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第16話 美少女救助作戦① 追い込まれる少女 4月19日

3/6 モブ男名変更しました。


「遅せぇんだよナツミ」


 新都の待ち合わせ場所に到着した【ナツミ】が友人からまず浴びたのは罵声だった。


「ご、ごめんね。でも家が遠くて……」


「また言い訳かよ。おまえ普通にゴメンって言えないわけ?」


 非常階段と同じように責められるナツミを不細工な男が庇う。


「まぁまぁいいじゃん。電車だし仕方ないって。それにナツミちゃんおっとりしてるもんねー」


 馴れ馴れしくナツミの肩に手を乗せる男、ナツミは肩を竦めながら引きつった笑顔で頷く。



 俺はコンビニコーヒーを飲みながら彼らの様子を観察する。


 女はナツミを入れて3人、非常階段に居た1-Aの女子2人だと思うが、私服な上に過度な化粧でケバくなりすぎて確信が持てない。


 男は2人。1人は明らかに年上で大学生か社会人、もう1人は会話内容的に高校生だろうか。

どちらもザ・チャラ男といった風体で、派手に染めてこね回した髪型とアクセサリーがジャラジャラだ。

 

 ナツミ以外の4人はお似合いの集団なのだが、彼女だけ明らかに浮いている。

決して良い傾向ではない。



 ストーカーと思われる危険を冒してまでナツミを尾行した甲斐あってある程度のことがわかっている。


 まずナツミの家ははっきりと裕福だった。

市外の高級住宅地に建つ家は俺の家の2倍ぐらいあったし、駐車場には外車1台、国産高級車が2台。


 そしてナツミ本人は一見鈍くさいだけにみえるが、本質は主体性がまったく無いのだとわかった。


 帰りの電車では老婆に睨まれて慌てて席を譲り、赤信号を無視して渡るおっさんの後に続いて轢かれかけ、駅前で渡されたティッシュは全部受け取る。


 ナツミは自分で何も判断できていない。

迫られて行い、人に続いて行い、押し付けられれば受け取る。

全て人に言われた通りに動いているのだ。


 家が裕福でそんな都合の良い性格をした女子が悪い連中に目をつけられたらどうなるか。


「んじゃそろそろ行くべ」

「ヨッシーのバッグだっけ? なら――ストアかなー」


 ゲラゲラ笑いながら歩き出す4人に向かってナツミが何事か言おうとする。


「あ、あのね……やっぱり私……」

「あ? なによ?」


 ナツミはなんでもないと首を振って追いかけていく。

もう何をするか大体見当はついたが確認する必要がある。


 俺はスマホの録画ボタンを押して胸ポケットに入れて後を追う。


 

 複合商業施設ビルの中、5人が連れ立って入っていったのは俺にはよくわからない女性用のブランドショップだ。

少し離れたベンチに腰かけ、偽装のアイスを食べながら目を凝らす。

通り過ぎながら見た感じではバッグの価格は概ね3~4万、高校生がポンポン買える額ではない。


「これ良くね? 雑誌で見たやつじゃん」

「こっちのがいいっしょ。ヨッシーが前にやった服と合ってるんじゃね?」  


 女2人がバッグに群がる中、ナツミだけが店の外で気まずそうに立っている。


「いらっしゃいませ~お客様なにかお探しでしょうか~?」


 店員が声をかけにいったのは愛想ではなく万引き警戒のためだろう。

現に2人が返事もせずに店を出ると露骨にほっとした顔をしていた。

あの見た目なら仕方ない。


 そして2人は店の外に出るとナツミに目で合図する。

ナツミは目をギュッと閉じ、泣きそうな顔で店に入っていった。


 店内を適当に歩き回るも見るからに大人しそうなナツミを店員は警戒しない。

そして女達が良いと言っていたバッグの前に立ち……。


「――入れた」


 ナツミは服の下にバッグを隠し、早足で店を飛び出す。


 他の奴らと目立たない場所に移動で合流したナツミは震える手で戦利品を差し出し、他の女は歓声をあげながらバッグを奪う。


「ウェーイ! バッグゲットー!」 

「あたしらだとクソ店員マークしてくるもんねー」

 

