修羅場でもなんでもないから緊張しなかった。

一つミスをすれば簡単に死ぬのが当たり前なので必要なことは完璧にこなす癖がついている。


 こんなあたりだろうが言うことはできない。 

これ以上追及されると嫌なので話を逸らそうか。



「ところで風里、話が変わるが……いたい」


 風里の手を取ろうとするとはたかれた。

仕方なく指の付け根に軽く触れようとするとそれもダメで指先を軽く持つことだけ許される。


「まあ今の通り、風里って男嫌いなんだよな?」


「ええ嫌いね。スケベな男は特に」


 スケベを抜いたら男じゃないぞと肩を落としてから呟く。


「……のふりをして男大好きだろ?」


「は?」


 風里は俺の手を振り払って睨みつけてくる。


「俺の己惚れなら盛大に笑って欲しいんだが――って言う前に笑おうとするな」


 咳払いで仕切り直す。


「作戦中から風里の視線を良く感じてさ。実際距離もかなり近かった。それだけなら俺に惚れたなとアプローチに入るところなんだけど……」


 風里が胸を隠して後ずさる。

まだいかないから戻ってきてくれ。


「陽助にも同じ距離感だったしな。口では嫌だと言ってるがバリバリ意識してる。違うか? 違っているならここで爆笑タイムだ」


 だが風里は笑わず沈黙する。

そして呟く。


「違うわ……と答えるしかないでしょう。体面的に」


 俺は風里との距離を詰めて今度はがっちり腕を取る。


「話してくれ。相談に乗りたい」

 

 風里は溜息を吐きながら眉間を押さえ、語り始めた。



「私、中学の時に高校生の彼氏が居たのよ」


 やるじゃないかと言いたいが無言で頷くだけにしておく。


「彼のこと本気で好きでね。いくところまでいってラブラブ……のつもりだったのだけれど相手からは三分の一だった。つまり三股してたのね」


「ありゃ」


 可哀そうにと頭に手をやると抓られた。


「初恋から初体験まで全部だった相手に浮気されたのだからそれはそれは落ち込むわ――そうして塞ぎ込んでいた時に同級生の男の子が親身に相談に乗ってくれて、慰めてくれて……付き合いだしたの。すごいイケメンだったのよ」


「いい話じゃないか」


 大抵のイケメンは変態か性格が曲がっているはずなのに良い奴もいるらしい。


「ところがその男子は私と付き合い始めてすぐ、私の頭越しに晴香を口説きまくってたのね」


「やっぱりな。イケメンなんて全員そんなもんだよ」


 俺が頷くと風里が少し笑う。


「晴香は私抜きでデートに誘われてるとか全部連絡してくれててね。問い詰めたら『那瀬川とセットでないとお前なんかと付き合わねえよ』だって。それ以来、男性は信じないことにしているの」


 これで風里の男性不信コースが確定してしまったのか。

 

 俺は風里を抱き寄せる。

もちろん抵抗されるが、それでもやや強引に引き寄せると仕方ないとばかりに腕に収まって来た。

  

「でも三股で別れて即クラスのイケメンにいくあたり、やっぱり好きなんだなあ」


「ええ、自分でも嫌になるぐらいね。落ち込むとすぐに男の温もりが欲しくなるのよ」

 