 ナツミはまたなにか言おうとするも睨まれて黙ってしまい、耳ざわりな声で盛り上げる男達に促されるまま引きつった顔で笑う。



「ふむ……」


 俺は動画を消去した。

俺の最新スマホは高精度カメラで最初から最後まで鮮明に撮っていただろう。

まさに動かぬ証拠だが、俺は万引きGメンでも警察でもない。


 万引き5人組に目をやる。


「この動画じゃあ共犯になるんだよなぁ」


 ナツミは明らかに強いられていたが、動画だけ見れば実行犯は彼女だし、物陰で仲間に物を渡して笑っているようにしか見えない。

これでは何の意味も無い。



 5人組はその後もビルの中を行き来しながら、服やアクセサリー、あるいは転売目的だろうか玩具まで次々に万引きを繰り返す。


 手口は同じで、見るからにガラの悪そうな奴らが店内で騒ぎ、店員がそちらを警戒している隙に大人しく無害に見えるナツミが本命を盗むやり方だ。


 どう見ても悪いことが出来そうにないナツミがそつなくこなしているあたり、相当な回数を重ねてきたのだろうとわかる。

 


「んじゃ今日はこの辺にしとくかー」


 一番年長の男がそう言って盗った物を分配していく。


 当然ナツミは何も受け取っていない。

それどころか恐怖と罪悪感で真っ青だ。

 

「あ、あの! やっぱりそういうのいけないよ! 私もうこれ以上は……できな……」


 勇気を出して言ったナツミの肩に年長男の手が乗る。


「まぁまぁそう言わずに。ナツミちゃんが頑張ってくれてるお陰で俺達嬉しいし、店も少し盗ったぐらいじゃなんともないって……」


 優しく言ってから声色を低く落とす。


「ナツミちゃんももう共犯者なんだからよ。変なこと考えるなよ?」


「ヒッ……は、はい」


 ナツミがブルブルと震える。

助けに入りたいがここで連中に殴りかかっても解決しないどころか悪化するので我慢だ。


 年長男はニコッと笑って続ける。


「それよりユージの奴がナツミちゃんに気があるって話でもしようぜ!」


「ぐわー! ミツルさんいきなりバラすとかないっすわー!」


 ナツミを除く4人がゲラゲラと笑う。  


「バラすも何もみえみえなんだよ! ほら告れ告れ!」


 ユージと呼ばれた男は恥じる様子もなく笑いながらナツミの前に立つ。

それにしてもひどく不細工な男だ。


「ナツミちゃん好きです! どうか俺とあそこでデートして下さい!」


 指差したのは……ラブホテルだった。 


「ギャハハハハ! 即ホテルとかヤバすぎっしょ!!」

「いいじゃんナツミ。ユージって不細工で彼女できないし抱かれてあげなよーアハハハハ!」


「や、いや……やだよぉ……」


 ナツミは後ずさりしながら体を震わせ、遂に短い泣き声をあげ始めた。 


 そこで年長の男がユージを止める。


「そこらにしとけ。マジ泣きされたら目立つ」

「告白されて泣くとか失礼すぎっしょ……」

「あーなんか冷めたわ。空気よめねーやつ」


 ユージは大げさにショックだなんだと騒いでからナツミに迫る。


「金曜に俺の家来いよ」


 拒絶しようとするナツミへ更に畳みかける。


「いいから絶対来い、分かったな? ほら約束の指切りー」


 ユージはニヤニヤしながら嫌がるナツミに指を絡め、胸を触ろうとして悲鳴をあげさせ、また笑う。


「んじゃ解散なー」

 

 俺はしばらく動けそうにないナツミを置いて4人の方を追いかけた。



「お前なんで金曜なの? 今日連れて行けよ」


「いやー木曜までうちに兄貴いるんスわ。兄貴JK大好きなんでー前の女とかトイレ行ってる隙に犯されちゃって大変だったんすよ。しかも一発で妊娠しちゃって堕ろすとかなんとかうざくてー」


「マジでー! ユージの兄貴鬼ヤバじゃん!」


 笑い声とはここまで不愉快なものだったか。


「まあナツミなんて連れ込んで一発やっちゃえばなんでも言いなりでしょ。いい感じに慣らしたら援交でもさせて金にしようぜ」


「その前に俺にも回せよ。あの乳触りまくるの地味に楽しみだったんだからよー」


 まあこんなもんか。

俺は静かに4人から離れる。


 さて俺は彼女を助けるべきか。


「当然いくよな」


 美少女を助けるのに迷いなどない。


 

 戻ると相変わらずナツミは棒立ちになっていた。

さすがに相手の家なんか行けばどうなるかはわかっているのだろう。

自分の肩を抱いて震えている。


 俺は後ろからナツミの肩を軽く叩く。


「ちょっといいかな?」

「ひぐっ!?」


 ナツミの両肩が抜けたかと思うほど跳ね上がった。

心当たりあり過ぎるもんな。

 

「ちょっと話を聞かせて欲しいんだ」


「ご、ごめんなさい! ごめんなさいごめんなさい!!」


 言ってから言葉の選択を間違ったかと思うがもう遅い。

万引きを見つかったと思い込んだナツミは物凄い勢いで謝りながら泣きはじめた。


 このままではナツミではなく俺が捕まりそうだ。


「ええい仕方ない」


 俺はナツミの手を引いて近くのカラオケ屋に連れ込む。


「え……やだ……いや……」


 抵抗しようとするナツミにやや強めの口調で一言。


「いいから黙ってついてくるんだ」


 ぴくんと震えたナツミはそのまま大人しくなってしまう。



 カラオケの個室に入るなりナツミはシクシク泣き始める。


「家に連絡だけはどうか……どうか……なんでもしますから」


 身長に似合わないほど育った胸に手が伸びかけるが、それをやったらただの悪人なので理性で止める。


「あー俺は警察でも警備員でもないんだ。……というか俺は君を知ってる」


 カバンの中から制服を取り出して羽織る。


「うちの学校の制服……ええと……」


 一度目があった男ぐらい別に覚えてないよな。

目はあったけど印象に残るようなイケメンでもないもんな。


「ともかく全部話してくれ。そうすれば助けてやれるかも」

 

 ナツミが縋るような表情になった。

しかしすぐに首を振って下を向く。


「や、やだよ……こんなのみんなにばれたら……」


 俺はトンと机を指で叩き、ナツミの手を取る。


「全部話せ」

「ひ、ひゃい!」


 強めに言うとナツミはまるでチョコ菓子のように折れた。


 万引き集団のカス共ではないが、ナツミのちょっと迫ると即折れする感じは男の征服欲を刺激してしまう。



 それから俺はナツミから様々なことを聞き出した。


 まずは一緒にいた奴らについて。


「女の子の方は……同じ学校で1-Aの――」


 これは知っている。


「男の方の、ユージ……さんは別の高校で――」


 金曜に家へ呼んだ不細工な奴だな。

やはりあれは高校生か。 


「ミツル……さんは高校中退してアルバイトをしてるらしくて――」


 つまり無職か。



 次に万引きを始めた経緯。


「――さん達とは中学校からの友達で――」


 まとめると、いじめられながらも一人になるのが怖くて一緒に居たと。

悪ノリで万引きをさせられたのが去年の冬、それで味をしめた二人に強いられて延々と万引き行為を繰り返し、そのうちにどこからか悪い男も集まってきて今の感じになったと。


「高校もね……本当は別の私立に行くつもりだったんだけど……一緒の所に来いって……」


 そんな大事なとこまで押し切られたのか。

親は何もいわなかったのか。


「うちは放任主義……だから」


 それは放任ではなく放置してるだけだ。

まあ家庭環境は今重要ではない。



「結論から言うと一番お手軽なのは学校や警察に言うことなんだが」


「そ、それは困る……親にばれたら私もう生きていけない……万引きの動画も……撮られてるから」


 証拠があるのは厄介だな。

ナツミがいない時にあいつらを罠に嵌めても芋づるで彼女までいかれてしまう。


 もう少し情報がいるな。


「ミツルが全員のリーダーだな? 年齢は?」


「た、多分二十歳です。先週が誕生日とか言ってました……記念品とか行ってその時にも……」


 ふむ、それはいいな。


「お前の万引きを録画したカメラ……スマホだと思うが機種はわかるか?」


「き、機種ですか? えっとたしか最新の……」 

 