 風里が俺の背中に手を回して来る。


「もし良かったらなんだが――」


 言い終わる前に足を踏まれる。


「今の話でわかったでしょう? 男は好きだけれど浮気男は死ぬほど嫌いなのよ」


 もちろん分かっているが風里が嫌いなのは浮気男ではなく、男に騙され裏切られることだ。


「俺はお前を騙さない裏切らない」


 風里を強く抱き締める。

肋骨が痛むが今は損害を気にせず突撃する時だ。


「俺は晴香とセックスしているし奈津美ともキスをした。高野にはイケメン彼氏を作る宣言されたがそれ

でもあわよくばと狙っているんだ」


 俺の腕から抜け出た風里を後ろから抱きしめる。


「その上で風里とも男女として仲良くしたい――これで騙しは一切ないぞ」


 動きの止まった風里に最後のダメを押す。


「キスさせてくれ。嫌なら蹴飛ばしていい」


 そう言った途端、風里は軽快にステップでブレイク、ミドルキックの構えを取る。


「ミドルは勘弁してくれ……肋骨が内臓に刺さるから……」


「ふふ、冗談よ」


 風里が今度は自分から俺の腕に収まる。


「ま、貴方は頭もきれるし行動力もあって頼りになる。騙しも裏切りもしないスケベ心満載の男を慰め用にキープしておくのもありよね」


「うんうん、ありだ。それがいい。そうしようとも」


 それではと風里の頬に手を回すとはたかれてしまう。


「晴香を裏切れる訳ないでしょ。キスもセックスも晴香の許可を取ってからよ」


「条件がきつい」


 だが同時に興奮もする自分がいる。


「その上で、一つお願いがあるのよ」


 風里が一転気まずそうな顔になった。


「前に話していたけれど……双見君はかなり大きいのよね?」

 

「人よりは多少」


 咳払いする風里。


「少し見せてくれないかしら? 見るだけなら晴香の許可もいらないだろうし」


 キスをしてあわよくばそれ以上も狙っていたのにどうしてこんな変なことになるのか。


「ホース? それともエレファント?」


 また見たいなら好きに見てくれ。


「ダイナソー!?」


 病院の屋上でこんなことしてるのは日本で俺ぐらいではなかろうか。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


病院 内緒話



 検査データを眺めていた医者がふと首を捻る。

 

「波見さん。あの高校生患者の頭部CT見せてくれる?」


「はい先生」


 波見と呼ばれたのは三十代半ばの看護師、呼びかけた医者もまた同年代の女医だ。 


「何か異常でも? すごく元気そうでしたけど」


「うーん」


 女子はボードに張ったCT画像に顔を近づけて確かめ、ルーペで拡大して細かく見る。


「いやーないわね。健康そのものね」


「良かったです」


 看護師は自分のことのように胸を撫でおろす。


 女医は笑いながら一枚の検査データを机に放る。


「昨日とった彼の脳波データがメチャクチャだったのよ。機械の方かヒューマンエラーかわかんないけどね」


「良くない……感じに?」


 看護師の顔が再び曇る。


「いやいや大丈夫よ。言った通り本当にメチャクチャなのよ。ここまで乱れてるのにCTに何も映ってないなんてあり得ないし、普通に話して動いてなんてできないレベル。測定ミスよ。次から気をつけてね」 


 二人はこの話はここまでと笑う。



「ところで先生も噂を聞いてると思いますけど」


 看護師が切り出す。


「あの子すごいですよ」

 

「そんなに?」


 女医が食いつく。


「はい。昨日運ばれてすぐにトイレの介助したんですけど……内科の森さん以上です」


 女医が思わず椅子から立ち上がった。


「うっそ。森さん以上なんて日本人にはいないでしょ!?」


 二人は話が通じたことに苦笑する。


「お互い旦那いるのに森さんとねぇ」


「だってうちの人あっちは微妙なんですもん。あとで診察がてら見に行きましょう」


主人公 双見誉 市立両河高校一年生

人間関係

家族 父母 紬「心配」新「弟」

友人 那瀬川 晴香#6「女友達」高野 陽花里「クラスメイト」三藤 奈津美「依存関係」風里 苺子「だいなそー」江崎陽助「友人」

中立 

敵対 仲瀬ヒロシ「クラスメイト」キョウコ ユウカ「長期停学」



次回更新は明日18時予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 王国も初期から最後まで何周もしながら楽しんだファンです。今回も楽しく読んでます。 その上で言わせて欲しいんですが、 気をつけてー!BANされちゃうよー!このレベルの表現で規制入った作品いくつ…
[良い点] 楽しく読ませてもらってます [気になる点] 主人公に無双フラグがたったかな? [一言] いつか表と裏で同一人物が出てほしいですね頑張ってください
[良い点] ・女医さんよ、森さんで満足するんじゃない。いつかエイギルを超える誉に刮目せよ! [一言] なろうで危険な橋を渡るテイストも好き。(笑)
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