 あの機種か、それは幸運だ。


「暴力振るわれたことは? ビンタや胸倉掴まれたとかでもいい」


「……あります。ぐずってたら顔をバシッて」


 気の毒だがそれも利用させて貰おう。


「ふむふむ、なるほど……」


 俺はカラオケ個室内のテーブルに肘をついて考え込む。


「あ、あう……」


 俺が無言になったことで気まずそうにしているナツミの前にコーラを置く。

ついでにカラオケに適当な童謡を入れてやると戸惑いながら歌いだした。

人の言いなりになるにも程があるぞとたまらず笑ってしまう。


「よし概ね決まった。なんとかやれそうだ」


 俺が顔をあげるとナツミの顔が先程よりも明確に綻んだ。


「ただし――」


 またしゅんとなる。


「君にも色々協力してもらうし、少しだけ痛い思いをして貰うこともある。あとは……多分ドン引くような手を使う」


「ひぅ」


 どうしてナツミの怖がる顔はこうも男の獣性をくすぐるのか。


「それでも最終的には必ず助けてやる。不幸にならないようにしてやる。だから君の口から助けてくれと言ってほしい」


 ただ襲われている女の子を助けるなら俺の意志で勝手にやる。


 だが今回はナツミの今後に大きな影響を与えるやり方になるだろう。

もし彼女が今のまま偽りの友情を持ち続け、搾取されながら卑屈に笑っている方が良い――というなら俺のやろうとしていることは丸ごと余計なお世話なのだ。


 だから最終確認がいる。

今のままは嫌だ、なんとかしてほしい、助けてほしい、その意志をはっきり聞かないと動けない。


「それは……でも……ええと」


 ナツミは視線を泳がせ体を動かしながらも言い切らない。


「はっきり助けてほしい。あるいは助けろ下僕、とでもいいから言ってくれ」


「ううん……でもでも……うぅ……わかんないし……」


 ナツミの主体性の無さは半端ではない。

決断しろと言われてももうできないのだ。


 彼女が体をよじる度に大きな胸が揺れる。

この胸も金曜になればユージとか言う不細工に好き放題されるだろう。

そうなったらナツミはもう一生卑屈に笑うだけの人生になりかねない。


「ええい、もういい」


 俺は立ち上がり、ナツミの両肩に手を置く。


「もう俺がお前を無理やり助ける。だから俺の言うことを全部聞け。いいな?」


 ナツミの顔が驚きから脅えに変わり、何故か最後にホッとする。


「……はい。聞きます」


 よし決定だ。


「ところで今更なんだが名前を教えてくれないか?」


 ナツミなのは知っているが盗み聞きした名で呼ぶ訳にもいかないからな。


「えっと……あうあう」


 なんでそこでぐずるんだ。 

 

「名前を教えろ」


三藤みとう 奈津美なつみです」


 命令すると答えるんだよなぁ。




 さて、せっかくなので一曲歌おうかとマイクを持ったところで個室の外から聞こえる声に気付く。


「まったく歌ってない……まさか本当に……」


「通報の準備をしておくわね。入室時の強引さから考えてもレイプに及んでいる可能性があるわ」


「誉はそんなことしないよ! スケベだけど優しいからシてても和姦……それもダメだっての!!」 


 片方の声に聞き覚えがあり過ぎるんだよな。


 俺はマイクを置き、奈津美のコーラもテーブルに置かせる。


「「せーの!」」


 ドカンと扉が開かれた。


「ひぅぅっ!」


 奈津美が驚いて跳ね上がり、涙目のまま俺に抱きつく。


 飛び込んできたのは案の定、晴香と――。


「行為は終わっていたようね。貴女たしかB組の三藤さんね? 強姦、和姦? すぐに通報できるから安心して答えなさい」


 この落ち着いた口調で淡々と通報しようとするショートカットの綺麗な子は誰なんだろうな。


「ひいぃぃ……和姦ないです!」


 奈津美も適当に答えるな。

ヤった感じになってるぞ。


 


『表』

主人公 双見誉 市立両河高校一年生

人間関係

家族 父母 紬「姉」新「弟」

友人 那瀬川 晴香#6「女友達」高野 陽花里「味方」江崎陽助「友人」

中立 三藤 奈津美「救助対象」???「通報者」

敵対 仲瀬ヒロシ「クラスメイト」ミツル+ユージ「カス」


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― 新着の感想 ―
[一言] 「ひいぃぃ……和姦ないです!」 電車の中で笑いそうになってしまった
[良い点] やってることは浮気性の女たらしなはずなのに嫌な感じがしないのは男としてこうありたいと思えるような雄としての力強さなんでしょうかね?王国へ~の序盤の頃のような、まだトンデモキャラになってない…
[気になる点] 最新オレンジ、オレンジ??? そうか、リンゴか!?
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